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苦戦強いられる百貨店業界、生き残りの条件

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長期低迷が続く百貨店業界。総売上高は最盛期の9.7兆円からついに5兆円台に縮小した。
やはり売上げの4割以上を占めている「衣料品」の衰退が最大の痛手となっている。


2017年度の大手の業績は、一服ムードとなっていた外国人観光客によるインバウンド需要が息を吹き返したのと、株高を背景にした高級品需要の高まりで、やっと前年並みを確保したものの、依然として長期低迷は歯止めがかかっていないのが実態だ。

生き残りの条件は多岐にわたる。まず仕入れや価格の見直しのための構造改革をどうするかだろう。また主力の衣料品やインテリアなどの嵩上げをどうしていくか。そして、急拡大するネット通販への対策が緊急を要する。

百貨店業界の売上高はピーク時の6割に

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www.jiji.com

かつては“ゆりかご”から“墓場”まで何でも揃っていた文字通りの百貨店だったが、1991年の業界総売上高9.7兆円でピークを打った以後は、市場規模が右肩下がりで縮小。
取り扱い商品も激減の一途をたどっている。昨2017年度は5兆9532億円、既存店ベースで前年比0.1%増となったが、前年比の増加は3年ぶり。やっとわずかのプラスとなった印象だ。

外人観光客によるインバウンド消費が戻り前年比46.3%増の2700億円強と過去最高を記録したのと、株高による資産効果で富裕層の購買が増加した点がプラス要因だが、一方で主力の婦人服、洋品は依然2.8%減と低迷が続いている(百貨店協会調べ)。

業界の大手を売上げ順に挙げると、最大手が三越伊勢丹HDで昨年度売上げは1兆2689億円(前年比1.2%増)、大丸・松坂屋を傘下に抱えるJフロントリテイリング(JFT)は1兆1389億円(同0.4%増)、高島屋が9496億円(同2.8%増)、エイチ・ツー・オーリテイリングが9219億円(同2.3%増)、セブン&アイHDが8522億円(同3.7%減)と続く。

日本百貨店協会 : 百貨店売上高

都市部に店舗のない地方百貨店に相次ぐ転廃業

前期の売上げの伸び(前年比)をみると大手5社ともにいずれも微増・微減の推移で、やはり根強いインバウンド需要がなければ、業績下落は避けられなかっただろうことが、容易に判断できる。

ただ、そのインバウンド需要にしても、取り込みやすいのは都市中心部に立地する店舗にほぼ限定される。10都市(札幌・仙台・東京・横浜・名古屋・大阪・神戸・広島・福岡)以外の地域では売上げの減少は依然歯止めがかかっていない。都市部に店舗を持たない地方の中小百貨店では閉店、転業が相次ぐ実態がある。

もともと百貨店は、研ぎ澄まされた感性で、流行のファッションや海外のライフスタイルをいち早くキャッチし提案することが“強み”となっていた。また、そのつど独自に企画される文化的なイベント(著名アーティストの展覧会、特産展、各種の催し等)の開催も、他のチャネルが決して真似できないオリジナリティのあるものだった。

その意味で、つねに時代の流行や文化の先端を走るという矜持をもっており、ブランドの強みもそこにあった。

ショップのコントロール能力に欠如する百貨店アパレル

しかし人気のテナントを集めたショッピングモールが郊外に増えたり、ユニクロ、ニトリなどの個性を持った専門店が台頭してきたこと、さらに加えて、消費者が自分で商品情報をネットで収集して購入するようになったために、その強みも急速に薄れていった。

とくに業界にとって決定的だったのは、収益の柱である衣料品の販売の不振だ。衣料品関連は、今でも依然として百貨店の総販売額の4割以上を占める、いわば屋台骨だが、小売店の中に占める百貨店業界の衣料品関連の売上げシェアはじりじり減少する一途にある。

衣料品のウエイトが減少していく原因の1つに挙げられるのは、百貨店アパレルが問屋業態であって、自社でショップを統轄・コントロールする能力に決定的に欠如している点にある。ユニクロ、無印食品、H&M、ZARAなどのグローバルSPA(製造小売)のように、商品企画から製造・小売りまで一貫して携わるビジネスモデルとは基本的に異なるのだ。

PB商品展開では「ナンバー・トゥエンティワン」(三越伊勢丹)の善戦ぐらい

もっともSPAシステムによる自主商品開発に、各百貨店も何回となく挑戦している。だが、なかなか成功を収めていない。三越伊勢丹、そごう、西武が先行したものの、せいぜい三越伊勢丹の「ナンバー・トゥエンティワン」が何とか善戦している程度で、他はほぼ壊滅状態である。

「ナンバー・トゥエンティワン」は婦人靴をメインにバッグ、帽子などを三越伊勢丹自らが企画・販売するプライベートブランド(PB)である。2015年から韓国の新世界百貨店への納入にこぎ着けたが、伸び悩んでいるのが実態。商品企画から製造・小売りまでの一貫商法というと、三越伊勢丹に限らず、やはり総じて百貨店には苦手と見受けられる。

というのも、SPAに取り組むには、まず産地の構造や素材、縫製などモノづくりの仕組みに精通しなければならないのだが、その能力に決定的に欠如しているからだ。生産から販売までのサプライチェーン(注)を構築する能力も、経営的な意欲もこの業界では、最初から持ち合わせていない。生産管理・商品企画(マーチャンダイジング)のノウハウもない。
(注)原材料・部品の調達から、製造、在庫管理、販売、配送までの製品に関する全体的な流れのこと。

百貨店に最適の方式は“セレクトショップ”商法

SPAビジネスが無理との前提に立つと、百貨店担当者が管理できるのは、セレクトショップが最も適した方向ではないか。セレクトショップとは、ブランドを特定せず、 独自のコンセプトで選んだ商品を陳列・販売する方法である。 複数ブランドの商品を取り扱うこととなり、担当者やバイヤーのセンスが、店舗の運営に重要な役割を果たす。

商品への選択眼、品揃えの面白さ、そして丁寧で専門的な接客サービスの展開によって、典型的な高級品市場での一翼を担うものとして、確実に今後も長く富裕層やハイセンスを持つユーザーに歓迎される分野である。これまでまさに伊勢丹新宿店が担っていた役割といえよう。このセレクトショップ方式の拡大こそ望まれる方向だ。

もっともこのセレクトショップ展開には自ずと限界がある。店舗数と売上げをコントロールし、必要に拡大してブランが、価値の減少を期してはならない。ただ、その辺の呼吸は“商品投入”時期でこれまで散々仕込まれてきた百貨店マンの最も得意とするお家芸であるはずで、心配はない。もう一度改めて「高級品業態」への脱皮をめざしてほしいものである。

評価できる原点回帰、ブランド商品の“自主編集”売場の展開

また三越伊勢丹は、中期経営計画に“百貨店本業の再構築”を強調、原点回帰をめざしているが、この行き方は実に本来の方向として歓迎される。化粧品や婦人服で、多種多様なブランド商品を販売員が提案、比較購買してもらう“自主編集”の売場や小型ショップを展開する。

化粧品の自主編集店「伊勢丹ミラー」の16店舗目を昨秋、広島県に出店したが、今年は東京・日比谷に大型店を出店した。また高島屋も、日本橋高島屋では本館に隣接する新館を建て替え中だが、19年春には自主編集売り場の「新・都市型ショッピングセンター」を開業する計画である。

大丸や松坂屋を運営するJ・フロントリテイリングは昨春、東京・銀座に開業した「GINZA SIX」に続き、11月に複合型商業施設「上野フロンティアタワー」をオープンした。ファッション、シネコン、オフィスが一体となった地上23階、地下2階、高さ117mの超高層ビルである。「百貨店にこだわらず新たな息吹を吹き込みたい」(山本良一社長)と意気軒高だ。

messe.nikkei.co.jp

最大のテーマは拡大一途の「ネット通販」への対抗策

ネット通販の発展は瞠目的だ。すでにアマゾン日本事業の2017年売上高は1兆3300億円強と、三越伊勢丹HD(1兆2689億円)を抜き去ってしまった。ネットでは触感が分かるほどに映像も工夫され、色やサイズのバリエーションも多様化し豊富になった。ユーザーはわざわざ店まで出向く手間も省ける時代になってきたのだ。

本来の百貨店の商いは、世界中から目利きのバイヤーがこれはと思う“名品”を買い付けてきて、「ウチでなければ買えませんよ」というので特化してきたものである。しかし、今やどこの百貨店も同じものを販売している。

同じようなモノなら、量販店やネット通販で買った方が安い。もう“目利き販売”の時代は過ぎ去った。拡大する一方のネット通販への対策は、緊急に設定しなければならないテーマである。この際、業界挙げて英知を結集し、早急な対抗手段を講ずる必要があるのではないか。

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コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。