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【電池の未来】EVの性能は電池が決める?

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EV(電気自動車)の生産が世界的に増加傾向にある。環境保護の観点や国家戦略等から、各国が将来的なEVシフトを強めていることが背景だ。
EVには加速性の良さや静寂性等の利点もあるが、コスト高以外に加えて航続距離の短さと頻繁に必要である充電回数の多さが普及のネックと言われる。
このEV性能を大きく左右する電池の未来とEVの可能性を探ってみた。

電池の歴史と日本の発明

電池の発明は18世紀末の生体神経電気の発見がきっかけだが、1800年のボルタ電池から始まり、その後は化学電池(科学エネルギーを電気に変換するもので、乾電池や自動車バッテリー、燃料電池等)と、物理電池(物理エネルギーで電気生成、太陽電池や原子力電池等)に分かれて発展してきた。

その中でも乾電池は明治時代に日本人の屋井先蔵が発明し、現在のEVバッテリーの主流であるリチウムイオン電池も旭化成の吉野彰が発明したものを1991年にSONY(6758)が初めて実用化に成功したものだ。
そして、EVの主要なパーツとして脚光を浴びている車載用リチウムイオン電池でも、日本国内メーカーの開発競争が加速している。
EV大手、米テスラの2008年EV「ロードスター」にはパナソニック(6752)製のリチウムイオン電池が6800個積載された。鉛電池に比べ軽量のリチウムイオン電池は、価格は高いがEVの航続距離を伸ばすためには欠かせない部品となっている。

EV生産加速の背景

EV生産は、一年前の時点で世界全体50万台以下だったが、20年後には十数倍以上になると予想される。
現在世界1位のテスラモーターや日産・ルノー連合、中国BYDに加え、国内メーカーや独ダイムラー・VW等も、将来のEV増産計画を発表している。背景には、EUの一部や中国のEV奨励策があり、世界各国で自動車メーカー以外の企業もEV生産に進出する動きだ。

clip.money-book.jp

EVにおける電池と関連企業の取り組み

日産リーフの航続距離延長と電池納入企業交代

日産のEV最大生産量の「リーフ」最新型は、航続距離(カタログ性能)を従来の280kmから400kmに伸ばしている。
様々な技術革新の結果だが、電池に関しては絶縁体フィルムの厚みを減らして、重量と容積を大幅に縮減したことが大きい。従来品と同サイズで、電池パックの電気容量を30KWhから40KWhまで増加するため、折りたたんで何層にも重ねた電池セルの厚みを一層当たり0.9mm増やし、間の絶縁フィルムを薄くした。

日産は、それまで絶縁フィルムを発注していた総合化学メーカーにこの仕様変更での納品を求めたが、価格等が折り合わず、別の国内メーカーに委託することとなった模様だ。
関係者の話によると、新絶縁フィルムは発注量等から考えると赤字受注の可能性が高いと言い、新型リーフの売り上げが順調に伸びない限り、これまでの様な改良方式では更なる電池改良(航続距離延伸)は難しそうだ。

evblog.nissan.co.jp

トヨタの固体電池開発

電池容積を圧縮できる電池として期待される固体型リチウムイオン電池について、従来の技術的な限界を大幅に上回る新方式の電池開発が報じられている。
トヨタ(7203)は、東京工業大学と共同でEV用に固体電池を開発中であると発表した。

固体型のリチウムイオン電池は、液体の電解質を使用せず、可燃性の電解質液漏れの心配がないので安全性も高いが、これまでの製品は液体型に比べて電気伝導率が低いため低出力だった。
トヨタは東工大の菅野教授と共同で、新しい電解質を開発した。レアアース等高価な材料も不要で、コスト減と液漏れによる漏電や燃焼の危険性も低下し、高容量・高出力も併せて実現可能と期待されている。
まだ技術的な課題はあるが、トヨタは数年以内に実車に固体電池を搭載・発売し、2030年にEV及び主役と位置付けるPHVの割合を合わせて4割まで増加させると言う。

japan.cnet.com


固体電池に関しては、日本特殊陶業が、他の無機質固体材料での電池を東京モーターショーに出品し、他にも日立造船(7004)TDK(6762)小原(6877)などの固体電池開発企業も取り組んでいる。またSONYからリチウムイオン電池事業を買収した村田製作所(6981)等も電池関連で注目の企業だ。

ホンダは「充電時間半減」電池を開発

ホンダ(7267)は、これまでEV普及のネックになると言われていた充電時間の大幅圧縮を発表した。高速道SA等の急速充電装置でも、これまで8割充電に30分要したが、これが半減出来ると言う。

ホンダは、自由な発想でイノベーションを創ろうと新設の「R&DセンターX」等の新体制を構築している。ロボットASIMOなどのノウハウをベースに、自動運転技術AIの開発も行う様だ。
これまで、世界最大のエンジン作成メーカーでもあるホンダのEV取り組みは積極的ではないとの見方もあった。
〔ホンダは約500万台の自動車エンジン、世界一位の二輪車エンジン生産、船外機、耕運機等の汎用エンジン、ホンダジェットの飛行機等で、エンジン生産量が3000万台近い世界最大の内燃機関製造企業〕

ホンダの負極(マイナス極)用の利用材開発(東芝との共同開発)による「超急速充電電池(実用充電時間半減)」は、充電時間短縮に加えて長寿命と低温体制も向上できるという。(「負極改良」については、文末注釈に記載)

さらにホンダは、これまでのハイブリッド技術を生かし、車体軽量化と電力ロスの制御技術で効率の良いモーター制御も行うと言う。(2022年発売を目途)
ホンダは、先に着脱可能な車載リチウム電池も公表しており、二輪と四輪の併用による車両購入費の低下や家庭電源利用にも利用できそうだ。

ホンダの電子技術は、国内自動車メーカーで初の電子技術のノーベル賞と言われる「IEEE」制度認定を得たこともあり、評価が高い。(小型ビジネスジェットでも、ホンダはデザイン設計のノーベル賞と言われるAIIAデザインアワードを受賞)
電子技術では、ASIMOのノウハウとソフトバンクとの提携による運転者とのコミュニケーションに「感情」持つAIを搭載する試みや、香港のベンチャー企業と共同でAIの高度運転技術開発なども進めており、今後EVの電池技術の優位性と併せての「ホンダらしい」EVが評価されるのかもしれない。

パナソニックの大型設備投資計画から見える新電池戦略

リチウムイオン電池を米テスラやトヨタ・ホンダに提供しているパナソニックは、最近1200億円規模の大型設備投資計画を発表した。(今後の受注動向を確認後に設備投資に移る計画)

パナソニックの新電池戦略には、テスラ社の低価格車「モデル3」の航続距離(344km)の生産を年間50万台まで増加させる計画に関連しているとみられる。(テスラEV販売数に比例してパナソニックからの電池調達も増加)
車載用リチウムイオン電池用の生産ライン費用は、数百億円とみられる大規模投資で車載電池での世界首位の座を守る計画だ。

だが、車載電池事業への投資時期には慎重で、新たな生産工場は既存の液晶パネル工場の改装で対応し、増産開始も受注が見込まれてからの予定だ。
車載電池生産については、中国、仏、英国等のEV奨励の動きからリチウムイオン電池需要も増えそうだが、中国や韓国の電池メーカーの増産見込みもあり、かつての半導体や液晶パネルと同様に、コストや生産体制で有利な海外勢との競争になれば利益確保が厳しくなる。

パナソニックは「走るコンピューター」とも言われるテスラ社のEVに関連するモーターや制御機器等にも興味を示し、EVの設計も含めた自動車メーカーとの交渉を行う前提として電池生産での優位性を維持する戦略と言われている。

toyokeizai.net

国内メーカーの共同開発

パナソニックは、EV車用電池開発について昨年テスラとの共同開発を終了し、最近トヨタとEV車用電池の共同開発計画を発表し、2030年に550万台体制を作ると表明した。
また、ホンダとパナソニックは共同の電池回収事業も計画し、国内メーカーがEV車用電池開発に共同して注力する姿勢もあらわれており、今後の動きが期待される。

business.nikkeibp.co.jp

日本以外のEV電池関連メーカーの動き

電池関連企業は世界的にも業績向上傾向だ。
例えば、リチウム原料等供給のECS(カナダ)、CLQ(米国)、クリーンテクホールディング等の企業、LG化学(韓国)、サムスン、BYD(中国)等の電池メーカーがEV用電池に取り組んでおり、増益基調と言われる。

LG化学の電池は米GMに、サムスンは独フォルクスワーゲンやBMW等に車載電池を供給し、BYDは自社開発のEVや独ダイムラーとの提携中だ。
電池市場は拡大を続けており、後述する各国の自動車メーカーが電気自動車市場への参入加速化に伴い成長は続きそうだ。(米ゴールドマン・サックスは、自動車用電池の電力量は2040年には2015年比136倍に増え、2025年に市場規模が1800億ドルに拡大すると予想している)

フォルクスワーゲンは、EV用に150ギガワット時の電力量が2025年には必要だと予想している。この需要は、世界全体でもスマホ向け需要が一服した電池業界にとって比較にならない大きなインパクトになりそうだ。

EV電池の開発と日本の国家戦略

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出典元:NEDO:革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発

未来の電池革新を求め、NEDO(産業技術総合開発機構)が主導する革新型蓄電池のプロジェクトは、2009年から開始(RISING)され、京都大学を中心にトヨタや日立(6501)等の国内自動車・電池関連メーカーが参加し、2016年にはリチウムイオン空気電池による飛躍的な容量拡大(現在の15倍)を目指し、第二期計画(RISING2)に移行している。

計画では、ガソリン車並みの航続距離のEV等の搭載用に「革新型蓄電池の実用化」を目標として、2030年までの蓄電池(航続距離500km、電池容量500Wh/kg)試作・実車搭載を目標に掲げている。
〔リチウム空気電池とは、負極から溶け出すリチウムが酸素と反応してできる「過酸化リチウム」が蓄電容量となる仕組み。正極のカーボンには、空孔体積が多く多孔質な、カーボンナノチューブ利用も検討している〕

電池と車の未来

将来的には、EV用電池の家庭電力と一体化した利用も考えられている。
EV1台分で一般家庭の2日分の電力を蓄えられると言う試算もあり、災害時の緊急利用や太陽光発電システム等クリーンエネルギーとの連動も考えられている。

日本の世帯当たり自家用車保有台数は1.06台と言われ、将来的なEV普及は自家用自動車の利用方法自体にも新しい提案が出てきそうだ。
IOT家電を含む「スマートハウス」の展開に、非常用電力や外出先での連動等、様々な利用シーンが広がりそうなEVとの連携が生活スタイルに新しい価値を生むかも知れない。
こうした普及の前提には、現状よりも飛躍的に出力、蓄電量の大きな車載電池の開発が必須となる。また、車載電池にそうした能力が生まれることがEVの新たな付加価値となり、普及も一段と進むのかも知れない。

注:リチウムイオン電池の出力増加について

リチウムは、元素の中では最も低い電極電位(-3.03V)を示し、金属元素中で質量が最小という性質があり、小型軽量かつ起電力が高い電池が出来る。しかし、金属リチウムには水と反応して水素を発生する性質もあり(爆発危険性)、非水溶性の電解質との組み合わせが必要となる。
また、自動車用のリチウムイオン電池の出力増には、負極(マイナス極)から正極(プラス極)へリチウムが移動することで電流を発生させるため、負極の素材にはより多くのリチウム原子を蓄えられる材料が求められる。例えばシリコンはその点では優れているが、自動車用電池の様に千回を越える充電と放電の通常利用のサイクルに耐えられる負極(充電の度に膨張する)に使用するには変形が多く難しい。
このような問題から、EV用電池の改良に様々な合金等や新たな技術の開発競争が激しくなっている。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。