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高騰・急落の波乱市況に明け暮れた2018年原油価格の背景と2019年予測

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“上昇20%、下落40%”──。今年の原油市況は激しく乱高下したのが特徴である。
背景には米中摩擦、世界同時株安、トランプ政権のイラン石油制裁、サウジ記者殺害事件、飛び交うOPEC解体の噂など、さまざまなファクターが複雑に入り組んでいる。

1バレル76ドルでピークアウトし現在50ドル割れへ

北米の代表的な原油価格であるWTI*1価格は、昨2017年は年間を通して1バレル40~50ドル台で推移していたが、年末に60ドル台乗せすると、2018年もじりじりと上げ5月初めには70ドル台に上昇。その後は4ヵ月の間しばらく60~70ドル台を往復、10/3につけた76ドル超に達したのをピークに下げに入った。

いったん下降状況に入るとあっという間に下げ足を速め、ピークアウトして2週間後の10/17には60ドル台に突入、さらに11月中旬には50ドル台、直近の12/17には49.9ドル、12/18は46.2ドルとまだ下げ止まっていない。要するに、18年入りして後の価格推移を振り返ってみると、年初から約20%高騰し、その後ざっと4割下げた、という経過になる。

日常生活では、ガソリン価格の上昇が止まり、クルマ利用者のホッとした表情がテレビで映し出されるようになった。資源エネルギー庁が直近の12/12発表した全国のガソリンの平均価格(レギュラー、1リットル当たり)は149.3円と、7週連続の値下がりとなっている。150円を割り込んだのは5/21以来、約7ヵ月ぶりのことだ。

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www.garbagenews.net

上昇要因はOPECと非OPECによる協調減産の奏功に

ここで今年の原油価格の激しい乱高下がなぜ起こったのか要因を追ってみよう。
(1)1~10月初めまでの9ヵ月間に上昇した原因と、(2)10月初旬~12月中旬にかけての2ヵ月間に下落した理由をそれぞれ追跡していく。

(1) 1~10月初めまでの9ヵ月間における原油上昇原因

(1)-1 協調減産による需給の改善

上昇要因については、需給の改善が挙げられる。OPEC(石油輸出国機構)の公表レポートによれば、18年上半期の世界全体の原油需要は日量9785万バレルに対し、供給量はOPECと非OPEC産油国による協調減産が功を奏し、ほぼ合わせる形で日量9774万バレルにこぎ着けられたことが主因である。

もっとも需給改善というのは、いかに“供給の削減”を合理的に行うか、と同義語でもある。まず挙げられるのが、OPECとロシアをはじめとした非OPEC産油国との間で16年末に合意した協調減産が、きちんと順守されたことにもあった。

(1)-2 2017年以降の世界の経済回復や米の対イラン制裁発動

一方で、世界経済が2016年をボトムとして、2017年から回復入りしたことも大きなファクターとなった。経済回復が原油需要をしっかり下支えしたことになる。その結果、2017年の半ば頃から上昇トレンド入りし、今年も年初来10月までに約20%の上昇となった。

さらに上昇要因としては、米国の「イラン核開発合意」からの離脱が挙げられる。これに伴い米国のイランに対する経済制裁が再び発動され、イランからの原油供給は減少することになる。さらにトランプ大統領は主要国に対してイランからの原油輸入を控えるようプレッシャーを掛けた。

イランの供給停止を受け、6月のOPEC総会で、1日当たり80万バレル程度の増産(つまり減産の緩和)が採択され、イラン産原油の供給減(約100万バレル減)がカバーされることになった。また、中米ベネズエラは国家自体が収拾のつかない崩壊状況に陥っているため、石油生産の減少が浮上、その代替生産も含めての調整となった。

www.bbc.com

(2) 10月初旬から始まった原油価格の下降(約20%下落)の理由

(2)-1 米中摩擦、世界同時株安などによる原油消費量の増勢減速

まず米中貿易戦争の激化、世界同時株安などの“負の連鎖”に起因した後退で、原油消費量に明らかに減少がみられることだ。米EIA(エネルギー省情報局)予測では、2018年の原油消費量は米国が前年比1.7%増、中国は同3.5%増と増勢は目立って減退している。

一方、供給量については、トランプ政権の対イラン石油制裁の発動を機に、この6月以降、サウジアラビア、ロシアなどこれまで合意した減産を順守してきた産油国が、急激にこのところ生産量を増加させていることにある。これによって世界の需給バランスは緩んで“オーバーサプライ(供給過剰)”状態になったと推察される。当然、相場下落の要因となる。

これまでサウジ、イラク、イラン、UAEなどのOPEC15ヵ国と、ロシアをはじめとする非OPEC10ヵ国は、世界の需給を引き締めるための減産を協議し実行してきたが、その合意体制も12月で終了する。そこで迎える19年はどんな新しい体制で臨むか、いまも協議が進行中だ。

(2)-2 制裁一部の緩和措置で一気の「駆け込み増産」へ

このようにほとんどの産出国が増産にシフトしたのは、次の申し合わせが決まるまでの間隙を狙っての「駆け込み増産」である可能性が高い。さらに大きなファクターは、11月からスタートするはずだったイランへ石油制裁に対し、トランプ大統領は来年の2019年5月まで、制裁一部の緩和措置を発動したことだ。

この緩和措置により、にわかにイランが駆け込み増産に参加できるようになり、産油国の足並みはいつのまにか「増産」で出揃うようになった。この制裁緩和で中国、インド、日本、韓国など8ヵ国は180日間、イラン原油を輸入できる猶予が与えられた。

加えて登場したのが「OPEC解体」をめぐる風聞が飛び交ったことだ。きっかけはカタールの脱退である。カタールの産油量は日量60万バレルで、OPEC全体の1.8%程度にすぎないが、世界への原油生産に占めるOPECのシェアがさらに縮小されることはまちがいない。問題はそれとともに「サウジの脱退」がクローズアップされてきたことにある。

飛び交うサウジの「OPEC脱退→OPEC解体」の風聞

米フォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が、サウジ政府が傘下のシンクタンクに「OPECが解体した際の影響」について調査するよう指示した、と報道したことから、騒ぎがより拡大していった。サウジの場合、OPECの産油量の30%を占め、事実上のリーダー格である点で、脱退となればほぼ間違いなくOPEC解体につながることになろう。

サウジはOPECの盟主ではあるものの、生産枠を設けても実際は忠実に順守する国は少なく、とどのつまりは盟主であり、産油量が最大であるサウジが飲み込んで減産し帳尻を合わせるのが実態だった。歴史的にみてもOPECは必ずしもサウジにメリットをもたらしてきたとはいえない。

事実、サウジの石油政策の要にいるムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、その点でOPECにそのつど不満を述べていた経緯がある。ただ、カショギ記者殺害事件をめぐる対応の拙さで、国際的な信用を低下させた。サウジを支援するトランプ政権は事件の風化を狙っての一石二鳥の手段として「サウジのOPEC脱退」を画策しているとの見方もある。

toyokeizai.net

2019年も減産体制は継続され、原油市況も50~60ドル近辺に落ち着く見込み

迎える2019年の原油市況はどのようになるのだろうか。
OPECでは11/11に減産監視委員会(JMMC)が開催され、前回の同委員会で19年以降のスキームづくりをするよう作業委員会(JTC)に課題が提示されていたが、いまだに公表されていない。同じ頃にカショギ事件やOPEC解体の報道が重なったこともあって、調整が難航していることも考えられる。

ただJMMCが公表した2018年のOPEC25ヵ国の減産順守率は104%であり、この経過をみる限り、指示命令系統は問題なく作用しているものと判断できる。2019年も現体制をベースに減産体制は継続されるとみる。原油価格は関連の事柄の発生で乱高下は免れないものの、
基本的には50~60ドル周辺に落ち着く市況とみたい。

サウジ脱退による「OPEC解体」──。この風聞は依然駆け巡るだろうが、これまで整然と行われてきた世界の石油供給の秩序がいったんご破算になる事態は、まずは生じないと考えたい。サウジの皇太子にそこまで踏み込む勇気とエネルギーはないと思っている。バックアップする大国にしても、2019年はそんな余裕がなさそうである。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。

*1:WTIはテキサス州西部とニューメキシコ州南東部で産出される米国の代表的な原油。世界の原油市況の指標となっている。