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欧米日、各中央銀行の出口戦略はどうなる?

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先進各国の中央銀行の「出口戦略」が話題になっている。
米国では、6月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でFRB(米連邦準備制度理事会)保有資産の圧縮開始について声明を出した。
EUにおいても、ECB(欧州中央銀行)が金融緩和解除について議論していることは公表されており、欧米中央銀行の「出口戦略」が市場の関心を集めている。
日本銀行だけは、出口戦略について特段のコメントはないが、現状の資産買い入れ等の終息が将来的には必須なことは明らかだ。
これら3中央銀行の出口戦略についての現状を整理し、今後の展開を占ってみたい。

中央銀行の出口戦略とは

各中央銀行は、公定金利の操作等の伝統的な金融政策に加え、最近は債券等の資産買い入れで市中への資金供給を増やす、いわゆる「異次元の金融緩和」を進めてきた。
出口戦略とは、一口で言えば「正常化プロセス」すなわち、中央銀行が続けてきた「異次元緩和(緊急避難策)」から、通常の金融政策へ戻る道筋だ。

2008年9月のリーマンショック以降、日米欧の中央銀行は利下げと大規模な量的緩和等の金融緩和策で景気を下支えしてきた。
欧米日各中央銀行は公定金利をマイナス金利などに引き下げるとともに、国債等の大幅買い入れで市中に大量の資金を供給してきた。
しかし、こうした金融政策は長期になれば効果が限定的になるとともに、中央銀行の金利操作という金融政策実施を奪い続けることになる。

また、資産の買い入れは中央銀行の資産規模を膨れ上がらせ、バランシートの悪化を招くので、いずれは金融緩和の縮小という出口に向かうのは必然と言われている。
但し、出口イコール金融引き締めではなく特に資産圧縮については、米国以外の中央銀行では、いきなり資産圧縮に向かうのではなく、暫く現状維持を続ける方法や債券相場に影響の少ない方法などの模索も続いている様だ。

1. 米国の動向

米国は景気拡大基調を受け、2014年10月にQE3(2012年9月導入のFRBの量的金融緩和)を終了して出口戦略を開始し、米国の金融政策は、金融市場との対話と実体経済リスクに配慮しながら正常化へ歩み始めている。
先日発表された2017年6月の米雇用統計も堅調な数字であった。
ただ、賃金上昇については依然として弱いことから、FRBの資産圧縮のペースや規模は慎重姿勢になる可能性はあるが、実施そのものは予定通り年内に開始されるという見方が強くなっている。

米国民間銀行34行に対するFRBのストレステスト(健全性審査)に、先月初めて全銀行が合格したことも、こうした金融政策推進の追い風になりそうだ。
但し、資産圧縮計画の規模自体は過去を上回るものだが、圧縮ペースは速くなさそうで、実施規模も一定の幅を持っていることから、市場との対話重視の姿勢を維持しながらの緩やかな実施になりそうだ。

また、任期終了(2018年2月)が近いイエレン議長の後任人事も今後話題になりそうだ。後任人事へのトランプ政権の関与やイエレン氏の再任も含め、これからの展開は注目される。

2. EUの方針

6月下旬に、世界の債券相場が急落した主な理由は、ECB、イングランド銀行、カナダやオーストラリア等複数の中央銀行トップなどから出た「出口示唆」に関する発言だ。
市場は米国以外の中央銀行の出口戦略論議はまだ先の話と見ていたタイミングで、複数の中央銀行からその示唆が唐突に出てきた。
上述の通り、米国は既に出口戦略を進め、金利引き上げに加え資産圧縮シナリオも公表済みであり、EUや先進国中央銀行が米国と同様に検討しても不思議はない。
市場は内容よりも唐突な発表タイミングに反応した様だ。
ドラギ総裁が公表した発言を振り返ってみたい。

  • ECB はユーロ圏の最近の景気回復に合わせて金融政策を微調整する可能性
  • デフレ圧力がインフレの力に置き換わってきた
  • EUの物価水準伸び悩みは一時的


市場は発言中にある「微調整(tweaks)」という金融政策に(恐らく)過剰反応し、債券相場が急落。米日の債券相場まで影響した。
ECBの金融政策についての市場は、債券購入(2兆3000億ユーロ)の縮小を開始し、利上げも検討すると受け止め、発言は「予想外に踏み込んだ」ものと考えた。
いずれは行われるEU中央銀行の出口戦略だが、正確な時期・規模・方法の予測は困難とされていたが、ECB総裁本人の口から「出口」が示唆されたのだからショックとなったわけだ。
発言以降、債券相場は下落、ユーロは他通貨に対し高値圏で推移している。
加えて、従来の姿勢と逆の「金利引き上げ準備がある」という英国のカーニーイングランド銀行総裁発言や、カナダ中央銀行や、オーストラリア中央銀行の金融引き締め姿勢への転換発言も出てきた。(「出口戦略」は先進国中では日本だけが話題とならず、長期金利も多少の上昇はあっても日本の金利だけは当面上がりそうにない)

また、ドラギ総裁の発言には、EU圏の「低インフレは一時的」とい米国のイエレンFRB議のFOMCの会見等での表現に似た発言があった。(「インフレは継続中」=いずれ「利上げが必要」を示唆?)
これまでの中央銀行の公定金利水準は、各経済圏の実質インフレ率と深い相関関係を持っており、各中央銀行は、インフレ率の安定(緩やかな上昇)について、かなり神経質だ。
このため、EUのみならず米国の個人消費物価等の各指標も、今後の各中央銀行の出口戦略の有無、進行について大きな材料となりそうだ。

ECBの一部では、ドラギ発言は「誤解されている」とも言われたが、ECB内部で「出口」討議が始まっていることは確実だろう。
ECBの次期総裁筆頭候補とも言われるドイツ連銀(ドイツ中央銀行)のバイトマン総裁は、以前からECBの超緩和策には批判的だったが、6月に現在の超緩和的政策からの移行を討議中と述べた。
彼はECB金利策定委員会のメンバーでもあるので、出口戦略に大きな影響があると考えて良さそうだ。

一方で、プラートECB専務理事は、7月8日に「インフレの収束に時間が必要、我々は忍耐強くなる必要がある。(中略)インフレ抑制に緩和的な資金調達環境が条件で、金融緩和維持は必要」と述べ、ECB内部の意見相違がうかがわれる。(米FRBにも、セントルイス連銀総裁などからの「利上げのペースが早過ぎる」という内部意見があった。)
EUの次には、EUにカナダ、オーストラリアも米国同様の「出口」戦略に踏み込むかどうかだが、EUも含め各中央銀行は情報の小出しリークを交えて、市場の反応を見ながらインフレ率も考慮しつつ、極めて慎重に進んでゆくと推測されている。
(極端な場合、出口論議開始後も、後述の問題等の情勢次第では出口の前でUターンして、金融緩和に戻る可能性さえ指摘されている)

一向に上がらないインフレ率と、堅調な雇用と賃金上昇が連動しない問題と、既にその端緒を見せている、利上げ、緩和縮小の観測による、ユーロ高の問題も重要な要素だ。
これらの複雑な要素が、今後の出口戦略、特に利上げの継続に大きな影響を与えそうで、この点は、米・EU双方に共通する要素だろう。

3. 日銀の方向性

日銀は、これらの動きとは一見無関係に現在の量的緩和、マイナス金利政策を堅持すると表明している。
だが、当面は金融政策の変更余地はないとしても、中長期的には正常化(金利操作余地の確保)が必要であり、さらに金利上昇時の保有資産の評価損発生も問題と指摘されている。

異次元金融緩和により、日銀の保有資産は国債だけでも市中の日銀券発行残高を大幅に上回っている。
後述するように、現段階の金融政策変更はないとしても、今後も他の中央銀行の出口戦略の進展に絡んで、マイナス金利と資産増加に関しては、日銀の姿勢は引き続き話題になるものとみられる。

【講演】黒田総裁「『期待』に働きかける金融政策:理論の発展と日本銀行の経験」(オックスフォード大学) : 日本銀行 Bank of Japan

出口戦略と経済・相場への影響

6月の政策決定会合で、日銀は現在の金融緩和継続を決めた。
長期金利の金利目標誘導のため、国債買い取りは継続され、日銀保有の国債残高は増え続けている。
新規発行国債の大半が最終的には日銀の購入・保有となる現状で、保有資産に占める国債割合は9割近くになっている。

また、資産買い取りの対象は上場投資信託、不動産担保抵当証券等に拡大した。
こうした保有資産が金利上昇により下落した場合、日銀資産(バランスシート)が毀損、場合によっては債務超過になる懸念が話題だ。
その場合に何が起こるかについては意見が分かれているが、いずれにしても国債発行額全体の規模から考えて今後も現在の金融政策を長期間続けることは難しい。

黒田総裁の任期終了後にはこうした諸問題が整理され、少なくとも議論の対象になることは間違いないだろう。
だが、日本に直接関連する地政学リスクの拡大や、物価・金利・為替の急変等の予期せぬ急変動が起きない限り、日銀の出口戦略に関する議論は当分の間、維持されるという見方が多い。(円相場等の相場急変可能性は少ない)

米国、EUの金融緩和終了後に日本も緩和終了に向かうことは確実だが、過去の事例からみても、その期間には相当のばらつきがある。(日本が直ちに追随しなかったケースも多い)
現状では日銀の金融政策については、不透明な見通しではあるが、現状を維持するという姿勢が、出口戦略の封印とともに、暫く続くのだろう。

経済・相場への影響だが、日銀の金融政策の永続性に疑問が残る限り、将来的な不安は払しょくできず、企業業績の裏付けはあるとしても、今後も相場の不安定要素、不可避的な長期金利上昇による景気減速等の波乱可能性は否定できないので、引き続き十分な注意が必要だろう。

diamond.jp

後序:日銀の出口戦略(資産圧縮)の具体的な実施方法について

① テーパリング

国債などの資産購入額を減少方法は、相場(市場)や景気動向に大きな影響が無いように、購入と同様のペースで減少する(テーパリング)方法が有力。

② 金融政策継続等の表明(市場との対話)

マイナス金利政策継続の表明等で、市場の懸念(短期的な資金不足等)や動揺を抑制しながら、量的緩和政策をスムーズに終わらせる。(米国FRBの手法と同様)
但し、多額の政府債務残高への不安や国債市場の需給バランス変動等により急変(長期金利急騰)のリスクは高いとも思われている。
仮にこうした事態が起きなくても、長期案を要する保有資産の削減終了までは潜在的なリスクとして意識され続けることになりそうだ。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。