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米次期FRB議長人事で今後の為替はどうなるか

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トランプ米大統領は、2018年2月までの任期となるFRB(米連邦準備理事会)イエレン議長の後任人事を2~3週間以内に最終決断すると発言した。現在、パウエル理事、ウォーシュ元理事、コーン国家経済会議(NEC)委員長らの候補に加え、イエレン議長の再任も含めた議長人事だ。
間もなく明らかになると思われる次期議長指名によって、米国の金融政策と為替相場の行方を考えたい。

FRB議長とは

米国では、主要都市の連邦準備銀行を統括した連邦準備制度理事会(FRB)が実質的に中央銀行となっている。
FRBは政府機関だが、独自の予算と人事権を持ち、中央銀行としての独立性を保っている。
理事任命者である大統領に対しても強い独立性を持つのがFRBの伝統的な姿勢であり、理事の任期は14年と長く、FRB議長の任期も4年であるため、議長は「米国大統領に次ぐ権力者」とも言われている。
理事会は7名の理事で構成され、理事及び理事の中から選出される議長と副議長が上院の助言と同意をもとに大統領により任命される。

議長人事の決定

トランプ米大統領は9月末に「FRB議長の人選については、今後2~3週間内に最終決断する」と発言している。
ハト派(金融緩和、金利低下に寛容)色の濃い議長か、タカ派(金融引き締め、金利引き上げ志向)の考えを持つ議長が選出されるかで、米国の金融政策は大きく異なると思われ、議長人事は世界経済の行方にとっても大きな決定として注目されている。

議長選任は議会の助言を受けることとなっているが、実質的にはトランプ大統領が選任した指名者を議会が承認する流れとみられている。ただし、人選によっては議会の反対も考えられることから、指名イコール議長決定となるかどうかは微妙な情勢だろう。

議長候補について

主なFRB議長候補は下記の通りだ。

ゲーリー・コーン

コーンは、金融企業大手のゴールドマン・サックスでコモディティ業務の責任者、債券・為替・コモディティ部門(FICC)のマクロビジネス統括、株式部門の共同責任者等を経て、2006年に社長兼共同COOであったが、トランプ政権で、経済戦略の司令塔となる国家経済会議(NEC)議長に就任した。
ゴールドマン・サックスの実質的なナンバー2で、最高経営責任者の一歩手前という彼の経歴・能力は、現財務長官のムニューシンより実力は上といわれる。

最近発表された税制改革案作成の中心人物だが、法案は今も詳細検討中であることから、少し前まで有力視されていた議長就任の可能性は低くなったと噂されている。
依然として中枢スタッフ等は人材不足で、コーン自ら事務作業まで行いながら複数の職務を担っていることもあり、この様な負担は過重すぎるのでコーン辞任を心配する声もあったくらいだった。

さらに、大統領の白人優越主義的発言には批判的で、現時点の議長指名可能性はかなり低いと言われる。しかし、ムニューシン財務長官との微妙な上下関係と経済政策立案の山場はすでに越えたとの見方から、逆に大統領の経済政策を円滑に運営しつつ、政権内不一致を見せないために政権から距離を置ける位置であるFRB議長就任するというメリットから、指名可能性が残っているとの声もある。

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ジャネット・イエレン

第15代FRB議長(2014年~現在)で、2018年1月までの任期を残している。FRB史上初の女性議長であることで注目されたが、経済学者としての評価も高く、穏健なハト派としてFRBのかじ取りを大過なく勤めてきた。(トランプ大統領も「イエレンを尊敬している」と評価しており留任説の根拠ともなっている)

クリントン大統領の下で経済諮問委員会委員長となり(1997~9年)、サンフランシスコ連銀総裁、FRB副議長を歴任、FRB議長に就任した。
議長としての能力・実績にはあまり問題がなく、金融制度改革派でもあるので、大統領の積極的経済政策実現に合致する人物としての議長再任説も根強い。
副議長のフィッシャーと同じユダヤ人であることも、ユダヤ系勢力の強いトランプ政権では支持を得やすい要因だ。ただし、彼女が推進する規制改革法案については共和党の反対もあり、議会同意での波乱も考えられる。

ジェローム・パウエル

ブッシュ(父)政権で国内金融担当の財務次官補と財務次官を歴任し、その後プライベートエクイティ大手のカーライル・グループ共同経営者となったが、2012年にFRB理事に就任し、再任されている。(現任期は2028年1月)次期議長候補者の中では、一番のハト派と目されている。

FRB理事会の議事録での「(現状の)インフレ率は既にこの範囲内(想定)に入っている」との発言や「利上げはゆっくり進めるべき」等からイエレン議長支持の姿勢が見える。また、規制緩和についても金融規制改革法(ドッド・フランク法)の改革を支持している。

「ボルカー・ルール」(銀行の自己勘定取引制限)の見直しが持論で、銀行のストレステスト(健全性審査)の質的な点検は終了してもよい時期だと発言しており、寛容な規制を求めている。
候補者の中では唯一の共和党員であり、ムニューシン財務長官も推していると言われ、議長指名について議会の承認は得やすいと考えられている。

ケビン・M・ウォーシュ

最近トランプ大統領との面談も行い、次期議長の最有力候補を言われ始めたウォーシュは、FRBの元理事で理事退任(任期終了)後、スタンフォード大フーバー研究所客員研究員となっている。過去には、金融大手のモルガン·スタンレーの会社合併・買収部門の担当副社長兼専務であった。

また、妻が化粧品大手企業エスティ・ローダー創業者の孫で、トランプ一家との交流があり、義父は大統領の友人とも報じられている。ウォーシュはその持論から、タカ派と目されている。

FRB理事時代には、より積極的な利上げを支持している発言がみられた。例えば、「FRBの物価目標を現行の2%から1~2%に変更すべき」との発言がある。
政策スタンスが引き締めに偏った「タカ派」として、FRBの低金利政策を批判したこともある。
年齢が47歳と候補者中最も若く、過去には持論がいれられず理事を辞任したこともあり、ウォーシュ氏が次期議長になればFRBの政策スタンスが大きく転換する可能性が高い。

大統領の低金利志向とは反対の考えであり、コーン氏同様に経済学者の側面は少ない実務家であること等から、議長候補との報道に驚きの声が上がった。
しかし為替相場は大きくドル高に振れ、前述した様に大統領との人的なつながりがトランプ政権の人事には大きな要素であること等から、現時点では次期議長の本命と見られている様だ。

ジョン・B・テーラー

すでに、コーン氏を除く3人に絞られたと言われる議長人事だが、ダークホースとして未だに一部で噂されているのが強硬なタカ派と目されるテーラー元財務官だ。

2001年から約4年間財務次官であったテーラーは、成長率とインフレ率の関係に注目した中央銀行の利子率決定方式「テーラー・ルール」を提唱した学者として名高く、実務家としても評価が高い。テーラー・ルールとはFRB以外の主要各国中央銀行でも実務者が参考にしている方式だ。

政策運営にはルールが必要だと金融当局の大幅な自由裁量を批判し、伝統的な資産購入等の政策には効果がなかったとも発言している(2017年初めにFRBの利上げは「やや遅かった」とも批判)
仮に、テーラー・ルールに基づく金融政策を厳密に適用した場合、政策金利は現イエレン議長の場合より高めになっていたはずだ。

また、テーラーは規制削減が成長促進策のキーポイントと言及しており「規制改革や税制・予算・金融改革で経済の足かせを外すべき」も言っている。
テーラーは、ブッシュ政権(父)の経済諮問委員会スタッフを経て、ブッシュ大統領(子)の下では国際担当の財務次官だった。

トランプ大統領が唱えるGDP3%成長論に、テーラーの議長起用はマイナス要因だが、規制改革という点では最も意欲的とみられ、テーラー起用があれば経済政策に関する大統領の本音が見えることになるかも知れない。ただし、経済界での実績には乏しく、タカ派というだけではなく強硬な改革派であることから、仮に大統領の指名があっても議会の反対は避けられないと見られ、議長就任説は今の所有力ではない。

www.bloomberg.co.jp
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FRB議長決定時の為替

次期FRB議長は金融政策のかじ取りを担う重責であり、その人選は大きく金融政策に反映すると思われている。大きく分けると、イエレン議長再任あるいはパウエル理事選任の場合は、基本的に現行の金融政策が踏襲され、決定時にやや円安に振れても、結果的に大きな変動はないと思われる。(パウエルであれば、ドル安傾向はやや強いだろう)

逆にタカ派のウォーシュ元理事やテーラー元財務次官らが選定されれば金利が急上昇し、大きくドル高に振れる相場が予想されるが、議会承認のハードルが高くその過程で一端はドル安に戻る等乱高下の可能性もある。
具体的な金融政策については、両氏とも不明確な部分があり、決定後の発言によってさらに金利や為替相場が大きく動くことがあるかも知れない。

コーンNEC議長については、ハト派であると言う明確な根拠はないが、現政策を支持していることから現状の金融政策を追認してゆくと考えられており、イエレン議長同様の穏健なハト派と目されている。
コーンのFRB議長就任はハト派理事の再任と同様な政策が期待され、議長指名が大きな為替変動要因になるとは思えない。
ただし、コーンが政権から離脱することは、経済政策だけでなく政権基盤にも影響をもたらす可能性があり、この点で議長選任過程に混乱が見えた場合、市場や経済に一時的な波乱が起こることにも注意したい。

議長人事決定後の為替相場予測

トランプ政権の経済政策は、減税法案の発表によってようやく前進しつつあるが、減税財源等を巡る議会との対立やスタッフ不足による実務の遅れもあり、先行き不透明な状態が続いている。
こうした状況下でFRB議長人事が波乱なく速やかに決定すれば、金融政策の推進だけではなく、米政権の実行力評価にもプラス影響がありそうだ。

議長人選によっては、金利や為替相場に大きな変化が生まれる可能性もあるが、同時に議長選任の理由や選出過程、議会同意を経て就任するまでの経緯や指名された次期議長の発言なども、大きな為替変動の要因となる可能性もある。
大きな為替トレンドと小波乱を区分し、今後の関連トピック等にも留意して展開を注視してゆきたい。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。