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2018年上半期で3倍と急増したM&A(合併・買収)の背景──日本企業の「M&A謳歌時代」がやってきた!

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このところ日本企業のM&A(合併・買収)が一段と急増中だ。M&Aサポート会社・レコフの調査によると、2018年上半期(1~6月)に日本企業が関ったM&Aの総額は、前年同期比3.4倍の20兆1078億円に達した。案件も3割多い1798件で過去最多となった。

理由として歴史的な高収益体制の整備、超金融緩和の継続、潤沢な内部留保、官製ファンドの軌道乗せなど、投資環境が一段と整ってきたことが挙げられるが、海外M&Aの成功率は37%と低く問題も多い。ここでは様々な角度から日本企業のM&A事情を追ってみた。

海外M&A上半期で過去最高15年実績をすでに超過

今年上半期、日本企業が関った海外企業に対する買収も11兆7501億円で、年間として過去最高だった15年の11.2兆円を、わずか半年で超えたことになる。

このように大幅増加となったのは、5月に公表された武田薬品工業 によるアイルランドの製薬大手シャイアーを買収(金額は7兆円弱)したことが主因だ。
ソフトバンクグループのM&A活動も積極的だ。昨年7月、英半導体開発大手アーム・ホールディングス(HD)を3兆3000億円で買収したが、今年も1月には急成長する米配車サービス大手ウーバー・テクノロジーズの株式の15%を取得し、筆頭株主になっている。

日本企業の海外M&Aは、2008年のリーマンショック以降、一時的に停滞していたものが、直近5年間は海外への進出・事業拡大をめざす動きが加速度的に活発化し、ここにきて一気に増加したといえる。年を追うごとにその買収金額も大型化していることが特徴である。

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世界的には日本の買収スケールはまだ小さい

といっても、世界的な視点から経過をみると日本の海外M&Aはまだ総じて小規模だ。

2014年のサントリーHDによる米蒸留酒最大手ビームの買収(約1兆6000億円)、2015年の東海上HDによる米HCCインシュアランスHDの買収(9400億円超)などが挙げられる程度だ。だから武田薬品のシャイアー買収の7兆円というのは、驚異的な数字といえる。

だが、海外では数兆円規模のM&Aがすでに一般的な常識になりつつある。昨年、米メディア大手のウォルトディズニーは21世紀フォックスの映画事業買収では8兆円、またこの6月、独製薬大手バイエルが米バイオ大手モンサントを買収した金額も約7兆円だった。

“日本市場だけでは限界が見えてきた”という危機感

さて、ここにきて武田薬品やソフトバンクの大型買収をはじめとして、日本企業による海外企業へのM&Aが一気に加速しはじめた理由はどこにあるのだろうか。今後の日本産業・経済の行方を見ていく上で、重要なポイントを示すものとして整理してみたい。

理由の1つとしてまず指摘できるのは、少子化・人口減少にともなう日本市場の縮小化である。どの産業にしても、商圏が日本マーケットだけでは限界が見えている点だ。この限られた場所で食い合っていては、やがてお互いに疲弊していってしまう。企業経営者ならば、当然抱く危機感が、海外に目を向ける最大要因となっている。

その場合、ゼロから海外に進出していくよりも、既存の優良企業を買収した方が手っ取り早く、費用対効果から考えても合理的だ。中には広大で良質の商圏を抱えながら経営に苦しんでいる海外企業もある。買収や協力体制に取り込めれば、お互いの不足部分を補完し合うウイン-ウイン体制に持ち込める、との考えにたどりつくところにM&Aの原点がある。

間違いなく収益力にグンと弾みが付いてきた日本企業

理由の2つ目は、日本企業には順調な業績が続き潤沢なキャッシュ(資金)が蓄積されたことだ。財務省・法人企業統計によるとその内部留保も400兆円超に達した。日本企業は間違いなく収益力にグンと弾みが付いてきた点が、M&Aに向かう背景にある。

1980年代後半の資産バブルの時点では、日本経済全体が年率2.5%以上成長しないと増益を確保することが難しかったが、現在では0.5%成長でも、その効果はダイレクトに影響し増益になる。こういった時代背景も見逃せない。

日銀短観によると、今年度は対GDPの経常利益率(製造業大企業)は8.11%という予想だが、バブル景気のピークだった1989年度の5.75%、リーマンショック直前のピークだった2006年度の6.76%も大きく上回る数値で、増益基調の継続は確実視されている。ここで醸成された豊富な手元資金は、水の流れのように海外M&Aに向かっていくのである。

俄然、海外M&Aに向かった要因は「キャッシュリッチ」状況に

それに加え、2013年以降はアベノミクス展開による“超金融緩和”が継続中だ。企業にとっては、より安い資金を手に入れる大きな支援策となっており、しかもデフレ脱却が明確に確認できるまで続けざるを得ないという、絶好の環境が出来上がっていることになる。

手元資金が有利子負債を上回り、現金や預金などを多く所有する状況を金融用語では「キャッシュリッチ」と称されるのだが、いまわが国の現状では、あまり賃金アップや設備投資に向けず、内部に蓄積している傾向が強い。
このキャッシュリッチ状況が、今年になって俄かに、海外M&Aに向かう要因となったとみて間違いなさそうだ。

「身上調査」(DD)不足が多く、海外M&Aの成功率は37%に

ただ問題は多い。経済産業省が昨年実施した実態調査(経団連加盟企業向け)によれば、海外M&Aの成功率は37%という。基準は、2001年以降の案件のうち「予め自社が設定した目的・指標を8割以上達成した」企業を“成功”としたものだが、成功するのはおよそ3件に1件ということになる。

経営戦略としてまずM&Aありき、の傾向からスタートしたため、対象企業の素性もよく分からないままに紹介案件に安易に飛びついてしまうケースも多い。最も懸念されるのは、売り手側は少しでも高く売りたいので都合の悪いことは隠すことである。

相手企業の身上調査は一般的にデューデリジェンス(DD)というが、このDDは財務・人事・事業・法務の4大DDについて、各ジャンル別に徹底的に実施する必要があることが言われているのは、M&Aでは失敗するケースが非常に多く、その間に膨大な資金が動くからである。専門に担当する社員を育成する必要があることはもちろんだ。

明確な構想ももたず、買いっ放し、丸投げも…

蓄積されたキャッシュリッチを背景に、生半可の気持ちで一気にM&Aの“成果”を現実のものにしようとして失敗するケースは大企業の中でも多い現象だ。クロージング(契約締結)の前の身上調査(DD)にしても現地の弁護士に任せっきり。現地に行ってフェース・トゥー・フェースで先方とのヒアリングを交わして確認するなどとの作業は回避する。

買収後の戦略──企業価値の上昇シナリオがしっかりと整備されていない上、派遣して管理する人材も育っていないのにもかかわらず、勝手に相手企業とのM&A成果ばかり強調する状況が頻繁に社内ばかりか、メディア内も独り歩きするのもこんな企業に多い。

M&Aに対する明確な戦略かないから、とどのつまり買収した企業の旧経営陣の経営に任せようということになり、買いっ放し、丸投げといわれる状態が生まれる。DDも仲介者の言いなり。結局は“失敗”につながっていく事例もたびたび発生するということだ。

日本の「M&A謳歌時代」がスタートした!

だが、絶好のチャンスが到来したことは事実だ。400兆円を超える内部留保と超金融緩和、歴史的な高収益体制の継続など、またとない環境の揃い踏みである。日本国内の市場が縮小・飽和している状況のなか、世界のグローバル化が一層進むことを考えれば、それこそ「カネのわらじを履いて」でも対象を探すべきときを迎えている。

さらに2016年以降、上場企業に適用された国際会計基準(IFRS)の採用など海外M&Aをめぐる体制は整備される一途にある。また官製の投資ファンド、企業再生支援機構(09年秋に設立)などの支援体制も軌道入りした。複数の民間投資ファンドや事業会社もスタートしており、M&A市場全体の活性化につながっている。

今後も日本企業によるM&Aは海外戦略の中核としてかなりのペースで拡大し続けることが容易に想定できる。どの産業も日本市場相手では限界との自覚を胸に、この閉塞状況の打開に向け走りはじめてきたからだ。確実に日本の「M&A謳歌時代」がやってきている。

maonline.jp

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。