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持ち株会社の戦略について考える

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海外M&Aや国内企業同士の統合、合併で増加する持ち株会社(社名に「ホールディングス」が入ることが多い)形態だが、こうした企業体の意思決定や企業戦略はどのようになり、経営効率は統合の狙い通りに上昇したのか?
幾つかの事例から、伸びる持株会社の戦略と向かうべき方向性を読み取ってみたい。

持株会社とは

持株会社は、他の会社を支配する目的で、その会社の株式を保有する会社を言う。
種類として「純粋持株会社」と「事業持株会社」がある。

日本での純粋持株会社は1997年の独禁法改正時に解禁され、持株会社体制は業種・会社規模を問わず、幅広く導入されている。
純粋持株会社は、自ら製造や販売といった事業は一切行わず、株式を所有し、他の会社の事業活動を支配することだけを目的とする持株会社だ。こうした形態は、保有子会社からの配当収入が収益となる。
事業持株会社とは、グループ各社の株式所有で子会社を支配しながら自らも生産活動などの事業を営む持株会社で、上場持株会社にはこの形態も多い。

また、持株会社化の形態は、グループ再編型の持株会社と多角的な事業展開中の会社が、戦略と事業の分離で効率的に事業運営の実現を図る場合に分けられる。
こうした多様な形態の特性を生かして成長力と競争力を向上させ、事業会社ごとの迅速な経営判断、ガバナンスの向上、経営者人材の育成等が「持株会社化」の主な目的となっている。

上場企業のうち、社名に「ホールディングス」が入っている会社だけで800社近くあり、全体の2割以上が持株会社と考えて良いだろう。
純粋持株会社体制は、事業子会社から投資可能な資源を集約し、適宜成長事業に投資可能なので新規事業分野を開始しやすいといわれている。
純粋持株会社の傘下に事業子会社を並列的に配置すれば、設備投資の優先順位を既存事業重視から成長事業重視へと切り替えられる。
だが、後述する純粋持株会社の解消事例を見るかぎり、この体制で必ず成長や収益向上できるとは限らない様だ。

純粋持株会社は、さらに統合型(グループ外会社を含む資本統合)と単独型(グループ内の再編)に分けられる。
純粋持株会社は、事業を行わず全体経営に専念するため事業権限を完全に委譲すれば、個別事業の意思決定がより機動的で事業効率が良くなるメリットがある。
例えば、M&Aや経営環境の変化に対応した事業拡大が容易で、低採算事業からは撤退しやすい。
権限を委譲した事業子会社には、全体事業の俯瞰やグループ横断の取り組みは難しく、情報共有の困難さというデメリットもある。
ただし情報共有については、ITの推進とAIの利用で解消が可能になって行くだろう。(この他に、子会社との負債利子控除等の税務面のデメリットが生じる場合がある)

純粋持株会社の事例

日本製紙(3863)は、共同持株会社の下で統合効果を早期かつ最大限にするため、都島工場の閉鎖、有利子負債、人員削減などを柱とした中期経営計画強化策を進め、大昭和製紙は統合効果を含め3千名体制の早期実現(人員削減)と、有利子負債の早期圧縮を図るという趣旨により、事業持株会社化を進め、リソース集中の方向性で成長軌道に乗ったと言われる。

www.nipponpapergroup.com


三菱ケミカルホールディングス(4188)は、三菱グループ内の三菱化学及び子会社で医薬品メーカーの三菱ウェルファーマの共同持株会社として設立されたが、三菱ウェルファーマの田辺製薬との合併により上場維持のため、完全子会社ではなくなった。
その後、TOBにより三菱レイヨン、大陽日酸の子会社化後で純粋持株会社となり、総合化学メーカーとして経済性や資本効率の追求(MOE)、イノベーションの追求(MOT)、サステナビリティの向上(MOS)を経営基軸とし、価値の総和(=KAITEKI価値)向上に努める「KAITEKI経営」を実践するとしている。

www.mitsubishichem-hd.co.jp


三菱ケミカルホールディングスは、統合後の企業姿勢として社長自ら次のように述べている。

石油化学事業では、採算が悪化した合成繊維原料事業で中国・インドから撤退し、収益性の低い事業を縮小した。(4基あったエチレンプラントの2基を停止し、プラント稼働率は100%超)
今後、海外展開と新規事業を進め、海外市場で炭素繊維やプラスチック製品、医薬品など、高性能で競争力のある商品を拡大し、海外拠点のうち地域ごとの統括拠点で現地市場の把握や地域間連携を強化する。現地の主体性を尊重する方針は、海外人材の活性化にもつながる。

電機産業向けの製品では、LEDに使う「窒化ガリウム」の基板や有機太陽電池の部材改善をすすめる。 大陽日酸の買収で、収益が安定した社会インフラ(産業ガスは高いシェアを持つ)と、多様な製品展開が期待できる。
例えば、三菱レイヨンが医療用で提供する炭酸泉に大陽日酸の炭酸ガスを使い、三菱化学の窒化ガリウム基板生産設備も大陽日酸の製品だ。 統合新社の各事業部門に権限を委譲し、スピード感のある経営を促す。

新規統合3社(三菱化学・大陽日酸・三菱レイヨン)の事業部門を60から10に再編し、統合会社を含むグループ全体で技術や販売チャンネルを共有、グループの総合力強化を図る。 これまでは、グループ内に多数ある事業会社や事業部門が単独で動き、研究開発の知見や販売チャンネルなどを十分に共有出来なかったが、例えば自動車用製品を欧州で販売する際、現地の販売チャンネルに強みがある三菱樹脂と連携するなどで、さらに事業拡大を図る。
一方、自社にない経営資源は、他社との提携やM&Aで取り入れ、グループとしての事業ポートフォリオ(構成割合)の観点でシビアに見定めてゆく。

www.weekly-economist.com

持株会社解消事例

純粋持株会社数は増加傾向にあるが、様々な理由から解消事例も出ている。
純粋持株会社を解消する理由として、統合効果向上を目的とする発展的解消や事業の整理・統合に伴う変更必要性への対応等の前向きの理由と本業の不振や統合成果が出ないための解消事例がある。

前向きの解消事例

統合効果向上を目指す解消事例には、単一事業を展開する企業同士の統合による持株会社が多い。
企業間の統合を会社合併で行うと異なる組織間の摩擦や無駄が発生し易く、持株会社であれば比較的緩やかな統合が期待できるからだ。

持株会社による統合後数年以内に、部門の重複や重複コスト削減等の体制を見直し、完全な統合への持株会社解消が行われている事例が多い。<雪印メグミルク(2270)エディオン(2730)双日ホールディングス(2768) 等>

事業の整理・統合に伴う組織体制の変更は、中間持株会社やファンド等の被買収企業に多い。特に、事業再編スピードが要求される情報通信系企業に多く見られる。
事業周辺や必要な事業分野の変動で事業再定義を行い、持株会社の存在意義が見直されることが多いからだ。
成果が出ないという事由による解消事例は、統合の失敗よりも本業の業績悪化や予想外のコスト増、費用削減要請等の事業失敗の結果からのケースが多く、持株会社形態そのものに問題があったとは言えない様だ。

成果がなく解消した事例

当初想定した成果が出ていない場合には、本業自体には問題は少なく(コスト削減等の緊急性がない)収益向上を目指した純粋持株会社化に期待したほどの成果が出なかったケースが多い。

  • 富士電機ホールディングス<現富士電機(6504)>は、当初子会社の経営意欲やコスト改善などが統合効果として評価されたが、その後事業会社間の壁や新事業が生まれにくい経営層の人材不足等の問題で、純粋持株会社を解消した。
  • コニカミノルタホールディングス<現コニカミノルタ(4902)>は、グループのリソース(経営資源)が分散し、事業組換えのスピード感欠如等から、中核事業の事業計画策定への持株会社直接関与を始め、全体のシナジー向上・リソースの効率配分のために事業持株会社に変更した。

解消と追加統合の事例

東京海上ホールディングス(8766)は、東京海上日動火災保険・東京海上日動あんしん生命・日新火災海上などを傘下に持つ国内最大級の損害保険業グループだが、離散・統合パターンだ。

東京海上火災保険と日動火災海上保険、朝日生命保険の持株会社方式で経営統合後、農協との関係が深い共栄火災海上保険相互会社も加わり、株式会社へ転換後、経営統合する計画だったが、運用資産の下落による財務基盤低下や経営方針の食い違い等から共栄火災等が離脱した。
その後、日新火災海上保険子会社化や米保険会社買収、少額短期保険事業、通販型損害保険事業の事業子会社化等により事業規模は拡大している。

グループ全体の解消・再統合で、統合の目的等が事業子会社の入れ替わり次第もあって変化している事例だ。現在でも経営理念や統合の意思が不明確で、売上げも含め、統合効果が期待ほどには出ていないのが現状だ。

純粋持株会社の課題

新規事業展開の場合でも、ある程度確立した分野では事業子会社の自立性が高い純粋持株会社形態での実施メリットは多いが、実績が乏しい開発段階の新規事業は分社化メリットが比較的小さく、既存事業と関連性の強い事業分野での事業部制などの同一会社社内展開のほうが有益と考えられる。

また、純粋持株会社側は個別の事業から離れてしまうため事業観が失われがちで、本来必要な事業子会社への助言や新事業の主導は少なく、事業計画立案関与の少ない管理機能のみの存在になる危険性がある。特に、全体売上げの大半を中核事業会社一社が占めているケースでは他の事業側にとって、統合のメリットが少ないケースも多い。

純粋持株会社は中核事業会社の代替ではないが、統合で事業子会社の情報提供量か減少するケースでは、無駄な「二重構造」とも言われる。
グループ企業等の純粋持株会社では、優先順位に応じた持株会社体制を決定し、グループ戦略の変化に応じた体例を適宜変更すべきだろう。事業のリストラクチャリング(再構築)では、事業部制などの採用で一時スリム化し、後に純粋持株会社体制に移行する等も考えられる。

また、事業子会社に全事業を任せず、一部機能を持株会社経由させることで本体スタッフの事業感を養い、事業への助言が期待することも有効で、単一の事業分野中心に展開する企業グループでは効果が高い。

マツモトキヨシホールディングス(3088)は、一般的な純粋持株会社とはやや異なり、卸事業の一部を設立後から半年で持株会社本体に取り込んだ。
このため、厳密な意味では事業持株会社ではあるものの、上述の課題に対処した同社なりの「純粋持株会社」として運営されている。

純粋持ち株会社のとるべき戦略には、色々な方向がありそうだ。
例えば、小売業界でプライベートブランド(PB)開発機能だけは純粋持株会社が所有し、傘下に展開すれば、PBの他社展開も容易で有効なM&Aにつながる可能性もある。
人事についても、事業子会社からの人材出向等で、純粋持株会社に事業観を有する人材を確保し、事業子会社の人材もグループ全体の視点から経営課題をみることが必要だろう。

企業の組織体制は、持ち株会社といえどもグループの優先課題や目的に応じて柔軟に変更すべきであり、そうした柔軟性を発揮できる企業グループ、実践している持株会社こそが将来的な収益向上が期待できる持ち株会社だと考えられそうだ。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。