Money Clip

お金に関するニュースをクリップ!

家電ニッポン勢「栄光の復活」の可能性──優れた創造性と技術で表舞台に踊り出る公算も

f:id:Money_Clip:20180926162209j:plain

かつて日本の高度成長を支える原動力となっていた家電業界が一気に凋落の坂を転げ落ちていったのは、リーマンショック(2008年)後のことだ。代わって韓国、台湾、中国メーカーが台頭、日本の電機メーカーはすっかり存在感を失っていった。

だが、そんな日本勢もパナソニック、ソニー、シャープなどを中心に業績が伸長、収益力回復もめざましい。捲土重来は期待できるのか。各社の実態と今後の課題を追ってみた。

リーマンショック後に表面化した家電ニッポン勢の総崩れ

まず、相次いで発生した日本メーカー後退の象徴的な現象を並べてみよう。

三洋電機の白物家電(冷蔵庫・洗濯機)は中国・海爾集団(ハイアール)に売却、本体はパナソニックの傘下に入った(2011年)。また、シャープは液晶TV「アクオス」の大ヒットで“液晶帝国”となったが、液晶パネル工場への過剰投資が足かせとなり、リーマンショックを境に衰退の一途をたどり、2016年に台湾・鴻海精密工業に身売りした。

東芝も2015年末に不正会計スキャンダル、原子力事業の巨額損失などが一気に表面化した。立て直しを図って、白物家電部門は中国・美的集団(マイディア)へ、テレビ部門は中国・海信集団(ハイセンス)へ売却、米原発事業からの撤収、半導体メモリー部門の売却など、相次いで断行してきているが、まだ今後の行方は判然としていない。

gendai.ismedia.jp

突出したコングロマリット経営のマイナス面

東芝、日立製作所のような電機大手の場合、原子炉、ミサイルから扇風機まで、こと電気に関わるものなら何でも手掛けるコングロマリット経営で、拡大してきた経緯がある。M&A(企業の合併・買収)による短期的利益の追求をめざしたこの種の複合企業化は、1960年代にかけ、とくに米国でブームになっていたものだ。

だが、IT革新が進むにつれテレビ、ビデオ、ステレオ、デシカメ、パソコンなど、それまで日本メーカーの得手としていたデジタル家電は、急速に「スマホ」に集約されていった。新興勢力が仕掛けてくる低価格バトルのWパンチで、日本勢は疲弊の度を強めていくばかりとなった。

収益を生む源泉であったデバイス(ハードウェア)は、アップル、グーグル、フェイスブックといったプラットフォーム(ソフトウェア)企業に、急ピッチに移行していった。日本にはそうしたシステムを持つITジャンアント企業と互角に勝負できる企業が、誕生しなかったことが、一段と彼我の差を広げる一因となった。

付言すると、今後わが国が世界の産業イノベーションに伍していくためには、中心となって主導していくプラットフォーム企業の立ち上がることが喫緊の課題だ。だが、残念ながら米GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に匹敵する巨大マンモス企業はいまだに育成されていない。強いて言えばメルカリ、ゾゾタウンに期待される程度である。

米国流の“短期決戦型”経営を常套化させたツケ

もう1つ、バブル崩壊後の“失われた20年”の間に、日本企業は早期の回復を急ぐあまり、経営の基本姿勢や市場の仕組みについてアメリカ経済を手本とする、イージーな方法に傾斜していったことだ。

経営は目先の収益を上げる「株主重視」の“短期決戦型”に徹し、同時に株価時価総額の上昇にばかり血眼になる方法がいつのまにか日本企業の全般に行きわたり、常套化した。経営スパンも3ヵ月の四半期収益という目前のみを求める状況が一般化していった。

その結果、息の長い長期投資は回避し、従業員育成も怠りがちになる。稼いだ収益は設備投資や賃金アップに向かわず、従業員にしても派遣社員、パート、アルバイトといった非正規社員を増やすことで対応、株価や時価総額を上げるための目先の自社株買いなどに走る傾向が目立っていった。

コア部門の育成・特化で“復活”テンポ速める企業も続出へ

だが、日本電機メーカーの直近の動きには失地奪回に向けた新しい兆しが歴然としてきた。過去の反省に立ち不採算部門を整理する一方で、自社の誇るコア(中核)部門の育成・特化に専念するなど、復活のテンポが急ピッチに進む企業も多く見られるようになった点だ。

たとえばパナソニック。前期(18年3月期)業績は、最終利益が前期比58%増の2360億円と、08年度(2818億円)以来の高水準となった。今期(19年3月期)の第1四半期(4~6月)も増収増益と順調なすべり出しだ。

news.panasonic.com

プラズマTV事業の敗戦処理も済み、自動車向け部品、とくに米テスラ向け車載電池を戦略の柱にして走り出した。2021年度にこの車載分野(センサー、電池)だけで2.5兆円(16年度実績の2倍規模)という野心的な売上げ計画を掲げ、そのための投資額は1兆円という戦略投資枠もセットした。

「アイデア→製品化」に最適なプロジェクトを発足(パナソニック)

家電部門は、今のところ地味な展開だが、分社の「アプライアンス社」が着実で安定した業績を展開中である。中でも注目されるのは、「ゲームチェンジャーカタパルト」というプロジェクトの発足だ。流れを一気に変えるゲームチェンジャーを、カタパルトから飛び出させ、「未完成」であっても世に問い、完成に近づけていきたいという取り組みである。

企業や組織の枠を超え、新規事業の創出を“速攻”で決めつけていきたいとの意志がそこに見える。アイデアさえあれば、外観デザイン、精緻な設計から量産、流通、メンテ等々、必要な要素はすべて規模が大きいだけに社内で揃う。つまり大企業の良さを活かし、新しいアイデアが製品化につながる可能性を、最も身近に感じさせるプロジェクトといえる。

グーグルが検索事業から、アマゾンが書籍販売から脱皮しているのに、パナソニックが家電のままでよいのか──このプロジェクトがスタートしたのは、そんな危機意識からだった。したがって上司からの「ダメ出し」で自由な発想が葬られないよう、第三者の評価によって事業化につなげる仕組みも導入している。

大手企業となると、一見突飛に見える新規アイデアやベンチャー的な構想については、トップや担当部署の長は失敗の責任を取らされることを恐れ、理屈をつけて“その場逃れ”をする傾向が強かった。その点当プロジェクトでは、そのような組織的なプレッシャーはない。「ともかくチャレンジしてみよう」の意気込みが正当化されている点が評価される。

新しいIoT戦略の1つとして注目される「ヘルシオデリ」(シャープ)

鴻海傘下入りしたシャープも、世界最大のEMSといわれる鴻海の資材調達ネットの活用で大幅なコスト削減が奏功し、前期(18年3月期)は最終利益が704億円と4期ぶりの黒字となり、驚異的な回復を示した。中核の液晶パネルは中小型が車載向けに拡大しているし、大型テレビは依然として高画質が受け入れられ中国等への輸出の伸長が続いている。

もともとシャープの家電事業は電子手帳、ワープロ(書院)、左右両開き冷蔵庫、ウォーターオーブン(ヘルシオ)等々、独創的で高品質を誇る製品を生み出すことで定評があった。
完全復調すれば、この伝統がこの先も活かされ、業績のスプリングボードになる可能性は高い。シャープが先駆し、慌てて他社が追い掛けた昔日の姿がまた再現されるかも知れない。

たとえば昨年、ウォーターオーブン「ヘルシオ」を活用、飲食店大手のぐるなびと組んで、著名レストランのシェフの料理の材料や作り方をデータ化するサービスを始めている。食材をセットしてボタンを押すだけで、同じ料理ができ上がる「ヘルシオデリ」というユーザーサービスだが、同社の試みた新しいIoT戦略の1つとして注目されるものだ。

決算記者発表|IRイベント|投資家情報|投資家情報:シャープ

規模追わず高価格帯に注力した有機ELテレビのすべり出し好調(ソニー)

ソニーの2017年度の最終利益は10期ぶりの過去最高の4907億円を記録したのに続き、今期(19年3月期)第1四半期(4~6月)も純利益が前期の2.8倍に達するなどから、通期予想もすでに上方修正するほどの好調ぶりが目立つ。

最近のソニーは、もっぱらゲームや音楽、映画部門に支えられた総合的なAV機器メーカーとしての位置づけで、かつての「エレキ(エレクトロニクス)のソニー」の姿はないものの、家電というカテゴリーで分類しても、テレビやオーディオなどの黒物メーカーのイメージは依然として健在そのもので、強みを発揮している。

赤字部門はリストラを断行、ノートパソコン「VAIO」は売却、テレビも規模を追わずに、高付加価値ゾーンだけに注力することで黒字化させた。現に得意の画像処理技術を背景に、昨年から発売した有機ELテレビは好調に伸長中だ。

Sony Japan | 決算・業績説明会

家電ニッポン勢の新しい気概に感じられる“復活”の予兆

トータルとしては低迷の度を強めていった日本の家電メーカー勢だったが、上述したように、このところ営々として培ってきた伝統的な技術の強みをベースに、順調な回復が進んでいる。その一方で、後退した原因の究明をもとに、従来とは異質な取り組みによって、思い切った試行錯誤で経営に立ち向かおうとしている風潮が表出してきている。

1つは、デジタル技術への取り組みでコラボによって、IoTシステムを作り上げていくというユーザー目線での努力目標が出てきたことだ。
また1つは、アマゾンやアップルのように、長期目標のためには、短期的な収益の後退は無視して、多額の投資を長期にわたって継続実施していくという姿勢が求められることだ。

およそ「新しいことに挑戦するには、短期的な収益を気にせず、他からみるとクレージーともいえる信念を維持することが必要だ」というのは、アップルの創業者スティーブ・ジョブズの言葉だ。(WSJ日本版より)
そんな気概が家電ニッポン勢にも新しい風潮として、しかもオリジナルな形で出てきたことが、確固たる復活の予兆として歓迎される。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。