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欧米の利上げ加速、取り残される日本の金融政策

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欧米が相次いで金融政策の正常化に向かう中、日本銀行はいまだに2%というインフレ(物価上昇率)目標の実現の見通しがつかないため、これまで通り大規模な金融緩和策の維持を決定した。これによって日本だけが取り残される構図が鮮明化している。

世界の潮流に逆らって日本が孤立化すると、次の深刻な金融ショックなどで不意打ちを受けたとき、決定的なダメージを一身に受けてしまうリスクがある。好調な企業業績に寄りかかり、個人消費の回復によるデフレ脱却にいつまでも固執するのではなく、この辺で、日銀は危機意識をもって政策修正の議論を始める必要が出てきたようだ。

“金融緩和”継続決定の理由は「(日本の)一種のデフレマインド」

「物価がなかなか上昇してこない。一種のデフレマインドが残っており、欧米にはない要素といえる」と、日本銀行の黒田東彦総裁は、物価上昇が鈍く金融緩和策の継続を決定した理由について、記者会見(6/15)でこのように説明した。

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www.fujitsu.com

バブルがはじけて以来、2013年まで15年間に及んだ景気低迷とデフレのために、日本の企業や消費者に根付いてしまった警戒心に似た思考法を、このように“一種のデフレマインド”と表現したものといえよう。事実、4月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は0.7%だった。端的にいうと、消費者が委縮してモノを買わなくなったのだ。

2008年のリーマンショックの後、欧米や日本など先進国は景気を押し上げるため、金融緩和策を争うように積極的に実施してきた。日本の場合も黒田総裁の就任(2013年)後、国債を買い入れ大量のお金を市場に注ぎ込むという、思い切った量的金融緩和に移行した結果、円安となり、株価は上昇し、景気も好転していった。

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「黒田バズーカ砲」で企業業績は過去最高水準、株価大幅に上昇

もっとも日本の景気回復は、海外のそれと連動しての効果という要素もあったのだが、白川前総裁当時の小出しの政策と異なり、16年におけるマイナス金利の大胆な導入などで、アベノミクスを支える原動力となったことは間違いない。メディアは、「黒田バズーカ砲」と呼んで、この手法をさかんに囃した。

この5年間、景気はたしかに上向いた。円安の進行で、輸出産業を中心に過去最高水準の業績を達成する企業が続出する中、今年2月には日経平均株価も26年ぶりに2万4000円台をつけるなど、まずは合格点が付けられる成果だった。黒田総裁が3月に再任されたのも、そんな経過が評価されたことが大きい。

だが、肝心のデフレ脱却への道は険しく、2%の物価上昇目標の達成はまだ遠い。といって大規模緩和が長期化したことで、日銀の打つ手の選択肢は狭まっており、これ以上の緩和策はきわめて限定されてきているのも事実だ。

年入りして以降、次々と金融緩和の正常化に踏み切る欧米先進国

日銀が“インフレ待ち”でモタモタしている間に、欧米先進国はとくに年入りして以降、次々と金融緩和見直しに入ってきた。金融緩和の正常化を一般的に「出口戦略」というが、すでに着々と戦略の実行段階に入ったのに対して、日銀は依然として粘り強く金融緩和を続けざるを得ない立場に追い込まれているのだ。

まず欧州中央銀行(ECB)は10月から国債などの購入規模をさらに月150億ユーロに半減させ、年内に打ち切る方針だ。「物価上昇率は、中期的に目標(2%弱)に向かっている」(ドラギ総裁)と記者会見で明言、先行きに自信を持っているようだ。6/15ラトビヤで開催されたECB理事会(注)では、すべて量的緩和策の年内終了を決定している。
(注)ユーロ圏の統一的な金融政策を担う欧州中央銀行の最高意思決定機関のこと。ECBの首脳とユーロ圏の各国中銀総裁の計25名の構成。

米国も連邦準備制度理事会(FRB)は、3月に続いて今年2回目の利上げ(0.25%)実施に踏み切った。しかも今年の利上げはさらに2回、トータルで4回に加速するとの見通しも発表した。FRBのパウエル議長は記者会見の席上、「金利を正常な水準に戻すことが、家計や企業の繁栄に導く最善の道と判断した」と説明している。

jp.reuters.com

正常化をせず放置すると景気後退で決定的ダメージを被ることも

だが、日銀は一向に動こうとしない。16年2月に銀行からの預かり金金利を「マイナス0.1%」(年利)とするいわゆる“マイナス金利”政策を実施、同年9月からは長期金利を0%程度に誘導する政策も継続、“年間約80兆円増をメド”に長期国債を買い入れる量的緩和策の継続も決めてきた経過があるが、ここにきても修正にはピクリとも動いていない。

日銀がいま最も恐れているのは、物価上昇率が2%に届く前に、景気回復が腰折れすることにある。米中間の貿易摩擦も深刻化(注)しており、貿易活動が停滞すれば、日本経済への打撃も大きい。それに19年10月に予定される消費税の引上げ(8%→10%)も懸念材料である。14年の消費増税では景気回復に少なからぬ影響を及ぼしたからだ。
(注)米国の貿易赤字の削減に加え、先端産業で経済覇権をめざす中国への牽制を狙ってトランプが仕掛けたが、中国も同規模の報復関税を発動して対抗する構え。

世界の流れから日本が取り残されることは、今後のリスクにつながるとの意見も続出しはじめた。景気後退に陥ったときに、景気を刺激する緩和策の余地が少ないと、決定的なダメージを被るという主張だ。欧米諸国は、今後景気が低迷してくれば、金融緩和策に戻ればよいが、日銀に緩和の余裕がすでになければ急速な円高を招く懸念も強い。

高齢化が進んだ国では金融緩和政策は効かない?

金融緩和政策は日本のように高齢化が進んだ国では効果がない、とする論者も多い。金融緩和で経済が拡大するのは、働く人の賃金が上がり消費が増えることを期待するからだが、金利収入がなくなり、年金が上がらない状況の中では消費は当然、抑制される。倹約を旨とする高齢者が多くなる中では、金融政策で日本経済が改善されるわけがないという主張だ。

問題は、消費者側に「この先、暮らしはどうなっていくのだろう」といった先の読めない不安が巣食ってしまったことにある。利息収入は全く期待できないので、増えるのは「タンス預金」ばかり。お金を使わない生活がすっかり定着してしまったことだ。

「デフレって悪いことなの。物価が安くなるのは大歓迎なのに…」。こんな質問も近所の主婦から受けることがある。見受けるところ、今どきの主婦に限らず若者に至るまで、ほとんどの消費者の金銭哲学は、当面は借金を減らし節約に徹して現預金を増やすことに目標を置いているようだ。日本全体が小さく縮こまってしまった印象だ。

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一般人の生活意識も企業理念もみな変化してしまった!

一般の人たちは賃上げに対しても、それほど期待していない。企業のホンネはコストのかからないパートや非正規社員をふんだんに使い、利益を上げる方向に血道を上げている事実を知っているからである。とくに中小企業では絶望的だ。ともかく今は日々の生活を詰めて防衛していくより仕方ないという考え方が、日本人のベースにあるとみたい。

最近になって、まさかとも思われる大企業の犯罪も目立ってきた。東芝や神戸鉄鋼所などで不正会計やデータ偽造が相次ぐのも、過去の経営手法の踏襲では、どこかでムリをしないと利益を上げられない時代となったのかも知れない。

日銀の異次元緩和では、これら日本人に染みついた意識変化や渋滞著しい企業特性を認めず、過去の経済原理に引きずられて意固地に展開している観がある。日本企業の収益が過去最高水準に達し、失業率も2月以降、2.5%で推移、まさに順調そのものなのに物価が伸びないのはなぜか、との根本的なところから、まず率直に見直す必要がありそうである。

早急に正常化を探る議論を始めるとき

日銀はじめ官庁エコノミストたちは「(インフレ)目標の達成には時間がかかるもの」とうそぶく。ここで錦の御旗を下げるわけにはいかない気持ちは理解できるものの、日本の出口対応が遅れれば遅れるほど傷口は広がる。かつて白川前総裁のとき、日本だけ金融緩和を実施しなかったことで、74円という超円高に見舞われた教訓もある。

やはり世界経済がグローバル化している現状からすれば、諸国の金融緩和政策と足並みを揃える必要があろう。日本だけの周回遅れによる副作用を考慮に入れる一方、次の金融危機ショックに備えるためにも、政策修正に動かなくてはならないだろう。物価目標に拘泥せず、正常化の道を探る議論を早急に始めるべきときがきている。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。