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「イタリアントマト」10年で100店舗以上閉鎖からわかるカフェの条件

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イタリアントマトの国内店舗がこの10年で100店舗以上閉店しているという記事が東京商工リサーチから発表されました。地方を中心に相次いで店舗が閉鎖、2008年からの10年間で100店舗以上の減少ということらしいのですが、どうして報道されたような急激な店舗網の縮小に至ったのでしょうか。喫茶店・カフェという業界がどうなっているのか、そこで力を持つ大手各社の店舗数はどうなっているのかなどから調べてみましょう。

www.tsr-net.co.jp

イタリアントマトとは

(株)イタリアントマトは国内コーヒー大手企業、キーコーヒー(株)の連結子会社です。イタリアンを特長としたカフェ「イタリアントマト」を直営とフランチャイズで展開しています。現在はカフェ経営のイメージが強いですが、かつては飲食業界の中でもイタリア料理を世間に定着させてきた雄として知られた会社です。

東京商工リサーチの記事によると、イタリアントマトの売上高は2014年2月期の約57億7700万円をピークに減少し、2018年2月期は約40億5700万円まで落ち込んでいるそうです。イタリアントマトがホームページで公表している店舗数(FC店を含む)は2008年8月に国内328店だったのが2016年には国内267店、2018年は国内218店に減少しています。低調なのはイタリアントマトだけなのでしょうか?喫茶店の店舗数や大手競合他社の状況と比較してみましょう。

www.italiantomato.co.jp

喫茶店の店舗数は一貫して減少傾向

日本国内の喫茶店は右肩下がりです。データとしては今回話題になっている2008年からの10年間ではありませんが2009年に77,036店舗あった喫茶店は2014年には69,983店舗に減少しています。5年間で約1割の減少ということでかなりの減り方であることがわかります。(出典:統計資料 | 全日本コーヒー協会)

個人経営の喫茶店は確かに激減していると肌で感じませんか。一昔前は街の至る所で見受けられた「昭和の喫茶店」は今ではむしろ珍しいくらいになっています。しかしこれは小売業など、他の業種でも見られる光景です。事業者の高齢化と地方都市の人口減少で事業そのものが終わるという構図ですね。

もともと客単価が低い(=粗利益額の確保が難しい)事業なので、「規模の経済」効率を出しにくいところに事業をとりまく環境の変化が圧力となるのだろうというのは容易に推測できると思いませんか?

スターバックスは飛躍的に店舗数増加へ

スターバックスは10年間で店舗数大幅増です。2005年に551店舗だったものが2017年には1260店舗になっております。
(出典:国内スターバックス店舗数推移 | Stockclip)

スターバックスは従来、大都市圏中心でしたが県庁所在地を中心にして徐々に店舗数を増やしていきました。現在では少し大きめのショッピングモール内や主要交通機関のターミナル等にも店舗を出店しています。
スターバックスはアメリカから日本上陸してきた時は多種のメニューと上質なファブリックが特長でした。近年ではそれに加えて「インスタ映え」を意識したようなカラフルな見た目の季節限定商品なども目立ちます。いずれにせよ、今最も注目を集めている飲食店チェーンの1つといえるでしょう。

ドトールも明確なコンセプトにより店舗数増加傾向

ドトールは2018年7月に1126店舗です。当時は非公式ですが2002年に1200件前後と推定されており、店舗数自体はそれほど伸びてはいません。ただしフランチャイズ店舗を含むと店舗数は倍増します。
(出典:ドトールグループ総店舗数 | 開示情報ライブラリ)

ドトールはどちらかというとイタリアントマトCafeJr.に近い業態です。ドトールの特徴は、コーヒーとサンド(サイドメニュー)に特化していることでしょう。
また、ドトールの特長のひとつとして年齢層が幅広く、店内がコミュニティスペース化している姿をよくみかけます。これは一昔前に個人経営の喫茶店でよく見ていた光景で、ドトールはコーヒーそのものを楽しむことに特化している店舗であるからこそ出来る結果だと私は考えています。

他のコーヒーチェーン大手も特長あるサービスを提供

コーヒーチェーン業界ではシェア1位のスターバックスと同2位のドトールコーヒー(以下ドトール)の上位2社が目立ちますが、他でもコメダ珈琲店などが好調です。コメダ珈琲店はネット上で何かと話題になるボリューム感あるメニューが特長ですね。分量が多いのでそのぶんは粗利益率は下がるはずですが、往来の多い場所や郊外型ロードサイド店舗等、店舗開発もよく考えられていると思います。

総じて言えるのが、各社、自社の特色があります。例えばヴェローチェだとスタンダードなホットコーヒー1杯が安いので、気軽に入って10分20分位のちょっとした待ち時間の調整などに使いやすいですし、サンマルクカフェはカフェ業態の中でもスイーツ等とのセット商品のコストパフォーマンスが抜群にいいので、店内を見渡すとかなりの割合で何らかの食べ物と一緒に楽しまれています。これは1点1点の商品単価が高めのスターバックスではあまり見かけない光景です。

一方のイタリアントマトはどうでしょうか?かつてのイタリアントマトがレストランで提供していた「ちょっと良いランクのイタリアンを身近に楽しむ」ではなくなった今、イタリアントマトCafeJr.は何を提供しているのでしょうか?

イタリアントマトは「ファミレス化」で停滞

イタリアントマトは従来型のレストラン店舗を一掃、CafeJr.を一気に展開しました。不確かな記憶ですが2000年代前半頃のことです。何しろ20年近く前の頃の話なのでデータを探し出すことができませんでした。

一例として、私が住む都市では2店舗のレストラン店舗がありましたが、現在は2店舗とも既に無く、入れ替わるようにCafeJr.が林立しました。恐らくレストラン形態ではテナント料等の固定費、什器類にかけるコストが割高なことや、客回転率を高く設定したいという狙いからの業態変換であろうと推測しています。

元々は日本国内では珍しかったイタリア料理を提供して客単価も1,500円近辺を想定していたレストラン店舗と異なり、CafeJr.にはとてもリーズナブルなメニューが並びます。コーヒーなどのドリンクが160円~400円、パスタやピザが高くても680円です。FC店舗も多いので一概には言えませんがセットの組合せもよく見かけます。セットだと1,000円超えるかどうか位の価格帯に設定されています。ちなみに私がよく行く店舗ではケーキ類とコーヒーのセットで680円だった記憶があります。

Cafe.Jrの店内を見渡すと、さほどコストはかけていないファブリックと食器が気になります。ファブリックは4人以上を前提とした構成が多めなこと、比較的早い段階でCafe.Jrを展開したからかテナント物件の面積にゆとりがない店舗が多く座席間の幅に余裕がないことも多いです。また、飲食の提供や食器類の返却にセルフサービスを取り入れた店内オペレーションです。飲食を提供するトレーは何の変哲も無いプラスチック製で、はっきり言ってファーストフード然としています。

旧来のイタリアントマトの味や方向性はかろうじて失っていないものの、パスタ・ピザ・スイーツそれぞれにメジャーなメニューだけを残したからでしょう、他社と比較しても特色がないメニュー構成になってしまいました。イタリアンの軽食があって、食後にコーヒーとケーキセットが出て・・・まさにファミレスそのものなのです。

個人的にはイタリアントマト最大の売りは(恐らくレシピが変わっていない)高品質のケーキ類ではないかと捉えているのですが、凡庸なメニュー構成の中に埋没してしまっているので、せっかくの魅力がぼやけてしまっているのです。

このように、店舗としての魅力がどこにあるのかがはっきりしないので、どうしても新規客が取り込みにくいのではないかと考えます。極めつけは、ただでさえ力を失いつつあるブランドネームなのに「イタリアントマトCafeJr.」という同じ屋号、同じロゴで店内飲食が可能な店とテイクアウト専門店が混在しているのです。

以前のレストラン形態中心の時代にも店舗の出入口にテイクアウトを訴求するケーキのショーケースがありました。この頃から既にケーキのテイクアウトにはこだわりがあったはずで、テイクアウトにも力を入れたいのは重々判ります。しかし、せめて提供するサービス形態の違いが判るようにはするべきです。これらの悪手が重なって、現在のイタリアントマトでは閑古鳥が鳴いているというのは当然のことではないでしょうか。

一方で現在好調な他社コーヒーチェーン店舗はそのあたりのコンセプトが明確です。スターバックスならば長時間滞在で利用することを前提とした雰囲気作り、ドトールは年齢層を問わずに入れる店内環境の堅守です。(例えば某社コーヒーチェーンでは店舗外から見た際におしゃれな洗練された印象がすることを狙って、スツールの足がとても高いのですがドトールではそういったことはないです。)もちろん、主役になるコーヒーやサイドメニューについてもブレることはありません。

カフェに求められる条件とは「ライフスタイルの提案」

いまやカフェの業態は日本でもすっかり定着した感があります。街中の至る所に時間を気にせず楽しめるステイフリーなカフェがあります。カフェにMacBookを持ち込んで、ちょっとした作業をするなんて光景は10年位前だとまだ珍しく捉えられていましたが、いまでは別段それをわざわざ話題にすることすらもありません。(ちなみにMacBook Airの最初のモデルが発表・発売されたのが2008年です。)

その代わりに新聞やマンガ本を読みながら常連客同士でくつろぐなんていう従来よく見られた喫茶店の風景はなくなりつつあります。個人店が減少傾向なのは先にご紹介した通りです。

カフェや喫茶店の経営とは、単に飲食を提供するのではなく、第三空間というライフスタイルの姿を提供するものじゃないかと私は考えています。
スターバックスの興隆がその証です。クリームの量やフレーバーを選ぶことでそれぞれの好きなように味をカスタマイズするという新しいコーヒーの楽しみ方や、上質なソファーでくつろぎながらコーヒーを味わうという従来はホテルのロビーなどでしか味わえなかった経験が気軽に楽しめるというライフスタイルの提案があったのです。

スターバックスは「コーヒーを愉しむために全席禁煙」ですが、これも日本進出当初には変わった施策として話題になったものです。今では喫煙可のカフェを探すほうが難しく、それくらいに喫茶店・カフェというライフスタイルを変えてきたインパクトを持っている企業です。

gyokai-search.com

イタリアントマトのこれからに期待

今回話題に取り上げた東京商工リサーチの取材で、キーコーヒーの担当者は、「既存店の業態転換や不採算店の閉鎖は今後も進める」「既存のイタリアントマト店舗をコーヒー専門店に移行するなど、改善策を模索中」と話したといいます。

字面を見る限り、まだ方向性は定まっていないようですが店舗網の整理は悪いことばかりではありません。これまでに指摘してきた通り、なんらかの抜本的な改革がなければジリ貧の傾向でした。こういった局面の経営では単に苦し紛れに再構築を進めているだけというケースも多いのですが、そうではないと信じたいものです。

イタリアントマトには資産があります。長く続いてきた企業に受け継がれてきた味です。特にケーキ類を中心とした建て直しが望ましいと思われます。個人的には影ながら応援しております。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180226141801j:plain涼宮 ぷらち
大学卒業後にIT専門量販店へ就職。30代で社会人向資格専門学校に転職し、運営と公務員受験講座講師を担当。40代を目前に「本当に必要とされる場所で働きたい」と考えた結果、最初にスカウトされた経営コンサルタント会社に勤務。中小企業様の経営・金融・助成金制度・新事業等に関する支援を行う。