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“かぼちゃの馬車”を暴走させた背景に何があったのか──スルガ銀行の不正融資事件の真相に迫る

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タレントのベッキーをCMに起用、「敷金・礼金など要りません」とうたい文句に、女性専用のシェアハウス(注)「かぼちゃの馬車」を中心に、首都圏で約900棟を展開していたスマートデイズが破綻した。
(注)リビングや台所、浴室などを共有し各住人の個室をプライベート空間とする共同生活のスタイルを実現した住居

個人投資家に購入させたシェアハウスを一括で借り上げ、入居状況にかかわらず家賃を保証するとの触れ込みで集めたオーナーは700名に及ぶが、この計画にスルガ銀行が不正融資で絡んでいたことが発覚、金融庁を巻き込む不祥事となっている。
その背景と真相を追ってみる。

入居者の低迷で坂道を転げ落ちていったスマートデイズ

「かぼちゃの馬車」──。シンデレラ物語に登場する馬車。ファンタジックな夢を見せるような、いかにも女性向け専用シェアハウスにはぴったりのネーミングを使って入居者を集め、2014年以降、拡大に次ぐ拡大で急成長を遂げていったスマートデイズ。

セミナー等を通じて、シェアハウスオーナーに関心を持つサラリーマンたちに、スルガ銀行での融資を勧め、エネルギッシュにオーナーを確保していったスマートデイズだったが、次第に入居者が低迷、水道光熱費も払えず滞る事態に追い込まれるようになっていった。

昨年10月、オーナーたちへの家賃の振り込みが約束の金額を下回りはじめ、今年に入り完全に支払いがストップしたのだ。そして4/9、ついに東京地裁に民事再生手続き開始を申し立て、その破綻が明らかになった。

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通帳コピーの改ざん、貯蓄や所得の水増ししたスルガ銀行

焦点は、シェアハウス「かぼちゃの馬車」に投資していたオーナーの大半が、スルガ銀行(本店・静岡県沼津市)からの融資を受けており、それも審査を容易にするため銀行側が通帳内容を改ざんしたり、売買代金を水増しした契約書を作成したりしていた事実が発覚した点にあった。

老後への不安を抱えたサラリーマンに巧みにアプローチする材料(営業ツール)として、スマートデイズが多用したのが「自己資金なくても大丈夫ですよ」というフレーズだった。常識的に考えても年収数百万円の会社員が、1棟が1億円もする物件を購入することなど不可能のはずだが、それを可能にしたのが、スルガ銀行の融資だったのだ。

「スルガ銀行が融資をつけてくれるくらいだから、よほど将来性のある案件なのだろう」との判断基準をもったオーナーも中にはいたのではないかと推察される。だが、その代償はあまりに大きすぎた。莫大なローン返済が重くのしかかってくるからだ。

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「かぼちゃの馬車」スキームの全面撤廃を望むオーナー側

スマートデイズが民事再生申し立てを主張するのは、倒産させずに再建をめざしたいという意思表示である。破綻当時ですでに340人ほどの入居者がおり、「水道・ガス・電気などの支払いができなくなる状態は好ましくないので、民事再生の方を選びたい」(スマートデイズ側)との理由を、怒号飛び交う4/12開催のオーナー向け説明会で述べている。

もちろんオーナーたちは承服せず、即座に破産させ、厳正な管財人のもと真相解明に着手すべきだと主張する一方、「かぼちゃの馬車」投資の“共犯”でもあるスルガ銀行に怒りの矛先を向けている。民事再生手続きでは、コトの次第(カネの流れ)がウヤムヤにされ、スルガ銀行を究明する道が閉ざされる懸念があるからだ。

集約すると、オーナーたちの狙いはこの「かぼちゃの馬車」投資そのものの白紙撤回にある。まずその手始めにスマートデイズを民事再生ではなく破産に追い込むことにあり、次のステップでスルガ銀行との対決によって、当スキームの全面撤廃(ローン負担の解除、もしくは大幅軽減)をめざすと推察される。

高収益の要因は奏功した個人向けローンの拡大に

ところで、スルガ銀行とはどんな銀行なのだろうか。過去の業績や業界での位置づけなどをみていくと、今回のスマートデイズとの関連が表沙汰にならなかった2017年3月期までの過去5年間の業績推移は、経常収益(一般企業の売上高に相当)、純利益ともに一貫して毎年、増収増益路線をたどっており「地銀の優等生」とも称されていた。

東京商工リサーチ調査によると、対象銀行114社の総資金利ザヤ(注)の平均0.17%に対して、スルガ銀行のそれは1.47%と、2位の0.53%を離しての断トツのトップだった(2016年3月期決算ベース)。ちなみに前期(18年3月期)のそれも1.72%と高い。高収益を継続する要因は、ここに見出される。

一般の地銀がマイナス金利政策の影響でじりじりと低迷基調を続ける中にあって、カードローン、住宅ローンなど、高収益の個人向け商品に特化した方策が功を奏したものだ。
この高収益を背景に、ちなみにスルガ銀行行員の平均年収は800万円(会社四季報・2018年夏号)と、地銀中トップの水準にある。
(注)運用利回りと調達資金の利回りの差。金融機関の収益性を表す指標ともいわれる

迅速で柔軟な審査はリスクを孕む「ずさんさ」と紙一重

それだけではない。業績好調の要因に挙げられるのは、①決定・実行までの圧倒的スピード、さらに②他行では貸し出しに尻込みする“築古”の物件にも積極的に貸し出す柔軟姿勢、にある。事実、スピードでは群を抜き、他行で決定まで数週間かかる物件も、スルガ銀行では早ければ数日間で融資を決定していた。

即決即断の体質、大胆な行動体系は、5代続いている岡野家による同族経営の伝統的な特性、と評する向きもある。ちなみに2016年6月に岡野光喜氏は社長職を米山明広氏に譲り、自らは会長職に転じた形となったが、依然としてCEO(最高経営責任者)を兼任しており、やはり社内の隅々まで隠然たる力は染み渡っているというのがもっぱらの評である。

いきおい増収増益の持続を求める営業サイドへのプレッシャーが強まっていた分、このようなスピーディな審査やフレキシビリティが「ずさんさ」につながり、今回のような不祥事を引き起こした要因につながったと推察されるのだ。“築古”OKなどへの前傾姿勢も、裏返せばリスクを呼び込んだ要因として挙げられよう。

「行員は、むしろ販売側に騙された被害者だ」(スルガ銀行)

金融庁は、スルガ銀行に対して報告徴求命令を出し、実態の解明、報告を命じた(3/16付け)。さらに同行役員が不正行為に関与していた可能性があるとして、同行への緊急立ち入り調査を開始している。

スルガ銀行ではすでに、いわゆる「とかげの尻尾切り」で自衛手段に出ている。融資に関与した幹部が相次ぎ退職する(退職させる?)措置を行ったのだ。真相調査などハナから関わる気がないようである。これに対しても、金融庁から「検査忌避の可能性がある」と異例の警告を受ける始末だ。

ともかく、まだ全容が見えてない。スルガ銀行の不正への関与はどの程度だったのか。これまで明らかになったのは、相当数の行員が通帳や契約書等の改ざんに関わり、“不正を認識していた”杜撰な審査があったという事実だが、スルガ銀行サイドでは「行員は、むしろ販売側に騙された被害者だ」と、強弁している。

被害者のオーナーは置き去りのままの幕引きに終わる公算も

いずれにしても、今回の不祥事については、融資に至る経緯、スマートデイズとスルガ銀行との共謀の程度、また経営の上層部は実態をどの程度把握していたか。さらにオーナーたちの資産や投資経験・知識の程度、スルガ銀行側の売り込み手法や融資審査方法などに至るまで、多角的、かつ総合的な慎重な精査が求められる。

今後は外部弁護士らによる第三者委員会がさらなる調査に向かうことになるが、全容解明には時間がかかりそうである。金融庁も立ち入り検査も実施し、究明に乗り出しているが、スルガ銀行の高収益経営を「地銀の新ビジネスモデル」(森信親長官)と絶賛していた経緯もあるだけに、責任は重い。

スルガ銀行の経営責任はどうなるか。実態調査、法的検証の結果がどう出てくるかにかかってくるが、焦点は一部支店だけの関与か、組織ぐるみだったのかにある。だが、関与した支店は10店余に及んでおり、事実上は“組織ぐるみ”の行為とみざるを得ないのだが、決着は道義的責任はともかくとして、法的な“貸し手責任”を問われることは免れよう。

なおスルガ銀行のトップ人事は、金融庁も株主もやはりカリスマ的存在の岡野氏には残ってほしいと考えるだろうから、米山社長に今回の責任を取らせ、岡野会長はCEOから外れて経営陣には残るというシナリオに落ち着くのでは、とみたい。いずれにせよ被害者のオーナーたちが置き去りにされたままの幕引き、となる懸念が強い。

www.itmedia.co.jp

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。