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果てしなき膨張を続ける巨獣・アマゾン ──日本上陸も18年目、圧倒的強さに翻弄される全業界

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毎年2ケタ増収を遂げ巨大化するeコマースのマンモス企業、アマゾン。日本事業(アマゾンジャパン)も上陸18年目を迎え、年商1.3兆円強と拡大した。

ECサイトをベースに出版、物流、小売り、ファッション……と、業界や分野の垣根を無視した“全方位”戦略による膨張で、じりじりと蚕食しつづけている。
その腕力の前に翻弄される日本の業界や企業の実態をここに追跡する。

レジ係が要らない「無人コンビニ」が出現!

アマゾンが“無人コンビニ”をついにオープン──。

このニュースは瞬く間に全世界に駆けめぐった。レジの要らない販売店の出現は、従来の小売業界の常識を一変させるからである。以前から複数の業界大手からリークされており、どこが先鞭をつけるかに注目が集まっていたものだ。それがアマゾンとは……。

1/22、この無人コンビニ「アマゾン・ゴー」は米シアトルに出現した。店舗の広さは約160㎡というから、日本の標準的なコンビニよりやや広い程度。外見からは際立った特徴があるわけではないが、むろん最大の焦点は、会計がすべて自動化されている点だ。

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小売業界の注目が集まるアマゾンの次の一手

事前にアマゾンのアプリをスマホにダウンロードしておくと、ゲートを通って入店が可能。店内で客が手に取った商品は自動的に“買い物カゴ”に収まり、瞬時に計算される。そのまま店を出れば、アマゾンのアカウントで課金されるわけである。

客が商品を手にしたかどうか、行動の一切は店内や商品には張り巡らされたセンサーとAI(人工知能)で認識されるから、商品をまた元に戻せば自動的に買い物カゴから削除される仕組みとなっている。レジという最も人手を必要とした業務が自動化されれば、コスト構造は根本的に見直されてくる。小売革命の先兵として位置付けられるものだ。

アマゾンは世界最大のネット通販企業として知られるが、ネット王者として巨大化を進める一方、この「無人コンビニ」をテコに、ネットとリアルの融合を一気に進める可能性も出てきた。アマゾンの繰り出す次の一手に小売業界の注目が集まっている。

アマゾングループ17年年商は3割増の約20兆円強

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まずアマゾンの業績を通じて概要からみていこう。
1995年に書籍販売サイトとして誕生したが、その後家電、玩具、衣料品、食料品など幅広いジャンルの商品の販売に次々と拡大する一方、世界15ヵ国でECサイトを展開、現在では100を超える物流センターを擁する世界的なリーディングカンパニーへと成長した。グループ従業員数は34万1400名(2016年12月現在)。

米アマゾンの2017年(1~12月)の連結売上げは前年比30.8%増の1778.7億ドル(円換算20兆円強)と、2016年の20.7%増を上回る高成長となった。One Click Retail社の分析調査によると、アマゾンの米国におけるネット通販の流通総額は、米国EC市場の44%を占め、全米小売市場の4%に当たると推定している。

3億点に及ぶ総合オンラインストアへと進化した日本事業

アマゾンジャパン設立は2000年。今年で18年目を迎え、取り扱い商品は書籍、DVD、CD、家電製品、車&バイク、ヘルス&ビューティ、食料品、ペット商品、ファッション、電子書籍、アマゾンデバイス等々、3億点に及ぶ国内最大級の総合オンラインストアへと進化を遂げている。

ジャスパー・チャン(Jasper Cheng)社長が進出したときからの基本戦略は、世界最大の“品揃え、最安価格、便利なサービス”の追求にあった。まだ日本業界がネット拡大戦略に試行錯誤を繰り返している間に、いち早く軌道に乗せたことが、日本での成功をかち得た要因となった。

アマゾンジャパン(日本事業)の2017年売上高は円ベースで前年比14.4%増の1兆3335億円(注)となった(アマゾン全体の売上げに対して日本事業が占める割合は6.7%)。過去5年間の推移を見ても毎年2ケタの増収率をキープしており、拡大基調は好調そのものだ。
(注)昨年の平均為替レート1ドル112円で換算。

とくにアマゾン日本事業が注力しているのは、物販のeコマース、デジタルコンテンツ、クラウドサービスの3領域である。その膨張ぶりは物流拠点の拡大に象徴的だ。17年末時点で、全国8都道府県で18ヵ所の物流センターが稼働している。15年末からは最短1時間で商品を届ける「プライム・ナウ」をスタート、5ヵ所がその専用拠点である。

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宅配料値上げの影響懸念も一層の個数増加で帳消しに

このアマゾンの膨張に“うれしい悲鳴”を上げたのは、ヤマト運輸はじめとする宅配業者のはずだったが、ここ1~2年の急ピッチの増加に、さすがのヤマトも音を上げる羽目となった。人手が追いつかないのだ。宅配ドライバーへの負担の拡大も是正勧告を受けた上に、残業代未払いも浮上、社会問題化していった。

ヤマトにとってアマゾンは年間に扱う約18億個のうち、2割の4億個近くに達する最大の顧客だ。宅配個数が著増するのは有難い話だが、人件費や外注費が想定以上に上昇、さすがにコスト的に限界に達した。昨秋、個人向け料金は平均で約15%アップ、法人向けもこの1月に平均6.8%の値上げに踏み切った。その後佐川急便、日本郵便も値上げに進んだ。

だが、値上げはしたが、宅配便の個数は一向に減少する気配はない。どうやら値上げをめぐる話題は、メディアが騒いだほどニュースにもならず沈静化したのも、結果とし依然、爆発的に伸びる一途の宅配個数によってすべての懸念が消されてしまったようだ。お互いウイン-ウインで決着となった。ただ、アマゾンの影響力の強さだけが残ったといえる。

惨敗した流通2強(セブン、イオン)のネット拡大戦略

アマゾンジャパンの日本での攻勢が成功した理由の1つとして挙げられるのは、既存の小売業界のネット拡大戦略の失敗にある。業界の雄、セブン&アイHDは「リアル店舗とネット通販の融合」をうたい文句に、グループの通販サイトを結集して「omni7(オムニセブン)」を立ち上げたが(15年11月)、目標1兆円に対し売上げは1000億円に満たなかった。

セブンの全国1万8000店、40万人に上る販売員が媒介となるのだから、1兆円達成も十分可能だ、との読みだったが、漠然と不特定多数の顧客へのアプローチしたこと、品揃えが不十分だったことなど、EC戦略は結果として空回りに終わってしまった。

ネット販売が不振のため、実店舗との相乗効果が出てこない。戦略は見直したがアプリの開発が遅延するといった具合で当分、視界不良が続きそうである。このセブンよりも後れを取っているのがイオングループである。

14年に公表した中期計画でもデジタルシフトの加速を強調したものの、いまだに成果の発表はない。ともかく流通2強のネット戦略は、総じてモタモタとしている印象ばかりである。これではアマゾンの一糸乱れぬ、緻密なネット体系にまともに対抗できるわけがない。

大手企業が続々採用に踏み切るAWSの威力

アマゾンのECサイト事業の中で、とくに注目されるのは法人向けのクラウド基盤サービス、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)だ。データセンターに構築されているリソースから、顧客が必要とするリソースを提供するサービスのことだが、このサービスを活用すると、高い技術料や資本力を持たなくとも、IoTビジネスに取り組みやすくなるなど利点が多い。

アマゾンが世界に先駆けてスタートを切ったのは2006年のこと。現在、世界で190ヵ国以上、数百万の顧客を抱える。すでに世界シェアは3割を超え、2位のマイクロソフトの3倍と突出している。

日本では09年にオフィスを構え、国内に設置したデータセンターを使ったサービスを11年から開始したものだが、すでに10万社以上の日本企業が、利用するほど本格化してきた。2013年前後からNTTドコモや日本通運など、大手企業による採用が増えだし、昨年初め三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)が採用、銀行業界に衝撃が走った。

メガバンクではITシステムに巨大な投資をしているが、AWS導入によって投資負担が減少するメリットはきわめて大きい。AWSでは、サーバー(情報処理機器)を自前で保有する必要がないため、初期投資が不要で、かつ電気代などの維持費もかからない。MUFGの場合、5年で100億円のコスト減を最低ラインに置くようだ。

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歴然となった日本IT企業の周回遅れ

ただアマゾン側からいえば、AWSのようなクラウド基盤サービスの場合、大規模なデータセンターの構築など、スケールが求められる分、利益率はそれほど高くない。それだけに、最終的に世界で勝ち組として残るのは数社ともいわれており、富士通、NECなど日本のITサービス大手は軒並み苦しい立ち位置に追い込まれることになろう。

政府はこの6月に開かれた成長戦略会議で、日本が世界で進行する“デジタル革命”の波に乗り遅れている危機感を表明、アマゾン、Google、アリババ、マイクロソフトなど一部の“プラットフォーマー”と呼ばれる企業に、雪だるま式にデータが集中化する「データ覇権主義」(独占・囲い込み)の傾向に警鐘を鳴らす。

ベンチャー企業ではクラウド利用が当たり前になり、AWSへの全面移行を進める大手企業が常套化してきた現状への危機感からだ。だが、既存の日本のIT企業には、これら巨大なプラットフォーマー企業群に伍していける力量(資本力・ノウハウ)は存在すべくもない。

また、日本のIT企業にこれまでの収益性の高いシステムを捨ててまで、より高いレベルの外来ソフトを置換できるかというと、使いこなしていけるスキルも踏み切る勇気も見当たらないのだ。すでに周回遅れは歴然たる事実、遅きに失した印象は否めない。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。