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宇宙ビジネスの可能性と課題

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今、宇宙ビジネスが注目の分野だ。夢やSFの世界と思われていた宇宙旅行に加え、宇宙発電・送電など多くの宇宙関連ビジネスに可能性が広がり、宇宙ビジネスへの注目度が高まっている。
大手企業も参入を始めた宇宙ビジネス実現の可能性や現状・課題について、紹介したい。

始まっている宇宙ビジネスの取り組み

宇宙ビジネスで最近注目が高まっている技術が宇宙発電(送電)だ。
地球上空36000キロの静止衛星に展開した大型太陽光パネルで、24時間発電を行いマイクロ波等で地上に送電する計画で、原発1基に相当する100万kwの発電能力が考えられている。実現には多くの課題があり、具体的な建設はかなり先の話だが、この宇宙発電開発過程で進められてきた無線送電技術開発の具体化、実用化が視野に入ってきた。

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京都大学の篠原真毅教授(マイクロ波応用工学)が進めている無線送電技術は、宇宙発電経過の一環で始められたが、現在は家電分野等の「ワイヤレス給電」(センサーの遠隔充電を可能にし、室温等も測定)実証実験が自治体の協力を得て開始されている。
このシステムの実用化により、電池なしで介護や子育て等の見守り可能なセンサーシステムが期待される。

既にパナソニック(6752)との共同開発により、送電装置から発信したマイクロ波を受信(5ワットの電力に相当)した室内のセンサーで、マイクロ波から電気への変換が可能になっている。センサーの人体装着実験も計画されており、並行してワイヤレス給電を利用した電動アシスト自転車充電の運用実験もあり、無線送電の様々な分野での利用が実現化に向けて進んでいる。

この他にも、宇宙ビジネスでは民間宇宙旅行の取り扱いが開始され、日本での予約者も増加している。
また、宇宙開発に関連して、過去の人工衛星等の破片が残るスペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去計画も具体化が始まっている。
さらに、宇宙での研究等を利用した生命科学(医学)分野への応用や、各種素材開発成果の利用による素材革命は、かなり以前から進められている。その中でも、最近活発な動きが見えるのが、ベンチャー企業を含む中小企業による新分野での宇宙ビジネスだ。

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ベンチャー企業が手掛ける宇宙ビジネスへの大手企業参加

ソニー(6758)は、これまでも宇宙分野では、JAXA(宇宙航空研究開発機構)との共同取事業で、同社製デジタルカメラ等をISS(国際宇宙ステーション)に提供していた。
最近では自社イノベーションファンド経由で、宇宙ベンチャー企業のインフォステラ社へ約100億円の出資を決めた。

インフォステラは、人工衛星の地上通信用アンテナ共有により時間貸しするサービス展開を行っており、ソニーの無線通信技術の優れたノウハウにより製品品質向上や事業拡大が見込まれている。背景には、人工衛星が取得したデータ利用需要増大に対し、データ受信する地上アンテナ不足に対応する必要性があり、同社は独自機器の開発資金調達でアジア・アフリカ等への利用拡大を図る模様だ。

ソニーに加え欧州エアバス社も出資し、エアバスはNASAのリサーチャーだったピノーを取締役に送り、インフォステラの技術によって、衛星運用会社の通信回線確保に利用したい考えだ。
また、ANAホールディングス(9202)等はシンガポールのベンチャー企業アストロスケール社に対し、スペースデブリ(宇宙ゴミ)除去事業に28億円を出資し、さらに宇宙旅行ビジネスを手掛けるベンチャー企業PDエアロスペース社にも投資している。将来の有人宇宙飛行等の「宇宙輸送事業」参入も念頭において、安全な輸送技術へのノウハウ取得が狙いのようだ。
旅行業大手のエイチ・アイ・エスもこのPDエアロスペースに出資し、将来的な宇宙旅行サービス販売への布石を開始した。

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このように、幾つかの大手企業は、自社単独事業に比べれば少額で済む宇宙ベンチャー投資で、宇宙関連事業関連の最新の情報を得るとともに、将来の新規事業展開と自社事業との相乗効果を狙っている。宇宙関連技術は広範で高度であり、自社開発よりは共同事業でノウハウを活かす方向が効果的と判断しているのだろう。

宇宙ビジネス関連企業の可能性

経済産業省製造産業局宇宙課では、従来から手掛けられていた人工衛星の効率運用や宇宙からの資源探査などの事業に加え、ハーパースペクトルセンサ開発や宇宙からの無線送電等も今後の重点目標としており、今後の宇宙関連事業へ投資が活発化する可能性が高い。

米国では、SpaceX社が行った1000億円調達事例のように、世界中で宇宙投資の規模が拡大している。
日本で宇宙ビジネスを手掛ける企業は、月面走行車や人工衛星、ロケット等の機器製造の中小企業が多かったが、最近では宇宙利用関連事業からのスピンオフ利用が広がりを見せており、こうした側面が注目されている。

例えば、話題になった小惑星探査から帰還した「はやぶさ」で使用された全方向サスペンション(板バネを球状に組み合わせたスプリング)を提供した松田技術研究所は、免振装置や車いすの振動抑制車輪などに技術応用を進めており、医療用熱遮断保管装置など高度の技術力が注目されている企業だ。

同じくはやぶさで採用された、小惑星への着陸装置射出用のバネを製作した東海バネ工業は、昭和19年創業の老舗中小企業だが、その高い技術力とあらゆる少量受注生産に対応できる多様な設計・企画力等を評価され、経産省の2008年の「中小企業IT経営力大賞」を受賞している優良企業だ。(同社は多品種微量に特化して、大手企業との価格競争の無い、同業他社に比べて高水準の売価が維持できているという)
同社が開発中の超軽量高伸長バネは、スペースデブリ(宇宙ゴミ)除去衛星での搭載利用が期待されている。

この様に、従来からの宇宙関連機関や大手の機器メーカー、これまで衛星通信や衛星放送をビジネスとしてきた企業に加えて、宇宙ビジネスへのベンチャー企業や投資家、異業種企業などの参入が増加傾向だ。

KDDI(9433)は、グーグル等が行うロボット月面探査レース「XPRIZE」に挑むISPACE社「HAKUTO」の通信技術支援を行うとしてパートナー契約を締結し、月面探査ロボットの通信システムの共同開発を発表している。
民間ロボット探査機を月面着陸させ500m以上走行し、高解像度画像を地球に送信するミッションには、3000万ドル(最速チームに2000万ドル)の賞金が贈られ、現在HAKUTOを含む5チームがレースに残っている。

www.asahi.com


他にも、超小型衛星の開発等のアクセルスペース社、スペースデブリ除去衛星を手掛けるアストロスケール社等、多くのユニークで存在感があるベンチャー企業が出てきた。
米国では、宇宙ベンチャー企業が毎年50社程度も起業すると言われる。日本国内での宇宙ベンチャー調達額はまだ80億円程度だが、世界全体では市場規模拡大中でロケット関連企業等の約20兆円に新規分野の宇宙企業を加えれば、宇宙関連企業の資金調達は30兆円にも上るいわれる。

また、以前は国家機関主導だった人工衛星のデータ利用も、リモートセンシングなどの分野に多くのベンチャー企業がデータ収集・解析、利用等の事業を具体的に進めている。
例えば、準天頂衛星「みちびき」の軌道投入で可能になった精細な位置導入システムは、衛星を製作した三菱電機(6503)等の企業により、自動運転や耕作など様々な分野への利用が加速している。宇宙ビジネスから新たなイノベーションが生まれることも期待できそうだ。

宇宙ビジネスの課題

こうした宇宙ビジネス分野の発展はこれからも加速し続けると思われるが、具体的に収益に結び付いている事業はまだ多くはない。
こうした状況下で、研究開発中でも上場等の資金調達手段が多い製薬ベンチャー等とは異なり、宇宙事業そのものの成否には(可能性は非常に高いが)未知の部分が多いため、宇宙ベンチャー企業の大半が未上場だ。

当面は株式市場での調達よりも、ベンチャーキャピタルや海外企業・大手企業との提携、クラウドファンディング等複数の資金調達手段による、事業収益発生までの開発資金等の確保が課題になりそうだ。
宇宙事業のニーズは今後も拡大を続けると思われ、将来的に活発化する旺盛な資金需要の行方と新規事業の立ち上げ状況や新分野誕生には特に注目していきたい。

日本の宇宙ビジネス関連企業一覧
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出典:industry-co-creation.com

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。