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ターニングポイントを迎えた試練の牛丼業界、今後の課題

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ここ数年の牛丼業界は、すき家の“人手不足”問題や吉野家の「牛丼すき鍋膳」旋風がホットな話題を提供したぐらいで、かつてのような業績の大きな上下振幅は少なく、大勢は横ばいで推移中だ。
各社とも、無難な進行にみえるが、新企画、新商品などの打ち出し、通販や宅配ルートの充実、新しい業態モデルへの進出などでやっと前年並みをキープしているのが実態である。
また安値競争の限界を悟り、ジワリと値上げに移行する状況が出てきたのも最近の特徴である。最近の吉野家、松屋、すき家の動きを追いながら、業界の今後をみていこう。

最大の月間増加率を記録した吉野家の「Super Friday」効果

企画で先陣を切るのは、やはり吉野家だ。それにしても「Super Friday」の反響は凄まじかった。ソフトバンクの契約者にはスーパー・フライデイに牛丼(並盛1杯)を無料提供するという内容だったが、2/2(金)には各チェーン店舗に客が殺到、長い行列ができたのはまだしも、車での来客が急増したため至るところで交通渋滞が発生したのだ。

www.softbank.jp


Twitter画像でその現場の様子が拡散、混乱を招いたことで、慌てた吉野家では2/5に公式に謝罪、次回以降(9、16、23日)は、⑴1週間、使える無料引換券を配る、⑵期間中の販売メニューを減らす、⑶ドライブスルーでの販売休止──を打ち出す一方、車での来店を控えるよう呼び掛けた。

www.yoshinoya.com


ともかく、この「Super Friday」─。ソフトバンクとの提携キャンペーンは、話題性も加わって業績への寄与は抜群。吉野家の18年2月の売上げは既存店(1年以上、継続している店舗)総計で前年同月比36.3%増、客数では実に54.0%増と06年以降では最大の増加率(月間)を記録した。

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──吉野家の客数変化の激しい上下振幅が特徴。

news.livedoor.com

企画・アイデアの吉野家vs多角化の松屋・すき家の構図

牛丼業界といえば“御三家”といわれるのが吉野家、松屋、すき家の3社。この中で、牛丼チェーン展開の象徴的な存在はやはり、吉野家であろう。売上げに占める牛丼の比率が最も高く、過去の経緯でも“牛丼”一筋を売り物にしてきただけに、これからも斬新な企画で先駆していきそうである。

一方、松屋を運営する松屋フーズは、多彩な業態を展開することによってトータルで稼ぐという方向性である。とくに牛丼にこだわらない。とんかつの「松のや(松乃家)」「チキン亭」、ラーメンの「松軒中華食堂」など、ビジネスモデルの多様化で対応している。

すき家も多角化展開だ。すき家を運営するゼンショー・ホールディングス(HD)も、ほかに「なか卯」、ファミレスの「ココス」「華屋与兵衛」「ジョリーパスタ」、回転ずしの「はま寿司」などを幅広いチェーン店舗で、経営の安定化をめざす。

松屋、すき家が牛肉一辺倒でなく、このように扱い品目を増やし“食”の多様・多角化で対応するには理由がある。吉野家のようにメニューが牛丼など牛肉類オンリーに偏っていると、たとえば2000年代初めに発生したBSE(牛海綿状脳症)(注)問題のようなトラブルが起きると、大打撃を被ってしまうからだ。現に吉野家は事実上の「開店休業」状態だった。
(注)牛の脳の中に空洞ができスポンジ(海綿)状になる病気

www.garbagenews.net

増店は手控え、「牛丼並盛」値上げには慎重な姿勢で…

店舗の拡大も御三家合計で4000店を超え、これ以上の増店は無意味、との認識が一般的
となった。直近でも松屋が今年2月までで10店舗増やし953店としたが、吉野家はこの1年間で9店減らし1197店へ、すき家も17店減の1946店となり、「飽和状態」が明確だ。

価格政策については、今では数年前に起こった“安値競争”は完全に姿を消したどころか、恐る恐るの状況だが、値上げに踏み切るケースが続いている。とくに牛丼のメイン、並盛り価格についてはきわめて各社ともナーバスで、慎重に取り組む姿勢が目立つ。

この4月から松屋は約4割の店舗で販売している牛めし(牛丼並盛)の値上げに踏み切った(290→320円)。だが、全体の過半の店舗で販売の「プレミアム牛めし」は、380円と据え置いた。今後は「プレミアム牛めし」を主力に置く方向に持っていく作戦だろう。

「価格上げ」には 15年末の値上げ失敗を教訓に

松屋側では「政府の発動したセーフガード(緊急輸入制限)(注)で、昨年に比べ牛肉38%、米も8%アップ、アルバイト時給も上昇したため」と言う。なお、すき家も昨年11月から牛丼大盛の価格を値上げした(470→480円)が、並盛については350円を据え置いている。
(注)「安全装置」を意味する英語(safeguard)。海外からの特定品目の輸入が増えすぎた際に、国内産業を保護する目的で政府が発動する関税の上乗せ

松屋、すき家ともに主力の牛丼並盛の値上げに慎重なのは、2015年12月に吉野家が実施した“値上げ”先例が教訓として残っているからだ。吉野家はその年、「牛すき鍋膳」「牛チゲ鍋膳」の大ヒットで過去最高の業績を挙げていたせいもあってか、強気に300円の並盛について380円に値上げしたのだが、これが大きな誤算となった。

値上げの翌16年1月には、客数が17.8%減少、2月も18.1%減となる一方、売上げも両月ともに3%減となり値上がり効果は一気に消失、2015年度の吉野家の3.8%増収、営業利益61.3%増という過去最高の業績もあっという間に奈落の底へと沈められた形になった(数値はいずれも前年同月比)。

news.infoseek.co.jp

「牛肉食べに来たのに、なんで野菜なんだ」との顧客の声も

牛丼の場合、値上げの恐ろしさを各社は十二分に認知しているだけに、とりわけ主力の並盛については神経を尖らす原因になるのだ。といってコストは上がる一途にある。そのバランスをどこで取るか。安値競争は消失したが、今度は品質とコストの見合いでの戦いにつばぜり合いを展開することになる。

経営リスク分散化のための製品戦略では、すき家がこの3月から健康志向で「シャキッと和風オニサラ牛丼」と「あさり汁」の販売を開始した。松屋も3月から、新メニューとして「ふわとろ豚と温野菜定食」「厚切りポークステーキ定食」を投入している。メニューの目先を変え、種類を増やしてより多くの客層を呼び込もうとする策の投入である。

もっとも“健康食”路線の試みは吉野家が15年以降、ベジ丼、麦とろ御膳、ご当地鍋などを打ち出して先鞭をつけてきたものだが、業界全体としても、今のところあまり評価は高くない。「牛肉を食いたいのに、なんで野菜なのだ」と常連はソッポを向くのだ。

今後の成長は健康志向食の展開、通販での拡大などで模索

吉野家は数年前から、調理済みの「冷凍・牛丼の具」の通販に力を置いてきたが、昨年6月からは、宅配ポータルサイト「出前館」を介した宅配サービスも新しく発足させた。宅送機能を「出前館」にアウトソーシング(委託)する。11月には法人向け「ごちクル」(弁当配達サービス)も始めた。

店では牛丼並盛は380円だが、出前となると570円、ごちクルは600円というように、価格は注文金額によって配達料も変わる仕組みだ。値段は高くなっても、店に訪れない利用者の発掘・増加を優先させたといえる。また1つの新しいアイテムとしてサラシア入りの「冷凍・牛丼の具」を売り出すなど、糖質制限ブームを背景にした戦略なども展開しはじめた。

一方、松屋では牛丼専門店だけでなく、フライ系店舗で漸増を図る政策を推進している。この辺が吉野家にはない“バランス感覚”なのだろう。チェーン展開の可能性のある業態についてはあくまで偏らず、時流の変化を読み取りつつ柔軟に決定していく姿勢が感じられる。

その点、やはり“牛丼一直線”の感触の強い吉野家は、イベント企画や奇抜なアイデア路線で何とかそこそこの業績を挙げてきているが、松屋、すき家に比べ、やや安定感にかける点は否めない(客数推移グラフ参照)。「第2の収益源」探しに参加しているものの、今1つの感がある。

家庭の食卓メニューにいかに活用されるかがポイント

今後の業界各社に共通して言える課題は、店内でのファーストフードとしての牛丼にとどまらず、家庭の夕食の候補としての“市民権”をどのように獲得していくか、ということにあろう。身近にして、有力な市場がまずそこに求められるのではないか。

その点、吉野家が昨秋発売した「晩ごはん」や今年1月に通販ショップに組み入れられた「アレンジDA!BEEF」(牛肉の具300g袋入り)当たりが、新たな市場開拓の先兵として化ける可能性もある。当面は、この戦略が注目される。

ともあれ言えることは、牛丼一辺倒の業態はいま頭打ちの様相にあり、ここからの脱却がこの先のテーマとなることだ。新メニュー政策、別の食業態への拡大策に向かう一方で、宅配サービス、通販への広がりを求めながら、やはり最終的には、家庭の食卓にどのように上陸するか、にかかってこよう。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
1948年生まれ。昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。平成15年㈱インタープレス編集長(常務待遇)に就任、同26年に退任・退社。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。