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頻出しはじめた日本メーカーの不祥事(データ改ざんなど)の背景

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“検査データ改ざん”という検査不正が、日本の大手企業に相次いで発覚している。
海外・国内ともに、その原因としてモノづくり能力の劣化、ガバナンス(企業統治)の欠如などを指弾する声ばかりが大きいが、不祥事の本質はどこにあるのか、きちんと整理して見極めることにしよう。

気になる組織ぐるみの“黙認事項”であったこと

“メイド・イン・ジャパン”の象徴的の存在として世界的に信頼の厚い日本メーカーに、ここ1~2年、製品データ改ざんなどの不正が発覚する事態が相次いでいる。それも次々明らかになっていく経緯の中で気になるのは、その多くが現場だけの事柄ではなく、トップも含めた組織ぐるみの“黙認事項”であったという事実にある。

発生したケースを列記しよう。
この10月、免震・制振装置の検査データを改ざんした不祥事が発覚した油圧機器メーカーのKYBは、とりあえず不正の疑いのある国や自治体の庁舎70件の建物名を公表した。全国では1095件に上るという。重視したいのは、検査データの改ざんが少なくとも15年にわたって行われていたという事実だ。

検査担当の従業員は、検査データ改ざんする手口を代々、それも2003年以来、引き継いできたということになる。基準に合わない製品を分解したり調整したりしていては時間がかかってしまう。現場には絶えず“納期厳守”の鉄則がある。しかも驚くべきは、免震・制振装置の性能チェックする検査員はたった1人しかいなかったことだ。

www.huffingtonpost.jp

日本ガイシの手抜き検査は90年代からで累計100万件に

昨秋、神戸製鋼所が公表して以来、三菱マテリアル、東レ、シチズン時計、宇部興産、日本ガイシ、日立化成などと続いて不正問題が発覚した。三菱マテリアルの場合は、グループ3社の検査データ書き換え、一部検査については実施していなかったことが、内部告発によって発覚したものだ。対象となる取引先は750社に及んだ。

東レはタイヤ補強材データ改ざんで、対象の取引先は2008~16年にかけ国内タイヤメーカー含め13社、149件に及ぶ。宇部興産は汎用樹脂などの一部製品の中で、取引先と取り決めた品質検査を行わず出荷していたことが問われたもの。このケースも1970年代からずっと“前例踏襲”で担当者に引き継がれてきたという。

日本ガイシの“手抜き検査”も90年代からで累計100万件に及ぶ。会社側では「社内検査はすべて合格していたが、顧客の求める検査は契約通り実施していなかった。ただ社内検査の基準が高いので、品質については問題ない」と強気だ。

常套的だった自動車各社の燃費・排ガスデータ改ざん

シチズン時計も今年2月に試験データの改ざんが浮上した。2014年から16年12月までの間に北米の取引先に提出した試験データが、実際より高い数値に書き換える一方、サンプル数を水増しするなどした“不正”で、対象は119社という。

日立化成の場合は鉛蓄電池や半導体材料の検査不正だけでなく、この11月になって民生用リチウムイオン電池の負極材、ディスプレーの回路の接続フィルム、自動車の内・外装の樹脂製品など28製品についても検査不正があったことが明らかとなった。連結売上げの約1割を占め、対象社数は延べ2400社に達する。

自動車業界では2016年に浮上した三菱自動車の燃費・排ガスデータ改ざんから端を発し、現在までに日産自動車、スズキに飛び火し、燃費・排ガス、ブレーキ液の残量警告灯などの検査データ改ざんが明るみに出た。マツダ、ヤマハ発動機なども完成検査工程で不正が発覚している。

日本企業の“モノづくり”能力の低下していく兆候(海外メディア論評)

日本メーカーに一体何が起きているのか──。
こんなタイトルで特集を組む海外メディアも出てきた。「失われた20年」を経過する中で、日本企業の“モノづくり”能力の低下していく兆候をこれら一連の不祥事から読み取ることができる、と声高に話す経営者も登場する。

わが国の経済ジーナリストやエコノミストなどの中にも、90年代以降、長期にわたって続く経済成長の鈍化が原因と、まことしやかに述べる人たちも出てきた。これまで日本の大手企業は安定的な成長市場に身を置いていたが、企業環境ががらりと変化したので、経費削減、極限までの合理化を進めざるを得ない状況に追い込まれた結果だ、と主張するのだ。

今まで日本企業は世界に冠たる「モノづくり体制」を構築して、高成長をなし遂げてきたが、ここからはデジタル革命を軸とした産業構造の変化が訪れる。強いモノづくり現場を武器としてきた日本メーカーの存在感も、今後は新しい勢力、GAFAをはじめとしたプラットフォーマーたちに主役の座を明け渡すことになろう、と示唆する向きもある。

日本経済への悲観論の延長線上で語るなかれ

だが、そうだろうか。ここで頻発している不祥事の中身を見直してみよう。

まず明白なのは、不祥事のほとんどが「検査データの改ざん」に集約されるという点だ。
その原因は、不合格品に対応するコスト増や、納期遅れを避けたい検査部門が、不合格品を“合格”としごまかしデータを改ざんしたのが、今回の連続している企業不祥事の共通する形であることだ。ここにまず焦点を当てることが重要である。


むろんこうした一連の改ざんは契約違反、法規違反であって、いかなる理由でも許されない行為であることは言うまでもない。不正を続けてきた企業の倫理やコンプライアンス(法令順守)での深刻な問題であることは事実だが、本来的には現場とは別物で、品質不良モノづくり能力の低下につながるものではないことだ。

たしかにバブル崩壊後の「失われた20年」やデジタル革命、リーマンショックなどによって、日本企業の相対的な存在感は低下している事実はあるにしても、今回の“検査データ改ざん”がわが国の“モノづくり能力”の低下につながるものではないということだけは、確かである。日本経済への悲観論の延長線上で語る評論家も多いが、間違っている。

検査不正は“モノづくり”能力の劣化とは無関係

つまり発覚した今回の一連の不正行為では、企業と現場を同一視すると混乱が生じよう。また製造現場に限定しても、検査部門と製造現場は区別しなくてはならない。まず、今回の不正は、検査部門での出来事に終始しており、本質的には品質不良やモノづくり能力の低下を意味するものではないということだ。現場の能力は依然、温存されているのである。

日本経済が円高によって低成長に入ったのは1970年代だったが、この時期になって貿易黒字が定着するという底力が“モノづくり能力”の蓄積によって開花された時代でもあった。現場の課題を改善しつづけ、より良質な製品をつくり続けて世界に売り続けた背景には、日本に世界が認めるモノづくり能力のお陰だった。

低賃金と低コストをベースにした中国が世界市場に参入してきたために、日本の良質な輸出財も苦戦を強いられるようになった。日の丸家電の没落はここにあった。加えて到来したデジタル情報革命によって、日本のお家芸である調整すり合わせ型(インテグラル型)の製造方法は、緻密な現場をさほど重視しない方向に取って代わられていったのである。

望ましい現場と本社が一体化する“強い企業”実現に向けての議論

だが、中国の猛アタックも05年あたりから始まった5年で2倍ペースという中国の賃金高騰から、かつて20倍といわれた日中の賃金格差も、ここ数年で急速に3~5倍に縮小していった。そういったハンディが縮小した結果、日本のもともと優良なモノづくり現場はコスト競争力を回復し、ここにきて一気に潮流に乗りつつあるのが実情である。

やはりメーカーが永続するかどうかのポイントは、品質にある。その点、日本企業は押し寄せる幾多の荒波に洗われても、良質な“モノづくり”を中核に置いて戦ってきている。その本質への評価は未来永劫に決して変わらないはずのものだ。現に、先進国の中で、GDPの占める製造業の比率が20%前後もあるのは日本とドイツだけである。

日本のメディアもとかく尻馬に乗って、今回の相次ぐ検査改ざんをタテに「日本のモノづくり現場は劣化した」という後ろ向きな悲観論を囃すのではなく、今後日本が新時代を迎えるにあたって、どうしたら現場と本社が一体化した“強い企業”を実現していけるのか、といった前向きの議論を展開していってほしいと願うものである。

news.tv-asahi.co.jp

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。