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アメリカ経済を失速させるトランプ政策、これだけの誤り

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“アメリカ・ファースト”(米国第1主義)は、自国経済を強大にする政策で公約でもあるが、中身を吟味すると、実は短期的に景気押し上げ効果がある項目ばかりで、中長期的には結局、米国経済を弱体化させる政策がほとんどを占めている点が気になる。
大型減税というと聞こえはよいが、メリットは大企業や富裕者に厚く、肝心の低所得層へはほとんど届かない。財政出動の拡大も、通商政策の撤廃や見直しも軒並みトランプの主張とは真逆の結果が強いられる状況にある。

声だけが大きいトランプ。このまま経過すると、米国経済は低落一途の道をたどることになりそうだ。いたるところ矛盾が露出したままのトランプ政策の誤りを指摘していきたい。

政権内シャッフルは今後も果てしなく続く見通し

「首切りトランプ」の本領が、また発揮された。3月には外交の司令塔に当たるティラーソン国務長官、また4月初めには安全保障政策の要となっていたマクマスター大統領補佐官が、相次ぎ解任されたのだ。マティス国防長官は辛うじて残った印象だが…。

取り巻きが辞めていく直接の引き金となったのは、“米朝首脳会談”要請の即決にある。3月初めに韓国特使が伝えてきた北朝鮮の金正恩委員長の会談要請を、大統領は、同席していたこれら側近にはひと言の相談もなく、しかもその場で即断してしまった。

「政権内シャッフル(入れ替え)は今後も果てしなく続く」と、メディアは伝える。トランプはウマの合う強硬派で周辺を固めたいという意向なのだろうが、イラン核合意、ロシア疑惑、米朝会談、そして今回のシリア攻撃など問題は山積する。むろん経済案件も目白押しである。

diamond.jp

米国の繁栄に拍車を掛けた「シェール革命」

もともとトランプは、自分の考えや政策・理論をじっくり積み上げていくタイプではなく、勘を頼りに物事を決め強引に舵を切っていく性向をもつ大統領である。ときには、判断する基準が1980年代ベースのものがあっても、彼はあまり拘泥せず、頑固に突っ走る。

彼の経済政策の目玉は、いわば財政出動による景気拡大とナショナリズム(注)を基本に国内雇用の維持・増加をめざす通商政策だ。大統領選のキャッチフレーズは「Make America Great Again(再び米国を偉大にしよう)」であった。

往年のアメリカの栄光を取り戻すという趣旨だ。「富める者にはますます富が集中し、貧富の差は広がる一途だ」──そんな認識を持ち、現状に不満を持つ低所得者層はこの言葉に酔って彼に投票した。
(注)自国中心主義。政治と経済の世界への広がりをめざすグローバリズムの対義語。トランプ流でいえば「アメリカ・ファースト」。

米国経済はすでに高成長入りを果たし、爛熟期に差しかかっている状況にある。その上に、シェール革命(注)によってエネルギー事情が一変させた。それまで米国は世界トップの原油輸入大国であり、消費国であったのだが、安価なシェール・ガスが大量に産出できる技術を開発したことが、米国の繁栄に拍車を掛けることとなったのである。
(注)シェール層からの石油や天然ガス(シェールガス)の抽出が可能になったことで世界のエネルギー事情が大きく変化したことを指す。2013年、米国の天然ガス生産は世界最大になった。

business.nikkeibp.co.jp

空回りする大規模減税、公共投資の拡大政策

つまり、トランプがまだ何も着手していない段階で、アメリカの景気は上昇力を強めていたのだが、トランプは公約にしたがって、大規模な“景気刺激策”を発動しなければならなかった。大規模な減税、公共投資を打ち出すのだが、その結果はどうなったか。

深刻な景気の悪化局面では効果は大きく出るが、当然ながら大規模な景気刺激策には副作用も多い。公共投資は規模が大きければ大きいほど、経済効率の悪化と財政赤字の拡大を招くことになる。健康体なのに、特別な栄養剤をたっぷり注入する構図である。

たとえば中国。リーマンショック後の2009年に、4兆元(当時の円換算で約65兆円)の公共投資を実施した。中国景気は一時的に急上昇したが、その後、中国は膨張した非効率な投資の整理に追われ、現在の景気の低空飛行を強いられる原因となった。

この景気後退で直接の痛手を受けていなかった中国は、この機を利用して一気に高成長を図ったのだ。一様に前向きな手が打てなかった中にあっての積極的な拡大策だったことから、たしかに世界からは感謝されたが、やはり前のめりだった感は免れなかった。

10年後の財政赤字は12.4兆ドルとの試算を発表(米議会予算局)

トランプは成長に伴うトリクルダウン(注)によって「平均的な世帯の年収は控えめに見積もっても4,000ドル(約43万円)増加する」とブチ上げていたが、残念ながらこれを裏付ける根拠は何もない。法人減税のうち賃金に回るのはせいぜい20~25%程度、というのが常識的な見解となっている。
(注)「滴り落ちる」意味。富裕層が豊かになれば、貧困層も豊かになり、全体に富が行き渡るという理論。

大規模な法人減税については確かに長い間、期待されていた懸案だった。ただトランプや経済ブレーンが喧伝するような代替財源は経済成長で生み出せるとの主張も根拠が薄弱である。成長でカバーできるのは、せいぜい3分の1、というのが一般的な見解だ。

事実、米議会予算局は4月になって、今後10年間の連邦政府の財政赤字は12.4兆ドル(約1,330兆円)に膨らむとの試算を発表している。大型減税と歳出拡大がこれまでの予測より約20%増加の見込みで、大幅な悪化は避けられそうにない見通しという。

次第にトーンダウンしはじめた“自由貿易協定”撤廃の意気込み

アメリカ第1主義の表れは、“鉄鋼25%、アルミ10%輸入関税引き上げ”にも明らかだ。標的のメイン、中国は早速、輸入豚肉など計128品目、最高25%の関税の上乗せを通告、各国もそれぞれに提出・参加する意向で、一気に大規模な貿易戦争へと突入することとなった。

トランプは、貿易となると「わがアメリカは今まで相手国に多大のメリットを与える一方だった」とそのつど発言する。従来の他国とのビジネスでは、いつも米国が損ばかりさせられているというのが、むしろ彼の信条になっていたといえる。
そのため、トランプ政策の基本は自由貿易協定の撤廃である。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からは離脱を明言し、NAFTA(北米自由貿易協定)の見直しにも言い及び「メキシコや中国からの安い輸入品には35%もの関税をかける」と息巻いていた。

だが、勇ましかったトランプ宣言も、そのトーンが急激に下降しつつある。TPPについては4月中旬になって「良い条件なら復帰しても構わない」と通商代表部に指示し、NAFTAについては口にしなくなった。
NAFTAのために、米国内では様々なモノの価格が下落して安くなっている。雇用を回復し、工場の海外流出を阻止するために、NAFTAに反対し、反グローバリズムに拘泥しているとしたら、これほど矛盾だらけでナンセンスなことはない。

www.afpbb.com

関連業界の保護政策は競争力低下と技術格差を生む要因に

CNN放送が40ヵ国を対象に実施した調査によると、自由貿易を止めた場合、富裕層の購買力が28%低下するのに対し、安い輸入品に頼らざるを得ない低所得者(下位10%の層)
の購買力は63%も低下するという。米国も例外でない。被害は低所得層に大きく出る。

地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からも離脱した。それによってトランプは、米国内の炭鉱労働者の雇用を取り戻すという選挙公約を果たしたのだが、さらに国内でも環境規制を緩和させようとしている。自動車メーカーの業績を保護するためだ。

もしこの画策が実現すると、米自動車メーカーは環境技術の開発コストや規制の束縛から解放され、燃費の悪い大型車を憚ることなく生産できるようになる。たしかに一時的には目先の業績改善にはつながるかも知れないが、世界との技術格差は決定的となろう。

www.bbc.com

これといった具体的な成果の見えないトランプ政権の行方

懸念されるのは、トランプ政権になって以来、米国に政策上の「小児化」が目立つことだ。子供の喧嘩が大っぴらに展開される感じだ。たとえば、北朝鮮の金委員長とは、口をきわめて罵り合う。“チビ”とか“デブ”とか“老いぼれ狂人”とかの言葉が激しく行き交う。

重要な政策にしても、理論的な背景や精緻な組み立ても裏付けもないままに、ポンと場当たり的に出てくる印象がある。だから、大げさに発表した事案も周囲に反対されたりすると後でコロッと変更したり、中止したりする。信念、核心がみえない。

トランプ政権の誕生から15ヵ月が経過した。アメリカ第1主義という内向き政策が底流になっているとはいえ、何一つ具体的な成果がないことが懸念される。中間選挙を控えトランプも内心焦っていよう。ここからどう動くか。一体米国はどこへ向かおうとしているのか。ここまでの経過からみても、心許ないことおびただしいのは事実である。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。