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まだ出口の見えない“非正規社員”エレジー ──「雇い止め」(無期転換逃れ)の実態と課題

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アルバイトやパート、契約社員、派遣社員などのいわゆる“非正規社員”は雇用期間が5年を超えると、期間の定めのない「無期雇用」に転換できるという制度(改正労働契約法18条)が、いよいよこの4月からスタートした。

だが、この無期転換ルールへの切り替えを機に、期限前の「雇い止め」通告などのケースが多発中だ。また無期転換の形は整えたものの処遇・条件はそのまま、あるいは勤務地・時間・担当職務など、改正前の正規社員とは異なる内容だったりする。まだ非正規社員の安定雇用の道は遠い印象が強い。混乱する現場の実態を追ってみた。

有期契約からの「無期転換」対象者は約450万人

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アルバイトやパート、契約社員、派遣社員などのいわゆる“非正規社員”は、総務省の労働力調査によると今年3月末現在、全雇用者5540万人(役職除く)のうち2117万人と、率にして38.2%。つまり雇用者5人のうち約2人が非正規社員である。

非正規社員の雇用安定を図るため定められたのが、2013年4月に施行された改正労働契約法18条だった。5年を経過してやっと今年4月から運用されはじめたもので、その主たる内容は、企業側と交わしている“有期契約”を「無期転換」にすることである。転換対象者はざっと450万人と推計されている。

労働市場への影響の大きさから、「2018年問題」とも呼ばれていた。雇用の安定化という期待が進む中、運用がスタートする今春にかけ、受け入れる企業・団体サイドの対応は様々の形を取ったが、ともかく無期転換に対して何らかの答えを出しているのが、特徴といえる。

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様々の形での「無期転換」ルールを実施した企業ケース

まずはスムーズに無期転換を受け入れた数社の事例を紹介する。
三井住友海上火災保険㈱(東京・千代田区)では本人希望、上司推薦で、1年更新の有期
雇用の「スタッフ社員」(対象5000人)から無期雇用の「アソシエイト社員(専任職)」「地域社員(総合職)」への転換ができることになった。2016年からスタートを切っている。

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㈱滋賀銀行(滋賀県大津市)では、2015年7月より有期社員(嘱託・パート)の雇用契約が更新より通算5年以上となったとき、申し込みがあれば、無期転換できる制度に改定した。また日本生命保険相互㈱(大阪市)では、有期雇用のスタッフについて、2~5年勤務後、新設の無期雇用職種に採用することにしている。

東都生活協同組合(東京・世田谷区)では勤続5年超の従業員をすべて無期転換することをすでに2014年5月に公表。また、J・フロントリテイリング㈱(東京・中央区)は昨年6月からパートナー(有期の非正規社員)を1年以上の契約時に、原則的に専任社員(無期)に転換することを決めている。

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無期雇用でも“限定正社員”化が半数以上に

特徴として指摘されるのが、今回、無期転換ルールを導入したケースで半数以上を占めたのが、無期雇用にするにしても、勤務地域や担当職務区分などが限定される、いわゆる“限定正社員”であることだ。正社員職務を分化させ、より専念化させることで、実績の向上を図ろうとする趣旨がみられる。

つまり、これまで従業員には無期雇用は正規社員、有期雇用は非正規社員という2区分だったものが、正社員について地域や担当内容を多様化させている対応が目立つことだ。正社員であっても処遇条件に差がつくケースも想定されるのが懸念材料でもある。

たとえば上述の三井海上火災の場合、アソシエイト社員は勤務地、担当職務ともに限定されることが条件。ただし月給制、賞与、退職金、有休制度、また60歳定年後の再雇用制度も正社員並みの適用となるので、問題ないが、無期転換を表明、実施した企業の中でも、正規社員並みの処遇をしていないところもあり、今後に問題のタネを残している。

頻発する無期転換逃れの「雇い止め」宣告

研究機関や経営者団体の調査でも、6割前後の企業が無期転換に前向きな姿勢を示しているものの、中には無期転換逃れのための“雇い止め”が発生するケースも多発している。最も多かったのが、無期転換ルールがスタートする前に、会社・団体側から宣告される例だ。

NPO法人派遣労働ネットワークと全国ユニオンが1月下旬に開設したホットラインには、2日間で109件もの相談が寄せられたが、そのうちほぼ半数が“雇い止め”を通告されたものだったという。

その通告内容も、経営悪化といった具体的な理由を挙げているケースはほとんどなく、むしろ無期転換ルールを回避するための意図がありありと見えるのが大部分ということだ。中には正社員と同様の仕事を20年も担ってきたのに、突然“雇い止め”を宣告された事務職パートタイマーのケースもある(出所:週刊「東洋経済」4/14号)。

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契約上限5年の就業規則をタテに合法性を主張する国立大も

すでに、改正労働契約法が施行された2013年前後から、企業側は契約期限を5年以内に変更したり、1年ごとの更新を最大5回に改めたり、露骨な無期転換逃れを意識した事例が増加してきた。地域の労働局は事実関係を調査した上で、指導や啓発を行っているが、後を絶たないのが実態である。

たとえば国立大学でも、無期転換逃れの傾向が目立つ。西日本新聞によると、九州にある10の国立大では3月末の時点だけで約890人が契約満了となるが、そのうち少なくとも410人が継続雇用されないことが明らかになったという。

無期転換の権利を得る直前に“雇い止め”になるケースだ。脱法行為だとの批判に対して、「契約上限を5年と定めた当校の就業規則は、2013年の改正労働契約法の施行以前のことだ」と合法性を主張する大学もある。もっとも本音は、国が交付する運営費が毎年減少している実情を反映したもののようだが…。

企業が従来どおり無期雇用派遣を望むと2~3割増しの料金に

もう1つの18年問題、「派遣3年ルール」は、派遣社員を同じ職場に派遣できる期間を3年に統一する改定だ。期間が終了した派遣社員には、①別の派遣先を紹介、②派遣先に直接雇用を促す、③派遣会社が無期転換する──のいずれかの措置をすることが派遣会社に義務付けられる。15年9月施行から3年を迎えこの10月から本格運用される。

この影響がとくに大きいのは事務系の派遣社員たちである。とくに26業務(秘書・開発・機械設定操作など)はこれまで期間制限がなく、同じ職場に長期間派遣されてきたケースがほとんど。だから「今回の改正がなければ無期限で働くことが可能だったのに…」と恨み節さえ一部から聞こえるようになった。

派遣先の企業では、その会社での経験が豊富な派遣社員を雇用し続けたい意向をもつケースが多いのだが、従来どおり派遣会社からの無期雇用派遣を望むとなると、従来の派遣料金の2~3割増しの値上げが要請されるなど、現に難しい駆け引きが発生している。

待遇が正社員と比べて調整される「限定正社員」という方式も

現在の雇用環境はリーマンショック後の雇用不安時と異なり、雇用増と人手不足が顕著。昨年の完全失業率は23年ぶりに3%を割り、ついにこの5月2.2%(前月比0.3㌽)、有効求人倍率も1.60倍(同0.01㌽上昇)と34年ぶりの高水準だ。流通や外食など人材確保が難しい業種では、前倒しで正社員の動きも目立つようになった。

こんな好環境もあって、ここにきてほとんどの企業では何らかの形で“無期転換”の方針を固めたものの、具体的な受け入れ態勢となると、手つかずの状態というのが大半を占める。転換後の処遇もバラバラで、無期転換はするが労働条件は変えない、あるいは勤務時間・勤務地・担当内容などを限定する──など、立法の趣旨とそぐわないやり方も多い。

たとえば自宅から通えるエリア限定の“限定正社員”の場合、そういったプレミアムがつく分、待遇が本来の正社員と比べて調整されることが予想される。ともかく、無期に切り替われば「いつクビになるか分からない」不安からは解放されるが、無期転換が、イコール正社員並みの待遇・条件の獲得にはつながるものではないことが悩ましいところである。

今後も懸念される多彩な実質上の「雇い止め」拡大

そして今、無期転換で最大の焦点となっているのは、やはり「雇い止め」だ。各都道府県労働局に寄せられる相談も、改定労働契約法が施行になって後になっても、依然として断トツに多い。今後も企業側のあの手この手の「雇い止め」が拡大する懸念は大きい。

問題は、労働局には企業に対し係争事項の調査、指導ができる程度で、法施行前の雇い止めには強制力がない点だ。といって施行後の無期転換でも、企業側ではありとあらゆる“法に触れない” 骨抜き施策を多彩に展開している。
その意味で今回の無期転換では、厚生労働省のめざす本質的な“同一労働・同一賃金”実現には、とても届きそうにないとみる。残念ながら肝心の“非正規社員”は今回も実質、置いてきぼりになった印象が強い。

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法的強制力を伴った“非正規”比率の設定、また最低賃金引き上げの断行へ

ここまできたら強硬手段が必要となろう。「非正規社員」が減少しない構造の是正には、業種によって企業従業員の正規:非正規(あるいは無期転換:有期社員)の比率を法制化するといった思い切った強制手段を講ずべきと思われる。たとえば現状の正規:非正規の比率2:3をまず3:2に、上限を設定するのだ。

もう1つは最低賃金の大幅な引き上げである。日本の764円は、フランスの1311円、イギリスの1055円など先進国に比べて低すぎるし、格差社会の米国の818円との比較でも下回る水準だ。とくにパートの時間給は先進国中ワーストワン。この大幅な是正、それももちろん法定強制力をもっての断行が求められる。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。