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AIの進化と量子コンピューター

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自動運転、スマートスピーカー、家電のIoT化によるネットワーク利用等、最近話題の技術に大きな比重を持つのがAI(人工知能)の高性能化だ。急速に能力は向上しているが、まだ人間の認識や判断を代行できるレベルにはほど遠い部分が多い。
こうした課題を解決する方法の一つとして期待されているのが、量子コンピューターの登場だ。実用化されている量子コンピューターの内容と今後のAI高度化に寄与する可能性、進化するAIが開く未来についてまとめてみた。

量子コンピューターの実用化

これまでも、実験的な量子ビットの計算素子は作られていたが、コンピューターとしての実用化はかなり先の話と考えられていた量子コンピューターが、ベンチャー企業(カナダ籍)が開発したD-WAVEの実用化で現実のものとなった。
D-WAVEは「組み合わせ最適化問題」という特殊な用途に限定された量子アニーリングという方式のコンピューターで、そのままAIになるわけではない。
しかしNASAやGoogle、大学や研究機関等が運用開始しており、マイクロソフト等多くの企業が量子コンピューターへの投資を拡大中で、世界中の量子コンピューター研究が加速し始め、いずれAI進化にも寄与出来そうな状況だ。

量子コンピューターの仕組み

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ascii.jp

現在実用化されている量子コンピューターは、量子アニーリング方式といった、これまでの汎用的な用途に使える一般のコンピューターとは異なる特定用途に特化したものだ。
D-WAVEは1㎝平方程度の量子ビットと呼ばれる素子が約二千個入ったチップが心臓部となっている。

通常のコンピューターは、最小単位であるビット(0か1の値)の組み合わせによる二進法処理の積み重ねでプログラムされた仕事を処理する。これに対して、量子ビットは、0と1の両方の値を同時にとる。
1量子ビットは、[0と1]の2つの可能性を同時表示可能なので、2量子ビットは4つ、3量子ビットは8つと指数関数的に増加する。

多数の量子ビットが並列処理出来れば、膨大な組み合わせが利用でき、スーパーコンピューター(スパコン)では不可能な超並列計算が原理的には可能となる。
量子アニーリング方式のコンピューターはその原理の応用で造られており、組み合わせ最適化問題の高速処理が可能となっている。

組み合わせ最適化問題を量子アニーリングで解決
(巡回セールスマン問題の解き方)

巡回セールスマン問題

巡回セールスマン問題とは「セールスマンが多数の都市すべてを一回訪れ、出発地に戻るまでの経路のうち、最小移動距離のもの」を求める問題だ。
組合わせ最適化問題ではよく出る課題だが、現在の最速スパコンでも一定以上の組み合わせを越えると、最適解(最も優れた解答)を得るのが非常に困難な課題だ。

仮に都市の数をNとすると、訪問経路の総数はN!/2Nとなる。
都市の数が少なければ、全組み合わせの調査を行って経路比較により最短経路が算出できるが、数が大きくなると組み合わせ総数が等比級数的に急増し、計算が事実上不可能になる。
10都市訪問では組み合わせ総数は約18万通りだが、30都市の場合には4.42×10の30乗通りになり、最速スパコンでも計算に250000億年以上も必要だ。
だが、量子アニーリング方式の量子コンピューターでは、飛躍的に早い速度で計算が可能となった。

jbpress.ismedia.jp

量子焼きなまし法による最適解の求め方

最適化問題とは、極端に単純化すれば無数の同じ面積の穴が開いた地面において、どの穴が一番深いかを知る方法に近い。
量子ビット回路において横方向の磁場を強めて全重ね合わせ状態にすれば、すべてが等確率で出力されるが、磁場を弱めてゆくと量子効果が強くなり、各状態間のトンネル効果(状態遷移)が起きやすくなる。(量子効果の変化をコントロールし、最終的に、最適解の位置を示すことが出来る)

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画像参考元:quantum.fixstars.com

穴の開いた地形の断面図を見ることが出来れば一目瞭然なのだが、これを地表面で探し正確にすべての深さを知るのは難しい。同様に、コンピューターの調査方法ではすべての穴を比べてランク付けする様な計算方法が一般的なので、比べるべき状態等の数が増えるにつれて計算量が急速に増加し、超高速マシンでも事実上回答不可能な問題となる。
しかし、量子コンピューターは、離れた穴の間でも上図のように量子トンネル効果(横方向の磁場により量子ビット間の相互作用がない初期状態【ぜロ】から次第に磁場を弱めれば、エネルギー状態によりすり抜けが起こり、壁があっても一番低い場所へ移動可能)で、最終的に一番深い穴に残った水の場所を知ったかの様に最適解を短時間で知ることが出来る。
※「量子ビット」「巡回セールスマンの最適ルート」「量子トンネル効果」等については、『量子コンピューターが人工知能を加速する』日経BP社刊、西森秀稔・大関真之共著を参考に詳述した。

量子アニーリングの「アニーリング」は、金属鍛錬の際の過熱と冷却の繰り返しで金属分子を均等化する「焼きなまし法」が、数学的に似ていることからつけられた。簡単に言えば、量子アニーリングコンピューターはプログラムされた計算法で答えを出すのではなく、特定の問題(例えば巡回セールスマン問題)に対する解答(又は近似的解答)を表示出来るコンピューターと言える。

AIの進化に必須である人工知能の機械学習

AIの高度化には、ディープラーニング(画像認識等の分野での機械学習)が必要とされているが、この機械学習効率を量子コンピューターで急速に高度化出来る可能性がある。
問題解決に必要な要素判断の変数選択やある種のパターン認識(データのグループ判別のクラスタリング)等の機械学習は、量子アニーリング型コンピューター利用法の延長線上で可能で有効な使い方と考えられ、より高度なソフトウェア開発が進められている。

組み合わせ最適化問題では、ゴールが分かっていて最適な道順等を調べるために、量子ビットの相互作用や横磁場調整により結果を得ることが出来る。
しかし、機械学習のディープラーニングでは総合的認識による学習高度化が求められる。解答結果は判っていても解き方が不明の問題解決には、量子ビット数の増加が必要(自動運転には2万個必要)と言われており、まだ実用化されていない。

現状では、技術的制約が大きい量子ビット数の急拡大は難しいのだが、ソフト面等の改良で量子コンピューターの可能性を拡げる動きもある。
巡回セールスマン問題も含め、従来処理速度の点で不可能だった問題のいくつかに改良ソフトウェア(解決プログラム)の開発が多方面で進められている。
また、医療や宇宙論分野で使われている「スパースモデリング数式」(データのばらつきや、データ不足に対応できる数学的外挿法、予測手法)の導入で、例えば考古学で欠落の多い古文書解読にスパースモデリングを応用し、関連データベースとの相互参照可能な量子コンピューターとAIの利用が有効ではないかと言われている。

また、AI進化に重要な要素であるニューラルネットワーク(神経細胞組織)信号への重み付けと関連付けに、量子アニーリング上の量子ビットの相互作用の強弱と入力と出力関係の調整(相互作用の強弱=重み付けの調整・繰り返し)が応用できるのではないかと言われ、関連ソフトウェア開発が行われている。
問題の解決に必要な相互作用が分かれば、人間が無意識に行っている思考・学習に近く、人工知能の「知能」レベルの向上につながると思われている。

これからの量子コンピューター

そもそも、現在実用化されている量子コンピューターの概念は、20年ほど前に日本で西森東工大教授らが最初に発案した原理で造られており、ハード部分の超電導利用の量子ビットはNEC研究所において日本人を含む研究者達が最初に実現したもの、量子ビットの磁束測定技術も同様だ。残念な事に、これらの発案から夢の技術と言われた量子コンピューターを実現する環境等が日本になく、米国(カナダのベンチャー企業)にはあったということになる。

だが最近、日本独自技術による量子コンピューター開発が各種メディアで報道されている。
国立情報学研究所や理化学研究所(理研)、NTTなどは、内閣府の研究支援制度「革新的研究開発推進プログラム」を使い量子コンピューター試作機を開発し、2019年度末までの実用化を目指し、無償の利用サービスを始めるという。

www3.nhk.or.jp


開発されたのは、光ファイバーとレーザー光を組み合わせた、量子的振る舞いをする光子(フォトン)利用の独自量子コンピューター方式だ。
試作機の計算速度は、理研内の小型スパコン比で平均約37倍速く、特定の計算では、D-WAVEよりも正答率が大幅に高い。電力消費もスパコン京の1万数千KWに対し、1KW程度という。さらに、極低温が必須なD-WAVEマシンとは違い、常温で使用可能な点が大きな利点かも知れない。

新機種の対応ソフトウェア開発に必要な専門家が不足しているため、試作機の段階で企業や研究機関に量子コンピューターを提供し、利用で得た情報等の技術開発等へのフィードバックを期待している。サービスはウェブ公開し、世界中の利用者が無償で利用可能だ。
さらに、量子ビット特有のエラー訂正の仕組み「量子誤り訂正」についても、東大の大学院工学院研究科光量子科学研究センターの研究グループが通常のPCでのシミュレート方法を発表している。
国立情報学研究所の量子コンピューター研究チームは、東京大学と共同で量子情報研究者のネットワーク「Qulink」を運営し、セミナーも定期開催している。
日本での量子コンピューター技術開発も、今後かなり期待出来そうだ。

www.nii.ac.jp

AI用途の拡大

新規医薬品の開発に欠かせない大規模構造分子の解析、診断に使うCTやMRI画像の解析(速度、専門医級の正確度)には、すでにAIの実用性が示されているが、今後医療データの収集と診断への応用も進みそうだ。

また、個人の特性・体調・身体情報等に合わせたヘルスケア方法の提案や体調だけではなく、トレーニング経過や気温や湿度等の環境情報も総合的に判断して提案できるAIスポーツトレーナーも可能となる。
多岐分野にわたる法律分析や膨大な数の判例検索・類似事案等の列挙、特徴拾い上げも、AIの得意分野となるだろう。(関連する項目を検索し、必要な情報をピックアップするには、法令関係の各種データベース横断検索がネックだった)

金融分野では、複雑なポートフォリオ構成の最適化(最小リスクで最大のリターンを得る組み合わせの発見)には、金融商品の相互の関連もあり、為替や株式、商品市況など複雑な相互作用のある投資商品の選択に有効と思われ、すでに利用を開始している投資会社もあると言われる。

量子コンピューターが普及し、AIからの問い合わせ利用が可能になれば、セールスマン問題の解決を物流分野に具体的に応用することも期待できそうだ。人材不足に悩む物流業の課題解決には、自動運転等の配送機器に加え、量子コンピューターでなければ作成できない効率的な運送経路(交通状況データにより適宜修正する)が常態となるかも知れない。

また、AI利用とは別に、全世界のIT関連の電力量はすべての発電量の1割相当に達し、今後も割合の増加が電力事情のひっ迫や環境面から心配されている。この問題には、スパコンより圧倒的に電力消費の少ない量子コンピューターの汎用化とAI連携も省電力に有効だろう。 

「こんなこともできますよ」という、意外な新用途やイノベーションをAIが提案する日が来るのかも知れない。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。