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ドライブレコーダー、需要急上昇の実態と問題点

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ドライブレコーダーを装填するクルマが、昨年の「あおり運転」事故以降、急激に、しかも大幅に増加中だ。あの追突事故は実は“あおり”から発生したという事実が、“防犯用カメラ”としての効用を重視しはじめた結果といえよう。販売台数はついに前年比4割増で100万台を突破した。その実情と今後の課題を追ってみた。

実は単なる追突が原因でなかったワゴン車の夫婦死亡事故

ドライブレコーダーの効用が、一般の人たちにはっきりと認識されたのは、2017年6月に発生した東名高速道路の追突事故がきっかけだった。ワゴン車を運転していた夫婦が後方から来たトラックに追突されたために死亡した事故だった。

発生直後は、よくあるケースの、追い越し車線に止まっていたワゴン車へのトラックの追突事故とみられていたが、ワゴン車に同乗していた娘の証言から状況は一変した。執拗にワゴン車に嫌がらせを繰り返し、ワゴン車の進路を妨害、追い越し車線にムリヤリ止めさせていた乗用車の存在が浮上、それが事故の原因につながったことが判明したのだ。

真相を追求するため、その後警察は事故当時に周辺を走行していた300台近くの車を割り出し、そのドライブレコーダーのデータを収集、証拠を固めた結果、10月になって、“あおり運転”の本人を過失運転致死傷の疑いで逮捕している。

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“あおり運転”確定後の10月販売台数は2.6倍に

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(※GfKジャパン調べ)

ドライブレコーダーの歴史はまだ浅い。一般のドライバーの間で認知されはじめたのも2012年ごろ以降で、クルマの全体総数からみてもまだ微々たる販売台数だったが、昨年(2017年)には前年比38%増、109万台とついに100万台の大台を突破、にわかに注目を浴びるようになった(販売台数推移グラフ参照)。

GfKジャパン(東京・中野区)が全国のカー用品量販店、家電量販店、ネット通販などの販売実績をまとめた調査(自動車ディーラーは含めず)によると、全体の傾向としては、ドライブレコーダー認知度が上昇するにつれ市場は拡大を続けているが、とくに上述の昨2017年のあおり運転を発端として10月中旬以降、販売が急伸したという。

月別の販売台数でみる限り、2017年の1~9月(第3四半期)は前年同期比9%の増加にとどまっていたものが、10月は同2.6倍、11月は2.4倍、12月も1.7倍と、それまでの経過とは打って変わった増勢となったのも特徴と挙げている。

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装着率は乗用車9.6%、タクシーは79%

メーカー実績(出荷)については、㈳電子情報技術産業協会(JEITA)および㈳ドライブレコーダー協議会(JDRC)が2016年度より四半期ごとの数字を共同発表しており、当年度の出荷実績は145万6,829台。むろん第1四半期(4~6月)から第4四半期(1~3月)にかけては右肩上がりの推移としている。

注目されるのは、「あおり運転」事故死による10月以降、つまり昨17年度の第3四半期(10~12月)の実績、85万7,991台だ。上半期(4~9月)が84万8,252台と比べても、第3四半期の3か月だけで、半年分の上半期の数字を上回るなど、「あおり運転」報道の影響が強く出ていると指摘できる。

ただ、ドライブレコーダーの普及率は用途によってかなり差がある。日本自動車連盟(JAF)グループのフィールド調査によると、乗用車への装着率は9.6%と1割に満たないが、タクシーなどの業務用車両では79%と高水準となっている。

もっとも東京都内タクシーの導入率は99.2%に対し、島根県では23.6%と地域によって大きく異なるのも特徴だ。人口の多い都道府県では、どうしても交通渋滞が発生しがちで、交通事故やクルマに係る犯罪(あおり運転、当たり屋など)がより多発する傾向が強いため、証拠残しの必要性も高く、おのずから装着率が高くなっている。

売れ筋も“あおり運転”報道で大きく変化

“あおり運転”事故の映像を見た人たちが、みな一様に少なからぬインパクトを受けた様子は、その後の売れ筋ランキングにも大きな影響を追っても容易に判断できる。
この事件の報道以前は、価格の安さ、明瞭で見やすい映像、機器のコンパクトさなどで特長のある商品が上位にランクされていたのだが、報道後はがらりと一変している。

まず前方だけでなく後方も撮影可能なモデル、また360度、全方位を記録できるモデルに関心が集まりだしたことだ。したがって際立ったのが、あおり運転報道後の10月以降の高価格ゾーンの伸びだ。12月には、全方位の撮影ができる2万円超の製品の売れ行きが全体に占める構成比率も26%と拡大したのが目立つ。

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(出典:カーナリズム)

機器のモデル数は重要の高まりを受けて、昨2017年はメーカー数も70社強、モデル数も600以上を数えている。価格としては前年比で1%上昇して平均1万4000円。ただ需要は高価格ゾーンと低価格ゾーンに二極化する傾向が強いのが特徴だ。2万円以上の高価格帯が前年比17~19%増となる一方、5000円以下の低価格帯も同11~14%増と拡大した。

2人に1人以上が持った運転中の“怖い経験”

JAFが2016年に約6万5000名の自動車ユーザーに実施した“交通マナー・アンケート”によると「無理に割り込みをする車が多い」との設問には、63.2%のユーザーが“多い”と回答、「普段の運転中に、後方から他のドライバーにあおられたことがあるか」には54.5%が“ある”と回答している。2人に1人以上が何かしら怖い経験をしていることになる。

あおり運転報道以降、「ロード・レージ」という外来語が“あおり運転”を表すフレーズとして定着化しつつあるのも、一般の関心の高さを物語るものといえよう。ロード・レイジ(あおり運転)を引き起こす動機については、多くの研究がなされているが、通常は温厚なのに、運転中は人格が一変してしまう人もいるなどと指摘する専門家もいる。

車は自分が守られている特定の空間、との思いから、気が大きくなる心理傾向がある。そのために自分の思い通りにならない事象に遭うと、それが些細なことであっても、怒りの感情が表れやすいもの、という。その点“城づくり”のため、多くのステッカーや装飾品を施している車のドライバーは、ロード・レージを起こしやすい傾向が強いともいわれている。

“あおり運転”抑止、事故確定の時間・費用削減のメリット

ドライブレコーダーは、乗車している最中の状況を隈なく映像で記録することにあるため、ドライバー自身が感情をコントロールし、安全運転を意識するようになる点が何といっても、最大の効用といえよう。交通事故の減少効果が期待されることだ。

さらにプラスされる最大の効果は、これまで「ロード・レージ」を起こしがちなドライバーに対する大きな抑止力になる点にある。ドライブレコーダーが普及するにつれ、ますますその抑制効果は高まってくるわけで、今まで実際は頻発していたあおり運転も、大幅に減少することが推察される。

もう1つの効用は、万一事故が発生した場合、事故の詳細確定、保険金算出にかかる時間が短縮できることだ。これまでは事故調査やその後の裁判のコストなどで「年間7兆円に上る」(交通事故鑑識研究所調べ)という膨大な時間と費用がかかっていたものが、大幅に削減される効果は大きいものがある。

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まだ事実上ないデータ活用マニュアル

国土交通省では、軽井沢スキーバス転落事故(2016年1月、死者16名・負傷者26名)を受け、同年11月にすべての貸切バスにドライブレコーダーの設置を義務付ける告示をしている。それに伴って本体・記録媒体(メモリーカードなど)に最大2万円、事務所の読取装置(分析ソフト)などに最大3万円の補助金を付ける制度をスタートさせた。

ただ、まだ課題は多い。ドライブレコーダーを搭載しても、取得したデータをもとにドライバーに対し安全運行など適切な指導を行う標準化された活用マニュアルが、まだ事実上ないことだ。それより問題は、大量の取得データの解析に係る業務量が煩雑なため、活用しないまま放置されることが予想されることだ。国交省告示はそこまで義務付けていない。

それにドライブレコーダーにドライバーが馴致してくると、当初の緊張感が薄れ、事故への低減効果が期待できなくなる恐れもあることだ。国土省は、収集・蓄積した記録データの詳しい検証、また教育資料としての継続活用などを奨励しているが、それはバス会社に対してだけであり、しかも強制力をもっていない。

またタクシー・ハイヤーへの導入率は79%と高いが、やはり安全教育資料としての活用まで踏み込んで徹底を期すにはどうするか、が今後の課題として残されよう。さらに、まだ1割に満たない乗用車への装填をどのように進めていくか、だ。とはいえドライブレコーダー設置がこれだけ大きく前進した事実は、率直に喜ぶべき現象と認めたい。

news.yahoo.co.jp

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。