Money Clip

お金に関するニュースをクリップ!

脚光再び!異次元の活況に沸く日本の半導体メーカー

f:id:Money_Clip:20181030162235j:plain

日本の半導体業界が上げ潮に乗ってきた。AIやIoT(モノのインターネット化)、EV(電気自動車)などへのIT技術革新にともなう需要が、ここにきて爆発的な拡大をしているからだ。流通する世界のデータ量も2021年までの5年間に7倍に増加するという。(米通信機器大手・シスコシステムズ調べ)

これまで海外勢に押され、衰退してきた印象が強かった日本勢だったが、この回復で、とくに半導体の製造装置や材料という川上の領域で活況が蘇えり、関連各社の業績は急上昇中だ。異次元に突入した業界の最前線を追う。

日本勢は90年代をピークに凋落の一途へ

半導体は、1950年代にアメリカで産声を上げたIC(集積回路)がその源流である。60年代には、そのICをベースに電化製品の小型化、軽量化、高機能化、低価格化が進められた結果、IT革命の申し子として飛躍的にその需要を高め、80年代には「産業のメシ」とも呼ばれ、時代の寵児となった。

90年代当時の日本勢のメモリ機器を中核とした半導体ICシェアは49%と世界トップに君臨していたが、米国勢(インテル、クアルコム、テキサス・インスツルメントなど)がマイクロプロセッサ(注)や携帯電話用・通信ICなどと、次々と付加価値の高い先端製品を市場に投入してきたこともあって、シェアは相対的に坂を転げ落ちるように縮小していった。
(注)コンピュータのCPU(中央処理装置)をLSI(大規模集積回路)に収めたもの。

日本経済のバブル経済が弾けたことも重なり、とくに半導体メモリのような量産普及タイプはアジア勢の猛追を受け、21世紀入り前後には、主導権を完全に明け渡していった。下支えしていた家電産業の凋落(シャープ、三洋電機、東芝などの衰退)も一因だった。スマホやパソコンが発展し、エレクトロニクス産業の主役に代わったことも要因となった。

IT革新のパラダイムシフトによる活況の到来

ところが、ここにきて世界の半導体関連メーカーが、一気に息を吹き返してきたのだ。それもひと頃前までの「また一時的な現象にすぎない」と思われていた活況ではなく、中長期的な様相を呈しはじめている点が今回の特徴である。

数値も明白に成長の軌跡を物語る。世界半導体統計(WSTS)によると、2017年の半導体の販売額は前年比21.6%増の4122億㌦(約45兆円)だったが、今年も同12.4%増の4634億㌦(約51兆円)と、依然2ケタ成長が見込まれ、いわば絶好調ムードとなってきているのだ。

理由をひと言でいえば、IT革新のパラダイム(土台)の転換にある。
あらゆるものがインターネットにつながるIoT時代の到来、またスマホ、パソコン等々の拡大によって、世界に流通するデータ量が圧倒的に増加したことと、また、これからも限りない拡大が予定されるためだ。

f:id:Money_Clip:20181030162939p:plain
引用:DRAMメーカーだけが潤う半導体市場は不健全|NEWS & CHIPS

「すでに“スーパーサイクル”時代に入った」(業界関係者)

流通するデータ量が増えれば、それを保存する倉庫が必要になる。その倉庫の役割を果たすのが大規模なデータセンターだが、これも2021年までほぼ倍増する。このため半導体の関連メーカーは軒並み、空前の活況に入ってきている。

これまで半導体業界は、3~5年で繰り返す“シリコンサイクル”いう名の景気に悩まされてきた経過があった。革新のスピードが速いため、一時的な好況はあってもすぐにオーバーサプライとなり、関連各社も周期的な落ち込みに襲われていた。

それが今回の好調は性質が根本から異なっているようである。過去、散々苦境に泣かされた日本の業界関係者でも「“シリコンサイクル”はもはや死語、勢いが続く“スーパーサイクル”時代に入った」と威勢のよい声まで吐くようになった。需要の力強さが基本から違うというのだ。

日本では製造装置と材料メーカーが絶好調

まず米インテルを抜き、メモリ半導体の領域で世界首位となったサムソン(韓国)。2017年度はサイバーやスマホの記憶媒体に使う半導体が牽引し、半導体部門の営業利益は前年比2.6倍の3.5兆円と、前年に引き続き過去最高を更新した。

日本勢では、製造装置と材料メーカーが絶好調である。
検査装置で世界大手のアドバンテストは、データセンター向け半導体メモリの好調で17年度は前年比27.5%の増収、営業利益では同76%増の243億円を達成、需要に生産が追いつかない状況が続いている。

f:id:Money_Clip:20181030163049j:plain
引用:株式会社アドバンテスト

装置分野では国内シェアでトップの東京エレクトロン(世界シェア4位)が半導体製造装置で、まさに業績は絶好調だ。メモリだけでなく、演算処理(ロジック)向けも堅調で、今期の純利益で3期連続の過去最高更新をめざしている。

www.tel.co.jp

半導体材料ではウェハー(基盤)部門が活況を満喫

また材料では、ウェハーが活況だ。

ウェハーは半導体の基盤となる材料で、各メーカーはウェハーに化学塗料を塗りつけ回路を転写、加工することで半導体ができ上がる仕組みになっている。この分野では、SUMCOと信越化学工業 の2社の技術力で突出しており、舞い戻ってきた活況を満喫する状況にある。


SUMCO(注)の営業利益は17年度の3倍増に続き、今年度も倍増の850億円の見通しだ。この部門で世界トップシェアを争う信越化学工業 も高水準の受注が寄与して、17年度の営業利益は前年比8割増と好調。18年度も30%増益の3660億円の見通しである。
(注)旧住友金属と三菱マテリアルのシリコンウェハー部門の統合企業

このように日本勢が装置や材料で強いのは、製造する半導体に嵌合させる“すり合わせ”技術に長じているからだ。ナノメートル単位の微細な加工が要求される高クォリティに応えられる技術は、世界の中でも日本の水準は一頭地を抜いており、他の追随を許さない。

やはり中国メーカーの出方が最大の懸念

爆発的な需要上昇で、ここにきて一気に強気に転じた半導体業界だが、はたしてこの拡大は遠き未来まで続いていく本物のスーパーサイクルの到来なのだろうか。

まずリスクとして挙げられるのが、需給バランスの悪化による半導体部品の価格変動である。急激な価格上昇を受け増産投資が進んだことから、市場の主流であるメモリ価格高騰が年初にかけ一服している。なかでもDRAM(一時記憶用メモリ)の方は、頭打ちの感があるパソコンやスマホの需要の趨勢をもろに受けやすいのも一因だ。

そして、やはり焦点は中国メーカーの動きである。中国勢は国家主導で製造装置などに巨額の資金を投下、鉄鋼、液晶パネル市場を瞬く間に席巻してしまった過去がある。問題は、その二の舞になる可能性があるかどうか、だ。

eetimes.jp

2020年に半導体で14兆円、世界シェア3割めざす中国

もっとも中国の技術レベルは率直に言ってまだ格段の差があり、中国の製造装置への投資行動に入るのが19年以降ということだから、と余裕発言をする専門家は多い。「最先端のメモリでも、追いつくには最低15年かかる。さらにパワー半導体(注)の製造工程クリアは5年先になる」と指摘する。だが、いずれにせよ中国は参加してくるのだ。
(注)モータ―駆動、マイコンやLSIの動作など電力の制御・供給を行う半導体

中国政府の発表した“国家IC産業発展推進ガイドライン”では、20年に半導体の総売上高
を約14兆円まで拡大させる目標を掲げた。世界の約3割を占めるという計画だ。また15年の“中国製造2025”では、25年までに国内で使う半導体の70%以上を国産でまかなうとする目標も堂々と公表している。


紫光集団はじめ中国の国策半導体メーカーは、そのための人材をアジア周辺から大規模に採用、工場建設や装置導入に走り出した。量産開始は2020年と目される。したがって、今後の需要盛り上がりに水を差すとすれば、中国勢が量産体制を備え市場参加してきたときであろう。

www.huffingtonpost.jp

少なくとも2040年までは続く日本勢の「わが世の春」

そして、浮上してきたへ米中間の貿易摩擦問題──。
トランプ政権が提示してきた制裁関税リストの中には半導体も含まれており、その背景には中国のハイテク産業の育成を牽制したい米国側の思惑が見え隠れしている。中国はスマホを中心とした半導体の一大消費地でもあり、中国には米インテル、韓国サムスン、台湾TSMCなど業界大手の工場が多く置かれている。

www.businessinsider.jp

高関税はコスト高を招き、間接的には日本の装置や材料にも影響が及んでくる公算もあるが、米中間選挙が済んで落ち着く2019年春には、ともかく何らかの決着がつく。半導体活況への実害は軽微とみてよい。

また、中国勢が半導体の製造体制を整え、物量にモノをいわせた得意の“廉価商法”で市場バトルを展開するのは、早くて2030年以降になろう。だがその場合でも、パワー半導体の領域で日本の技術水準に到達するには、その時点からさらに、順調でも数年はかかりそうだ。日の丸半導体メーカーの「わが世の春」は、まだ20年以上は続くとみている。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。