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【ロシア経済の未来】極東開発と農業生産の可能性

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経済制裁と資源価格低迷の影響で苦境にあったロシア経済に回復の兆しが見え始めた。
北方領土に関連した、極東開発とエネルギーや水産等の資源問題を通じて、日本経済にも大きな影響のあるロシア経済の未来はどのように展開するのか?
北方領土開発と関連の深いシベリア・極東地域経済も含めて、農業生産の増加等の可能性を探ってみた。

ロシア経済の現状

国際通貨基金(IMF)が5月に公表した報告書には、約2年間の景気停滞下にあったロシア経済が復調傾向を示し、2017年のGDP経済成長率は1.4%になる見通しと述べられた。
好転の理由は、財政赤字削減策、外貨準備の増強、国営企業の一部民営化や整理等のプーチン政権の経済施策の成功だと分析されている。

ロシア経済は原油輸出の依存度が大きく、2014年から原油価格下落の悪影響を受けていた上に、ウクライナ問題による欧米の経済制裁発動で、貿易収支悪化とルーブル安から物価上昇を含む経済悪化を招いていた。
最近、OPEC(石油輸出機構)の協調減産にロシアも歩調を合わせたことが功を奏し、原油価格が上昇したことが経済反転の主因だ。
しかし上述のIMF報告書では経済制裁は継続し、ロシアへの投資制限は残ると予想して原油等資源依存からの脱却など、ロシア経済には抜本的な改革が必要であると指摘している。

原油価格下落前の3年間は、GDP3.5%以上の成長率だった。
2016年末、8四半期振りにプラス転換したとはいえ、1.4%の数字では手放しで喜べる状況とは言えない。
今年度以降の政府予算の財政赤字の予定であることからも、ウクライナ問題に絡む経済制裁の影響はまだ大きいと考えられる。

ロシア連邦政府の財政赤字推移
年度
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019
対GDP比(%)
0.1
0.5
0.4
2.3
3.4
3.2
2.2
1.2
実績値
予算
(2012年度-2016年度は実績、2017年度以降は予算額)

 

toyokeizai.net

通貨水準と物価の現状と今後の見通し

ルーブル・レートがようやく上昇基調に転じ、それによって輸入インフレが収まり、CPI(消費者物価指数)上昇率は2016年から低下、回復基調にあることは間違いなさそうだ。
物価上昇による実質賃金上昇が、GDPのマイナス寄与要因である個人消費減少影響がそれまでより少なくなったのも影響している。
なお、実質賃金がプラスでも個人消費が増えないのは、年金給付の物価スライド不足が原因の様だ。(ロシア経済特有の高い年金生活者割合が国民全体の実質可処分所得減少となっている)

一方、2015年のルーブルの大幅下落から予想(期待)のあった「輸入代替効果」(通貨安による輸入減と、国産品の価格競争力向上による国内生産増)は限定的だった。1999年にルーブル前年比約60%の下落(対ドル)だった際には国内製造業の生産額が1割以上増加した。これは2000年以降、製造業の海外部品や加工品、原材料等の使用比率が飛躍的に伸びたからだ。

製造業全体で5割以上、輸送用機器では4倍近く増加した輸入部品等への依存度が高くなり、ルーブル価値の下落が製造業の生産コストを急激に増加させたことで国産品販売価格が上昇した様だ。
このため経済の回復傾向下にあっても、ロシア中央銀行はルーブル安が続く限り、今後も引き締め気味の金融政策を続ける必要がある。

ロシア中央銀行のインフレ目標は、CPI上昇率前年比4.0%以下としており、足元の水準はこの目標に接近したが、中央銀行の引き締めスタンスは変わらずに維持されている。
当面(少なくとも2017年末の数値確認まで)は、大幅な利下げが行われる可能性は低く、引き締めが継続される可能性が高い。
おそらく経済制裁の影響が無視できるほど小さくなるまでは、金融引き締め基調は継続されるだろう。

米国の政情不安やドル安傾向から、長らく金融緩和の結果高水準にある余剰資金は、高金利の新興国通貨へ向かう気配を見せている。
ルーブルの戻りには、このだぶつく金融マネーの動きも関連しているとみられるからだ。
このため、ルーブル上昇を前提としたロシア経済の復調はまだ先行きが不透明で、このこともプーチン政権が北方領土問題と経済開発を絡めて進めたい意向の背景にあるのかも知れない。

資源輸出以外の輸出可能性を秘める穀物大国ロシア

ここで、ロシアの農業生産の可能性を紹介したい。
ロシアは隠れた農業大国だ。ロシアの小麦生産とジャガイモ生産は世界第3位、大麦は世界1位の生産量と言われている。
ソ連時代に比べ農業生産は落ち込んでいたが、2000年代に入り穀物生産量は回復基調にあり、生産効率の向上が着実に生産向上に結び付くため増産余力は大きいとみられる。
経済制裁を受けて、ロシア連邦政府は農水産物輸入禁止措置と食料自給政策の強化方針を打ち出している。

ロシアは、小麦輸出額を上回る食肉用飼料の輸入額により農産品輸入国であった。
現在は、欧米諸国等からの輸入禁止により、農業生産拡大・自給率向上に向け、食肉生産等の見直しを目指し、2020 年には約1割増の14.4 百万トンの目標が定められている。
さらに、金融システム安定対策、輸入代替・製品輸出促進対策、中小企業対策などの経済危機対策に加え、農業支援策も規定され追加的財政支援措置・融資利子助成等やロシア連邦予算の農業・漁業分野予算も増額されている。

ロシアの農業生産拠点は従来、黒海沿岸の南連邦管区とボルガ千歩管区で穀物生産の5割を占めていたが、最近はシベリアや極東の比重も高まっている。
シベリアは国内一位のジャガイモ生産地であり、アムール川流域等の極東地域での大豆生産も増産されている。
もし今後ロシアが農業輸出国となった場合、国内消費量と輸送問題からシベリア、極東地域の比重はかなり上がるものと思われる。
エネルギー問題が大きく取り上げられるシベリア開発だが、農業問題も将来的には大きな経済関心となりそうだ。

シベリア開発と地球温暖化

このシベリア・極東地域には、農業生産機械導入(更新)や技術改良に加え、アジア特に中国・韓国からの資本・人材流入等の注目すべき変化が報告されている。
今後の生産量拡大に大きなファクターとなりそうだ。
さらに、もう一つ気になる変化がある。シベリア北部の耕作適地拡大だ。

地球規模の温暖化は、地球全体の現在環境を破壊するが、その後の環境がどうなるかについての議論はまだ始まったばかりだ。
温暖化の原因は人間の化石燃料利用等が大きく、人類のエネルギー使用を見直すべきと強硬に主張する科学者が今の所は温暖化の議論をリードしているが、太陽活動や長周期の気候変動が主因という説もある。

温暖化は心配ないとパリ条約から脱退する方針を打ち出したトランプ大統領は非科学的だとして非難の渦の中にいるが、必ずしも非科学的とは言い切れない部分もありそうだ。
地球温暖化のメカニズムとその原因はよくわかっていないというのが、学会の多数意見だ。(人間の行為が温暖化を加速しているという説を肯定も否定もしない、現時点では分からないという立場が学者全体の過半数を越える意見だという。)

ここではロシアの国土の大部分を占める中央シベリアの永久凍土地帯についてふれたい。
世界全体の森林面積の2割を占める広大なタイガの針葉樹林帯は、年間降水量が平均より3割以上多かった年に森林土壌からのメタンガス放出が増加した。
ツンドラ周囲の森林土壌はメタンの吸収源であり、逆に凍土の解けた湿地はメタンの放出源であるので、地球温暖化の進展によりこの地域は降水量が増加する傾向にあり(傍線筆者)、その結果土壌水分率の上昇がシベリア森林土壌のメタン放出の引き金になり、さらに地球温暖化を加速する要因になる。
この結果、この地帯は降水量が少ない地帯なので(傍線筆者)、やがてこの地方の永久凍土帯にある森林は枯れ、乾燥した土地が砂漠化するというのが、地球温暖化対策を主張する学者の意見だ。

地球気候の変動は短期的にも長期的にも非常に複雑で解明の途上だが、少なくとも数世紀単位の長期的な予測は非常に困難で都合の良い所だけをとって結論を導くのはそれこそ非科学的かも知れない。
今の所あまりメディア報道はないが、温暖化が水資源にとってはプラスに働くという見解は専門家には一般的で、中期的には特に高緯度地帯は降水量が増えるという予測が多い。
温暖化で砂漠化が進むという説は学会では少数派のようで、現にサハラ砂漠の緑地化が始まっているように予測を裏付ける事象が複数報告されている。

参考図表:2050年の水資源予測
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地図上の赤い部分は2050年に水資源が厳しくなる地帯、青色部分は水資源に余裕が出る地帯。中期的には、南アメリカのアマゾン流域周辺と東シベリアが水資源の増加余力の多い地域だ。【筆者注】
≪2007年水工学論文集『温暖化時の水資源影響評価のための全球統合水資源モデルの開発』論文中の図より転載≫

ロシアの農業生産輸出拡大の鍵はシベリア?

ロシアの農業問題に戻って注目したいのは、この温暖化の影響として現実にシベリアで起こっていると言われることがツンドラ地帯の耕地化だ。
日本全土の16倍の広さを持つシベリアの農業統計は、非常に乏しい。

ソ連時代の1980年代は耕地面積が1.2億ha、つまり120万㎢で日本の国土の3倍、農地では30倍の広さで、これに放牧地等を含めると2億haの農地だった。
現在はソ連邦崩壊の影響もあり、利用率は1/3 程度で、用地単位当りの穀物生産力も1/3 と低い水準だが、シベリア全体の耕作可能性は仮に温暖化が進展すれば飛躍的に好転するというのがロシア農業関係の識者の意見だ。

統計等の整備不充分のため立証資料は少ないが、シベリア以東のロシア農業の可能性が今後期待できるかも知れない。
旧ソ連時代の穀物保管・港湾設備の老朽化が進み、ロシア東部の農業生産効率がかなり落ちているので、ここに適切な資本・技術提供があれば農業生産は劇的に改善するとも言われている。
ロシア極東の沿海州やアムール州では、中国・韓国が旧ソ連時代の耕作放棄地を狙った「ランドラッシュ」という農地入手行動が展開され、すでにかなりの地域でこの二か国の入植が進んでいるという報告もある。

日本の極東開発やシベリア開発への援助の具体化はまだかなり先の話だが、これらが進展すれば中長期的にはロシアの農業生産の可能性は世界的にも大きなインパクトがあり、この要素も今後のロシア経済を考える上で無視できないものではないだろうか。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。