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「次世代車」めぐり激化する部品メーカーの買収・提携、技術開発バトル

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自動車業界に「100年に1度の大変革」が訪れようとしている。
伴い“主役交代”の時期が刻々忍び寄る。EV(電気自動車)化によって、ガソリンによる内燃機関がモーターによる駆動装置に置き換わるのだ。

クルマの部材に求められる役割は一段と拡大、自動運転化に伴う電装化が加速し、多くの電子部品メーカーにとっては追い風が吹きまくる。車載部品は電池材料から高機能樹脂までと領域が広いために、有力な素材メーカー、半導体各社も軒並み一気に超繁忙になった。

業界の新しい仕組みはどうなるのか。また、これまで業界トップに君臨していた日本の自動車産業は、どのような変貌を迎えるのだろうか。

「クルマの概念も競争相手も競争ルールもすべて大きく変化する」(豊田社長)

この9月に開催された独フランクフルト・モーターショーは、すでにEV一色。
昨秋にドイツの超党派の議員連盟が「2030年から以後は、ガソリン車やディーゼル車登録を認めない」と決議したのに続き、今年に入ってからは仏、英と40年までに内燃機関車の発売禁止を発表、最大市場の中国も検討に入ったことがショーを一変させたのだ。

news.yahoo.co.jp

世界的なEV化への流れを受け、トヨタをはじめとする日本の完成車メーカーは一様に危機感を隠せない。営々と築き上げてきた従来のクルマづくりの体制が根底から崩れてしまうからだ。トヨタとソフトバンクがこの10月、新しいモビリティ(移動)サービスづくりに向けて提携、合弁会社を設立したのも、トヨタの強い懸念の表れとみることができる。

業界を揺さぶる変貌は“CASE(接続性、自動運転、共有、電動化)”と呼ばれる新しい技術によって代表される。「クルマの概念も、競争相手も競争ルールもすべて大きく変化する」(豊田章男社長)と強調、業界の構造変化に強い危機意識を、ソフトバンクの孫正義会長兼社長との共同発表の席上でもきっぱり言い切っている。

car.watch.impress.co.jp

従来の「ピラミッド王国」崩壊は必至

現在の自動車業界は、組立メーカーを頂点としてピラミッド式に2次、3次、4次下請けで形成されるいわば一大王国。裾野が広いのはクルマ1台に10万点といわれるように、部品点数が多いためだ。エンジン部品だけでも2万点に及ぶが、EVの場合、モーター部品はせいぜい50点止まり。関連パーツを入れても100点に満たない。

EVが主流になれば部品点数は激減、同時に取引相手も少なくて済む。長年かけて構築してきたエンジン中心の既存体制が、モーターに置換されることになり、ピラミッド王国の崩壊というパラダイムシフトに晒されることになる。当然、企業グループのあり方も大きな転換を余儀なくされる。

各国の環境規制やIoT(モノのインターネット化)の台頭などもクルマの電動化、電装化の勢いを加速させている。もう従前のガソリン車中心のビジネスモデルでは通用しない時代に突入しようとしているのだ。そんな世界的な変化の波に乗り活況に沸いてきたのが、高い技術力を蓄積してきた日本の電子部品や素材メーカーである。

電装化の追い風で車載向け需要、爆発的に増加

スマホやパソコン需要の低迷に代わって、電子部品大手の車載向けが好調だ。18年上半期(4~6月期)でみても、自動車向けは29.6%とすでに通信機器向けを上回っている(電子情報技術協会調べ)。

自動運転化(オートノマス)にともなう電装化の追い風を享受している代表格として挙げられるのは日本電産だ。駆動源がエンジン→モーターとなるEV化によって、総合モーターメーカーとしての同社がにわかに脚光を浴びてきた。活況から車載部品に3年間で2000億円を設備投資し、2020年度の当部門売上げ1兆円達成をめざす。

自動化の進展で車内空間も基本的に大きく変わってしまうので、新しい形で電子部品が取り付けられることになる。中でも電装化では必ず使用される積層セラミックコンデンサー(MLCC)は、小型で大容量の電源をコントロールできるため、車載向けで世界シェア1位の村田製作所、2位のTDKはともに需要が爆発的に増加、超繁忙で沸き立っている。

強みの自社技術で先駆する電子メーカー大手

10月に開催された家電・IT見本市に、京セラはEVベンチャーのGLMと共同開発したコンセプトカー「Tommykaira ZZ by GLM」を展示して話題を呼んだ。自動運転やADAS(先進運転支援システム)に使用される12種類のデバイスやシステム、素材を装填していることをアピール。また車内外9台の高感度カメラで撮影した後方の映像を車内の電子ミラーに映し出していた。

磁性技術に強みを持つTDKは、動力のモーターへの代替によって、当然そこに必須の磁石によるEVの充電・変換・給電・蓄電・制御についてはお家芸。電気エネルギーを磁気の形で蓄えるインダクター、またMLCCなどを含むコンデンサーに加え、センサーなど幅広い製品展開でリードする。すでに17年度の車載向けは売上げの18%強に達している。

そして半導体だ。
まさに“次世代車”出現のカギを握っているといっても言い過ぎでないほど、その期待が飛躍的に高まっている。

M&Aや巨額投資による企業規模拡大をめざす半導体メーカー

これまで半導体が使用されていたのは、せいぜい電動ブレーキや電動ウインドといったクルマの特定箇所の電装化だった。また半導体メーカーも、独ボッシュやデンソーなどの一次請けのサプライヤーに個別部品として納入するにすぎなかったが、近年は完成車メーカーと手を組み協業化するケースが相次ぎ、様相は一変している。

2016年に米インテルが独BMW提携、また昨年は米エヌビディアが独フォルクスワーゲンと提携、次いでトヨタとも協業関係に入った。M&A(企業の合併・買収)も急増している。車載用マイコンでは世界トップの半導体大手ルネサスエレクトロニクスはこの9月、米半導体メーカーのIDTを買収、完全子会社化した。

これまで半導体市場をリードしてきたのはスマホやパソコンだったが、どちらも今やこの先需要の高い伸びは期待できない。対して車載向け市場は将来、より高度で複雑な自動運転に向け市場スケールの拡大が見込まれる。現に半導体市場全体の17~21年の予想成長率は6.1%に対し、車載市場は12.5%と突出しているのだ(IHS Markit調査)。

wired.jp

素材メーカーでは旭化成と東レが激突する構図に

素材メーカーでは、旭化成が目立つ。15年に同社はEV搭載電池用セパレーター大手の米ポリポアを買収したが、今秋、約1200億円で自動車用シート材の世界最大手・米セージ・オートモーティブを買収した。会社側では「セージのデザイン力と、当社の素材やセンサー技術を組み合わせ、自動車メーカーに新しい提案をしていく方針」と強調する。

帝人もこの8月に自動車向け内装材メーカー、独ジグラーを買収した。ジグラーと帝人の不織布の技術を持ち寄って、より高性能な吸音材を開発する意気込みだ。東レは、7月に欧州企業を1000億円超で買収、炭素繊維複合材(先端軽量素材)技術を補完していく方針。

様々な技術競争がある中で、とりわけ激化しているのはEV搭載用リチウムイオンの絶縁材(セパレーター)への投資バトルである。電池のプラス材とマイナス材の間に挟むフィルム膜のことだが、EV用電池の安全性を担保する最重要部材。EV普及に伴い飛躍的な需要が予想されることから、その覇権を旭化成と東レが激突している。

完成車に迫られる“サービス提供”企業への変身

このようなガソリン車からEVへのシフトで到来した業界のパラダイムシフトは、見方を変えればモーターに関連する部材メーカーにとって、自社の固有技術でチャレンジできる願ってもないビジネスチャンスだ。高い技術を長年にわたって培ってきた日本の電子部品、半導体、素材メーカーには好機到来、ともいえよう。

焦点はトヨタ、日産、マツダ、三菱自などの完成車メーカーの行方だ。90年代にかけ世界を席巻した日本の家電業界が一気に凋落していったのは、テレビや冷蔵庫などの白物家電製品がモジュール(部品群)化によって汎用化し、簡単に製造できるようになったためだが、電動化によってクルマ生産も同じ道をたどる気配が濃厚となってきた。

完成車メーカーは車両生産でなくサービス提供が主体の企業へ変身が迫られるのは必至だ。従来のようなピラミッドの頂点に君臨する立ち位置は期待できない。まずはケイレツをどう再編していくか。また巨大IT企業(プラットフォーマー)とも連携しながら、新たなサービスや価値をとのように見出していくか。いずれにせよ時間はあまり残されていない。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。