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安全通貨の「円」が売られるときはいつか?

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上空をミサイル通行が予告されても買われる円の強さは、世界の通貨の中でも際立っている。
メディアでは、地政学リスクの高まりで上昇する円相場に「安全資産の円が買われた」とステロタイプの反応を示すが、円買いの理由はかならずしも一様ではない。
今後予想される朝鮮半島有事や米政権の危機の際にも同様に円は買われ続けるのか?そして今後、円が売られるときはないのだろうか?
円相場の行方を現状といくつかの円安シナリオを考えてみたい。

円相場を左右する要素

円/ドル相場の主な最近の変動理由を整理すると下記のようになる。

円安の要因

  • 公定金利上昇、中央銀行(FRB)の資産圧縮
  • 米国株高と米国経済の好調な指標
  • 米国長期金利の上昇
  • ECBの出口戦略の明確化(実施)
  • 投機的な円売り
  • 日本国内輸出入企業の為替予約(円高要因にもなる)

円高の要因

  • 議会と政権の対立等の政局混迷
  • トランプ政権の政策への失望(減税期待の消滅等)
  • 米国インフレ率の低迷(上昇一服)
  • 地政学リスクの高まり
  • 投機的な円買い

この他にも、日銀の出口戦略議論や日本国債の金利上昇なども影響する筈なのだが、当面は要因とならないだろう。

現在の円/ドル相場の考え方

短期的な動きを別にすると、中期的にはどうやらレンジ相場に入っているようで、地政学リスク等想定外の要素がない限り、大きく上下に動く要因はなさそうだ。
特に最近注目されているのは、北朝鮮情勢の緊迫化にもかかわらず、VIX指数(恐怖指数)が昨年11月の米大統領選挙結果発表時の20%に達する勢いはなく、15%程度を天井とした落ち着いた動きを示していることだ。

また、投機的なポジション(先物取引等)に、円売りポジションが残っているため、短期的な巻き戻し(手じまい)の動きはあるが、ドル自体にも売り越しの動きがあり、相場観がつかみにくい理由の一つとなっている様だ。
為替取引で大きな比重を占めるドル/ユーロでは、ユーロ高傾向にあり、ヨーロッパ情勢次第で今後の波乱要因となる可能性はあるが、長期的には欧州の経済も好調と見られ、これもドル/円レートが大きく動かない理由となっているのかも知れない。

円高要因のインパクト

リスク回避の円高、特に地政学上のリスクに際して起こる「有事の円高」には、過去の経験則(主に短期的な思惑)、短期的な円売りポジションの巻き戻し、日本企業の資金回収や海外投資へのヘッジの等、いくつかの動きが複合して発生する。

≪関連リンク:【有事の円高の原因について】の項を参照≫


これらは、いずれも長期的な変動要素ではなく、中長期で見れば為替変動にはニュートラルな要素となるケースが多い。
ある程度長い期間で見れば、円/ドル相場は日米の金利差と期待インフレ率等の要因で想定されるレンジに最終的に収束することが多かった。

≪関連リンク:【為替変動要因】の項を参照≫

円安となるシナリオについて

(1)最悪の円安シナリオ(確率小)

あまり考えたくないことだが、先に経済の最悪シナリオを検討したい。
もし、日本経済に深刻な危機が押し寄せれば、中長期の大幅な円安可能性がある。(この場合、株価水準も大きく下がる可能性が高い)

■東アジア有事(日本への直接攻撃)

短期的な地政学リスクの高まりは、東アジアの危機に際してもこれまでは、円高要因となっている。例えば、北朝鮮のミサイルがグアムに発射された場合などは、経験則から一時的に円高となるだろう。しかし、ミサイルが日本に落下し、人的物的損害が発生した場合は、日本の地政学的なリスクが認識され、被害状況次第ではあるが、120円台を大きく越える大きな円安要因になりかねない。

■大規模災害

東日本大震災の際には、一時的に急激な円高となった。その理由として、保険金支払に海外資産引き上げが起こる思惑や日本経済悪化で、まず輸入が減少との思惑に経験則的な有事の円買いも加わった投機的な円買いがあったと言われた。
しかし、その後日銀の為替介入(円安誘導)や復興資材の輸入増思惑、輸出企業の生産減を連想した輸出減少の思惑等に、財政不安を理由とする日本国債の格下げが加わり円安となった。
昨年の熊本地震の時には、この経験則もありほぼ逆の動きになっている。
今後発生が予測されている東南海地震、南海地震は全く前例がなく、規模や影響の予測が困難だが、もし経済への影響が甚大であれば中長期的には円安(日本売り)となる可能性が高いだろう。

■日銀の債務超過、出口戦略の失敗

日銀黒田総裁は、金融緩和の継続とバランスシートの悪化不安について強気の発言を行っているが、欧米の出口戦略に続いていずれは金融緩和の見直しが必要となることは間違いない。
この場合に、市場との対話に失敗し、金融政策に大混乱が起きれば、極端なケースとして国債の暴落(金利上昇)による一時的な円高後の国債消化不良懸念による「日本売り」による中長期の円安を予測する観測もある。

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(2)その他の円安シナリオ

最悪ケース以外の予想円安シナリオは、主に下記の二点だ。

■米国レパトリ減税の波及

米国企業の収益で積み上げられた海外資産は300兆円近いと観測される。
トランプ政権の目玉政策の一つが「レパトリ減税」だ。
権内で孤軍奮闘経済政策を進めるコーン国家経済会議委員長(経済担当補佐官)から所得税等の減税実施言明が出され、ようやく動き出す気配を見せている。
そのため、かねてから話題になっていたレパトリ減税実施の期待も高い。(ただし、最近の政権の混乱波及により、コーン氏の辞任可能性もある)

2005年の同様な政策実施の際には、ドル還流とのタイムラグや税務対策等で、減税実施まではドル安が進み、その後約1年間かなりドル高が進んだ。
現在は、当時より企業の海外資産(レパトリ対象資産)も増えていること、好調な米国の経済実態と金利上昇傾向から、最終的には前回以上のドル高(円を含むドル以外の全面安)となる可能性が高いと思われる。(この場合は日本株高要因ともなりそうだ)

■日米金利差の拡大傾向継続、実効為替レートの変動

日米の長期金利の差は、最近は政権混乱も影響して米国の債券高(金利安)の動きが目立って円高傾向だが、米国の政権が安定した場合、長期金利の反転上昇とドル高円安が進み、株価も上昇する可能性がある。

また、日銀発表の実効為替レートは、現実相場に比べて円高方向への乖離が継続しており、以前ほどではないが購買力平価説によれば現状はかなりの円安であり、円高圧力の一因とも言われる。
しかし、足元のデフレ長期継続をいつまで前提にできるかは疑問だ。
消費性向の高い若年層は、インフレの時代を知らないので、何らかの要因で物価がレンジを越えた上昇に向かうと消費先取り行動から一気にインフレが進む危険性もある。
この場合、インフレが招いた円安で、輸入品価格が上昇して、更にインフレスが進めば長期的には日本経済にも悪影響が及び、株式市場も混乱しそうだ。

円が売られたときは?

上記の円安シナリオが実現する可能性は要因によりまちまちで、もちろんレンジ相場終了後、円高に振れる可能性もある。ただし、最近海外での日本株ETFは買い増しされており、海外資金の動向によっては、日本株が急騰した場合、円から円建て証券への振り替え等による短期的な円安が進む場合もある。

仮に何らかの原因で、円安が進みだした時にとるべき対処方法は、その原因によって異なってくるだろう。最近の為替相場、特に円/ドルレートは、まず短期的なヘッジファンドや投機筋の思惑で動くことが多い。
地政学リスク等の大きな変動要因による急激な為替変動時は、いわゆる急激な円高に海外資産を整理する、いわゆる狼狽売りも起こりがちだ。だが過去の事例を振り返ると、中長期のトレンドを踏まえた冷静な対応が賢明だったケースも多い。

これに対し、米国のレパトリ減税に伴うドル高(円安)は、継続期間がある程度予想できる原因と言える。税制適用期間終了後は、逆の動きになることが予想されるので、期間限定の対応方法が考えられる。
例えば金利差拡大などによる中期的な円安トレンドが続くようであれば、対応は異なってくる。

為替相場は上下の方向性が定まった後には、投機筋の動きもあって、一定期間その方向性を維持し、最終的には想定を越えた領域にまで進むことが多い。(思惑の交錯による行き過ぎ)
こうした場合には、専門家の上限(下限)予想の平均値を超えるまではトレンドに乗った投資姿勢が有効な場合も多い。
いずれにしても「安全通貨の円」という連想から、リスクオンで円高、リスクオフで円安という単純なシナリオが将来も継続する保証はないと思われる。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。