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岐路に立つ自動車業界──IT大手の「制覇」阻止に山積する苦悩と難題

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近い将来、すべての車に接続されたネットワークが司令塔になり、運転操作・走行を支配することになる、と専門家は指摘する。無人カーはプラットフォームにつながっているAI(人工知能)によって“自動運転”され、位置の特定、障害物の検知を的確に行いながら、安全な走行をいとも簡単にやってのける、というのだ。

こうなると「運転」という概念はなくなり、乗車する人は「運ばれる」だけとなる。安全が担保された無人のEV(電気自動車)に取って代われば、教習所も運転免許証も無意味となるし、ガソリンスタンド、自宅の駐車場、信号機も姿を消すこととなろう。

エンジンと変速機の製造技術をもとに今日の地位を構築してきた自動車メーカーも、移動サービスが集積されているIT大手プラットフォーマーとの共存を余儀なくされる。
スマホやパソコンと同じように、クルマもIT業者の指示に従って納入する1つの商品アイテムとなってしまうのだろうか。はたして自動車業界の「下請け化」は現実のものとなるのだろうか。追跡してみた。

www.sbbit.jp

業界に「100年に一度の転換期」がやってくる!

2050年には、自動車はスマホやパソコンと同列の製品になっている──。
最近、こんな言葉が当たり前のように語られるようになった。これから先、自動車業界に“100年に一度の転換期”が訪れるというのだ。

その地殻変動を業界では“CASE”というキーワードで表す。Cはコネクティビティ(=クルマと通信の接続)、Aはオートノマス(=自動運転)、Sはシェアリング(=共有サービス)、Eはエレクトリック(=電動化)の進行を意味する。



話題となっているEV(電気自動車)への移行も、CASEの中ではE(電動化モビリティ)の一部分にすぎない。業界全体の流れは、このCASEで表される大波に一気にさらわれようとしており、業界のパラダイム(枠組み)の変貌はもはや避けることができない、ということが常識となりつつある。

gendai.ismedia.jp

シェアリングやライドシェア(相乗り)の考え方が浮上

襲来する大波とは何か。
まず、クルマへの考え方ががらりと変わりつつあることだ。一般の人たちの自動車利用の仕方が急速に変化し、クルマ所有にこだわらないシェアリングやライドシェア(相乗り)という考え方が浮上してきたことが主因である。旅行先でレンタカーを借りる感覚で、日常生活でも移動が必要なときに、自由にシェアリングを活用すればよいことになる。

クルマの空き座席を利用して報酬を得たいドライバーとそのサービスを利用して移動したい個人とを、コネクテッド技術で結び付ければクリアできる。ユーザーはスマホを使えば、即時に配車を受けられる仕組みだ。利用客も供給サイドの料金設定の額によって弾力的に対応し選ぶことになるから、市場メカニズムもきちんと機能してくる。

ただ自動車メーカーが、タクシー業界の現在もっている既存の体系を率先して崩してまで、ライドシェア分野に乗り出すほどの勇気はない。タクシー業界は継続的にクルマを購入してくれる安定顧客だからである。そんな間にも、IT大手が巨額な投資にモノをいわせ、新体系づくりにエネルギッシュに乗り出してきているのが現実だ。

IT大手が推進するデジタル路線に乗り遅れるな、が合言葉

トヨタとソフトバンクが先頃(10/4)、次世代の移動サービス事業で提携したのも、そんな背景からだ。トヨタの自動運転技術と、ソフトバンクがもつ膨大なビックデータ処理技術を融合させ、次世代の移動サービスの体系づくりをめざそうというものである。

techwave.jp

トヨタの豊田章男社長は記者会見の席上、「移動サービスを提供する会社になるには、先見性、目利きの力を備えるソフトバンクとの提携が必要不可欠と判断した」と、今回の提携の狙いを強調している。従来のようなモノづくり技術だけの深化だけでは、急ピッチにIT巨人が進めるデジタル革命の流れに取り残される危機感があったと見るべきであろう。

また、ルノー・日産・三菱グループも9月、グーグルと提携、コネクテッドカーの中核となる情報部分について、グーグル製品で構築すると発表した。ホンダもGMと提携(10/3)、自動運転タクシー車両の共同開発に乗り出した。ともかく先端技術をもつIT大手や有力ベンチャーとの提携を急ぐ動きが一気に業界で加速しはじめている。

japan.cnet.com
www.nikkei.com

2020年代にガソリン車が消えてなくなるという現実

クルマ業界が得意としてきたカーづくりの技術体系は、コネクテッドカーの中核となるテクノロジーとは全く異なるものである。これまでのクルマ業界には、異分野の企業が参入できない大きなハードルが立ちはだかっていた。エンジンと変速機が開発できないメーカーではクルマはつくれないという常識が業界の存在価値を高めていたのである。

だが、すでに中国やEUは、パリ協定に基づき2020年代にはガソリン車の新規発売を世界市場から禁止する旨を打ち出した。これにより10年後の市場では、AI機能を備えたEVのコネクテッドカーが中心となることが明白となった。コア部品はエンジンや変速機ではなく、AIと電池(全固体電池)へと様変わりするのだ。

それだけにはるか先のポジションを走り、コネクテッドカーのOS(オペレーション・システム)を展開するIT業界のプラットフォーマーたちに、自動車メーカー各社がそれこそ生き残りを賭けてアプローチを図るのは当然といえよう。

clip.money-book.jp

IT大手とクルマ業界との間の「異次元競争」に発展か

だが、実はこのアプローチや提携は自動車メーカーにとって、辛い事情が伴っている。とくに米国大手のアマゾン、グーグル、アップル、ウーバー、中国の滴滴出行(ディディチューシン)などは桁違いの資本力を備えており、隙を見せれば一気に呑み込まれてしまうリスクも少なくないことだ。

これらIT巨人たちは、次世代カーで予想される全ての分野で当然、主導権を握ろうと動きはじめており、その虎視眈々の野心のために今後の自動車ビジネスをめぐる覇権争いは、ますます混沌の度を深めている。クルマ業界の競争力の源泉だったエンジンを中心とするハードウェアの高性能化を競う構図は、もはや急速に過去のものとなりつつあるのだ。

今後の決め手は、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)と呼ばれる移動の快適性や利便性の差別化にシフトしそうだ。最も重要となるのがAIやデータを駆使するソフトであり、さらにそれらを標準化したプラットフォームということになる。

やがて業界の“ピラミッド帝国”も崩壊へ

クルマ1台の部品は約10万点にのぼるが、EVでは関連部品を入れてもせいぜい100点にすぎない。
現在のクルマ産業は組立メーカーを頂点として、2次、3次、4次下請けで構成されている裾野の広いビラミッドで成り立っているが、EVでは部品点数の激減から、取引相手も激減、電機業界で90年代に起きた大転換が必至となってきた。

日本勢に共通して指摘されているのは、EVだけでなく、世界的なCASE進行の出遅れだ。
追いつき、対等に戦うには、効率的な配車やサービス内容に応じてクルマの利用状況を変える技術、料金処理や車の運行管理など、広範にわたる“プラットフォーム技術”をどのような形で所得、もしくは共有できるかがテーマとなる。

「前例のない海図なき戦い」をどう乗り切り勝利するか

したがって、その点IT大手はライバルだが、プラットフォーマーはもとよりクルマ生産のノウハウを決定的に欠いている。自動車メーカーがその辺の優位性は保持しながら、どのようにIT大手と対応していくか。そこに未来を拓く鍵がある。

トヨタが今回、米国や中国のIT大手とのダイレクトの提携ではなく、ソフトバンクを選んだのは、仲間を多くもっている身近な企業とのアライアンスが最も妥当、と判断したためとみられる。ただ、どうか。

加速するパラダイムシフトに、世界に冠たる実績を示してきた日本の自動車勢が、はたして間に合うのかどうか。異業種、IT大手の軍門に下らずに、後れを取り戻すことができるのかどうか。「前例のない海図なき戦いが始まっている」(豊田社長)のコメントに象徴されるように、その果てしなき総力戦もスタートに立ったにすぎない。

jp.reuters.com

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。