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EV(電気自動車)時代の到来で一変する業界地図

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EV(電氣自動車)が近い将来、ガソリン車を駆逐することは、ほぼ紛れもない現実として語られるようになった。あと10年、との予測も一般化してきた。現にどこのモーターショーでも、すでに主役はEVに取って代わられ、EV一色となっている。

中国はEV化を絶好のチャンスと見据え、欧・米・日が主導する従来路線に切り込みを掛けてきている。欧米勢も日本メーカーでは日産が先駆したが、トヨタ、ホンダなどを含め大勢が後塵を拝し出遅れの感。EV化で業界地図は一変する公算が高まってきた。

業界挙げてEV化のテンポは速まる一途に

「いつ、ガソリン車を販売禁止にするか、その時期を検討しているところです」──。(注)
昨年9月、天津市で開かれた自動車フォーラムで、中国の政府高官が語った何気ないコメントが、出席していた関係者を凍りつかせた。“ついに中国もか”と会場は一瞬、シーンと静まり返った。

というのも、英仏両政府が昨年7月「2040年にもガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する」との共同宣言を出し、業界に波紋を広げていた矢先だったからである。
(注)中国は地球温暖化対策としてCO2排出量を2030年までに60~65%削減(05年比)を期し、その一環としてガソリン車からEV車への転換にも鋭意注力中である。

2017年の中国市場での新車販売台数は2888万台(前年比3%増)と9年連続の世界一を記録、EVの販売台数でも政府が補助金政策でバックアップしたこともあって25万台強、世界シェア55.1%(2016年実績 国際エネルギー機関<IEA>調べ)と一頭地を抜いている。
こんな世界最大の自動車消費国、中国だけに、その一挙手一投足に各国メーカーが神経を尖らすのも無理からぬことだが、ともあれ業界挙げてのEV化のテンポは速まる一途にある。

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中国がEV化に躍起になる真意は?

中国は昨秋、国内メーカーにはEVなどの生産を、一定比率で義務付けるNEV(EVを含む新エネルギー車)規制を2019年から導入すると発表。補助金と規制によって、新しいマーケットづくりを急ぐ。2025年頃までには年間販売台数の2割をNEVにしようとする計画だ。

EV化の推進に躍起になる中国の真意には、2つの理由がある。
1つはパリ協定でのCO2削減計画の一環としてだ。もう中国は世界の大国。大量の大気汚染国家としての汚名は、この辺で返上する必要がある。トランプ政権がパリ協定を拒絶しただけに、EVによる「脱ガソリン車」政策はいわば格好の材料ともなる。

もう1つはEV化によって、既存の欧・米・日など先進国中心の自動車産業を一度、ここでシャッフルし、中国も同じスタートラインに立って競争したい、という願望にある。幸い経済の成長で国民は裕福になり、ここからの競争だったらリードし、勝てる公算も高い。

実は中国のホンネは、後者にあるというのが、世界の見方である。2℃以内に地球温暖化を抑制するためのEV化といった“殊勝な”姿勢は、中国らしいポーズで、付け足しにすぎないというのだ。
EVならば、エンジンが必要でないし、構造もガソリン車と比べてシンプルだ。昨年、英ダイソンがEVを開発して参入してきたケースが示すように、家電メーカーだってハードルは乗り越えられることが証明されたではないか、ということだろう。

www.webcartop.jp

ひしめき合う欧米メーカーの猛烈なEV合戦

当然、この中国の動きに対し、欧米メーカーも歩調を合わせる。独フォルクスワーゲン(VW)は、昨年6月に安徽省の江准汽車(JAC)とEVの合弁会社設立で合意した。25年にはEVの世界販売300万台のうち、半分の150万台を中国で販売する方針で、2015年秋に発生した排ガス不正問題による信用失墜の挽回に懸命だ。

また独ダイムラーも7月、北京汽車との共同出資でEV生産に向かうし、またEV専用ブランド「EQ」を立ち上げ、ベンツの小型車“Aクラス”のEV「EQA」を発表した。独BMWも来年にミニブランドのEVを公開、多機種展開を期す方針である。

英ジャガー・ランドローバーも20年以降に発売する全機種を、EVなどの電動化車両にする方針。EVで先陣を切る米テスラは昨年7月、3.5万㌦という普及価格帯の量産EV「モデル3」を売り出し順調に予約が伸長中という。

つねに「車両価格、航続距離、充電インフラ」の3大ネックとの闘い

そもそもEVは、まだ一度も自動車業界の主流になったことはない。やっと商業ベースとして注目されてきたのが米テスラの「ロードスター」、日産自動車「リーフ」が発売された2010年前後のことだ。EVはつねに「車両価格、航続距離、充電インフラ」の3大ネックを抱えていたからである。

事実、EVの普及率は2016年時点でもEVの46万台というのは、世界での総販売台数9386万台に対して0.49%、1000台に5台弱にすぎない(数字は国際エネルギー機関<IEA>調べ)。業界通の間でも、東京オリンピックの20年段階でようやく1%程度との予測だ。

フル充電での走行距離は200km。高速2時間走ると電池切れを起こしてしまう。しかも10年当時の国内急速充電スポットは100ヵ所にすぎなかった。だが、昨年9月に発表した新型「リーフ」は400kmの走行、充電スポット5000ヵ所、しかも大型ショッピングセンターにはほとんど設置されるというふうに実績が伴いつつある。

巻き返しを期す日本メーカーの動向

世界に大きなEVウェーブが起きている中にあって、日本勢の中では日産自動車のスタートが早かった。中でも2010年に発売した「リーフ」はすでに累計販売が28万台を達成、世界で最も売れているEVとなった。他社に先駆けて発売したことがこの実績となった理由だが、日産の計画どおりには進まず必ずしも順調とはいえない。

仏ルノーのEV「ゾエ」、三菱自動車のEV「アイ・ミーブ」を加えると、カルロス・ゴーン会長率いる3社連合のEV累計は50万台強に達しているものの、ゴーン会長が掲げた16年度のEV累計販売目標150万台には遠く及んでいない。ここからが正念場となろう。

ホンダも中国専用のEVについて、合弁先の東風本田汽車と広汽本田汽車の2社と共同開発して近く発売に踏み切る計画だ。日産・ルノー連合も東風汽車グループとEVを共同開発する新会社を設立し、現地で人気の高い小型EVを低価格で来年から製造販売する予定。

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“出遅れ”トヨタ、ようやく打ち出した本格的なEV戦略

さて、トヨタ。EVで出遅れ感があったものの、マツダ、デンソーと一緒に基幹技術を共同開発する新会社を設立、やっとアクセルを踏みはじめた。スズキやSUBARUなどにも広く参加を呼び掛け、EV量産化に向けた部品や設計手法などの標準化を早期に確立する方針である。

一方でパナソニックとも提携、現在のリチウムイオン電池の改良と新しい次世代バッテリーの開発などをめざす。EV市場での主導権を確保するため、2030年までに約1兆5000億円をバッテリー開発に注ぎ込み、EVの販売台数は550万台以上にする計画だ。

従来のトヨタ構想としては、世界初の量産型「プリウス」を開発して以来、エコカー市場で他社を圧倒してきたハイブリッド車(HV)を中心に据えながら、水素燃料電池車(FCV)を次世代における中長距離車の主力としていくことだった。しかし、EVの世界的な急ピッチな伸長で、じっくりと行く道を見定める猶予もなくなったようである。

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悩みは競争力の原点、巨大なピラミッド構造に

やっとトヨタは腰を上げたが、ここまで逡巡した理由も理解できる。ガソリン車で主要部分を占めているエンジンやトランスミッションがEVでは不要になり、部品点数は4割近く減ってしまう。

それによって、今までトヨタが世界の頂点を極める競争力の素となっていた系列構造の強みも、必要でなくなってくることに戸惑いがあったからであろう。もっともこの問題はトヨタだけではなく、日本勢に共通するテーマでもある。

部品メーカーも膨大な数に上るが、加えて業界はガソリンスタンド、整備工場など裾野は広がっている。その総就業人口は534万人と巨大なピラミッドを構築している業界なのだ。EV化で減少する国内スタンド数は、2050年には現在の4分の1、8700ヵ所まで激減するという予測だ。

基幹技術の転用・駆使でEVでも優位性の謳歌へ

ただEV化は日本トータルで考えたとき、チャンスになるとの見方も強い。電池やモーター、軽量化に向けた炭素繊維など、EV化に伴って需要が高まる素材・部材は、いずれも日本が世界屈指の技術を持つ分野である。

日本には材料を含めた隙のないサプライチェーンも整備されている。次世代電池や充電インフラなどの基礎技術では、オールジャパンで臨めば目下のところ真面に太刀打ちできる国はないとみてよい。

先駆した日産グループ、また“出遅れ組”と評されていたトヨタ、ホンダにしても、HVやEVではモーターやインバーターなど基幹部品の技術は共通するものだ。これまで培った世界に冠たる技術を転用・駆使して、高い商品力を持ったEVを打ち出し、確かな優位性を謳歌していくものと期待したい。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。