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人工知能(AI)による第4次産業革命の課題

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「シンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉が、AI脅威を象徴するフレーズとして、関心を集めている。別名「2045年問題」──。米研究者、レイ・カーツワイルが提唱した未来予測である。AIが人類を支配する転換点、それが2045年ということだ。

AIが囲碁・将棋に連戦連勝する実績を残し、シンギュラリティが現実味を帯びるにつれ、産業界も“仕事がAIに置換されていく” 未踏の新時代到来に神経を尖らしはじめている。半分は「消える仕事」との衝撃的な論文も発表された。必至の第4次産業革命の課題を追う。

www.nikkei.com

AIによる「人類破滅」説をあざ笑う専門家がほとんど

このシンギュラリティの到来には、否定的な専門家がほとんどを占める。AI研究の第一人者として知られる米アンドリュー・ング(スタンフォード大学准教授)は、「『AIが人類を破滅させるかも知れない』と心配するのは、火星の人口爆発を今から心配するようなものだ」と皮肉っている。

遠い将来、宇宙開発の進歩で人類が火星に移住するようになり、さらに火星での人間が増えすぎて“人口爆発”することもあるかも知れないが、それには気の遠くなるような歳月が必要となろう。それと同じようにAIによる人間支配は遠い未来の話、と強調したいのだと思われる。

話題のAI技術は特化型のディープラーニング

正確なAIの理解を得るために、ここで1つ話題を挿入しよう。
2016年、「アルファ碁」という囲碁ソフトが、世界トップの韓国棋士に勝ち、さらに翌17年、中国でやはり世界最強の棋士に3戦全勝したことで、話題をさらったことがある。

このソフトに使われていたAI技術はディープラーニングと呼ばれる「機械学習」の一種である。このディープラーニングは脳の視覚野の研究理論を採用しているため、画像や音声認識が得意だ。一般的には“パターン認識”と総称されている。

アルファ碁は、事前に入力された数百万局に上る過去の棋譜データなどを“機械学習”したことから、そこから「どのパターンのときは自陣が優勢か」が即座に判断できるようになっている。大量のデータをコンピュータに入力し、データの中の規則性や特徴を見つけさせる能力を持ったものだ。

2045年問題の主役、AI(汎用型)はまだ誕生していない

AIの中でも“特化型”とも呼ばれ、限定的な分野でのみ使えるものである。このことは、脳科学にベースを置くAIのパターン認識や形勢判断力がトップ棋士をも上回るレベルに到達したことを意味する。将棋AIボナンザの圧倒的勝利も同じ理由による。

これに対して人間の知能を超え人類の生存を脅かすAI、つまりSF作家、アイザック・アシモフ[注] が描いた人間を上回る知能を備え2045年問題の主役になるはずの “汎用型”AIは、実はまだどこにも誕生していないのである。
[注] 20世紀に活躍した米国SF作家、生化学者(ボストン大学教授)。「われはロボット」のモチーフとなった“ロボット工学3原則”で名を馳せた。

そこのところを明確に区別して“AI脅威論”にアプローチしていかないと、まず本質から離反してしまうことになるので、留意すべきだろう。

「消える職業」が47%という衝撃レポート

さて、2014年にオックスフォード大学が発表した「雇用の未来──いかに仕事はコンピュータ化されていくのか」が、世界に衝撃を与えている。マイケル・A・オズボーン准教授はその中で、702業種に従事している人のうち、米国では労働人口中、47%があと10~20年内に仕事を失うとしたショッキングな内容だ。

主な「消える職業」「なくなる仕事」の表をみると、企業の受付やレストランの案内係などだけでなく、会計士や弁護士助手、銀行の融資や保険審査の担当者などの知的労働や、カメラ・技術機器修理工、地図製作技術者などのこれまで長年にわたる仕事の“勘”や高度テクノロジーを要求された分野にまで及ぶのが特徴である。

gendai.ismedia.jp

特化型のディープラーニングが主役に

表で気が付くのは、一見、分野も収入もバラバラに見えるこれらの職業にも共通点があることだろう。それは仕事の中に占める「パターン認識」の割合が大きい点である。これはAI(特化型)が画像や音声を認識する能力を最大限に駆使して、いわゆるビッグデータの中から、ある種の規則性(パターン)を見出す技術である。

つまり、想定される第4次産業革命で生産システムや仕事のあり方を大きく変える可能性を秘めているのは、人間の知能・認識活動の一部を模写・習熟させ、深化させていくことにベースを置く特化型のディープラーニングであるということだ。
したがって、このパターン認識の分野では、AIはすでに人間の能力を完全に凌駕したとみてよい。これは、ある職種がパターン認識に依存する割合が高ければ高いほど、AIに奪われる可能性が高いことを意味する。

たとえば金融機関の与信審査担当者は、クレジットの・カードの返済履歴、住宅・自動車ローンの有無、日頃の消費状況などから貸し倒れのリスクを予想する。また放射線科医は「MRIやCTスキャンの断層画像」から悪性腫瘍などを示す怪しい影を見出す。これらはいずれも“パターン認識”作業に入るものだ。

第4次産業革命も「導入コスト<人件費」で進捗

企業サイドの視点に立てば、AIの導入コストが人件費との比較で、人件費を下回るならば、AIに置き換えていくのは経営意志として当然ポジティブな姿勢になる。

過去の蒸気機関による第1次産業革命(1770年代)、内燃機関や電気モーターによる第2次産業革命(1865年~)、そしてパソコンやインターネットがベースとなった情報イノベーションによる第3次産業革命(1995年~)も、つねに「導入コスト<人件費」という観点から進められたものだが、その点では、今回の第4次産業革命も同じ動機で、“AIと人間との置換”の形で進捗することになる。

企業にとっては、この特化型AIがもたらす変化のうねりをどのように自社のコア事業の中に導入し、融合させていくかが大きな課題となる。日本ではとくに著しい高齢化の進行、生産人口の減少という現実からみて、むしろ人手不足解消のテコとして、その活用・実用化は国力を一段と高めるチャンスともいえそうだ。

もちろん第4次革命の進展に伴い、「消失していく仕事」によって弾かれる人たちの雇用問題は、大きな負荷要件として社会に影を落としていくことが予想される。国としても企業としても、このハードルをどのように乗り越えていくのか、その行方には目が離せない。

日本経済研究センター JCER

待たれる日本発オリジナルな対応モデルの構築

ドイツでは、「インダストリー4.0」という名の産官学による戦略的プロジェクトを2011年から発足させ着々と推進しているのに対し、わが国の場合、率直に言っておしなべて対応は緩慢である。

総務省が設置した産官学合同の研究機関、「AIネットワーク社会推進会議」にしても、「人間に捨てられ野良化したロボットが徒党を組み、参政権を要求したらどうすべきか」といった論点提起をしているようでは、先が思いやられる。産業や企業の競争力の源泉となる“機械学習”をめぐる議論と、AIに対する脅威論との違いが十分に理解されていないことから起きる誤謬であるのに、である。

さらに、経営者に共通する根本的な誤謬として挙げられるのは、AIで生産性を上げれば企業利益に寄与してくるという錯覚にある。機械化やデジタル化というのはコストの合理化にすぎず、それ自体は新しい価値や需要を生み出すものではないのに、AIでスクリーニングすると、何か経営前進に資する価値が生じてくるとの錯誤があることだ。

ただ、少なくともディープラーニングは、既存の技術や製品の性能を飛躍的に向上させるスプリングボード(跳躍台)と約束させられる。とくにメーカーに求められるのは、モノづくりとAIとのすり合わせの体系をできるだけ早く確立することにあろう。第4次産業革命をリードする意味でも、モノづくり大国の日本として、独自の対応モデルを世界に先駆けて打ち出す心構えを期待してやまない。

iotnews.jp

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20180209143106j:plain藤沢 佑吉
1948年生まれ。昭和45年に㈱野田経済研究所 編集部に入社、平成4年に経済誌『野田経済』 編集長、同8年に編集主幹、同12年に退任・退職。平成15年㈱インタープレス編集長(常務待遇)に就任、同26年に退任・退社。『建設オピニオン』(建設公論社)、『サイクルプレスジャパン』(インタープレス)にて連載執筆経験がある。