Money Clip

お金に関するニュースをクリップ!

米レパトリ減税実施は日本企業へどんな影響を与えるか?

f:id:Money_Clip:20170929161046j:plain

迷走を続けてきた米トランプ政権だが、最近になって漸くいくつかの経済政策が具体化し始めた。その中でも世界経済への影響が注目されているのが、レパトリ減税の実施だ。
米国企業が海外で得た多額の収益の本国還流を促す政策は、米国経済・世界経済・日本経済にどんな影響を及ぼすのだろうか。
大きな影響を受けそうないくつかの輸出関連企業と日本経済への影響について考えてみた。

レパトリ減税とは

レパトリ減税とは、米国の多国籍企業が海外に留保している利益や配当金などを米国内に還流(レパトリエーション)する場合の税率を優遇することで、米国内への資金流入を促進する施策だ。

現在、米国は海外での利益には35%の法人税率が課されるという先進国の大半では採用のない課税方法である。
企業は海外の利益を米国に還流させると決めるまでは納税を先延ばしできるため、本国への資金移動を先延ばしする企業が多く、多額の米国企業の資金が海外に滞留している。

過去2005年に、当時の米ブッシュ政権下で通称「本国投資法 ※雇用創出法(1年の時限立法)内国投資促進条項」という名目で施行されたことがあり、この時のレパトリ減税は通常35%の税率を5.25%に引き下げたため、およそ3600億ドルの海外利益が国内に還流し、大幅なドル高になった。
さらに、このうち約600億ドルが、円やユーロ等の外貨からドルに転換されたとみられ、2005年中大幅なドル高が継続した。

f:id:Money_Clip:20170929162713j:plain


上表は2005年のレパトリ減税実施前後のドル/円相場の推移だが注意したいのは、ドル相場はレパトリ減税法案成立後の2004年10月から翌年1月の実施直前まで1割近く急落していることだ。
これは、通常の海外収益の米国還流行動が翌年の税優遇措置を考慮して停止したことなどからドル需要が減って、この間のドル安になったものと解釈されている。

トランプ政権のレパトリ減税策

トランプ大統領は9月27日に、連邦法人税率を35%から20%に下げる税制改革案を正式発表し「歴史的な減税」と中間所得層への恩恵を強調した。
しかし、野党民主党等の反対もあり、議会審議の難航が予想される。

jp.reuters.com


早ければ2018会計年度(2017年10月~2018年9月)にも実施されると予想されるトランプ政権のレパトリ減税は、前回と同様のドル高圧力が発生すると思われる。
現時点での観測では、実施は一回限りの適用で税率は20%程度に抑えられる見込みで、2005年よりは影響が少ないと予測されている。また、米国の法人税率を20%まで下げることも検討されているが、具体策に不透明な部分も残っている。

この「レパトリ減税」実行の場合の税収は、トランプ大統領の公約の一つ「大型法人減税」の財源か、同じく公約のインフラ整備のための公共投資に充当される見込みだ。
尚、4月頃にコーン国家経済会議委員長とムニューチン財務長官が表明したと報じられた、パススルー事業体の構成員所得への最高税率を39.6%から15%に引き下げる案については、今の所言及されていない。(パススルー事業体とは事業体本体には課税せず、構成員が個々の所得に応じて納税する事業体を言い、トランプ大統領自身の事業も含まれると報じられた)

レパトリ減税実施による経済への影響

今回のレパトリ減税実施規模が予想通りだった場合には、発表後実施までの期間に最大でも8%程度までのドル安と実施期間中にドル/円で10円から20円程度の円安になるとの予想が多い。この場合には、日本の輸出企業に期間中の大幅な増益が期待できる。
世界経済にとっても、米国への資金還流は米国の購買力上昇となって、インフラ投資等の政策と組み合わさって実施されれば、かなりの活性化要因となる可能性が高い。

急激なドル高については、トランプ大統領らからのけん制発言等もあると思われるが、最近は政権発足時に比べてこうした口先介入の効果は限定的で、減税実施中に企業が海外からドル送金をすればドル高になりやすいため、結果的には期間を通じたドル高になると見られている。

米国企業の海外利益剰余資金は約2兆6000ドルになると言われており、特に海外利益の蓄積が大きいと思われる“FANG”(フェイスブック、アマゾン、ネット フリックス、グーグルの持ち株会社アルファベット)などの企業減税メリットは大きい。

波及効果として、これら国際企業の還流資金の使途とその影響が注目される。
前回のレパトリ減税では還流資金の使途を設備投資に限定したために、減税適用のガイドライン発表までは設備投資は伸びなかったが、今回の内容はまだ明らかになっていない。
仮に、前回同様の設備投資優遇と早期の適用条件発表がセットになれば、設備投資資金が潤沢になる企業の新規投資は活発になるだろう。

日本企業への影響

トランプ大統領の政策で話題になっていたインフラ投資の中に、高速鉄道構想もあった。(2017年2月の発言「日本と中国では至る所に高速鉄道(新幹線)があるが、アメリカには 1つもない」と指摘し、米国内の交通インフラが「時代遅れだ」と述べている)

前回のレパトリ実施の際にもインフラ投資等により、ドイツ等の経済がかなり恩恵を受けたが、今回米国が大規模なインフラ投資に踏み切れば、レパトリによる巨額な還流資金の受け皿として日本企業への発注が増加することが考えられる。

2015年末に米国では「陸上交通修復法(FAST法)」が成立している。
これは、陸上交通ネットワークに整備に数年間で3050 億ドルを投資し、道路および鉄道のネットワークを改善するというものだ。
次世代のハイテク自動車サポート用のインフラス整備計画として考えられたものだが、トランプ大統領の高速鉄道構想にも合致する部分が多い。
こうした施策に日本の新幹線技術が採用されれば、新幹線投資はすそ野の広い事業でメリットの及ぶ企業は多数ある。
主な関連銘柄を下表にまとめた。

新幹線輸出関連銘柄
東日本旅客鉄道 9020 米国・インドへの新幹線技術等のセールスに注力。
東海旅客鉄道 9022 新幹線技術コンサルとして、台湾の車両運行システム等の輸出実績を持つ。
米国への新幹線技術セールスを続けている。
古河電気工業 5801 新幹線放熱機器や通信ケーブルなどに実績を持ち、インド新幹線関連でも注目企業。
日立製作所 6501 英拘束鉄道事業参入実績があり、車両製造・保守等の新幹線システムについて、海外で高く評価されている。
三菱電機 6503 インドカルナタカ州に鉄道車両用電機品の新工場が稼働し、2020年度にインド交通システム事業関連売上200億円規模へ拡大する計画。
東洋電機製造 6505 新幹線部品に必須の駆動装置、パンタグラフ等製造企業。
森尾電機 6647 米国・インドの新幹線技術売り込みに注力。
日本信号 6741 鉄道信号国内トップ企業。新幹線の高い評価の理由の一つである災害対策機器の採用が期待される。
三菱重工業 7011 台湾への新幹線システム輸出実績。新幹線制御システム、車両制御措置では最大手。
川崎重工業 7012 北米に鉄道車両製造拠点を持ち、米輸出に強みを持つと思われている。台湾等海外導入実績も多い。
日本車両製造 7102 JR東海の子会社で、鉄道車両では最大手メーカーの一社。新幹線関連銘柄としては、必ず取り上げられる銘柄。
曙ブレーキ 7238 新幹線開業時から非常ブレーキで高いシェアを持つなど、ブレーキライニング、キャリパー等の鉄道車両向けのブレーキを生産する企業。


なお、新幹線以外にもEV・自動運転支援インフラ等多くのレパトリ減税関連のテーマが出てくる可能性もある。

円安メリット企業

レパトリ資金活用とは別に、実施後に想定通りの円安が進めば、円安メリットの大きい企業には増益の可能性が高い。
大半の輸出企業には円安メリットによる業績改善が想定されるが、その中でも注目の企業例を考えてみた。

今決算期の想定ドル/円レートが低水準の企業には、特に円安メリットが大きいと思われるので、まず想定為替レートが105円以下の企業から新興市場の注目企業を紹介したい。

山形県のミクロン精密(6159)は、芯無し研削盤国内シェア4割の機械メーカーで、米国等に営業拠点を持ち、海外比率は34%だが今期の想定為替レートは103円で、PERは10.2と低水準だ。PBRも0.8と低い株価水準で、円安による収益向上が期待できる。

同じくJASDAQの小倉クラッチ(6408)は自動車部品を含む産業用クラッチの大手で、カーエアコン用では国内シェア60%、海外比率は5割を越える企業だ。ロボット関連銘柄の側面も持つが、PER12.9、PBR0.4以下と株価指標が低く、想定為替レートは105円であるため、円安メリットが業績をさらに押し上げる可能性がある。

次に、最近の相場上昇局面でも悪材料等によって株価が比較的低水準に位置する輸出企業の中から、海外比率が高い企業について円安の業績への影響を考えてみたい。

東証1部のフォスター電機(6794)は、海外生産100%の音響・車載用スピーカー部品・製品の専業メーカーで、海外売上比率は9割を越える。
同社はAppleのiPhone向け製品受注減少観測で値下がりしており、PER19倍とまだ高めだが、PBRは1倍以下の水準だ。
期初にスマホ関連の売り上げ減少は見込んでいるため、今後レパトリ実施で先行きの円安基調が鮮明になれば、同社の想定為替レートは110円であり、収益予想も上方修正される可能性がある。

同じく東証一部のシマノ(7309)は、自転車部品の変速機やブレーキ等の部品シェアの世界首位メーカーで、生産・販売とも海外比率が9割近い。
12月決算の同社は、2017年通期の業績見通しを下方修正したことで最近大きく株価を下げている。これは、中国経済の減速懸念と自転車シェアバイク増加のニュースに反応したことも大きいが、7月下旬以降の2割近い急落後も、PERが35倍前後、PBRも3倍超と割高であったため、利益確定売りや水準訂正の動きもあった模様だ。
ただ、同社の高採算商品は欧米でも人気の高級スポーツタイプ車で個人所有が多く、シェアリングによる販売低下の影響は少ないとみられ、今回の株価下落は過剰ではないかというか観測もある。
シマノの想定為替レートは、110円/ドル、120円/ユーロで、現在の為替水準に比べ特にユーロでは円高想定であり、年度内の為替水準推移によっては翌期(2018年12月期)の大幅な収益改善期待もありそうだ。

なお、ここで取り上げた円安メリット企業は、銘柄選択方法の例示であり他にも多くの割安な円安メリット企業も存在する。円安メリット企業抽出については、各種情報を充分参照吟味の上で投資先企業を選択したい。

レパトリ減税と今後の世界経済

発表された減税案は、共和党指導部と調整後のものだが、米トランプ政権が議会の同意を得て、早急にレパトリ減税法案を成立させるかどうかはまだ分からない。
議会で修正される可能性もあり、法案の具体的実施内容によって効果は変わってくるだろう。しかし、実施決定の場合の影響は世界経済にとっても無視できないインパクトがあり、日本経済にとっても様々な転機が生まれる可能性があると思われる。

一方で、好調な欧米景気や日本企業の堅調な収益見通しに支えられて、世界の株価水準は既に高値圏にあり、だぶついた資金量が金融引き締め等で縮小すれば、経済好転予想とは逆に一気に市場が冷え込むという観測もある。

また、トランプ大統領の政策実行能力が不透明なうちは、レパトリ減税実施を無条件に前提して投資行動をとるわけにも行かない。
今後の関連情勢の進捗状況には十分な注意が必要だろう。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。