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人材難時代に伸びるIT企業はどこか

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企業の人手不足は全産業に及んでいるが、IT関連業の人材不足は業界特有のイノベーションサイクルの短さも大きく関連し、とりわけ深刻だと言われている。
IT企業特有の人材難問題と課題に対応して業績を伸ばすことができる企業について、いくつかの事例から今後の企業の人材不足対応について考えてみたい。

日本企業の人手不足

経済好調の世界経済にも日本同様、堅調な雇用と人手不足がある様だ。
欧米の人手不足には移民問題が絡み、問題は複雑であるが日本企業の場合は違う。
各企業の深刻な人手不足問題に対し、各企業の解消には給与アップではなく、高齢者の再雇用や女性の活用で対応する傾向があり、全般に給与水準が上がらず、このやり方は将来的な人手不足の抜本的解決策でもない。
IT企業には、加えてさらに特有の課題がある。

headlines.yahoo.co.jp

IT業界の人材不足とその理由

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itpro.nikkeibp.co.jp


昨年6月に、経済産業省は「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」を発表した。

IT業界での人材不足が深刻化し、このままでは2030年には約80万人が不足すると予測し、情報サービス業に限れば既に5年前から不足状態で、年々その不足度は増大している。
主な課題として次の4点をあげた。

  • ITに適した人材の不足
  • IT市場は高い成長率で、人材必要度が増加している
  • 日本のIT人材の年収が低い
  • IT業務に対する満足度が低い

最初の2点は世界のIT業にも共通の課題だが、業界関係者の多くが日本固有の問題として、後者の2点(低年収・低満足度)を重要視している。
IT業界の給与水準が低いため、給与に対する満足度が低い上に残業を含めた労働の過重感や成果が目に見えないソフトウェア作成や環境設定などについて、他の職種に比べて達成感が低い様だ。

ビッグデータやIOT等に対応可能な高いスキルが必要なIT人材には、日々進歩する業務内容、高度化対応に自己学習・企業研修が必要だ。
だが研修等にあてる時間や機会が不十分だ。
結果として企業に必要な優秀で適性を持つ人材が集まらず、人材の余力不足で十分な社員教育が出来ないという負の連鎖が常態となっている。
IT業界は新規人材募集だけではなく、勤務者も含む抜本的な待遇改善が必要な状況と言われる。

人材供給元としてのIT関連企業の可能性

上記の経産省調査は、ITベンダーとWEB企業を対象に行われた。
ITベンダーとは、既成コンピューターシステムの提案・販売や関連製品等に加え、顧客向けソフトウェア開発も行う企業の総称で、ハード機器製造企業等や通信・商社系企業、コンサルタント系企業等がある。

WEB企業には、ポータルサイト、HP等制作・運営、ネットワーク構築、ネット広告等と個人向けSNS、ショッピング等のサービス提供企業だ。(参考企業名等は文末に掲載)
セキュリティ等のサービス提供企業も含め、上場IT企業だけでも100社以上あり、関連会社や非上場の中小企業等の膨大IT企業の大半が人材難に苦しんでいる様だ。
IT企業共通の悩みは、中高年社員の低い生産性と日々進化する環境に対応するITスキル取得・維持だという。

IT人材養成とイノベーションに対応できる人材

少子化で新卒者が減少傾向にある中で、IT業態の世界規模での人材不足や昇給困難のマインドは簡単には払拭できそうもなく、大手IT企業では社内人材の配置転換等でやりくりしている事例も多い。
大手に比べ人員の余裕が少ない中小のIT企業は、先進業務に適応できる人材に業務が集中し、待遇低下を伴う経験年数の長い社員のIT業務以外への配置転換や比較的単純な業務への異動と高コストの外注や派遣社員利用等の、場当たり的なやりくり以外に有効な方法がないケースも良くみられる。

こうした状況下でも、新規採用が比較的順調で、新分野への人材教育にも前向きと思われる企業をいくつか紹介したい。

SCSK(9719)

住友商事の情報システム部門がCSK(旧コンピューターサービス)を吸収合併した企業だ。
システム開発と保守が売上高の大半だが、厚労省の「第1回 働きやすく生産性の高い企業・職場」で、大企業部門の最優秀賞を受賞して話題となった。

同社は、約50年前にできたコンピューターサービス(CSK)の社員が人材の核で、残業時間を月20時間未満/人に削減し、有休100%取得を目標にした働き方改革に取り組んでいる。
部署ごとの目標設定や有休の全社一斉取得日等で有休取得率約95%、残業時間を3割強減らし、当時の社長名(CSK出身)で顧客企業に理解を求める文書を出して企業姿勢への理解を求めた。

tenshock.biz


CSK創業当時からの社員は年齢・経験等から、多くが関連会社等に出向しているが、こうしたどちらかといえばIT企業には珍しい企業風土を子会社などに広めようとしており、新卒者等の反応も良い。
この様な働きやすい企業風土から、時代のIT人材が多く生まれる可能性がありそうだ。

NTTデータ(9613)

NTTデータは、NTT関連業務以外にも、金融・電力・ガス・官公庁等に加え、製造・流通・通信・建設など幅広い業種を顧客に持ち、米デルからITサービス企業買収する等、積極的な経営を行っている。

ブロックチェーンやAI技術への取り組みに強みを持つ。日本初のペイジー払込票のスマホ対応化等、決済やトレンドビジネス対応にも自信を持っている大手IT企業だ。
旧日本電信電話公社データ通信本部から生まれた老舗IT企業で、社員約11000人、グループ全体では8万人を越える。
毎年大卒で数百名の新規採用を行い、IT企業としては待遇も良く、人気も高い。
人材については、NTTグループの一員ということもあって、新卒就職先としてIT企業の中でも高い人気を持ち、比較的IT人材の確保がしやすい。

また、豊富な資金量から海外M&Aも積極的に行っており、国内型の多いIT企業の中では今後海外のIT技術者を受け入れる素地が比較的高そうだ。
業務範囲が広範なこともあり、潜在能力は難度や緊急度の高い業務に好採算で取り組むことができる可能性がある。(高度業務対応可能な人的余力が比較的高いと見られる)

www.nttdata.com

DIC(4631)

IT企業ではないが、DICの事例を紹介したい。
同社は、印刷インキの製造と販売と基礎素材である有機顔料、合成樹脂の事業や関連するコア技術による樹脂、電子材料等等の製品事業も手掛ける企業だ。

海外企業買収等によって、インキ分野では世界首位の優良企業となり、液晶材料は成長商品と言われるが、PERは10倍前後で推移しており、株式は人気の比較的低い銘柄だ。
約30年前、DICは本体から機器保守やプログラム開発などを切り離し、情報システム子会社としてDICインフォメーションサービスを設立した。
だが、売上比が5割超の海外拠点へのERPの統一等各種プロジェクト等の推進体制として、海外関連会社を含め会社全体のシステム運用のため、5年前に情報システム部門を本社に統合した。
幾つかの選択肢から統合を選び、事務的諸問題はあったが、結果として人員の大幅削減にもかかわらず開発生産性が維持できたと言う。

システム子会社の採用基準は、大卒から専門学校卒まで幅が広く、親会社DICとは異なっていたが「学歴は障害にしない」との方針で統合を進めた。
システム人材には、要件定義決定等でクライアントから仕様詳細を導き出す能力が重要と考えた同社は「ビジネス顕微鏡」という、加速度センサー等付きカード型端末による社員のコミュニケーション実態(誰がいつ何分間対話したか等)情報収集ツールを使用し、可視化したデータ等を経営指標にも活用した。
顧客の生の声や売れ行き等を示唆するデータも分析し、統計学を駆使した質的変換で、業務効率が飛躍的に改善出来たと言う。

it.impressbm.co.jp


統合で削減できた人員は、本体や関連会社・他事業部への配転等を行い、分離前のシステム会社で高い能力を示した社員をシステム業務とは全く異なる事業部の幹部に登用し、高い業績をあげている実例もある。
こうした人材活用のノウハウ・実績から、逆に今後先進システムへの人的需要が増大した場合には、柔軟な人材配置を行う能力を有すると推測できる。

ここで取り上げた企業はあくまで一例であり、当該企業のIT人材不足対応は現時点では未定だが、この様な企業は人材不足をチャンスととらえて、さらに業績を伸ばすことが可能な能力を持つのではないかと思われる。

IT人材の未来

取り上げた事例以外にも、人材確保や養成に努め、将来的な人材ひっ迫に十分適応できる企業も多いと思われる。しかし前述した様に、企業側の十分な社員教育と抜本的な待遇改善が必要である状況は共通だろう。

日本の雇用環境が未だに終身雇用が基本で、そのため逆に転職が難しくなっていることは企業業績の割に賃金が上がらない理由の一つと言われているが、IT関連企業の構造的な人材問題は、業務の革新が速いだけに急速に深刻化し、将来的には勝ち組と負け組がはっきり分かれるのかも知れない。

AIのサポートや海外人材活用など各種の解決策も挙げられているが、基本はやはり各企業の人材に対する真摯な取り組みではないだろうか。

参考:主なIT関連企業

代表的ITベンダー:NEC(6701)富士通(6702)日立(6501) 等
通信・商社系企業:日本ユニシス(8056)伊藤忠テクノソリューションズ(4739) 等
コンサル系:アクセンチュア野村総合研究所(4307) 等
WEB企業等:ヤフー(4689)楽天(4755)、so-net(親会社6758,子会社6185)、 DeNA(2432)クックパッド(2193)グリー(3632)サイバーエージェント(4751)ビッグローブ(親会社6701)mixi(2121)LINE(3938)はてな(3930)エキサイト(3754)カカクコム(2371)ドリコム(3793)オールアバウト(2454)GMOインターネット(9449)

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。