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「移民」は安い労働力ではない

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労働力不足の解消のために移民を受け入れると言う主張がよく聞かれます。労働コストを下げる目的のもとで議論されることが非常に多いです。しかし、実際には割高なのではないでしょうか。その理由を移民国家となったドイツの事例を取り上げ、お話ししたいと思います。

「移民国家」となったドイツ

第二次世界大戦後、ドイツは東西に分断され、 それぞれ独自の国家として1990年まで歩んできました。その中で旧西ドイツは、労働力の不足を補うために、戦後一貫して外国人労働者を受け入れてきました。その結果、ドイツ国内でも 外国人の割合は年々増加してきました。

ドイツ国内の都市部は、軒並み外国人の割合が非常に高い状態になっています。例えば、ドイツ南部のバイエルン州・ミュンヘンであれば、2017年年末の統計で人口約152万人に対して外国人は約42万人と、27.6%は外国人という状況です。
ミュンヘンでは4人に1人以上がドイツ国籍でない住人なのです。その中でも、一番大きいのがトルコ系の住人になります。しかも、42万人となると、日本で言えば高松市(香川)・豊田市(愛知)あたりの中規模の都市に匹敵する人口になります。

ミュンヘンは何度も訪れたことがあるのですが、私がドイツに住んでいた10年余り前であれば、中央駅近くであってもまだドイツ語が中心に話されていました。しかし、2015年にミュンヘンを訪れた際には、中央駅周辺の路上ではほとんどドイツが聞こえず、何語が話されているのかわからないくらいの状態が非常に印象的でした。
ドイツの代表的な都市の統計も調べてみましたが、以下のようになります。

都市名 (統計年)
都市人口
外国人人口
外国人の割合
ミュンヘン(2017)
1,526,056
421,832
27.6%
フランクフルト(2016)
729,624
210,140
28.8%
ベルリン(2016)
3,670,622
676,741
18.4%
ハンブルク(2016)
1,860,759
309,944
17.2%
デュッセルドルフ(2015)
628,437
135,109
21.5%


2016年のフランクフルトは、人口約73万人に対して 外国人が約21万人と全体の28.8%も占めていました。他にも、ベルリン(2016年)だと人口約367万人に対して約67万人(18.4%)、ハンブルク(2016年)で人口約186万人に対して約31万人(17.2%)、デュッセルドルフ(2015年)で人口約63万人に対して約13.5万人(21.5%)と、5~6人に1人が外国人という状況だったのです。
これは、国策として外国人労働者を積極的に受け入れてきた結果であると言えます。 また、EU の中でも賃金水準の高いドイツは、 EU 域内の他の国の労働者が集まってきたことも要因の1つです。

www.afpbb.com

「移民国家ドイツ」に表れてきた弊害

移民が増えるに従って、「ドイツ語を話せない移民」の割合が増えていったことが大きな問題になっていきました。
移民の第一世代は、ドイツ語を覚えないことには仕事にありつけない状況であったため、さほど問題にはならなかったのです。しかし、移民の割合が増えるに従って、 ドイツ語を話せなくても 仕事が成り立つ状況になってしまったのです。

都市部であれば、例えば一番大きなコミュニティであるトルコ系などは、都市によっては数万人規模のコミュニティができていることも珍しくありません。その結果、ドイツ語を話さなくても、同じルーツを持つ相手に仕事をすることも十分可能なのです。
また、家庭ではドイツ語を話す必要性がないために、自分たちの「母語」を話すことが多くなります。ドイツの公教育の場においては、ドイツ語で授業されることが前提となっています。ただ、ドイツ語を母語としない移民の子どもの中に、ドイツ語で意思疎通が十分にできない子どもが相当います。その結果、学力が十分に伸びずに、現場労働者向けの学校「ハウプトシューレ」に行く移民の子が増えていく結果となりました。

移民元の国にもよりますが、その結果、稼げない状態のままで「貧困層」が固定化されることが問題になってきました。もちろん、ドイツの連邦政府も全く手を打たなかった訳ではありません。ドイツ語を母語としない子のために補習校があって、通常の学校で学べるレベルのドイツ語を身につけるよう努力をしています。
しかし、そのような対策を打った上でも、移民の二世・三世のドイツ語の能力が十分に形成されないことが大きな問題となっています。

すでに日本でも、工場労働者が多い地域に外国人コミュニティができていて、同様の現象が起こっています。そして、日本語の補習が必要な外国人の子がいる現状もあります。しかし、日本の規模以上のことがドイツ国内ではすでに起こってしまっているのです。

「安い労働力」だと安易に受け入れることは、コストの増大につながる

日本で「移民」の議論をする際に出てくるのが、「安い労働力が必要」だという論点が非常に強いように思います。ただ、「安い労働力」であることを前提に移民を受け入れることは、真っ向から反対します。理由は2つあります。

1つ目は、日本で過重労働になっている人たちがいる一方で、雇用にありつけない人たちがいる現状を是正するのが優先事項であるからです。この対策をしていくことで、雇用不足感も解消に向かうのではないか、という考えです。
例えば、サービス関連であれば、会社の中で本当に必要な仕事を精査して必要な業務に集中できるようにすることで生産性を上げることもできます。
また、社内の労働環境を整えていくために、今まで非正規で雇われていた人たちを十分な待遇で積極的に雇い入れていくことも必要かと思います。

もう1つは、外国人を受け入れたことによる社会的なコストの増大について、議論が完全に抜け落ちていることが非常に危ういと思うのです。
具体的には、先ほどドイツの事例を取り上げて話をした内容に関わってきます。日本語を母語としない子どもに対する日本語教育の補習にかかるコストであったり、外国人労働者が失業などにより社会保障を受ける立場になった時のその社会保障であったり、教育や福祉の面で必要となってくる社会的なコストを一切見ていないようにしか思えないのです。

別に日本語をしっかり学んでくれる外国人労働者ばかりであれば、問題がまだ小さくなるのかも知れませんが、それは移民大国となったドイツの事例を見れば期待することは非常に難しい問題となっています。また、元の国に戻るように伝えた所で納得して帰るとは考えにくいのです。

このように考えると、安易に「安い労働力」を迎え入れることが結果的にそれ以上の負担になる危険性をはらんでいます。ただ未来に問題を残して、社会的コストの増大で税金などの形で、首を締める結果になりかねません。それであれば、まだ自動化に舵を切る方が建設的なのではないのか、と思うのです。
だから、移民を「安い労働力」だと見る考え方には、全く同意できないのです。

www.huffingtonpost.jp

「安い労働力」ではなく、働きやすい環境をつくることが先決だ

勘違いしないで欲しいのは、外国人労働者を入れるなと言うつもりはさらさらありません。もし仮に移民を「安い労働力」だと見るのであれば、そのような政策には一切賛成できないと言っているのです。優秀な人であれば、国籍を問わず可能性を提示すること自体は、時代の趨勢でもあるため、必要なことだと思います。

ただ、日本では労働力を「コスト」としてしかみていない考え方の方が根本的な問題なのではないか、と思っているのです。そのことは、日本における外国人労働者の行動を見ると顕著にあらわれてきています。というのも、同じような仕事をしたとしても、日本よりも稼げる国が他にある以上、家族や好みなどの個人的な事情がない限りは、他の国へと移っていってしまいます。

日本人の学生であっても、優秀な学生については日本企業に固執していないどころか、外資系を積極的に選ぶようになってきているところまで来ています。
プレジデントの記事で、2018年の東大生・京大生の人気企業トップ10が話題となっていましたが、そのトップ10の中に外資系が8社も並んでいることを考えると、日本の今までの企業の在り方が非常にまずいと突きつけられているのです。
とにかく「安い労働力」を求めているうちは、決して優秀な人たちは来ないのです。

president.jp

「移民」が安い労働力であるのは、ただの幻想です。もし労働力が必要であれば、ベースとなる現場の人材にしても、トップレベルの人材にしても、働きやすい環境を整えるしかないのです。
魅力的な労働環境があるからこそ、人が自ずとやってくるのです。
日本は移民国家という歴史がないだけに単純な比較はできませんが、しっかりとした給与と労働環境を整えた国は、放っておいても移民がやってきている事実を重く受け止める必要があるのではないのでしょうか。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180227160154j:plain山内 一輝/ライター・講演家
1979年生まれ京都市伏見区在住。2002年京都大学文学部(社会学専修)卒業後、塾講師を経て、ドイツへ渡航。帰国後は長年大学生協で下宿斡旋部門・旅行部門で勤務。当時より、ドイツ渡航の経験を生かした『Kazuのかんたんドイツ語』で、外国語や外国事情の記事を更新。現在は主に、フェイスブックやブログ『ライター・講演家 山内一輝の雑記帳』で情報発信中。