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人口減少社会に更なる危機が迫る 事業承継の現状と課題について

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中小企業の経営を取り巻く諸問題の中でも、事業承継について今年度から非常に強い動きが目立つようになりました。事業承継は10年ほど前から課題だと言われながら、なかなか優先事項として扱われなかったのですが・・・。遂に国も重い腰を上げたようです。今回は事業承継の基礎編として周辺事情を把握していただければと考えています。

事業承継の現状と課題について

事業承継は昔からある経営課題のうちの1つで、実は目新しいものではありません。しかしここ最近でも目立つのが先代経営者との関係の変化です。20年以上前には息子・娘が事業承継をするケースが83%を超えていました。ところがこの10年以内は親族以外の役員・従業員や社外の第三者が事業を引き継ぐケースが増えています(合計で26%)。
平均引退年齢の推移を見てみますと、この10年以内は小規模事業者で70歳、中規模企業で67歳です。

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中小企業経営者の高齢化が進展していることが伺えますね。実際に2015-2020年までに約30.6万人の中小企業経営者が新たに70歳に達し、約6.3万人が75歳に達するとみられています。2020年頃に団塊経営者の大量引退期が到来するということです。

一方で後継者育成についてはどうなっているのでしょうか?過半の企業では事業承継の準備は進んでいないのが現状です。現経営者が考える後継者の育成に必要な期間については5年以上10年未満と答える経営者が最も多く、3年以上5年未満がそれに続きます。経営者は後継者を一人前に育てるのに最低でも3年以上はかかると見ているようです。

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事業承継を経験した経営者が先代経営者から事業を引き継いだときに苦労した点は「経営力の発揮」が最も多い(35.8%)のですが、以下、金融機関からの借入(24.7%)、取引先との関係の維持(24.7%)、一般従業員の支持や理解(19.3%)、金融機関との関係の維持(19.1 %)と続きます。つまり、これらの苦労した点をクリアするための後継者育成に3年以上はかかるというわけです。

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国内企業数、倒産・休廃業件数の推移

事業者の高齢化と後継者不足により事業を終える中小企業が多いことを示すデータがあります。日本の企業数全体は減少傾向にあり2009年から2014年にかけて39万者が減少しています。倒産件数については減少傾向にあるも、休廃業件数は横ばいです。減少数の内訳は1999年からの2014年の25年間で小規模事業者が98万者も減少しておりこれが主な原因であることがわかります。それだけの売上高・納税機会・雇用が消滅していることを意味しますので、これは大変なことです。

事業承継ガイドラインの見直しと概要

ここまで事業承継を取り巻く現状と課題を見てまいりました。これらの条件をふまえてでしょう、平成18年に事業承継協議会より発表された「事業承継ガイドライン」について、その内容が10年以上ぶりに見直され、中小企業庁より公表されました。

「事業承継ガイドライン」が見直された背景として以下の3つの要素があります。

  • 経営者の高齢化が進展(団塊世代の引退)
  • 放置すれば技術・ノウハウの喪失
  • 円滑な世代交代による事業の活性化も期待


日本国内における経済界の生産性や活性化を考えた際に、中小企業の減少に直結している事業承継問題をこれ以上野放しにはできないという国の姿勢が現れています。

「事業承継ガイドライン」を現在見直して運用する目的はなんでしょうか。事業承継の円滑化により、中小企業の技術・ノウハウをしっかりと受け継ぎ、世代交代を通じた活性化を促進したいということです。早期・計画的な取組の促進を進めるため、事業者の年齢が60歳を着手の目安としています。

取組の内容としては「事業承継に向けた5ステップ」を掲げています。

  1. 事業承継への準備の必要性認識
  2. 経営状況などの把握(見える化)
  3. 経営改善(磨き上げ)
  4. 事業承継計画策定(社外への引き継ぎ)とマッチング実施
  5. 事業承継の実行

※この過程で生じる諸課題に対して、公的な支援策や各種ツールを活用するとしています。

取組の促進ツール

「事業承継ガイドライン」では事業承継の取組を促進するためのツールを準備、活用することとしています。

  • 事業承継に向けた早期かつ計画的な準備への着手を促すツールとして、事業承継診断を導入
  • 事業承継診断を通じて、支援期間と経営者の間での「事業承継に関する対話」を喚起
  • 事業承継に向けた準備の必要性を気付くきっかけとし、把握された課題に応じて適切な支援期間へ繋ぐツールとする
引用:「事業承継ガイドライン」中小企業庁(平成28年12月改定)

今後は経営コンサルタント業務で、これらの事業承継診断ツールを使いながらケースに当たる場面が増えることになりそうです。裏を返せばビジネスチャンスがありそうな分野ということでしょうし、今年度からは実際に事業承継診断を取り巻く営業活動が活発化していることを私も肌で感じています。

取組の促進体制

事業承継を促進する体制は新たに再編された感があります。地域における事業承継支援体制強化として以下の3点が明記されています。

  • 地域の将来に責任を有する都道府県のリーダーシップのもと、地域に密着した支援機関をネットワーク化
  • よろず支援拠点や事業引継ぎ支援センター等とも連携する体制を国のバックアップの下で早急に整備
  • 各支援機関の強みを活かしつつ、個々の事業者の課題に応じたシームレスな支援を実施
引用:「事業承継ガイドライン」中小企業庁(平成28年12月改定)

従来、様々な法律を根拠として設立されている様々な経済団体や機関を結集して事業承継の取組促進を狙うようです。私はこうした各方面の連携によって事業承継にまつわる相続、贈与などの問題や新規事業の開始、もしくは事業の廃止などの大きな動きが伴う事業活動が活発化するに違いないと予測しています。即ち、ビジネスチャンスがありそうということですね。

事業承継税制

事業承継税制についてもこれらの動きと連動して変化があります。代替わりを集中的に進めるための対応として事業承継を進める際の負担がより軽減される内容です。

現行の事業承継税制は以下の通りです。

  • 贈与・相続後5年間雇用を8割維持し、その後も株式保有を維持する場合
  • 総株式の3分の2について
  • 贈与時100%、相続時80%の納税猶予

これはこれでありがたい制度ではあったのですが、非常に使いにくいという声があったのも確かです。そこで事業承継税制を抜本的に拡充するため、今年度から事業承継税制の特例が創設されました。(注:既存制度を改正したのではなく、新たに創設されました)

事業承継税制の特例には以下の要素があります。

  • 税制適用の入口要件を緩和することで、事業承継に係る負担を最小化する
  • 税制適用後のリスクを軽減することで、将来不安を軽減し税制を利用しやすくする

改正の背景としては中小企業では高齢化が進んでおり、今後10年間で245万人以上の経営者が70歳(平均引退年齢)を超えるにもかかわらず、半数以上が事業承継の準備がされていないのが現状で、今後の中小企業の廃業増加により地域経済に深刻な影響を与える恐れがあるため、事業承継税制の見直しが要望されていた事情があります。

具体的な内容は以下の通りです。

  1. 事業承継の際の贈与税・相続税の納税を猶予する「事業承継税制」を今後5年以内に特例承継計画を提出し、10年以内に実際に承継を行う者を対象とし、抜本的に拡充。
  2. (1)対象株式数・猶予割合の拡大 (2)対象者の拡大 (3)雇用案件の弾力化 (4)新たな減免制度の創設等を行う。

より具体的な細かい内容につきましては本項では省略しますが、事業承継に係る金銭的負担を軽減(=事業承継に関わる納税額が大幅に減少)するわけで、国としても事業承継問題に本気で取組むという姿勢が見られますね。税制については先のことを予測するのは非常に難しいのですが、今こそ事業承継を進めるいいタイミングであることは確かではないでしょうか。

事業承継を検討している方はお早めに

以上、国が本腰を入れて事業承継の取組を促進する動きを見せていることをご紹介しました。それぞれについて更に詳しい内容は後日改めてご紹介できればと思います。

最後になりますが、現在整備されている事業承継にまつわる動きが永続するとは限りません。いずれにせよ事業承継には3年以上の期間を想定することが望ましい以上、事業承継を検討している事業者は今年度以降から徐々に準備を進めて国の施策を活用するのが経済的にも効率的にも良いと考えます。

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コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180226141801j:plain涼宮 ぷらち
大学卒業後にIT専門量販店へ就職。30代で社会人向資格専門学校に転職し、運営と公務員受験講座講師を担当。40代を目前に「本当に必要とされる場所で働きたい」と考えた結果、最初にスカウトされた経営コンサルタント会社に勤務。中小企業様の経営・金融・助成金制度・新事業等に関する支援を行う。