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コスト高騰で相次ぎ「値上げ」に走る外食産業の実態を追う

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食材価格、人件費などの高騰から昨年来、外食産業の“値上げラッシュ”が目立ってきた。日本経済新聞が3月中旬から4月下旬にかけて実施した調査によると、飲食産業の半分近くに当たる45.4%が、今年中の値上げを予定、あるいはすでに値上げしたと報じている(5/22付)。ここに実態、背景を追ってみた。

コストプッシュで一気に表面化した“値上げ”ムード

今年、クックビズ総研が実施したアンケート調査でも、2018年中に「店舗メニューを値上げしますか」との質問に「値上げする」と回答したのは43.1%に達しており、前年(2017年)の値上げ実施率23%に比べ、約2倍の結果となった。1つの特徴は、昨17年に値上げ実施店のうち64%が、今年も引き続き“値上げ”実施を回答したことだ。

値上げには“今がチャンス”との捉え方があるのは、長い間のデフレ継続で抑えられていた食材価格の上昇が、コメやビールなどの今回の値上げを契機に、ここで一気に表面化したためでもある。「ある程度の値上げはやむなし」との社会的なムードを、敏感に業者が感じ取ったという背景もある。

まず飲食産業の中でも、消費の先陣を受け持つ外食産業の昨年以降の“値上げラッシュ”の実態を追ってみよう。

てんや、リンガーハット、鳥貴族など軒並みの値上げへ

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cookbiz.co.jp

創業以来“ワンコイン天丼”として500円天丼を提供していた「天丼てんや」が、今年1月から値上げに踏み切り、それまでの税込み500円の天丼は540円となった。「リンガーハット」も主力の長崎ちゃんぽんを520円→540円に(昨年8月)、鳥貴族も昨年10月以降、全品280円→298円に値上げしている。28年ぶりという。

「いきなり!ステーキ」は、昨秋までにリブロ―ステーキ1g当たり6.5円→6.9円、生ビール480円→500円、ハイボール400円→420円など小刻みに値上げをしていたが、この5/16から、国産牛サーロインステーキ1gを税抜き10円→11円に値上げした。

値上げにはナーバスな牛丼業界でも、昨年11月のすき家(ゼンショーHD)の値上げに次いで、この4月には松屋(松屋フーズ)が牛めし並盛を税込み290円→320円に。また中華の日高屋も、中華丼を580円→610円に改定したのをはじめ、麺類・定食類も値上げした。

toyokeizai.net

ビール業界の10年ぶりの価格改定がきっかけに

牛丼チェーンでは、やはりトレンドづくりでリードする吉野家の動きが注目されるが、昨10月上旬の決算発表の場で「現在、値上げの計画はない」(河村泰貴社長)と断言したこと通りの経過となっており、動きはない。やはり2014年暮れに牛丼価格を300円→380円にしたところ、15%もの客数落ち込みを招来した反省に基づくのか、慎重な構えである。

今回の一斉値上げにしても、一般的にいえるのは、きわめて各外食チェーンともかなり慎重に対応、準備していた様子がみえた。きっかけとなったのが、昨年6月に施行された酒税法改正だった。徐々に高まっていた“値上げ”要請が、これを機に噴出した感がある。

酒税法改正を受け、ビール大手4社(アサヒ・キリン・サッポロ・サントリー各社)とも、10年ぶりの値上げとなる瓶ビールと居酒屋向けなどの業務用の生ビール樽の値上げを発表、今年3、4月の出荷分から10%前後のアップとなった。これに呼応してまず、大手レストランが一斉にメニューの値上げを発表し、外食チェーンもこれに追随する形となった。

値上げ理由の1は食材費、2が人件費の上昇に

値上げの理由としては、やはり“食材費と人件費の上昇”というコストプッシュ要因がほとんど。日本経済新聞の調査では90.4%の企業が“食材価格の高騰”と回答、69.2%が“人件費上昇”と回答、としていた。

主食用のコメ価格は、最近3年間でざっと3割も高騰しており、アルコールメニューの検討だけでなく、外食産業には大きなテーマとなっていた。政府の主導する減反政策によって、農家は“主食用コメ(家庭・業務用)”の作付をどんどん“飼料用コメ”に変更しているのだ。転作すると手厚い補助金がもらえる。当然、主食用は高騰することになる。

コスト上昇のもう1つの要因は、人手不足による賃金の高騰にある。アルバイトにしても、最近では売り手市場に変化しつつあり、じりじりと時間給も上昇の一途にある。ビール各社が値上げの理由に挙げた物流費の高騰も、物流業界の人手不足が原因だ。そんな各方面の人件費上昇が、外食産業へのコストプッシュとなっているわけである。

コスト内での消化も限界に来たという事情

通常、外食チェーン経営では、売上高に占めるコスト(食材費+人件費)の比率は約60%以内に収めるのが、一般的な目安とされる。だが、最近のように、コストの双璧が揃って上昇し、優にこの上限比率も突破している現実を前に、価格に転嫁せざるを得ないという苦渋の決断を経営者に迫ることになった、というのが実態だ。

ただ率直に言って、今回の値上げではコスト分の“価格への丸乗せ”の傾向も目立つ。店舗側に仕入れ価格が上昇しているのだから当然だ、との表情も見え隠れする。日本の外食レストランの平均値段は諸外国に比べ圧倒的に安い、などとメディアで某評論家が喧伝するせいもあってか、経営者の“値上げ”の弁の節々にも無神経なところが目立つ。

コスト高騰を価格に丸投げ転嫁することのリスクは、値上げの理由に顧客が納得する範囲でないと、かつてのリピート客までごそっと来店しなくなる危険性もあることだ。値上げが「ヨソが上げるのだから、ウチも上げてみよう」といったノリで、簡単にクリアできるような代物ではない。

www.news24.jp

コスト分の“丸乗せ”転嫁も目立つ今回の値上げ

もっとも、とくに消費前線のわずかの戦略の狂いにも敏感な外食チェーン各店では、“値上げ”の怖さは身に染みているから、きわめてナーバスに対処しているのが通常である。今回の場合も、値上げ幅は店舗メニュー価格を10~15%引き上げたのが大半を占めるが、値上げも一気に上げず、年2回とか複数回に分けての実施をする大手もある。

したがって、平均的には外食チェーン店のケースでは、店舗メニューの値上げ幅は5%程度、1品当たりの単価では10円から100円アップというのが相場だ。値上げ幅もできるだけ顧客に目立たないよう、品目も選別し小刻みに行う店舗も多い。

とりわけ競争が激しい大都市圏の過密エリアになるほど、周辺店舗の価格変動に過敏に見極めながらの対応で慎重になる傾向が強い。競合他社の動きを“様子見”しながらの慎重さだが、その点、どの外食チェーンでも今回の値上げに積極的なのは、むしろ地方圏の店舗で、「やっと値上げのチャンスが訪れた」と奨励する受け止め方も多いという。

肝心なのは客に一定の納得が得られる「値上げ」努力

ただ、値上げは単純にはいかない。勝手に客離れしていく顧客には、何の責任もないからだ。こちら(店舗)側の都合や思惑など、客には一切、通用しない。

同じ10%の値上げでも、客単価1000円台の飲食代が100円値上がりするのと、客単価5000円台の飲食代が500円値上がりするのでは、その間に大きな根本的なバイアス(隔たり)がある。価格帯によって顧客層も違うから、値上げに対する認識も違う。その辺を店舗側でどう把握し、分析して、実際の店の経営に結び付けているかである。

値上げするからには、通常は見合った顧客サービス、納得感をもたせる必要がある。したがって、従来とは異なったサービス対応を考え、細心の配慮をしていくことに知恵を絞りこんでいかなくてはならない。うっかり一律に線引きしてしまうと、顧客層自体がごっそり抜け落ちてしまうリスクもある。

目に余る店員の接客態度にもひと言

もう1つ付加して要望したいのは、店員(スタッフ)の教育訓練の徹底である。最近とくに目立つのは、人手不足のためアルバイトが多いせいか、大手外食チェーン店でも粗雑な店員の「横暴さ」や「いい加減さ」が目に余る場合があることだ。

ある店では注文と違うので指摘したら、こちらの言い方で何か気に障ったのか、睨み付けられ凄まれた。店長が来てその場は収まったものの、それ以来、その店は全く行っていない。独特な味付けで著名な老舗外食店だから、後追いでそのチェーンの他の店舗に行ってみたが、なぜか最後まで、やはり店員の応接に心がこもってなかった。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。