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中国通信機器メーカー2社(ファーウェイ、ZTE)製品排除の意味するもの

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昨年来、米国はじめ日本を含めた同盟各国は、一斉に中国の通信機器メーカー2社の製品を締め出しにかかってきた。「用心に越したことはない」という情報セキュリティ上の措置というより、背景にはハイテク分野での米中間の覇権争いが見え見えである。
米中が激突の構図の中での日本の立ち位置はどうなるのか。今後を展望してみた。

カナダにファーウェイCFO・孟氏の身柄引き渡しを要請(米国)

このほど米政府は、昨年12月米国にて拘束した中国通信機器大手「華為技術」(ファーウェイ)の最高財務責任者(CFO)、孟晩舟被告の身柄の引き渡しを、カナダ司法省に正式に要請した。カナダ側では孟氏引き渡しの可否を判断するが、確定までの審理は長期化する見通しだ。

jp.reuters.com


これら孟氏拘束の一連の米国・カナダの措置に対し中国外務省は猛反発、「強烈な不満と断固とした反対」を表明、引き渡し要請の取り下げを米国に求めた。カナダに対しても「米国のためにも火中の栗を拾うべきでない」と警告を発している(1/29)。

孟被告は「ファーウェイはイラン取引では米国の制裁を厳守している」と否定。指摘されたイランの関連会社・スカイコム社をめぐる疑惑についても「ただの取引相手にすぎず、特別な権益はない」と強弁したが、米司法省は「すべて詭弁だ」と拒絶し、イラン取引の継続的な事実があったときっぱり断定した。

「この2社は、米国の安全保障上の脅威」と米連邦議会レポート

ファーウェイ社は、1987年創立の中国の民営企業である。通信機器では世界首位、スマホの出荷台数でも3位を誇る。2017年の売上げは6036億元(約10兆円)。米アップルのiPhoneなどに比べて低価格なスマホを販売していることから、節約志向のあるユーザーから歓迎されており、日本市場でも昨年シェアは2位と浸透している。

ただ、創立者(任正非)は人民解放軍の情報工学学校でトップに君臨していた経歴をもつ。また夫人も共産党大幹部の娘だったこともあり、当然ながら2000年以降、米市場に進出してくると米政府は警戒心を強めていた。

正式に米連邦議会がファーウェイ、および同じく中国の通信機器大手、中国通訊(ZTE*1)について52ページに及ぶレポートを公表したのは2012年のこと。その中でこの2社は、米国の安全保障上の脅威であると言及、「政府の通信システムから2社の製品を排除し、企業との取引も自粛させるべきだ」と呼び掛けている。

米ハイテク技術の窃取など犯した違法行為(罪状)は23件

米司法省が明らかにした米ハイテク技術の窃取など、ファーウェイの犯した違法行為は、想像以上に多い。スカイコム関連で1億㌦以上の違法取引を行ったほか、米携帯電話大手・TモバイルUSから、端末の品質試験で使用する技術を盗んでいる。ファーウェイから米国の関連会社に、電子メールで盗撮や部品の持ち出しを何度も指示していた事実も浮上した。

孟被告に対する起訴状では、ファーウェイの関連会社(中国)が13年7月、米企業から機密情報を手に入れた従業員には、ボーナスを与える制度をスタートさせたことも明らかにしている。とりわけ重要な情報の場合は、暗号化してメールするなどのルールや手順まで決めていたということだ。

一方、ファーウェイは起訴状の内容に対し、「米国法に反する行為をしたという認識はない」と反論、また孟氏についても「いかなる不正行為も把握していない」と、潔白を主張している(1/29)。ちなみに米司法省が、ファーウェイとその関連3社の計4社と孟被告の罪状は全てで23件に上るとしている。

www.bbc.com

日中首脳会談後に“2社製品の排除”を発表した日本

ファーウェイの孟CFOの逮捕を機に、米政府の音頭取りもあって、ファーウェイやZTEの通信機器の締め出しを決定する国が増加しつつある。オーストラリア、ニュージーランドは安全保障上の理由から、より高速な通信が可能となる5Gモバイルネットワークのインフラ機器調達から、ファーウェイを除外した。

英ブリティッシュ・テレコム(BT)も5G関連でファーウェイ製品を使わない方針を公表した。また仏最大の通信企業オランジュもフランス当局からの要請により、5G通信ネットからファーウェイ製品を排除する旨を明言している。

日本では米政府の要請を受け入れた形で4月から以降、当2社製品の調達を事実上、排除することを決めた。菅官房長官は「サイバーセキュリティ確保には、『悪意のあるプログラム』が組み込まれた機器を調達しないことが大事だ」と年末の記者会見で強調。それでも安倍首相の訪中(10月)、習主席との会談(11月)が終わってからの発表と慎重だった。

www.nikkei.com

何とか米国寄りの情報ネットワーク傘下に認められた程度

「悪意のあるプログラム」とは、何を意味するのか。
情報通信機器の製造プロセスで、不正のプログラムやチップを仕込めば、製品となった後、外部から機器経由で通信することが事実上可能となるという仕組みを意味する。たとえば会話の盗聴はじめ、様々な情報システムにアクセスしてデータを大量に手に入れることも容易なこととなる。

とりわけ問題は携帯電話の基地局が押さえられることだ。入手できる情報量はケタ違いである。基地局の日本国内シェアはファーウェイだけで13%超といわれ、信号機のシステム操作で交通網を混乱させることも、意図的に行われないという保証はないのだ。

日本政府は遅まきながら2013年に特定秘密保護法を成立させ、米国などと機密情報の一部を共有できる位置取りを確保した。つまり、何とか日本は中国の2社排除によって、米国寄りの情報ネットワークの一員に認められたという程度にすぎない。率直に言って、その立ち位置も米中対立の中、恐る恐るやっと確保したという印象が強い。

IT分野では日本はまさに“周回後れ”の後進国

日本は情報セキュリティ上、実は過去に汚点を残している。
イージス艦に関連する機密情報を自衛官(2等海曹)が中国側に漏らした疑惑である。2007年のことだ。このことから、日本の脇が甘い体質が米国側に見抜かれ、それから以後、日本はステルス戦闘機「F-22」の輸入もままならなくなった。

昨年の暮に日本はIWC(国際捕鯨委員会)を脱会したが、わが国が捕鯨の権利を獲得するために水面下で多年にわたり行ってきたロビー活動の詳細が、実は電話やネットの傍受によって、反捕鯨国側に筒抜けになっていたという。米・中央情報局(CIA)元職員、エドワード・スノーデン氏の極秘ファイルを入手したNHKの報道だけに信憑性は高い。

一事が万事、情報セキュリティ管理の杜撰さは、先進国の中でもわが国は「群を抜く」存在として認識される位置づけにある。本来なら国産の技術で、そういった欠陥をカバーできるのだが、残念ながらIT分野では日本はまさに“周回後れ”の後進国である。ともかく米国サイドに加担して、やっと糊口しのぎをしているというのが実態といえる。

情報共有への参加ではなく先駆する体制づくりが求められる日本

NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクのわが国大手にしても、次世代通信「5G」のベースには中国製品を使わない方向で、急速に調整を進めている。日本の方針としては、米・英・豪・ニュージランド・カナダの5ヵ国で軍事機密を共有する「ファイブ・アイズ」に同調する形だが、ともかく世界の潮流に乗り遅れないようにするのがやっとという現状だ。

米中貿易摩擦の背景には、ハイテク分野における次世代の通信規格「5G」に向けた覇権争いが存在する。中国は自動車や航空、半導体などの分野では先進国に後れを取ってきたが、AIやドローン、キャッシュレス決済、ビッグデータなど“ニューエコノミー”分野では技術力を飛躍的に高めている。覇権をめぐる米中激突は避けられそうにない。

その中にあって、日本が先進国との情報の共有に甘んじる位置づけに終始してはならないのは残念だが、拭いようのない現実でもある。単に中国2社の製品排除で終わらせることでなく、先駆的な研究開発や先進技術の応用等によって、次世代規格「5G」で存在感を示す日本をめざし、まず国を挙げての体制づくりを急ぐべきであろう。

jbpress.ismedia.jp

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。

*1:中国の国有企業でスマホや携帯電話などの通信設備に強みをもつ。年商1.8兆円