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【政治リスクと為替】北朝鮮情勢、トランプ政権混迷、安部新内閣で為替はどう動く?

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米国では大陪審設置が決まり、大統領を巡る疑惑の調査中、トランプ大統領発言の人種差別姿勢への批判も強まっている。またインフレに対する評価等から、金利引き上げ観測もやや後退気味だが、この政治不安や金利動向にもかかわらずドルは意外に底堅い。

一方、安倍内閣改造では一応内閣支持率アップとはなったが、以前の様な高い支持率ではなく円高局面も限定的だ。北朝鮮をめぐる緊迫した情勢が続く中で、これからのドル/円相場が政治リスクによってどのように動くのだろうか?

ドル/円を巡る三つの予測不可能性

ドル/円相場は、一時 108 円台後半という最近の安値を付けたが、すぐに109円台に戻り、その後110円台を回復するなど急激な円安という動きではない。
一方で、日本や世界の株式市場は一時大きく下落したが、北朝鮮情勢緊迫化一段落でNYダウ平均も大きく下落後に反騰している。

北朝鮮関連の地政学リスクを警戒する市場の最近の動きは、急激な下落には向かわない慎重姿勢だ。不安定な円相場の動向には、次の三点の不確定要素が関連していると思われる。
一つ目はもちろん、北朝鮮金正恩の暴発可能性。
そして、トランプ大統領発言の本気度。
最後は、日本の衆議院解散総選挙に絡む政局不安だ。

米国消費者物価指数の上昇幅と前年同月比数値が予想を下回ったことで、米国の利上げ観測が遠のき、長期債利回り低下で円買い/ドル売りの動きが出ていた。
ただ、北朝鮮情勢の緊迫化を受けてリスク回避目的の円買いもある半面、逆に地政学リスクの影響の大きい日本買いへの慎重な姿勢も部分的に出ている様だ。

中期的なトレンドの方向が定まらず、市場が注視しているのは「地政学リスクが予想不能領域に入ったのではないか」という不安だ。リスク回避に向かうと同時に予想不可能なものは算入しないという、いわばあきらめに近い見方もあるようだ。

jp.reuters.com
news.yahoo.co.jp

米朝両国首脳の不安定な意思表明

北朝鮮をめぐる米朝両国首脳の応酬や内容は、激烈で具体化している。
北朝鮮は、グアムの周辺海域にミサイル四発の発射計画を策定中と発表するなどの金正恩からの国民向けメッセージを発表している。
これは金正恩指導者が外交に無頓着で国際的な孤立を恐れず、核搭載可能ICBM完成までは一切の会談を拒否し、核保有国としての認知をひたすら目指す姿勢の表れだろう。
友好国であった中国やロシアへも非難声明を行う北朝鮮だが、肝心の核弾頭付ICBM(アメリカ本土到達可能レベル)は未完成との見方も浮上している。

ミサイル搭載の核小型化に成功し、核弾頭を60個持つとの観測もあるが、小型弾頭の実験はしておらず、「弾頭再突入技術」(大気圏再突入時の高熱からの弾頭保護)は未完成とも言われる。(ミサイル火星14号の閃光分析結果)
このことが、逆に金正恩の強硬な姿勢の背景なのかも知れない。喧嘩を売ったのは北朝鮮かも知れないが、これを米国が無視できないことも間違いないだろう。

最近の主なトランプ大統領の発言を見ると
「弾を込めて、狙いを定めた」
「これまで世界が見たことのない炎と怒り(核攻撃を示唆すると言われる)」
「仮にグアムに何かするなら、北朝鮮は極めて注意すべき」等の挑発的な発言やツイッター発信を続けている。マティス国防長官らの閣僚からも「北朝鮮は体制の崩壊や人民の破滅につながるようないかなる行為もやめるべき」という強い発言がある。
しかし、国務大臣のティラーソンは「アメリカは北朝鮮の敵ではない」、「交渉により問題解決すべき」と言い、最近マティス長官との「挑発中止で対話が可能」との共同声明を発表した。
この声明の結果、為替相場がさらにドル高に振れ、金正恩の「もう少し見守る」発言もあり、当面の波乱は収まった感がある。

日韓の情勢と米国の意思

日本政府は北朝鮮情勢の緊迫化を受け、国内該当地域へのパトリオット(PAC3)展開を決めた。また米韓定例軍事演習も迫っており、キューバ危機以来の核戦争危機とも言われるが、一方で「実は事態はそんなに緊迫していない」との観測もある。
韓国駐留米軍に大規模移動の兆候はなく、韓国外相は夏季休暇、そしてトランプ大統領自身も長期夏季休暇でゴルフ三昧の日々だ。そもそも、在韓米国大使は指名前で就任すらしていない。さらに安部首相も夏休みに入った。
そのため現情勢下のトランプ大統領の過激発言は、商売上のテクニック(交渉当初に相手を攻撃するディール)との見方もある。(内政で窮地にある大統領の失点カバー作戦)

ロシアゲートは着々と大統領の周囲に迫り、人種差別問題をめぐる対応により大統領助言機関からの実業家離脱が続いている。
内政実績ゼロ政権下の中間選挙(来秋)への影響も心配され、トランプ政権への逆風は止まらない。
相変わらず強気の大統領の本音や、金正恩の真意は世界中のだれにも分からないというのが現実だが、外交上でのポイントをトランプ政権が狙っているのは間違いなさそうだ。
結果として、政治・外交交渉で体制変革を実現するのか、戦争を含む強硬手段になるか米大統領の本音(真意)が読めないことで市場が揺らいでいる。

解決策に関する近隣諸国と中国、ロシアとの合意(水面下を含む)が成立するかどうかが問題だが、合意成立を困難にしているのが前述の米朝両国トップの意思不透明に加え、大国間の仲介をなしうる日本、安倍長期政権に俄かに生じた不安定性だ。
外国為替市場の動きには、この3番目の不透明要素にも注目が集まっている可能性が高いと国内での関連報道は少ないが、欧米市場の関係者間で噂されている。

政治リスクと為替レート

一時は108円台に上昇したドル/円レートがすぐに戻ったことに、この不可解な情勢が現れている様だ。
過去の地政学リスク時のドル/円変動に比べると、今回の危機がはるかに重大と見えるにもかかわらず、為替変動の変動幅がかなり少ないのは色々な理由付けはされているが、不可解な動きであることは間違いない。

例えば、2009年の北朝鮮の4月初めのミサイル発射で、円は100円程度のレートから対ドルで約5円上昇し、短期的な円安を挟んで5月下旬の核実験後には約10円円高の90円になっている。(約10%上昇)
今回の北朝鮮情勢の不安を両国首脳の予測不可能性で増大させていることは衆目の一致するところだが、為替相場特に円相場に関しては日本の政治リスクも影響が大きいのではないかと思われる。

clip.money-book.jp

有事の円高の原因について

「有事にはリスクオフの動きで、安全資産の円が買われる」と良く報道される。だが、この動きにはいくつかの原因がある様だ。
第1は、過去の経験則から「有事発生後は円買い」と動く投機的な円ロングポジションによる円買いだ。ただし、これには短期的な思惑が多く、すぐ収束する「有事」報道では円買いも短期で終息することが多い。

第2には、為替市場における短期的な円売りポジションの巻き戻しの動きだ。(東日本大震災直後数日間の急速な円高の背景と言われる)
世界経済に影響を与える地政学リスク発生の認識が増えると、この円売りポジションが整理(反対売買)され、急激で大きな円高が発生する。

第3の、意外に報道が少ない動きが日本の輸出入企業のヘッジや海外資金回収と国内からの海外投資に対するヘッジの動きだ。
日本の政治的安定は、国内企業や個人が(諸外国のように)有事に資金を海外へ逃避させる動きはこれまでほとんど発生せず、逆に有事では国内外の経済情勢不安に際して、企業売り上げや収益、個人資産に不安を予想すると、海外資産を取り崩す資金回収や損失限定のための為替リスクヘッジを行う。(有事円高の経験則も関連するとみられる)

世界最大の対外純資産国である日本(対外純資産は約360兆円)からの、こうした動きが大きくなった時の円買い圧力は相当大きなものと言われている。(円高の大きな原因の一つが、円高を不安視する国内投資家動向の様だ)
アベノミクス以降、約70兆円の円売りポジションが国内で積み上がったと推計され、ポジション解消による円買い圧力は相当大きい筈だ。
ただし、この3番目の動きは、結局円資産だけではなく国内資産全体を海外資産よりも安全と考える動きであり、経験則の破綻と海外と日本のリスクバランス変動と今後の推移によっては、逆方向に動く可能性があるかも知れない。

衆議院の解散総選挙と今後の為替推移予測

おそらく自民党の衆議院議員で、現時点の解散を望む議員はほとんどいないだろう。内閣改造で若干の支持率上昇とはなったが、以前の様な高支持率ではないからだ。
だが、それでも解散風が突然吹き始め、収まらないのは「小池新党」への警戒感らしい。来年の任期満了前に総選挙を行うよりは、小池新党の体制が固まる前に衆議院を解散し、多少減少しても自民党多数を維持しようという考えの様だ。
この点は、海外からは政権不安要素に見える反面、国内では政権安定期待にもなり思惑が交錯している感がある。

最新の情勢としては、米国のVIX指数(恐怖指数)の急上昇もなく、小売業統計の数値を好感して、前述の通り比較的安定した為替相場が続いている。
今後、仮に北朝鮮のミサイルがグアムに発射されても、米国領海への着水や被害がない限り、混乱は一時的なものに収まるという見方も浮上している。
もちろん、偶発的な戦争発生や北朝鮮の暴発によって日本に深刻な被害が及ぶなどの事態では為替の行方は全く不透明だ。

急激な円高も考えられるが、日本への影響次第では逆に大幅な円安・株安もありうると思われる。
だが、日米韓関係者の夏休みや各種情勢をみると、当面は日米政権の不安要素を織り込みつつ、経済好調等のプラス要因との間の綱引きで不安定ながらも最近のレンジ内に限定された為替相場の動きが続くのかも知れない。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。