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終わりの見えない「ふるさと納税」バトルの実態と背景──勧告に従えない自治体側の理由とは?

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「ふるさと納税」集めに狂奔するあまり、寄付という本来の趣旨が薄れ、返礼品にはできるだけ豪華なものを用意する市町村が増える一途にある。また、とくに大都市中心に住民税の流出という深刻な弊害も出てきた。

総務省は是正勧告の意味を込め、返礼品の比率が3割超になったり、地場産品以外を利用したりしないよう通達を発していたが、ついにしびれを切らし、今年8月に至っても改めない12市町村のケースを公表した。しかし、市区町村はそれぞれ事情を抱えている。知恵を絞りぬいて、やっと旨みも出てきたのに「ハイ、そうですか」とあっさり引っ込むわけにもいかない。年々エスカレートするばかりの“ふるさと納税”争奪戦の実態、各自治体の裏事情などにスポットを当ててみた。

関心を引くため返礼品に寄付金の50%超を投入する自治体も

「ふるさと納税」には、寄付した金額から2000円を除いた分が、住民税、所得税から控除されるという仕組みがある。地方活性化につながる前向きの“善意の献金”である上に、税負担がそれだけ軽減されるということから注目を集め、「ふるさと納税」の総額は年を追って増加する一途となっている。

返礼品も豪華になるばかりだ。市町村によっては寄付者の関心を引くために返礼品に寄付金の50%超も投入するところも出てきており、地方創生、災害支援といった本来の趣旨からすっかり離脱してしまう事態も発生している。

このため総務省が、2017年4月に全国の地方自治体に通達したのは、納税の返礼品は寄付額の30%程度に抑え、地場製品にすること、また家電製品、金券、宝飾品といった“換金性”の高い返礼品や、パソコン・自転車・ゴルフ用品・家具・楽器などは禁止する要請だった。エスカレートする返礼品競争に見直しを求めた内容だ。

地場産品のない市町村は温泉宿泊券、商品券などで対抗

だが、今年に入っても依然として還元率が50%超の返礼品が後を絶たない。それにこれといった地場産品を持たない自治体は、対抗上も魅力的な一般商品で関心を呼びこもうとする。とくに人気なのはお米、肉、ダイソン製品、掃除機、空気清浄機、電子レンジ、カメラの類い。さらに食事・宿泊の支払いに使用できる商品券や宿泊券などの提供も増えた。

たとえばHIS、日本旅行、近畿日本ツーリスト、JTBで使える温泉宿泊券、リンガーハット、とんかつ浜勝、サーティーワン共通の商品券などで、利便性で誘うのだ。今でもちょっとスマホで検索すれば、「コスパ良好! お得のオススメ自治体はここ」などの煽り文句でランキング紹介が画面を賑わすほどだ。通達は徹底していない印象の方が強い。

一例を挙げよう。
群馬県草津町の返礼品、金券(「くさつ温泉感謝券」、返礼比率50%)に、総務省は難色を示していたが、町は「温泉旅館300軒への経済効果がある。法令上もモラル上も問題ない」と突っぱねた。さすがに返礼比率だけは50%→30%としたが、今年1月に発生した草津本白根山噴火に伴う災害支援に絡んで、すかさず30%→40%に戻すなど、したたかである。

ついに意向に沿わない12自治体の実名公表に踏み切った総務省

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出典:総務省

とうとう所管する総務省はこの7月、「ふるさと納税に関する現況調査結果」を公表した。
2017年度の「ふるさと納税」受入総額(全国)が3653億円と過去最高になったレポートとともに、昨年4月に次いで今年4月にも「地産品の送付など、良識ある対応」を求めたにもかかわらず、その意向に従わない自治体として、12自治体の実名公表に踏み切った。


つまり「ここにリストアップしたのは、何回も忠告したのに、言うことを聞かない自治体なのだよ」と、総務省のブラックリストを開示したことを意味するのだが、背景には当制度の拡大に伴い、とくに都市部の自治体で本来得られるはずの住民税の流出、という事態に慌てた事情も絡む。しかも年々拡大しつつある一途にあり、大きな懸案となっていた。

現に2017年度、最も住民額控除が大きかった市町村は103.7億円の横浜市。以下、名古屋市、大阪市など大都市が並ぶ。もっともこれらの市は前述の補てんが受けられるので、実際の流出額はその4分の1になるが、東京都や川崎市などは交付税を受けていないため、多額の住民税が流出しても補填はきかない。全額がモロに消失するのだ。

「住民税が流出しています」と訴えた東京・杉並区

当然、都市部の危機感は異常なまでに高まる一途にある。東洋経済新報社調べによると、東京・世田谷区では、ふるさと納税のため昨年度に40.8億円の税収が流出したという。杉並区でも、寄付が集中する昨年年末「住民税が流出しています」とエキセントリックなポスターを配布して区民に訴えたほど、深刻な状況となっている。

この7月、東京23区の区長で構成されている特別区区長会が、野田聖子総務相に対して、税控除上限額設定や、地方交付税による補填の仕組みを見直すべきだとの要望書を提出したのも、ここまでのふるさと納税をめぐる経過からみても、当然の帰結といえよう。

寄付者が居住する区民が、ほかの地域への寄付行為によって返礼品という“対価”を受け取る上に、区の住民税が控除されるというのは、寄付者でない一般の区民にとってはたしかに間尺に合わない。それだけ公共サービスの上で不平等が生ずることになる。

断トツ1位となった大阪府泉佐野市のケース

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出典:総務省

さて、「ふるさと納税」受入れで断トツの1位、135.3億円となった大阪府・泉佐野市のケースに触れてみよう。この額は前年比388.5%、前年の約4倍に近い総計金額である。この制度が始まって以来、1つの自治体で100億円以上の寄付を集めたのも初めてのケースだ。当市の一般会計(歳入)563億円の約4分の1に当たるケタ違いの実績である。

泉佐野市は、関西国際空港のオープン(1994年)に伴って発生した都市インフラ、公共施設などの過剰な整備投資が原因して一時、税収と交付税の合計の4倍近い負債を抱え呻吟するという事態に陥った。遊休資産の売却、市職員の定員削減や給与、議員報酬のカットなど、懸命な健全化対策が功を奏し、どうにか最悪の状態は脱したが、浮揚策は今1つ。

「ふるさと納税」は2008年、そんな地合いの中に登場、当市は税外収入を増やす手段としてここに活路を求めた。当初の返礼品は、地元産の「泉州タオル」だけだったが、12年には地酒やカニなど、14年には航空券に使えるポイントを追加していった。やっと目途がつきかけた矢先のリストアップだった。

ただ、当市にしてみれば、今さら総務省に勧告を受けても、ほかに財源の手当てをするメドがあるはずもなく、ふるさと納税の縮小は死活問題になりかねない。まだ土地開発公社への多額の返却が残されており、制度活用をここでストップするわけにいかないというのが本音だ。市の財政状況と照らし合わせながら、どんな対策を出してくるか注目したい。

「ふるさと納税」趣旨の原点に戻り見直しを図るべきとき

もともとふるさと納税は、地方活性化のための寄付文化を根付かせるために始められた純粋な動機に基づくものだったが、各市町村の過激化する返礼品バトルの現状をみる限り、もはや寄付者の大勢は、少しでも豪華な返礼品を期待し、所得税や住民税の控除に狙いを定めた節税対策の一環といった方向に傾斜している、とみるべきであろう。

あえて「金券」を継続、公然と総務省に反旗を翻している群馬県草津町のケース、また
東京23区の特別区区長会が、税控除や補填の仕組みの見直しなど制度改定への要望書を
提出するなど、いよいよふるさと納税に対する総務省への風当たりも強まってきた印象が強い。

通達には“法的な強制力がない”ことを見抜かれているだけでなく、単なる抑え込みでは説得力に欠けることを覚らなくてはならない。ふるさと納税は自然災害が激増する中、簡便で優れた寄付制度であることは認めるにしても、ここで原点に立ち戻り、見直しを図るべきときを迎えていることは間違いない。

最後に、付け加えさせていただきたい。もし筆者が「ふるさと納税」寄付行為を行う場合は、少なくとも返礼品を前提とせず、当初から「返礼品“お断り”」を表明した上で、実行することとなろう。返礼品期待の寄付行為では、いかなる意味でも本来の趣旨から逸脱しているからである。

www.soumu.go.jp

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。