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ドン・キホーテ、高成長の軌跡とその理由──eコマース縮小、西友買収意向表明の真意は?

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低迷するリテール(小売店)業界の中にあって、ドン・キホーテは毎年、売上げ(年商)を大台替わりさせるという快進撃を続け、前期で29期連続の増収増益を達成した。
豊富な品揃え(平均5万アイテム)、天井まで積み上げる「圧縮陳列」という“泥臭い”売り場づくりが、逆にウケに入っているようだ。加えて現場(店長)への大幅な権限委譲──。

ネット通販の拡充は、今や経営の常套手段といわれるなか、eコマースからは離脱を進める決断で周囲を驚かせる。また、西友売却報道にも「興味がある」(大原孝治社長)と関心を示す。様々な話題を提供するドン・キホーテの真意も追ってみた。

“年商1兆円”達成にいま一歩

8月中旬に公表されたドンキホーテホールディングス(ドンキホーテHD)の前期、平成30年6月期(2017年7月1日~2018年6月30日)業績は、売上げが前期比13.6%増の9415億円と好調に推移、悲願の“年商1兆円”達成も目前となった。

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出典:連結業績(財務グラフ) | 財務・業績情報 | 株主・投資家情報 | 株式会社ドンキホーテホールディングス

年商推移はまさに好調そのもので、2015年(6月期)6840億円、16年7600億円、17年8290億円、そして前期9415億円というように毎年、大台替わりの売上げ更新を継続中だ。

ついに年商で、家電量販店のビックカメラ、百貨店の高島屋やエイチ・ツー・オー・リテイリングなども簡単に抜き去った。いよいよ業態のトップ、ヤマダ電機(約1.6兆円)、三越伊勢丹HD(約1.3兆円)を射程に入れる位置に肉薄した。

業界中で一番乗りめざす「営業利益1000億円」

注目されるのは、好調な利益の続伸にある。
前期の営業利益は11.7%増の516億円、経常利益は25.7%増の572億円となり、創業以来、29期連続の増収増益を記録した。なお利益では9期連続の最高益更新となった。中期目標は2020年で売上高1兆円、500店舗、自己資本利益率(ROE)15%(前期末13.5%)。

大原社長は「重視しているのは営業利益だ。国内の流通・小売業界の中でまだ到達していない営業利益1000億円を任期中に達成したい」と息巻く。

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出典:連結業績(財務グラフ) | 財務・業績情報 | 株主・投資家情報 | 株式会社ドンキホーテホールディングス

というのも、営業利益が1000億円に達した企業はまだ出現していないからだ。
家電量販トップのヤマダ電機でも前期の営業利益は387億円、総合スーパー(GMS)の雄、イオンGMS事業の営業利益にしても105億円、営業利益率にしてわずか0.3%だった。

グループ全体の店舗数は総計418店舗(うち国内379店舗)に

ドン・キホーテHDの総合スーパー(GMS)としての取り組みは、「MEGA」の名で展開している。これまでの若年層メインのドン・キホーテとは異なり、ファミリー層、シニア層もターゲットとして取り込みを図っている点が特徴だ。

2017年にユニー・ファミリーマートHDと提携、それまで不振だったGMS「アピタ」、「ピアゴ」の6店舗を「MEGAドン・キホーテ UNY」(NewMEGA)という名のもと業態換えしたところ、この6店舗の業績は好調の一途。前年比で売上げは2.5倍の18億円、粗利益(売上げ-売上げ原価)も2倍の3.6億円超と、好ダッシュを切っている。

前期内の1年間における新規出店(国内)はドンキ14店、MEGA3店、NewMEGA8店、ピカソ2店、驚安堂1店、ドイト1店の合計29店舗。海外はシンガポール2店のほか、ハワイ州については、スーパー24店を子会社したことでグループ全体の店舗数は国内379店、海外39店の合計418店舗に達している。

ジャングルのような“泥臭さ”を踏襲した売り場づくりに固執

ドン・キホーテ快進撃の理由を見ていこう。
まずECサイト(ネット通販)での拡大が経営拡大の風潮ともいわれる中にあって、依然としてリアル店舗での多彩な品揃えを堅持している点にある。しかも売り場の商品陳列は、棚という棚に商品、段ボールを積み上げる「圧縮陳列」で“賑やかさ”の表現をモットーとしていることだ。

訪れた顧客が「安くて、これはと思える商品を探し出す」楽しみを、売り場づくりの中に
織り込んでいるのが、ドン・キホーテ商法の中核をなしているのだ。したがって、ジャングルのような“泥臭さ”を踏襲した売り場づくりに固執する。

まず豊富な品揃えが、強調できる。
1店舗当たり平均5万アイテムという商品数は、コンビニの平均3000アイテムの軽く10数倍に達する。一般的な店舗経営では、過剰な在庫を抱えないことが“イの一番”のルールだが、そこを敢えて鉄則としている点がまたドン・キホーテの真骨頂ともいえよう。

大幅の権限委譲で思い切った店舗経営ができる店長

「ドンキ店に来れば何でも揃う」との評価は、利便性だけでなく客に宝探しの楽しさも感じさせる雰囲気がある。
現にインバウンド(訪日外国人ツアー)による免税販売の平均客単価(1人当たり)にしても前期(2017年度)は化粧品、医薬品などを中心に1万円前半とピーク時の2014年頃よりは減少しているが、それでも国内平均の約6.5倍という驚異的な数字だ。

次に挙げられるのは、「店長への徹底した権限委譲」だ。
したがって、他のチェーン店でみられるような系列店の全体を律する“経営マニュアル”は基本的に存在しない。本部からビックデータを元に、店舗経営のフォーマット化によって一律的なオペレーションの自動化・合理化を迫ってくる強制はない。このような本部からの縛りがない分、店長みずからの判断で思い切った店舗経営に出ることができる。

ドン・キホーテ店長だからこそ味わえる「やり甲斐」

それだけに、結果は「自己責任」である。店長はオリジナリティを出すために、他のチェーン店店長とは比べ物にならないほどの、業績拡大のための知恵を絞り出さなくてはならないだろう。創造のためのプレッシャーで夜もろくに寝れないこともあるかも知れない。だが、これはドン・キホーテの店長だからこそ味わえる「やり甲斐」であるに違いない。

「居抜き出店」方式もいかにもドン・キホーテらしい。
業績不振で撤退した店舗を居抜きで安く手に入れ、リニューアルして入居することで出店コストを抑制する。共通マニュアルという規制がないから、店内レイアウトに気を使わなくても済む。平均5万点に及ぶ商品を、自律的な判断によって選択・発注する各店舗、これだけでもドン・キホーテの豪快商法の一端を覗き見ることができる。

ECサイト(ネット通販)の縮小に動き出したドン・キホーテ

ドン・キホーテのECサイトへの考えは、顧客に便宜を与える接客サービスの向上という視点でのアプローチが強く、ネット通販といった次元からはむしろ撤退する動きが出ている。業界各社が争うようにネット通販の拡大に狂奔する中にあって、逆の方向に向かっている点は注目できる。

8月の記者会見の席上でも、「基本的にはスマホを使っての新しい買い物体験は考えていない」(大原社長)と、eコマースとして今後これ以上の関わりを否定する発言だった。
現に、独自のネット通販「ドン・キホーテオンラインショッピングモール」を閉店(5/31)している。この結果、現実には楽天とヤフーショッピングに出店を残すのみとなった。

デジタル対応は決済のスピード化、開閉ゲートの自動化等で活用

eコマースへの関わりはビジネス勘定では見出せない。
今回公表されたデジタル戦略でも、あくまで「店舗重視」、「売り場づくり」のスタンスは変更せず、デジタル機能の活用も、顧客に買い物の楽しさ、便利さをより拡大する方向に進めているのが特徴である。

年内にもパイロット店(実験店)をオープンする予定の「マジカデジタルプラットフォーム」では、顧客の自動車ナンバーを認識し、チケットレスで駐車場の開閉ゲートが自動的に行える機能、接客サービスの精度向上を図るための入店時の“顔認証”機能などの設置などがテーマとなっている。あくまで顧客サービスとしての視点で捉えているのだ。

さらに、デジタル対応での挑戦の1つは決済のスピードアップ。買物かごをレジのベルトコンベアに乗せれば、瞬時に商品のバーコードをスキャン、金額合計が出て決済できるレジをいま開発が進捗している。また売り場を歩けば歩くほど「ウォーキングコイン」が貯まるシステムも考案中だ。

ドン・キホーテが「西友買収」に動く公算は高い

もう1つ、西友がらみの話題に触れたい。
ウォルマートは西友売却の噂を否定した(7/13)が、すでに業界ではかなり確度の高いテーマと織り込み済みである。アマゾンとの雌雄決戦を迎え、成長余地の少ない日本戦略に、これ以上ウォルマートが係り合っている余裕もなくなったとの見方が妥当のようだ。

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大原社長が西友売却に関心を示したことで巷間、ドン・キホーテの出方がにわかに注目されるようになった。ウォルマート側の条件次第では、ドン・キホーテが動く公算はかなり高い。
ドン・キホーテには長崎屋を傘下に収めて以降、GMS運営のノウハウを蓄積している上に、西友には駅前の好立地が多く、しかもウォルマートが掘削・育成した人材、商圏も魅力、と考えられるからだ。

好スタートを切った既述のNewMEGA路線 に乗せたGMS展開をめざし、それこそ西友をモロに居抜き改築し最小コストで一気の大勝負に打って出ることになろう。ただ西友店舗335店(7月末現在)を抱えることは不可能だから、その折り合いをどうつけるかが、今後の最大の焦点となりそうだ。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。