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進む日本の「貧困化」にどう向き合うべきか?

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この日本で「貧困化」が急ピッチで拡大している。かつては“分厚い中流階層の占める国”といわれた日本だったが、リーマンショック不況を機に企業が “非正規労働者(アルバイト・パート・派遣社員など)”の比率を大幅に増やしたことが引き金となって、あっという間に格差化が進んでいった。

貧困化のベースにあるのは単身世帯(おひとりさま)の増加である。低賃金のための未婚化も多い。若者だけではなく、配偶者と死別した高齢者や未婚の中高年層の一人暮らしも著増中である。この30年間に単身世帯の比率は約2倍強。今後一層大きな歪みとなっていく公算が高いだけに、政府、企業などの真剣な取り組みが期待されるところだ。

首相、エンゲル係数がじりじり上昇していますよ!

生活水準を示す1つの目安として、よく使われる指標にエンゲル係数(家計の消費支出に占める食料費の割合)がある。この数値が高いほど生活水準は低いと見なされるのだが、最近の日本ではこの係数がじりじりと上昇、年初に国会でも採り上げられたことで、改めて話題となった。

たしかに事実、2013年以降、昨年までで年平均2.2%上昇しつづけているのだ。野党の指摘に、驚きの表情を見せた安倍首相は「これ(エンゲル係数の上昇)は物価上昇のほか食生活、生活スタイルの変化が含まれるとの認識です」との答弁でかわした。

13年以降の食料価格は6.5%の上昇となり、昨年になって5年ぶりに小幅低下(0.2ポイント)したものの昨2017年のエンゲル係数は25.7%。やはり「高止まり」というのが正確だろう。その原因として原油価格の高騰を含め、おしなべて円安による輸入品の上昇の影響が大、との見方である。

安倍首相の言う“生活スタイルの変化”によるエンゲル係数上昇については、共働き世帯が増えたことや高齢化によって外食・中食の回数が増加したため、との見方も一部されているが、それよりやはり年収の低い層ほど上昇幅が大きく、家計への圧迫度合いが大きいことが明確に出ている(以上の数値は厚生労働省発表より引用)。

www.tokyo-np.co.jp

非正規社員を大幅増したことが“貧困化”のきっかけに

日本が貧困化の道をたどっているのは事実だ。バブル景気に沸いた1990年代初め頃までは、日本は「貧富の格差が少ない平等な社会」、「分厚い中流階層の存在する国」などと世界から羨ましがられていたものだが、バブル崩壊後、企業業績の急落とともにその誇るべき中流階層も瓦解していった。

きっかけとなったのは2008年のリーマンショックだった。その後に訪れた「氷河期時代」と称する新卒の雇用市場で、象徴的な現象が起こった。企業が業績低迷を背景に、一斉に低賃金の“非正規社員”の比率を増やし人件費削減に努めたことだ。正規社員の採用枠は減らしアルバイト・パート・派遣社員など、期間を限っての雇用体制に切り替えている。

その結果、ワーキングプア(働く貧困層)やネットカフェ難民(注)と称される“低所得”労働者が一気に巷に溢れだした。日本の格差社会は、かくて正規労働者と非正規労働者の“所得格差”からスタートし急速に拡大していった。
(注;住居がなく寝泊まりする場としてインターネットカフェを利用する人々)

toyokeizai.net

単身世帯(おひとりさま)はこの30年間で2.2倍に著増

従来、日本社会の“標準”は「結婚をして同居家族が複数いる」ことだった。その前提が崩れ、単身世帯数は2015年現在1845万人、全国民の7人に1人(14.5%)に激増した。1985年は16人に1人(6.5%)だったから、この30年間に単身世帯の比率は約2.2倍になったことになる。

国立社会保障・人口問題研究所による推計(2008年実施)では、2015年の単身世帯は1656万人との推測だったが、実際の数値は1845万人と200万人近くオーバーしてしまったのだ。しかも依然として凄まじいテンポで中年層や高齢者を中心に増加中である。
中年層で増加している原因は、未婚化による。低賃金で不安定な生活が続くため、結婚したくでもできないという実態があるためだ。現実の話、結婚していない中年の数の伸びは著しい。

「生涯未婚率」というのは50歳までに一度も結婚したことのない人の割合を示すものだが、男性のそれは1985年までは3%未満だったのが、2015年には23%と著しく増加した。さらに30年には28%になると推計されている。女性の生涯未婚率も15年の14%が30年には19%になるとの予測である。

30代男性の未婚率は正規労働者31%に対し非正規労働者は76%

未婚化の原因には、非正規・アルバイト・パート・派遣社員など期間労働者の増加が挙げられる。賃金が安く、しかも雇用期間も安定しないことから、男性を中心に未婚者の比率が高くなる。厚労省調査によれば、30代男性の未婚率は正規労働者31%に対して、非正規労働者は76%と2倍以上と、圧倒的に高い。

長寿高齢化への移行による増加も当然、顕著である。さらに30年には「団塊の世代(1947~49年生まれ)」が全員80歳以上となって一気に増加することになる。80歳以上の高齢女性で単身世帯が増加していくのは、長寿化以外に配偶者と死別した高齢女性が子供と同居しない傾向の定着化によるものだ。

今では自由にそれぞれが何の干渉もされず1人住まいをしたいという考え方に変化してきたし、親としても「子供の世話にはなりたくない」との思いも強くなっていきたのもその理由である。それに、老人ホームへの入居も以前ほど抵抗感がなくなってきている。

「新しい貧困」への決め手なく大きな歪みとなっていく恐れが・・・

単身世帯の増加で懸念されるのは、貧困化だ。2人以上の世帯ならば、一方が失業や病気で働けなくなっても配偶者がいるので貧困に陥らないように努力できるが、単身ではそれができないからである。

男女別に貧困率(注)を比較すると、単身女性では30代後半、単身男性では50代以降から貧困率が高まるのが特徴だ。そして65歳以上になると、単身男性の38.3%、単身女性の52.3%が貧困に陥っている(みずほ情報総研調べ)
(注;所得が国民の平均値の半分に満たない人の割合)

このような日本型の「新しい貧困」は、具体的な形としてはホームレス、ネットカフェ難民、ニート、フリーター、そして老老介護といった姿で表出してきている。それも単に仕事がない、お金がないだけでなく、現在の社会体制の中ではいかに自分で努力しても解決に難しい状況で放置されたままだ。今後一層大きな歪みとなっていく公算が高い。

格差拡大を助長した米国流の新自由主義改革

小泉内閣の下で推進されたアメリカ流の新自由主義改革は、ひと口で言うと政府は可能な限り市場経済に干渉せず、“市場主義(競争原理)による財の分配”を軸にして国民の経済生活を運営していこうというものだったが、弊害も大きく出た。

経済の平等性と公平性が侵害されやすくなり、富裕層と中間層の格差が拡大した点である。結果として生産性の高い富裕層や効率的な経営をする企業に富が集中化、中間層や非正規労働者の中から貧困層へ脱落していく人々が増加していくことになった。

いまわが国の景気は平成不況を乗り越え、戦後最長の「好景気」と言われており、日本経済新聞社の直近の調査でも、上場企業の今3月期は最終の儲けを示す純利益合計が前期比8.8%増と予測され、2年連続で過去最高を更新する見通しである。

だが、企業側はその収益を生活の苦しい非正規社員の待遇改善や正社員への登用に充当しようという積極的な行動に移す状況はあまりみられない。政府は働き方改革と並行して、そのつど賃上げを企業側に要請するのだが、効果はきわめて限定的だ。

gendai.ismedia.jp

重要テーマは“貧困化・要介護・孤立化”リスク増大への対策

政府は「子どもの貧困対策推進法」(2014年)、「生活困窮者自立支援法」(15年)、「介護支援助成金支給要件の見直し」(16年)などを施行させてきたが、場当たり的、局部療法の観は拭いきれない。シビアな財政事情がある現状は理解できるものの、やはり全体を見渡し大局的にバランスの取れた対策が望まれる。

単身世帯の増加にともない、貧困化だけでなく今後、要介護リスク、社会的孤立のリスクが増大してくるのは目に見えている。これまで以上に公的なきめ細かいセフティーネットが求められるのだが、税金や社会保険料の引き上げはすでに限界に達した印象が強いだけに、どう対応していくのか。前途多難の難しい運営が予想される。

企業側の積極的な対応も期待したい。まずは高齢化にともなう定年の延長であろう。できる限り働き続けることのできる場の提供への努力が望まれる。単身世帯の抱える貧困や社会的孤立のリスク回避には、働くことが生き甲斐につながっていくものだ。
さらに若い「非正規労働者」への待遇改善、人材登用などの措置が求められる。就職氷河期に機会に恵まれなかった人たち、能力がありながら正規社員に転換できない人も多い。個人の力だけでは克服できない企業内規制は、進んで是正していくことが望まれる。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。その後、執筆・講演活動に入る。なお、経済評論、ブログなどのペンネームは“宇佐美太郎”。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。