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本当に携帯料金は4割下がるのか?日本のスマホ市場を改めて考える

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2018年8月21日、札幌市内で行われた講演の中で日本の携帯電話事業者の間で競争が停滞しているとし、「今よりも4割り程度下げる余地がある」と菅官房長官が発言しました。これにより、大手携帯キャリアだけではなくMVNO(自社ではなく大手キャリアから通信網を借りてサービスを提供している業者)を含む全ての携帯電話業界で大きな波紋を呼んでいます。果たして、携帯キャリアは本当に4割程度下げる余裕はあるのか?また、実際に下げることは可能なのか?下げることによって生じる課題などについて考えてみたいと思います。

4割程度下げられる根拠はどこからきたのか?

菅官房長官が発言した「携帯電話料金は4割程度下げられる」という言葉ですが、もしもこれが事実ならば消費者としては非常に助かるし嬉しい限りです。しかし、実際にこの根拠はどこからきているのか分かりません。しかし、政府の長官が根拠もなしに発言するとは考えにくく、何かしらの考えや意図があるのではと期待しました。ですが、実際は調べれば調べるほど値下げは難しいという結論に達したのです。

また、政府が民間企業のビジネスに口先介入をするのは異例の事態ともいえる一方で、携帯電話事業に関してはこれで2度目となります。2015年にも、同じように「日本の携帯電話料金は世界的に見ても高い」という議論が行われています。そこで総務省が調査を進めてみたところ、実際に判明したのは「日本の携帯電話料金は世界的に見ても別に高くない」という真逆の結論でした。

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出典:野村総合研究所(NRI)

グラフでも比較されているように、高いといえるのは3GBまでのライトユーザー向けのプランです。この調査によって、日本の携帯電話料金はそこまで高くないことが判明しましたが、その時に政府がとった苦肉の策として生まれたのが「MNPユーザーへの優遇を縮小させる」といったものでした。

確かに、MNPユーザーを優遇するのは長期ユーザーに不公平という理屈も分かります。しかし、それにより2016年はMNPが減少しMNO(自社で通信サービスを提供している事業者、日本の場合は大手3キャリアを指す)のスマートフォン出荷台数が減少、MVNOなどの格安スマートフォンが増加する結果になりました。

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出典:MM総研

この2015年の政府の口先介入、これが果たして良い結果を生み出したかというと難しいところではあります。確かに、格安SIMという選択肢は増えましたが、この介入により閉店に追い込まれた店舗も少なくはありません。また、国内メーカーのスマートフォンは売れず、ブランド力の強い海外メーカーのスマートフォンの売上を後押しする形になってしまいました。

では、一体どこから4割程度下げられるという根拠が出てきたのか?例えば、月額料金7,000円のユーザーがいたとします。ここから4割下げたとしたら4,200円程度になります。勘の良い方ならお気付きになられたかと思いますが、先程のグラフで紹介したイギリスの料金に近い値段になりますね。「それじゃあやっぱり下げられるんだ!」と喜んだ方には申し訳ありませんが、結論としては「まず下げられない」と思って頂いて問題ありません。下げられたとしてもせいぜい1割から良くて2割でしょう。これにはイギリスとの料金プランの仕組みに違いがあるからです。

世界的に見ても携帯電話料金は高くない日本

調査結果からも分かるように、世界的に見ても日本の携帯電話料金は高くありません。むしろ安いくらいです。カナダなんて1GBで約6,000円もします。しかし、実際にイギリスの方が安く見えるのはなぜか?実は、イギリスと日本の料金プランには大きな違いがあります。まず、大きな違いとして「日本のプランには機種代金が含まれているがイギリスは含まれていない」ということです。日本の場合、5GBまでなら基本料金は4000~5000円前後がほとんどだと思います。この値段ならばイギリスと差はありませんが、日本の場合はここからさらに機種代金が上乗せされて7000円前後の値段になります。

一方でイギリスの場合は、既に持っているSIMフリースマートフォンを利用するので、契約時に購入するのはSIMカードのみという方ばかりです。政府が参考にしたイギリスの基本料金には機種代金が含まれておらず、日本とそもそものスタートラインからして違うのです。機種代を含む料金の場合は、2GBの利用者の基本料金は日本とほぼ変わらない平均6,500円前後になります。データ量がもっと多くなる場合は、イギリスの方が確かに安くはなります。しかし、通信品質を考慮した場合に日本と比べるとイギリスの通信速度は決して良いとはいえません。そのこともあり、イギリスの携帯料金は抑えられていると考えられます。

gendai.ismedia.jp


つまり、イギリスと比較するならば機種代金を抜いた月額料金で比較する必要があります。そうなると、やはり日本の携帯電話料金は高くなく安い方の部類といえるでしょう。しかし、それでも各キャリアは新たなプランを提案しなくてはいけない状況といえます。そこで考えられるのが、イギリスと同じようなSIMカードのみを購入し機種代金が発生しないプランを提案してくると予想されます。

同じような販売体制をとることで、政府が望むような料金プランで提供することができますし、携帯キャリアもそこまで大きな被害は出ないことだろうと思います。(それでも国内のスマートフォンメーカーには損害が発生しそうですが…。)

また、今のこのタイミングで料金体制に対して政府が進言するのは次世代通信5Gを見据えてのことだと思いますが、それならばなおさら料金の値下げは悪手といえます。

次世代通信5Gのために多額の設備投資をしなくてはいけない

大手キャリアの場合は、MVNOと違い自社でインフラ設備を整えなくてはいけません。それも設備を増やせば良いという簡単な話しではなく、世界トップクラスの高品質なサービスが求められています。そして設備も設置すれば終わりではありません。設置してからは維持費などのランニングコストも発生していくため、設備投資は決して安い金額ではないのです。

17年度のdocomoの設備投資額は5,764億円、KDDIは5,194億円でした。今後5Gに向けてさらなる設備投資が必要になってきます。料金を下げたことにより、世界トップクラスの通信品質になにかしらの影響が出ないか懸念材料が残ります。

ちなみに、イギリスのような料金プランに変更することでどれだけ減収するかというと、docomoの場合は毎月約2,000億円、1年間で2兆円以上もの減収となります。それに加えて、5G通信のためのインフラ設備を増強していかなくてはいけないため、今まで以上の投資額が必要になってきます。また、現状ですら簡単ではない携帯電話事業に参入する楽天にとってはさらに厳しいといえる状況ではないでしょうか。

その楽天ですが、電波を割り当てられた際にいくつか条件が決められました。例えば10年以内に黒字を達成する必要がある、既存の通信会社に事業譲渡を禁止するといったもので、逃げ道がない状態からのスタートとなります。このように、政府が介入することで携帯電話産業にとっては裏目に出ていることの方が多いと言わざるを得ません。

果たして日本経済に良い政策といえるのか?

日本政府が介入するたびに良くも悪くも動いた携帯電話産業ですが、果たしてそれが日本経済の為になっているのかというと怪しいところです。今回の件も、もし大手キャリアが4割下げた場合はどうなるか?まず初めに、格安SIMを扱っているMVNOはサービスの継続が難しくなるでしょう。そうなった場合に、大勢の雇用が失われてしまいます。それだけではなく、スマートフォンが売れなくなってしまいメーカー側の売上が減るなど、日本経済にとってプラスの政策とは果たしていえないのではないでしょうか。

確かに、エコの観点から見るとモノの消費が少なくなるのは良いことかもしれません。ですが、既に携帯電話は大手キャリアに拘る必要もなく多種多様な選択肢があります。その中で、大手キャリアのユーザーは敢えて高い金額の大手キャリアを選んでいるのだろうから、今回の菅官房長官の発言は大分的外れな意見な気がします。

筆者としては、選択肢が増えることは喜ばしいことではありますが、その結果サービスの品質が下がってしまうだけではなく日本経済にとって大きな損失にならないか心配でたまりません。

diamond.jp

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180208132702j:plain松本 竜二/フリーライター
不動産営業として勤務の傍ら、フリーランスという働き方を知り退職を決意。ライターとして活躍している先人の著書物を読み漁り、独学と実戦によりライティングスキルや知識を身に付け、IT・ビジネス関連をメインとしたフリーライターとして数々のクライアントからの依頼を請け負い、現在に至る。