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ドイツの教育システムから見た「学び直し」の必要性

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ドイツの教育は、一生を通したキャリアと向き合うものです。
日本ですと、一度就職したらそのまま働き続けることが前提で、学校に戻るという選択肢を取る人は少数派かと思います。ただ、テクノロジーの発展やAIの浸透により、今までの職業の在り方が大きく変わる可能性があります。そのため「学び直す」必要性が日本でも必須になるのではないかと思うのです。
そこで、「教育」と「キャリア」とが密接につながっているドイツを事例にしてお話をしたいと思います。

専門分野と職業が厳密に結びついていたドイツの仕組み

ドイツにいた時に「ドイツ人は融通が利かない」という人は確かに多かったです。当初は、直前では対応してくれない人も多いから、そう言っているのだろうと私は思っていました。それが仕事の精度につながるという意味で良い面ではあるのですが、やはり弊害もあるのです。

ドイツで仕事に関して色々と話を聞いたのですが、ドイツの場合、教育の内容と就ける仕事が厳格に結びついているのです。そのため、今までやってきたことと別の新しい分野の仕事にトライしようと思っても、「学校で必要なことを学んでいないからダメ」だとか、「経験がないからダメ」だとか言われて、断られることになるでしょう。
どうしてもその職に就きたければ、その新しい分野について学び直すしか手がないでしょう。もちろん、職業のための素地がある程度必要なのは理解できるのですが、息が詰まりそうな感じがしたのです。

ドイツでは10歳で人生が決まりかねない状態だった

ドイツでは、10歳から進路分けがあります。かつては、大きく3つに分けられていて、大学進学を前提にした「ギムナジウム」、事務所で働く事務系の仕事が中心となるホワイトカラーのための職業教育を意識した「レアルシューレ」、手に職をつけていく「ハウプトシューレ」と、10歳ころから進路が分けられていました。

私はドイツのこの教育制度の話を聞いた時に、素晴らしい制度だと思っていました。というのも、小さい頃から進路を考える機会があるのはいいことだと思っていましたし、勉強に向いていない子に無理やり勉強させるのもいかがなものかと考えていたからです。
就職のために無理やり進学させている日本の現状と比較して、勉強に向いていないのであれば別の方向性を見せることは大事なことだと思っていました。

しかし、ドイツでも進路を分けられたら学校をまたいで移ることが難しかったようです。そのため、ホワイトカラーのための「レアルシューレ」に行っていて、後で大学に行こうと思っても非常に難しい状況でした。このような事情から、10歳で人生が決まってしまうのはおかしいとの批判が強かったのです。

ドイツで職人と言えば誇りある仕事として、かつては大切にされていました。そして、勉強ができなくても腕一本で食べていく、そんな自分の仕事に誇りを持てていたのは昔の話だったようです。
2000年前後から、職人・労働者向けの「ハウプトシューレ」に行く子たちが、学力的に劣ることにより「負け組」扱いされた上に、他に這い上がる道もない状況になっていました。そのため、「ハウプトシューレ」では、喫煙などの在学中の「問題行動」だけでなく、卒業できないまま中退が続出して就職できないなど、その荒廃が問題となっていました。

このような状況を受けて2007年ごろから、ドイツの州によって事情は多少違いますが、職人・労働者向けの「ハウプトシューレ」が、大学・ホワイトカラー・職人の3つのコースをまたぎやすくする「ゲザムトシューレ」に改組されてきています。

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労働者・職人を生み出した学校が改組されていった背景

改組されたのには、教育の流動性を持たせるという意味ももちろんあります。しかし、この改組が行われた背景としては、一言で言ってしまえば技術の高度化による部分が非常に大きいです。

今となっては当たり前すぎる話ですが、ネットの環境なしで仕事をする人の方が少数派になってきていますし、製造の場面でも機械による制御が当たり前になってきているのです。
仕事するために必要な知識も、今から30年・40年前と比べたら格段に増えてきていて、現役で働いている大人たちよりも就職時点で要求されることが増えてきているのです。

例えば、パソコンでテキストすら打てない人は、現在では専門的な仕事につくことはほぼ無理です。それが30年前の労働環境では求められていなかったはずです。
まして、プログラミング・コンピューター言語は、下手をすれば20年前ですら一般的でなかったのに、今となっては大きな仕事になっているのです。
このように仕事を取り巻く環境が大きく変わっている現在では、職業に就く前に教育にかける時間が長くなる傾向が世界的に起こっています。
ドイツでも教育と職業に関わる制度があまりにも硬直的だったために、ITの技術者が足りないという状況でもあったために、このような教育制度の改革がされたようです。

それでも学び直しの可能性があるドイツ

ドイツの教育制度を個人の視点から見た場合、厳密過ぎるとは言え、学ぶ専門分野や職務経験で就ける職業が決まってきます。かつての学校での成績により範囲は限られるとは言え、学び直すことについて社会的な同意ができています。

例えば、大学にしてもギムナジウムを卒業して大学入学資格を持っていれば、一旦働き出してから大学に入り直すことは普通にありえることなのです。実際に、職業教育の場や大学で年齢を問わず学んでいる人がいます。
また、「中途採用」という概念はそもそもありません。必要に応じて求人をしているので、それに応募していくことになります。しかも、学んだ内容と職務がつながっているため、就職したけれども自分も思っていない全然別のことをしていることはないのです。
そのため、人生の始めの学校の選択である程度の方向性が固定されるのは、依然問題視されてはいますが、まだ修正ができるのは救いがある点だと思います。

「学び直す」選択肢をつくることが活力に

教育はどうしても年数がかかるために、すぐに対応できるようにはならないのは、ある程度仕方のないところです。
実際に、技術の急激な発展と社会へ浸透のともに、今までで思いもよらなかったことが職業として成り立ちうる状況になってきています。

今でこそ「ユーチューバ―」は一般的に認知されるようになってきましたが、今から20年前に自分で番組を作って広告収入を得ることを考えられた人がどのくらいいたでしょうか。
「ユーチューバ―」は極端な例にしても、プログラマーやWebサイトのデザイナー、今私がしているようなWebに原稿を書くライターなど、20年前では多くの人が思いもよらなかった仕事が世の中に出てきているのです。

そして、AIの普及によりルーチンの作業自体は消えていってしまいます。そのことは、単純な作業は仕事として成り立たなくなってしまうという意味です。
そこまで考えると、長年続けていた仕事が消えてなくなる可能性もあるのですから、新しい職業に移るために学び直す機会も社会全体で今後必要になってくるのではないのでしょうか。それと同時に、採用自体も新卒だとか中途採用だとか言っていられなくなるでしょう。というのも、そこで採用に年齢を気にしていたら失業の問題が甚大になる危険性をはらんでいるからです。

日本の現状だと、学び直しをしようにも中途採用に消極的な企業が多いのは大きなネックであり、ましてや年齢で未だに足きりをしている企業は、理不尽な差別をしていると言わざるを得ません。

まずは、中途採用を企業が積極的にできるよう仕組みを整える必要性があるように思います。それと同時に、今の子どもたちへの教育についても、十二分に注意を払う必要があります。
例えば、中途採用を積極的にできるようにするためには、政府が新卒以外の就職に対して補助金を出すべきではないかと思っています。特に、30代から40代前半の氷河期世代の再雇用は兼ねてからの懸案であるため、早急に対応すべきでないかと思っています。

採用の現場でも履歴書レベルから変えていかないと難しいかと思います。例えば、写真・生年月日については記入を禁止して、職歴についても必要な分しか書かないようにするなどの配慮も必要かと思います。
そうなると、人事の現場でも過去の経験から「何ができるのか?」に焦点をあてて採用をしていく必要性が今後出てくるかと思います。人手不足が問題になっている企業については、人事の現場は抜本的に変えていくしかないと思っています。

教育に関しても特に重要なのが、普段の生活の中で子どもに将来のことをどう伝えているのかに注意を払う必要があります。というのが、今の大人たちが持っている「いい学校に行って、いい会社に入る」モデルがすでに時代遅れのものになっていて、それが将来子どもたちを苦しめることになりかねないからです。
「勉強して努力していい会社に入る」「一生会社が面倒を見る」モデル自体を、バブル崩壊後、就職氷河期の時代に大人たちが散々壊してしまったのですから、そのモデルを子どもたちに押し付けるのは酷な部分があります。

今、教育現場でも取り組んでいる部分もありますが、学力に基づいて「どの学校に行く」という進路教育ではなく、「自分が何をしたいのか」に焦点を当てた教育の仕方が必要かと思います。となると、現場の教師のみならず、社会に出ている(特にフリーで働いている)人たちの話を聞く機会を持つことも必要かと思います。
その「何がしたいのか」がはっきりしてくれば、自ずと学ぶことの意味も自分の中で腑に落ちてくるかと思います。動機付けすれば、大人になってからも「学び直す」という選択肢が社会の中で生まれるかと私は思います。
それは、社会の変化に対応できるようになるためには、必須のことだと思っています。

news.yahoo.co.jp

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180227160154j:plain山内 一輝/ライター・講演家
1979年生まれ京都市伏見区在住。2002年京都大学文学部(社会学専修)卒業後、塾講師を経て、ドイツへ渡航。帰国後は長年大学生協で下宿斡旋部門・旅行部門で勤務。当時より、ドイツ渡航の経験を生かした『Kazuのかんたんドイツ語』で、外国語や外国事情の記事を更新。現在は主に、フェイスブックやブログ『ライター・講演家 山内一輝の雑記帳』で情報発信中。