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【活躍する若者が支える日本経済】ニューヒーローの経済効果が未来を変える?

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日本で若い世代の活躍が目立っている。
スポーツ界では、卓球や水泳は十代選手が第一線で活躍し、陸上やサッカーなど人気スポーツでも新世代の登場が人気を呼んでいる。
フリークライミング、スノーボード等の新種目でも若い世代が躍進し、スポーツ界の底上げによる経済効果も期待されている。

さらに、これまではあまり注目されることのなかった将棋の分野で、天才中学生棋士の登場も、新しい経済効果をもたらしている様だ。
ニューヒーロー(ヒロイン)達の登場による変化と、経済・社会等への影響について考えてみた。

活躍する若いアスリート達と経済効果

最近、多くの分野で若い選手が活躍するスポーツ界、主なものだけ数えても、卓球では2016年卓球ワールドカップ優勝の平野美宇やジュニア選手権で優勝し世界選手権でベスト8に入った張本智和らが多くの従来記録を塗り替えている。
水泳では、2000年生まれの池上璃花子が、14種目の日本記録を保持し、リオ五輪出場後も日本選手が苦手としていたクロール種目も含め力を伸ばしている。男子水泳でも萩野公介や瀬戸大地ら大学生がトップに位置し、陸上短距離でも10秒を切る争いに、18歳のサニブラウンがトップレベルに加わっている。

サッカーでは、最年少日本代表となった2001年生まれの久保健英が、いくつもの最年少記録を製造中だ。野球も清宮幸太郎(高3)の過去の名選手たちの記録を大きく上回るホームラン記録達成に注目が集まっている。
ウインタースポーツでは、稲村奎汰と角野友基の20歳前後の選手が次期五輪の有力メダル候補となっている。

新分野でも、フリークライミング競技では日本が強いボルダリング(W杯ランク3年連続1位)は、ジャパンカップ女子で、14歳の伊藤ふたばが史上最年少優勝を果たし、他にも中学生が二人決勝に残っている。
この他にも実に様々な競技で、これまでになく若い世代の活躍が目立っており、活躍を報じるメディアも過熱し、最近2年では毎年5%近かったスポーツ新聞の部数減少率が半減した。

スポーツ活性化による経済効果は、利用施設稼働率や観戦数の増加、スポーツ用品店等の需要増加から、参加人口増による循環的な商品やサービス供給の増加がスポーツ産業の成長を生む。
さらに、サッカーやバスケットの各リーグや野球の地域リーグなどは地域との関わりが 深く、スポーツ振興が地域発展にもつながる。

若い世代が活躍すると、次世代の参加が増えて親世代も含め関連競技全体の底上げとなり、経済が活性化する。
リオ五輪後、水谷隼の銅メダル獲得で卓球バーの来客数が増加し、「水谷隼カレー」の売上げが急増した。前述の平野選手に加え、伊藤美誠や早田ひな、浜本由惟、加藤美優ら十代選手の活躍が目覚ましい女子卓球が東京五輪で活躍すれば、CM等の露出が一気に増えると言われている。

1兆数千億円程度のスポーツ用品市場で、卓球用品の占める割合は1%程度に過ぎないが、テニス、バトミントンと並んで、最近用品売り上げが増加している競技であり、各選手の活躍は、競技人口を含め関連消費の増加に直結しそうだ。
卓球に限らず若手選手の活躍は最近の傾向で、まだ経済統計には反映されていないが、数年前のスポーツ用品市場の動向(野球・サッカー・バレーボールの落ち込み、ゴルフ・テニス・バトミントン・卓球の増加)から考えると、該当種目の国際大会成績向上や注目度アップによって用品を含む関連売り上げの増加につながる傾向がみられるので、今後の動向が期待される。

www.mediaflag.co.jp

将棋ブームの再来を予感させる藤井四段の活躍

次に、将棋の新ヒーロー藤井聡太四段の活躍にふれたい。
最年少プロとしての記録に始まり、新人としての記録や公式戦連勝記録の塗り替えで将棋界に限らず羽生七冠誕生以来の全国的な話題となった藤井四段だが、今の所直接経済活性化につながるような事象はまだ限定的だ。
もちろんメディア露出は広範囲で、テレビでは各キー局とも複数の番組で特集等を組み、CM料金換算の単純計算で62億4000万円もの金額が広告費として計上できるという試算もあった。

藤井四段愛用の登山用品の有名ブランドカリマー製リュックサックは、同系統の現行モデル(同じ青色の製品)が在庫なし状況で、通常の倍の発注があるという。
藤井四段が幼児時代に没頭した木製知育玩具「cuboro」は、天才脳を作ったと話題になり、購入希望殺到で7か月待ちの品切れ状態でネットでは高値で取引されている。
同じ教育分野で「モンテッソーリ教育」も話題になっている。

一部の教育者でしか知られていなかったこの教育メソッドが、藤井四段の通った幼稚園で採用されていたことから、モンテッソーリ関連本の売り上げが急増して増刷が続いている。
さらに、不二家の「LOOKチョコ」を対局中に藤井四段が食べていたことから、売り上げが伸びているようだ。
これらに加え、連勝中の号外発行やネットも含めた各メディアの宣伝効果は、将棋界にとっては非常に大きな宣伝効果を生んでいると推測される。
だが、連勝中からCMオファーが届き始め、複数の大手企業からのCM依頼もある上に、地元市の「広報大使」プラン等、「地元の顔」への期待もあるが、中学3年生であることと将棋能力の伸び盛り時期で勉強時間がいくらでも必要な段階であり、周辺関係者はこうした将棋以外への登場については、抑制気味なスタンスをとっている。

では、これらのブームが一段落したら「フジイノミクス」とも言われ始めた前述の経済効果は終息するだろうか?
筆者はそう考えない。藤井四段の登場やスポーツ界の新星達に、「あらたな価値観やパラダイムシフト」を生む可能性を感じているからだ。

www.asagei.com
www.asahi.com

ニューヒーローを生む新たなツール

最初に将棋の世界で考えると、半世紀破られなかった最年少プロ棋士の誕生は既に将棋のプロを目指す子供たちの増加の様子を見せている。
長期低下傾向にあった将棋人口は、既にNHKアニメ「3月のライオン」で子供世代の人気が上昇中であった所に、藤井四段の活躍で、注目職業として人気が急増している。

しかし、さらに注目すべきなのは藤井四段の活躍とAIとの関わりだ。
既に、多くのメディアから藤井四段の急成長にAI将棋ソフトが大きな役割を果たしたことは指摘されている。
だが、将棋や囲碁の世界に人間に近い(あるいは人間を越える)ソフトが生まれてから数年、他のプロたちにも同じ学習機会はあったはずなのに、なぜ藤井四段だけが急成長出来たのか?そこには、従来の発想では生まれない思考法、将棋の戦い方のパラダイムシフトがあるような気がする。

コンピューターの戦法に刺激を得た新しい戦い方や定石は、既に将棋プロの対戦でもかなり増えていた。
しかし、藤井四段の戦いに現れた幾つかの新手はこれまでにないユニークなものだ。
簡単にいえば、新手(従来の常識にはない戦法)の採用の前提に、前例にとらわれない形成判断に加え、序盤・中盤段階から最終形=「詰み」に至る新発想を含む長手数の読みがあることが、終了後の感想から読み取れる。

これまでの藤井四段の敗戦や苦戦の多くが、序盤で相手の研究にはまった僅かなケースを除けば、早指し将棋(考慮時間の短い将棋)に集中していることからもこれが、裏付けられそうだ。
もちろん、無数にある将棋実戦時の指し手(判断分岐点)選択に従来戦法を縛っていた、過去の常識(定石等)や形成判断を取り去り、人間の思考速度に可能な限りあらゆる選択肢を排除しないことから、新しい戦法を生んでいる様だ。
将棋マニア以外には少しわかりにくいかも知れないが、単純化すれば藤井四段の時折見せる斬新な発想(新戦法)は、AIの発想と人間の知識を統合した結果で、おそらく優秀な十代の若い頭脳にしかできなかった、AI思考との融合かも知れない。
もちろん、一度こうした新しい考え方が出現すれば、他の人が踏襲することは可能だ。
既に将棋界では、藤井四段の新手の源泉とその思考法を分析し、自分のものにする試みが多方面で始まっていると思われる。

anond.hatelabo.jp

スポーツ界の新しい試みとその広がり

スポーツの世界では、以前からスポーツマネジメントが優秀な人材育成に重要であると言われており、専門の学会も誕生している。(関連講座数の3分の2が経営・経済等のビジネス関連学部に置かれている)
加えて、スポーツの健康への位置付けの高まりから、社会人にも社会人大学院や講座・NPOなどにもスポーツの科学的管理が広がっており、スポーツビジネスの新しい方向として注目されている。

2015年に設立のスポーツ庁でも、スポーツ人材育成やスポーツ産業との連携が重視され、東五輪に向けた様々な戦略的取り組みが始まっている。
2016年から始まった「スポーツ未来開拓会議」では、低落傾向にあったスポーツ市場規模を2020年に倍増、その5年後の5割増を目指し、市場拡大に向けたスポーツ経営人材の育成も進んでいる。

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その一つとして、TIASがある。「TIAS」は、国際的なスポーツマネジメント能力のために、文部科学省(スポーツ庁へ移管)が設立した大学院コースで、IOC公認の教育プラットフォーム(CORE)だ。
その理念は、国際的なスポーツ界の現状理解ができる人材が、企業の諸外国とのコミュニケーションを容易にし、企業財産となるという考え方だ。
こうした試みが進展すれば、日本のスポーツ界全体の活性化にもフィードバックされると言われる。
スポーツをツールとした国際貢献可能な素養を持つ人材育成が、日本選手の国際的な活躍と有機的なリンクを形成し、スポーツ産業にとどまらない経済的効果と消費マインドの改善につながるものと期待されている。

ニューヒーロー達の可能性

スポーツの世界でも、若い選手の活躍が一時的なものなら該当分野の短期的な経済活性化にしかならない。
だが先述した様に、スポーツの国際的な活躍をビジネスにリンクさせ、従来は算入が難しかった国や新分野へのビジネスチャンスが広がれば、スポーツで活躍した人材の(引退後の)有意義な活躍の場の可能性を広げ、さらにスポーツ現場へのフィードバックが新たなヒーローを生む素地を作ることになる。

将棋の世界でも、藤井四段の活躍の源泉は13歳までの地道で正統的(従来方式)な教育を前提としたAI思考の導入による飛躍的進歩だった。
今後、こうした教育方法も教育現場に広がる可能性がありそうだ。
AIの教育への投入については、まだ議論すら始まっていない段階だ。
だが、AIは人間を越える知能であるとか、逆に人の代わりはできないというような短絡的な発想ではなく、人間の知性にはない可能性を持つ知性として、その発想や思考手順等を取り入れ、人間と協働する知性として捉えられれば人間の可能性をさらに伸ばす存在として、AI利用が新たな経済価値を生み出すことになるだろう。

スポーツや文化にとどまらず、教育現場やビジネス等に変革を生むような可能性が見えてくれば、将来的には消費マインドの落ち込みと実質賃金の低下(名目賃金マイナス物価上昇率)、長引くデフレが招いている閉塞的な状況を打ち破り、あらたな「ニューヒーロー」達も続々と誕生する未来が訪れるのかも知れない。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。