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家電量販店のビジネスモデルに忍び寄る「陰り」の正体

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高度成長の代名詞にもなった「三種の神器」(テレビ、洗濯機、冷蔵庫)への爆発的な需要の伸びを追い風にして、全国に大型チェーン店舗で市場を席巻した家電量販店も、このところ低迷が目立ち、ビジネスモデルの修正を迫られるようになっている。
消費構造の変貌に対応する業界各社の懸命な実態を追ってみた。

業界の趨勢はピークアウトし下落傾向を強める方向に

秋葉原、大阪日本橋の電気街からスタートした家電量販店が、猛威を振うようになったのは2000年代以降だ。都市部ではビックカメラ、ヨドバシカメラといったターミナル駅前巨艦店タイプのカメラ系量販店が存在感を見せたのに対し、全国的にはヤマダ電機、ケーズテンキといった郊外型がチェーン展開で、がぶり4つに対峙していた。

なかでも群を抜く成長を遂げたのは最大手ヤマダ電機である。年商1兆円台に乗せたのは2005年3月期。それが2011年3月期には2兆1500億円超と、6年間で売上げを倍増に拡大した。大量仕入れによる圧倒的な価格交渉権を後ろ盾にした手法で、同業他社より競争力のある価格で商品を売り込み消費者の支持を集めたものだ。

もっとも大量仕入れによる安売り商法もそこがピークだった。この間に消費環境も著しく変化していった。前期2018年3月期の売上高は1兆5738億円。それでも前年比0.7%増と微増だが、上述のピーク時に比べると約5800億円の減少だ。19年上半期(18年9月期)にしても前年同期比わずか0.8増のため、通期の業績予想を昨秋、下方修正している。

住宅事業シフトは現行モデルへの危機感(ヤマダ電機)

最近のヤマダ電機の低迷は、住宅関連事業へのギアチェンジが原因との見方もある。すでに家電一辺倒では限界との危機感があったため、将来性のあるビジネスモデルとして、住宅・不動産へ舵を切ったのがその理由だ。それが成長の柱に育つには時間もかかる、今はその過程にある、というのだ。

同社は郊外や地方を中心にした大規模な出店政策で高成長してきただけに、最近の人口減少や都心回帰の現象によってダメージをもろに受ける結果となった。といって今さら都市部や駅周辺への出店に切り替えるにしても、ノウハウに自信も持てない。住宅事業に乗り出したのも頷ける転換策であった。

中堅住宅メーカーのエス・バイ・エル(現ヤマダ・エスバイエルホーム)を2011年に買収、翌年には住設機器のハウステックホールディングス(現ハウステック)も買収、準備を進め、13年には注文住宅メーカーの「ヤマダ・ウッドハウス」(現ヤマダホームズ)を設立した。その年末にはパートナー企業の募集を開始し、総合的な不動産サービスに乗り出している。

猛暑のエアコン需要の“機会損失”でひとり負けしたヤマダ電機

昨年は近年にない猛暑を経験、家電量販店は軒並み久しぶりのエアコン需要に沸いたが、ヤマダ電機は従来の家電売り場を縮小、住宅関連機器に代えているため「機会損失」(売り損じ)を被ったといわれている。しかも中長期戦略として年間100店舗のハイペースで業態変更(改装)を推進しているため、さらに“売り損じ”は拡大した。

現に2019年上半期(4~9月期)業績は、猛暑の影響を受け旺盛なエアコン需要のため同業他社は総じて決算好調だったのに対し、ヤマダ電機はやっと売上げを横ばいに止めた程度。営業利益は前年の上半期に比べ74.8%減と大幅にダウンして、他社との明暗を分けた。業界では「ヤマダ電機のひとり負け」と囁かれている。

前述のヤマダ・エスバイエルホームにしても、6年間を経過して黒字だったのは15年度決算(16年2月期)のみ。次の新しい収益の中核企業として期待される割には、6期中5期、水面下の赤字業績であるというのは、やはり先行きの不安感は隠し切れない。

エリア特化型の経営で慎重図るビックカメラ

ヤマダ電機が他事業への転換策に出たのに対し、業界2位の売上高を確保するビックカメラはこれまでの量販店を一貫する方針に終始、業績はともかく順調だ。18年8月期の売上げは8440億円と前年比6.8%増、営業利益は同23.8%増。

玩具や酒類の専門店、「ビックカメラ リカ― アクアシティお台場店」(東京・港区)をオープンしたのをはじめ、楽天と組んで「楽天ビック」を立ち上げネット通販の強化を図ったのが奏功した。完全子会社化したソフマップの旗艦店(秋葉原)を17年6月から「ビックカメラAKIBA」としてリニューアル発足させたのが軌道入りしたのも寄与した。

ソフトマップ店舗では白物からスマホ、パソコンはじめ、アップル関連製品、日用品、中古品などに至るまでの幅広い品揃えをしていることが、秋葉原という特徴的なエリアの店舗経営に馴染んでいるようである。エリア特化型の量販店経営の1つをめざすものとして注目される。

ヤマダ、ビック、エディオン、ケーズHD、ヨドバシの順の売上高

売上高ランキング(2017年度)で示すと、ヤマダ電機が依然として首位をキープ、2位にはヤマダ電機の約半分の年商のビックカメラが続き、その後をエディオン、ケーズホールディングス(ケーズデンキ)、ヨドバシカメラが6000億円台の売上げで3~5位を雁行状態で追う、といった構図にある。

ヨドバシカメラは非上場会社なので決算の詳細は明確にしていないが、16年度は6580億円と公表していたことから類推すると、少なくとも前期も業界5位以内にはランクされる。あえてヨドバシカメラに言及するのは、その高収益体質に言及したいからだ。前期の経常利益は500億円超と、ビックカメラの292億円に比較しても、その差は歴然としている。

全体の収益力を最も端的に表す指標、売上高経常利益率(経常利益÷売上高)でみても、ヨドバシカメラのそれは過去9期、連続して7~8%台に達したことが確認される。都市部、駅周辺の立地に固執する一方、インバウンド重視の政策、わが国初のポイント制度導入、いち早くネット通販を採用するなどの政策断行が開花したといえる。

アマゾンに匹敵する物流システムを構築したヨドバシカメラ

売上高経常利益率の数値は、続いてケーズホールディングス5.4%、ビックカメラが3.1%。一方、首座のヤマダ電機はというと3.0%と冴えない。売上げこそ一頭地を抜く存在でもあり、“脱・家電量販”というギアチェンジ志向が強まっているとはいえ、やはりこのところ下落傾向に歯止めがかからない状況に陥っている感が強い。

やはりヨドバシカメラの営業戦略で注目されるのは、無理な出店を避けたことだ。リアル店舗の拡大を極力抑え、その余力をECサイト(ネット通販)の強化に投じた点が、高収益体質を構築した主因となったといえそうだ。ちなみに16年度時点でのEC事業「ヨドバシcom」の売上げは1000億円を突破、売上高構成比は15%超に達した。

もう1つの同社の狙いは、アマゾンの“即日配送”方式を迎え撃つことにある。
そのため16年9月には、ネットで受けた商品は2.5時間以内で届ける「ヨドバシエクストリーム」を発足させ、アマゾンに匹敵する物流システムも構築した。川崎市の物流センターを大幅に拡充する一方で、取扱い商品も家電、AV機器、パソコン等に加え、日用品のラインナップも強化した。

抜本策が見出せぬままに推移している業界実態

かつて世界を席巻した日の丸家電メーカーの革新的な製品の追い風に乗って成長を続けてきた家電量販店だが、すでにそのような繁盛期はじりじりと遠ざかりつつある。家電販売チャネルのEC化も着実に進行中だ。今後はリアル店舗がその大規模仕入れを活かして、大々的なCMをもとに低価格で提供するビジネスモデルは消失していくことだろう。

ただ、家電製品というと、どのような性能、コンテンツを保有するのか、購入するにはユーザーが知りたい「説明商品」であり、また専門家による“設置”(利用する上でのセッティング)も必要な特徴を持っている製品である点は見落とせない。食品や雑貨・消耗品とは根本的に異なるものだ。購買頻度も異なる。あくまで一定の需要は残っていく。

したがって食品スーパーやドラッグストアが扱う非家電売り場との併設といった戦略は、生き残り方法としても愚策のそしりは免れない。アマゾンはいま米国で既存の小売店を蹴散らかしながら業績を急上昇中である。この前段階が日本でもすでに開始されている。

家電量販店各社の早急な軌道修正が求められているのだが、まだ業界の実態は抜本策なきままに、ボーッと佇んでいる印象が強い。総じて生き残り策について思い切った戦略が打てないままに推移している。だが、もう時間はあまり残されていないのを銘ずべきだ。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。