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EV(電気自動車)シフトで拍車かかる部品メーカーのM&A、系列離れ

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自動車業界では、次世代車をめぐる開発競争が日を追って激化するのにしたがって、部品メーカーの系列内での立ち位置が急速に変化しつつある。
車メーカー間のM&A(合併、買収)、あるいはIT(情報技術)やAI(人工知能)関連の異業種との提携などといった「系列」の枠を超えた変貌が、とみにみられるのも際立った特徴となってきた。急ピッチに加速化してきた業界再編の動きを追ってみた。

業界に訪れた「100年に1度の大変革」という危機感

従来の自動車業界が、組立メーカーを頂点として営々として築き上げてきたピラミッド型の一大王国も、早く言うとエンジン不要、モーターと電池さえあれば走行可能というEVの実現によって、あっ気なく崩壊する危機を迎えている。
業界で囁かれている「100年に1度の大変革」という危機感はこのことを指すのだ。


世界各国の環境規制やIoT(モノのインターネット化)の台頭などもクルマの電動化、電装化の勢いを加速させている。いずれにしても、これまでのガソリン車中心のビジネスモデルは急速に過去のものとなりつつある。

次世代車の開発をめぐっては、クルマ大手とIT企業が手を組むことによって、自動運転の実現をめざす動きも活発化している。トヨタとソフトバンクが昨秋、新しいモビリティ(移動)サービスづくりに向けて提携、合弁会社を設立したのも、トヨタの強い懸念の表れといえる。

業界の変貌は、むしろ願ってもないビジネスチャンス

このような流れの中で、系列を構成してきた部品メーカーはどうなるのか。
クルマ社会の爛熟化に伴い自動車関連の王国がマンモス化していく経過の中で、系列内の多くの部品メーカーも、また逞しく一段と成長してきたという事実を忘れてはならない。

したがってEV化によって、完成車組立メーカーを頂点とした従来のピラミッドが崩壊の憂き目にあっても、これまで長年にわたり集積してきた企業力、伝統的に培ってきた技術・開発力を磨いてきたサプライヤー(部品メーカー)は健在なのだ。

むしろこのようなガソリン車からEVへのシフトで到来した業界のパラダイムシフトは、見方を変えればモーターに関連する部品メーカーなど有力なサプライヤーにとって、自社の固有技術でチャレンジできる願ってもないビジネスチャンスとなったといえる。
当然、系列再編の動きが慌ただしくなってきている。

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出典元:2017年度サプライヤー売上高トップ30社ランキング - MarkLines Co., Ltd.

なお、日本での国内クルマ部品メーカーの売上げ順位は、1位がデンソー、2位がトヨタ車体、以下豊田自動織機、アイシン・エイ・ダブリュ、アイシン精機、トヨタ紡織、ジェイテクドの順(18年5月現在、東京商工会議所調べ)。

日産系列から独立、米投資ファンドの傘下入りしたカルソニック

まず世界的なサプライヤー大手、カルソニックカンセイ(以下カルソニック)という日本の大手部品メーカーの直近の動きから見てみよう。カルソニックは運転席周りのコックピット製品で、主として米国、アジアに顧客を持つ。カルソニックはもともと日産自動車系列だったが、日産以外の取引拡大を狙い、17年に米投資ファンドKKRの傘下に入った。

このカルソニックの親会社であるCKホールディングスが昨年10月、欧米自動車メーカーのフィアット・クライスラー・オートモビルズ(FCA)の部品部門マニエッティ・マレリを買収した。

toyokeizai.net


マニエッティは電子制御製品などに強みがあり、欧州や南米が基盤としている。両社の事業統合により、自動運転やネット接続によって多彩なサービスを提供する「コネクテッドカー」などに必要な新技術を高めていく方針だ。ちなみに、両社の17年度売上高トータルは152億ユーロ(約1兆9750億円)に達している。

ゴーン問題とも絡み一段と進む日産系列の再編

また、日立製作所はこのほど、子会社のカーナビゲーションシステム大手、クラリオンを仏メガサプライヤーのフォルシアに約900億円で売却した。このクラリオンも日立が買収する以前は、カルソニックともども日産系列の部品協力会「宝会」(現・日翔会)の主力メンバーであった企業である。同社も系列を超えて外資と連携の道をめざしたことになる。

カルロス・ゴーン元会長の逮捕・長期勾留、そして退任確定(1月)によって、日産・ルノー・三菱自動車との3社連合は1つの転機が訪れている。現に11月初めに発表された日産の上半期(18年4~9月期)業績は前年同期比2.1%減の5.5兆円、営業利益は同25.4%減、当期純利益は10.9%減と後退した。株価もこの1年間で2割強、下落している。

ゴーン問題が尾を引き、少なからずサプライヤー間で動揺が広がっているのも確かだ。
上半期業績にしても、日産系列で供給量が多いユニプレス、河西工業 、ヨロズなどが揃って減収、2ケタの営業減益となっている。
今後、どのような“脱日産系列”を含めた回復策に転じていくのか、じっくりと見守ることにしたい。

www.businessinsider.jp

続々と新しい動きが出てきたトヨタグループ各社

トヨタグループの部品メーカーにも新しい動きが進んでいる。サプライヤー大手のデンソー(年商5.1兆円)やアイシン精機(同3.9兆円)、ジェイテクド(同1.4兆円)、アドヴィックス(同0.6兆円)の4社は、今年3月にも自動運転の基盤となる制御ソフトを開発する新会社を設立する計画だ。

もともとトヨタは昨年6月、自動運転向けの電子部品事業を、デンソー中核にして集約することを発表、トヨタ本体所属の電子部品工場だった広瀬工場をデンソーに売却し、電子部品の量産開発機能の一本化を示唆していたものだ。なお電池についてはパナソニックとの共同出資で技術開発会社を発足させている。

一方、EVの基盤技術開発のためにトヨタとデンソー、マツダが出資する「EVシー・エー・スピリット」を17年9月に設立した。その後、続々とダイハツ、日野、スバル、スズキ、いすゞ、ヤマハ発動機が参加してきたので、いわば「オールジャパン」チームの観を呈してきている。

“乗り物のサービス化”分野でIT大手との激突は必至か

ホンダはどうか。
指摘されるのは、これまでの“自前主義”から抜け出て、やっと他社との連携に前向きに対応するようになった点である。

昨年6月には北米向けEVに搭載する電池を、米ゼネラルモーターズと共同開発すると発表したのをはじめ、中国の新興の電池メーカーではありながら昨年、車載用リチウムイオン電池の出荷量で世界一となったCATL社との連携強化に踏み切っている。
また、世界最大の自動車部品サプライヤーの独ボッシュから、衝突防止用のレーダーやカメラの供給を受けるなど、連携を強める動きにある。

これら再編の背景には、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)と称する業界の新潮流がある。中でも米グーグル、アマゾンなどIT大手が、乗り物のサービス化“MaaS”*1を収益源にしようと業界の中を駆け巡っていることから、完成車メーカーは神経を尖らせざるを得なくなっているのだ。

www3.nhk.or.jp

まだ続く生き残りを賭けた選択のとき

完成車メーカーにしてみれば、開発案件は膨れ上がるばかりだ。従来は何とか自社で主導権を握ってきた開発を部品メーカーに一任する傾向が強まってきたのも、実はこれまでの守備範囲では手に負えなくなったというのが実態である。従来からの信頼感をベースに、傘下の部品メーカーの技術力や応用力に任せた方がベターとの判断によるものとみたい。

ただ、日本の場合、緻密で隙のないピラミッド型の王国を築き上げてきたために、構成する部品メーカーの数が多すぎる弊害も厳存している。今後必至となる新世代車への変貌の中で、技術力をもつサプライヤーはよいが、変化に対応できず“脱落”していくケイレツ内の親藩企業が続出するケースも浮上してくるのが懸念材料でもある。

いずれにしても系列自体に迫られる変革とともに、部品メーカーのビジネスモデルにもEV寄りへの変化が求められてこよう。中でも急ピッチに力を付けてきた関連の中国企業の動きも不気味である。今まで安住してきたケイレツの垣根を越えた連携、場合によってはM&Aという決断など、さらに生き残りをかけた選択のときは続くことになろう。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。

*1:(注)モビリティ・アズ・ア・サービス。個々人の移動を最適化するために様々な移動手段を活用し、利用者の利便性を高めるサービスのこと。