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【EU世論調査】ユーロバロメーターはいつ、どんな時に動くか?

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日米欧の経済圏の中では、EU諸国・ユーロ経済圏は好調な景気を維持し、ユーロ相場も堅調だ。ユーロ圏は、ブレクジットやギリシャ危機を乗り越え、仏のマクロン大統領選出を契機に経済安定度と成長期待が高まっている。

政治に不安定要素を抱える日米とは異なり、定期的にEU諸国の世論調査を実施し発表されるユーロバロメーターは将来について、明るい見方を示している。
ユーロ経済の先行きの不安要素は消えてしまったのだろうか?ユーロバロメーターの調査結果とその背景を中心に、ユーロバロメーターが示すEU経済の将来的な方向性を考えてみたい。

ユーロバロメーターとは

最近のECB(欧州中央銀行)理事会は景気の先行きに慎重な姿勢を見せているが、堅調なユーロの動きが続いており、ヨーロッパ経済の底堅さを感じさせる。
まるで、数年前の欧州経済危機を忘れたとも見える。

こうした動きを先行的に読み取れる指標の一つが、EUの世論調査ユーロバロメーターだ。
ユーロスタット(EU欧州委員会)は、ユーロバロメーターと言われるEUやユーロ、加盟国についてのデータやEU域内の意識調査を定期的に行っている機関だ。
主に統計を担当する部局で、加盟国全体の意見調整・統合促進を目的とし、欧州連合統計局やEU統計局とも呼ばれることがある。
European's participation in cultural activities


経済統計や金融・貿易等の統計に加え、企業や地域社会・農業等の統計と、関連する非加盟国との主要統計等も加えて、調査結果を「ユーロスタット年鑑」として公表もしている。

ユーロスタットには、次のような役割がある。

  • ECBの金融政策に利用するマクロ経済的データ作成
  • 過剰財政赤字手続き(加盟国の財政赤字や債務がGDP比で過剰と判断された場合の手続き)実施のためのデータ作成
  • EUの構造政策用地域データ作成と地域分類(東西等の地域格差是正)
  • リスボン戦略(2009年リスボン条約中の統合推進部分)の進行状況(高齢労働者の就労率、温室効果ガス排出量、健康寿命データ等)に関するデータ作成と構造指標の算出

こうして作成、公表されるEUに関するデータ・意識調査結果が「ユーロバロメーター」と呼ばれているわけだ。

欧州連合統計局は、EUの統計事務局で、その任務は高い品質の統計を提供することである。(中略)ヨーロッパレベルで国と領域間の比較を可能にした統計をEUに提供することが主要な業務。民主主義社会は、統計の確かな基礎なしでは、目的通りに適切に機能しない。一方、意思決定のために、EU加入各国、地方自治体、および企業の意志決定にも統計が必要だ。さらに、政治家や政策等を評価するためにも、一般大衆とメディアにも、同時代社会を正確に写し取る統計が必要だ。域内の詳細統計が決定行為とその評価に必須で、全体統計は加入国等の全体的な目的のために重要である。(後略)

ec.europa.eu

統計を作成するために約800人のスタッフが、約5,000のDBと12億件以上のデータを収集し、9分類のテーマ別統計を作っている。

最新のユーロバロメーター

現在公表されている最新の発表では、下記の様な項目が紹介されている。

【1】ヨーロッパ2020戦略は、成長のためのEUの課題であり目標でもある。ヨーロッパ経済の構造的脆弱性に対してEUの競争力と生産性を改善し、持続可能で開かれた市場経済を支えるための、知的で一体的な成長を主張する戦略である。

【2】この戦略の主要目的と関連した統計データは下記の項目である。

  • (域内)人口の75%が雇用年齢の20才~64才の範囲内にある。
  • 研究開発部門への投資額は、GDPの3%。
  • 地球温暖化につながるエネルギー使用は、1990年比20%減とし、温室効果ガス排出を抑制する目標だ。

【3】早期に学習終了した世代は、高等教育もしくは同等レベルの教育を履修するべきで、これが、貧困や社会的に排除されるリスクを持つ最低でも2千万人もの人々の生活を向上させ、貧困を減らすこととなる。

【4】ギリシャ、イタリア等の信用不安やブレクジット後の英国経済などEUに関する不安要素が消滅したわけではない。(今後、何らかのきっかけで再燃する可能性もある)

通貨ユーロへの信頼

上記の中で注目したいのは、ユーロバロメーターが貧困と教育の問題そしてギリシャ危機等の再来懸念を指摘していることだ。
だが、EU圏内のトレンドはECBのユーロ危機対応後の安定から通貨ユーロへの支持が高まっている。

EUは英国やアメリカ合衆国の様な連邦国家とは異なり、「独立の主権国家のまま」の主権国家共同運用体だ。
例えば主要国フランスでは、雇用環境の悪さなどからEU信頼感が他のEU加盟国よりも低い傾向(昨年調査でEU信頼度は26%、EU全体は36%)があり、自国政府の信頼度はさらに17%(同31%)とかなり低いが、仏国民の単一通貨ユーロに対する支持は高い。
既存政治体制への不満はあっても、ユーロ経済圏内で好調な経済の維持希望する人々が大多数だ。(英国は通貨が自国通貨ポンドなので、通貨ユーロへの依存度が低くかった)

回復基調の欧州経済にとって、加盟国民の通貨ユーロに対する信任がこれからも維持され続けるかどうかが大きな問題だろう。
ユーロを導入した国は、継続赤字国のギリシャでもユーロ圏内では通貨価値減少が発生せず、理論上の為替レートは経済実態より割高になる。
つまり、経済の実力が実態よりも高く評価され、国民の購買力が高くなる。

ギリシャのユーロバロメーターでは、通貨ユーロを支持する割合はフランスと同様に高く、債務危機の深刻化時にはユーロ支持率がさらに高まる傾向を示す。
ちなみに最近のフランスはGDP比で1%前後の経常赤字だ。(2008年以来経常収支の赤字が継続)皮肉なことだが、国内経済が悪いほどユーロバロメーターはEU支持率を上げる様だ。

ユーロ経済とアメリカの移民政策転換

一方EU経済・ユーロの不安要素は移民問題だ。
新移民大陸とも言われる欧州は、シェンゲン協定というEUの移民保証制度により、多くの移民労働力を受け入れている。
移民労働力に関するユーロバロメーターの調査では、特にフランスでの懸念が強い。
〔仏経済は、農業産品輸出が外貨獲得の柱であり、工業製品等は輸入超過状態で経常赤字を作っている。EU全体の移民増大は仏雇用の悪化に加え、ドイツ経済力増大による貿易不均衡の拡大懸念ともなる〕

この点で、トランプ大統領の反移民(不法移民排斥)政策の帰趨は、EUにとっても注目要素だ。未だに政府高官の大半が承認や指名待ちで、政策遂行能力が疑問視されている米政権だが、不法移民に対する規制強化政策の動きがある。

米大統領は、不法移民の強制送還猶予制度(DACA;幼少時に不法入国した若年層対象)の廃止方針を表明した。(議会への対応要求)廃止により不法滞在者約90万人の送還可能性がある。
全米で廃止方針反対の大規模デモも行われ、今後の推移は不透明だが、こうした動きがヨーロッパまで波及すれば、再びEUの移民排斥運動に勢いを与える可能性もある。
仮に移民問題がEU経済の足かせになれば、ユーロバロメーターの大きなマイナス要素だ。

www.newsweekjapan.jp


一方ドイツにおいては、メルケル首相が野党党首との討論会で成功させ4選の可能性が高まった。メルケル首相は「私が再選され国民の信任が得られれば、4年間務める」と述べた。
ドイツの伝統的な移民受け入れ政策の下、ドイツの人口の約2割は移民等(移民2世を含む移民の背景を持つ住民)で、その割合は年々増加している。

ドイツ経済は移民労働力に支えられているのだ。
大戦後から移民国家として発展し、経済復興期に多くの外国人労働者等を呼び、さらに政治的迫害等の難民も積極的に受け入れている。移民等の人口は増加傾向だが、少子高齢化、人口・労働力減少もあって、将来的にも移民受け入れが必要だ。
だが、移民等のドイツ語能力・教育不足等から、就職難で生活保護者も多く、高い犯罪率も問題視されて移民是非の論争が広がっている。

独国民内にも移民等に不安を持つ者は少なくない。移民等には、独語習得教育等が不十分なのも事実だ。
一方、好調な独経済化において労働力不足、特にエンジニアや情報技術関連、医師等の専門家不足が深刻な問題となっている。
問題解決には、さらなる移民の受け入れ政策と失業者への職業訓練実施政策の両論があるが、両政策共に独語教育や労働訓練が必要であることは間違いない。

こうした状況下で、伝統的な移民政策を支持するメルケル首相の再選はEU全体の移民政策の進展にも前向きとなり、EU全体でもユーロバロメーターの振幅に大きな影響を与えそうだ。

ヨーロッパの未来とユーロバロメーター

現在のEUは、金利安もあってユーロ高・経済好調で雇用も堅調だ。東ヨーロッパからの労働力流入も続いている。域内の垣根は低くなり続けるが、域内主権国家の経済格差は拡大傾向にある。

マクロン仏大統領は、経済相当時の2015年、独副首相と発表した共同声明で「EUが生き残るためには、ユーロ圏諸国は一層団結して共通の財政能力をつくり出す必要がある」と述べた様に、欧州単一市場の維持・安定には各国財政の同一化が必要との認識を持つ。

ブレクジット以降の欧州には、ドイツを含む各国予算と財政の統一が無ければ、ギリシャ危機の再来があっても不思議はないとの危機感が根底にある。
財政統一は現状では困難だが、EU誕生後の若者世代が統一への連帯感を支持しており、意外に近い将来に抜本的なEU財政の変革があるかも知れない。

ギリシャ国民投票では、若者世代の多くがEU離脱にノーと投票し緊縮財政を受け入れ、英ブレクジットでも離脱投票こそ成立したが、EU加入後の若い世代では離脱反対が多数だったことからも示される。
若い世代の意志は、貧困や失業等に極左勢力支持はあっても極右暴力には反対姿勢が強く、基本的に欧州統合にしか未来はないと考えている若者が多数派のようだ。

こうした傾向はフランスやドイツ以外でも欧州各所でみられ、結果として一時的にはユーロバロメーターが危機レベルを示しても、長期的にはEUのより完全な統合へ進むだろうと圏内識者の多数派が予想しているようだ。

ユーロバロメーターは、EU域内の世論調査であるとともに、前述した様に意見収集やテーマ選定の段階から、EU統合の推進役としての政治的目的と意思も持つ指標だ。
こうした指標から、EU・ヨーロッパ経済の未来を読み取るためには、変化の兆しを注意深く見守り、あらわれた変化の真の背景について分析する姿勢も重要だろう。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。