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EVの未来 ~自動車産業への光と影~

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自動車メーカーのEV(電気自動車)シフトが加速している。
中国や欧州諸国の法規制を追い風に、内外を問わず各自動車メーカーは相次いでEV生産の拡大を発表しており、時代は電気自動車に向かいつつあるように見える。だが、その背景には様々な思惑もある様だ。自動車のEVシフトの情勢と背景、今後予想される動き等を考える。

EV自動車とは

国立環境研究所によれば、EVとはバッテリー(蓄電池、二次電池とも呼ばれる)に蓄えた電気をモーターに供給し、走行のための駆動力を得る自動車のことで、走行時に大気汚染物質を全く出さないため、低公害車と位置づけられている。また、走行騒音の低減にも注目されている駆動方式だ。

ただし発電に占める化石燃料比によるが、EV使用によってCO2排出量が地球全体として増える場合が多く、モーター・蓄電池の性能が飛躍的に上がらない限り、当面は環境負荷が低い駆動方式とは言えないと指摘されることもある。

バッテリーはEVの性能を大きく左右する要素となっている。
満充電1回当たりの走行可能な距離(航続距離)はバッテリー容量に左右され、現在は高効率で高速充電可能なリチウムイオン電池が比較的軽量であることもあって主流となった。
EV駆動は、バッテリーの直流電流をコントローラーで交流変換し、モーターで速度変更する方式が主力だ。さらに、減速時に運動エネルギーを電気に変換して電力回収することで航続距離を延ばしている。

半導体を多用したコントローラーやアクセル・ブレーキ等の運転制御を含め多数の電子機器が使われている。EVの充電には、家庭用交流電源使用と共通規格の急速充電用プラグを利用する2方式があり、PHV(プラグインハイブリッド車)や一部のEVでは両方式が利用できる。

EV普及の課題は、家庭用電源の供給電力に上限があるため満充電に少なくとも数時間が必要で、30分程度で実用充電可能な急速充電器は大電流を取り扱うため、厳重な安全対策が必要であり設置場所の増設に費用と時間がかかることだ。

www.meti.go.jp

EV生産拡大の動き

2016年には世界全体で50万台以下だったEVだが、20年後には十数倍の規模になると予想されており、今後の各国の取り組み姿勢によってはさらに台数増加は加速すると言う予測もある。

独ダイムラー社は、2022年にベンツ等10車種のEV化を実施し、同じく独VW社は2025年までに50車種のEV発売を発表している。
国内勢も、トヨタが2019年、ホンダが2018年にEV発売を予定し、先行する日産はEVのリーフのモデルチェンジと2022年度までに12車種のEV発売の計画だ。最近話題になったトヨタ・マツダ・デンソーの3社提携もEV拡大をにらんだ戦略と言われている。

世界的には、EV生産1位のテスラモーター、2位の日産・ルノー連合を、第3位の中国BYDが猛追しており、中国市場でのEV展開が普及拡大の鍵になりそうだ。
その背景には、中国のEV奨励策がある。以前からの奨励策をさらに進め、自動車の生産・輸入について一定割合をEV等の排ガスのない車種普及に向けた新規制を発表し、2019年に開始予定だ。

現在の中国でのEV比率は、自動車販売台数約2800万台の1%程度だが、それでも多額の購入補助金や走行規制の免除等の奨励策によって、現在は世界のEV販売の過半が中国市場での販売となっている。(ただし、中国EV販売上位9社がBYD(比亜迪)等の中国企業生産車)

欧州でも、英仏両国は2040年以降にガソリン・ディーゼル車の販売を規制すると発表し、オランダやノルウェーは同様の規制を2025年までとさらに厳しくしている。ドイツにも同様な規制制定の動きがみられる。

中国では、EVメーカーが400台充電可能な充電タワービルを建設する等、大気汚染の深刻化を受けて、急ピッチでEV推進の動きが広まっている。こうした動きから、世界各国で既存自動車エーカー以外のEV生産進出や関連部品等の対応も加速化しつつある現状だ。

diamond.jp

EV推進の背景

この様な急速なEV化進展の背景には、排ガスのないEV推進によって大気汚染と化石燃料の減少が普及促進の狙いだと一般に説明されている。

だが、EV化を進める各国には、別個の思惑も見え隠れしている。
最も積極的な中国には、自国の自動車産業が先進諸国に比肩した成長達成のために、技術蓄積と関連産業の広いすそ野が必要なガソリン車等より、比較的構造が簡素で高い技術力が無くても生産可能なEVを自国産業の柱にしようと言う戦略があるという見方が多い。
欧州についても、フランスは食料以外で最大の輸出産業である原子力発電技術を広めたい意図も強いと見られる。

一方、EU内最大の自動車生産国ドイツは、再生可能エネルギーによる電力割合が25%を越え、2050年には8割を再生可能エネルギーで発電する計画がEV化を後押ししている。
それに加え、自動車産業については、VW社等が環境対策として中心に据えていたクリーンディーゼル車が排ガス不正問題で事実上撤退に追い込まれ、EVシフト以外に選択肢がなくなっているのが実情だ。(フランスも伝統的にディーゼル車生産に強みを持っていた)

欧州各国にとっては、技術的に対応が困難なハイブリットガソリン車や高コストの燃料電池車よりは、EVシフトの方が現実的な自動車産業生き残りの選択肢であるのだろう。

環境問題とEV

EVは走行時に排気ガスが発生せず大気汚染や環境問題への対処に有効と言われているが、現在の発電や走行効率では化石燃料利用の発電の場合にはトータルで、CO2削減にはかえってマイナスになるのは前述の通りだ。現時点で、CO2発生などの環境負荷を最も減少出来る車種は、ほとんどの国においてハイブリッド車、PHV等の様だ。

究極の環境対策は、水素燃焼による燃料電池車(FCV)だとも言われる。
航続距離が長く、必要な水素作成原料は無尽蔵であり、燃焼後は水しか発生しない燃料電池車だ。
しかし肝心の燃料である水素製造には、EV同様にエネルギーが必要であるのでCO2発生問題も残りそうだと言われる。

さらに、水素ステーションの様なインフラ整備が必要なEV同様のデメリットもある。
将来的には、人工光合成での水素変換も実験的には達成されており、環境対策としてはハイブリッド車が現実的な解決という実情は当面変わらないだろう。

未来の自動車産業と日本企業

実際には前述した多様な思惑も含め、EVシフトは世界的な趨勢になりつつある。
この場合、EVには大量の配線使用による銅やレアメタルの需要や各種電子部品採用による半導体や新規部品需要、リチウム電池等の様々な関連製品の需要増加が期待される。
だがその一方で、複雑で高度なガソリンエンジン生産に関わる部品産業の衰退が懸念されている。

日本の自動車産業においては、自動車関連部品企業の従業者は約550万人、全労働者の1割にのぼるとも言われており、全面的なEVへの転換には大きな経済的混乱が予測される。
EVを越える高い環境性能を持つ燃料電池車については、トヨタ・ホンダ等が先行しているが、高い製造コストが普及のネックになりそうだ。

将来的には大きな期待もある燃料電池車は、プラチナを使用しない燃料電池も開発され、素材を含め改良とコストダウンは進められているが、燃料電池車にEVへ向かう流れを止める勢いは今の所ないのが実情だ。

www.itmedia.co.jp

米国はEVへの流れを止めるか

このEVへの流れに大きな影響を与える可能性があるのが米国の動向だ。
米国は世界一の自動車大国であるとともに、シェールオイル生産により石油輸出国としての側面も色濃くなりつつある。

環境意識の高いカリフォルニア州における規制(2018年実施予定のZEV規制という厳しいガソリン車規制)はあるが、米国のEV志向は全体としては強くはない。
トランプ政権の環境政策からは考えにくいが、シェール革命による米国産業構造の変化を踏まえ、将来的には「地球全体の環境からはEVの普及は限定的であるべきだ」という経済戦略的な主張が出る可能性もある。

また、途上国も含め、莫大な費用を要するEV利用に必要インフラ整備等の困難さから、今世紀前半にガソリン車が激減するような状況を考えるのは難しいという現実もある。
米国が急速なEV普及に対し消極的姿勢を明確に見せれば、推進国の購入支援を前提としている現在の世界全体のEVシフトは一気にトーンダウンする可能性がある。

近い将来の、自動車生産のEVへの全面移行を前提とした投資は危険かも知れない。
EVの環境負荷が冷静に議論された場合、ハイブリッド車や燃料電池車を含めた日本の自動車産業の高い実力が再び脚光を浴びる可能性もあるだろう。
これらを勘案すると、数年内に米国のEV普及に対する方向性を見守り、今後の自動車生産の方向性を占っていくべきなのではないだろうか。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。