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EU離脱が英国経済崩壊を招く? 影響する日本企業は?

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英国のEU離脱(ブレグジット)交渉が始まった。
期限が定められた交渉で総選挙に敗北した英国の立場は弱く、EU主導で離脱条件が決まる公算も高い。
最終的な結果は未定だが、内容次第ではこれまでの想定以上に英国経済への深刻な影響が出るとの観測も出始めている。その場合、日本企業にはどんな影響があるだろうか。
ブレグジットの行方と併せて、今後の展開を考えてみたい。

ブレグジットの行方

英国のメイ首相は、総選挙の敗北とスコットランド独立の住民再投票等の情勢下にあっても、EU離脱の方向性(EU単一市場への自由なアクセスを保持し、域内自由移動は制限等)の変更は表明していない。
メイ首相には「そもそも離脱にハードもソフトもない、最善の選択をする」との発言もあるが、現実的には英国が持つ交渉カードは限られており、国内情勢がさらにその立場を弱めそうだ。

その結果としてのEUとの貿易縮小や域内相互通行の制限、金融サービスの拠点移動などが予想され、経済への影響は避けられそうにない。そのため、英国から他のEU域内への業務移転を検討する企業も増加中だ。
英国内の混乱傾向が続けば今後、英国からの撤退・移転に向かう企業がさらに増加する可能性は高い。
ブレグジット後の方向性(離脱交渉結果)は注目の的だが、英国に全決定権がないのは交渉に臨むメイ首相にとって厳しい。

www.bbc.com

英国経済変動(悪化)シナリオ

英国のEU離脱が、信用不安を招く様な大きな経済変動(経済崩壊)につながる可能性は現時点での可能性は低いだろう。離脱の枠組みさえ決まっておらず、貿易を含めて最終的には現状に近い経済活動が維持される可能性もあるかも知れない。
しかし、既に金融機関等で始まっているような離脱に向けた動きが一般企業等へ拡大したり、移転が実現したりした場合には、英国を急激なインフレと極端なポンド安等が襲い、世界経済に波及する大きな経済変動発生も一部で予測されている。

変動シナリオの一つは、メイ首相自身が進めようとしている域内自由移動の制限により、貿易の縮小だけでなく、人の移動制限による人材流出(流入減)が生む国内の人手不足と生産性の低下だ。
既にペプシコやネスレなどの国際企業が英国工場の生産縮小を行っており、この背景にはこれまで主に移民労働者が担っていた工場内労働力の不足があると言われている。

EU離脱後、移民流入が大きく制限された場合、英国の生産現場を担ってきた移民労働力が激減し、生産設備の減少や生産規模の縮小が深刻な経済影響を生むかも知れない。
二つ目のシナリオは、為替と物価変動の影響だ。

jbpress.ismedia.jp

ポンド相場の行方

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出典:bloomberg.co.jp


1992年のポンド危機では、投機ファンド等の攻勢に対抗した中央銀行の利上げ等の対策にも関わらず大幅なポンド安になった。だが、結果として英国の輸出競争力が強まり経済は回復軌道に乗った。
今回は、EU離脱のプロセスが不透明なことを嫌気する「不透明な」政治リスクがポンド安につながっている。

金融市場には英国が経常赤字国であることもあって、資本流出の懸念が高まっており、国際通貨基金(IMF)からも英国経済の脆弱性を指摘されている。
だが離脱投票直後のポンド安以降、約1年経過した現在は92年のポンド危機と同様に、通貨安に支えられた輸出増が好調な経済状況をもたらしている。

直近発表の1-3月期実質GDP成長率は前期比で+0.3%で、前四半期からは減速だが、前年比で+2.1%と増勢を保っている。但し、成長率の減速理由として最近のポンド安の影響でインフレが進んでおり、英国民の実質所得の伸びが鈍化していることがあげられている。この傾向が続けば今後の経済減速可能性は無視できない。(今後のGDP成長率発表は注目だ)
ポンド/円相場の推移をみると、ブレグジット判明当初には125円を目指すような急落だったが、この底割れ水準への突入は免れ、その後20円近く上昇している。
それでも、2015年の高値圏に比べるとなお3割程度のポンド安水準にある。

また、スコットランド独立など連合王国内の分裂問題も相場の懸念要素だ。
経済的にはスコットランド経済は全体の11分の1に過ぎないので、仮に離脱(EU復帰)でも経済的影響は少ないと言われるが、国民に対する心理的影響とEU回帰逆ドミノ(アイルランド、ロンドン市等)も考えられ、連合王国縮小に対する英国内の心理的悪影響と英国内に展開する海外の投資が、不透明要素の拡大によりさらに慎重になる可能性がある。

心配されるのは、これらの現時点では可能性でしかない懸念が表面化した時に、今後投資家の心理的な思惑でポンド安やハイパーインフレ等が発生し、極端なポンド安から英国経済が混乱した時だ。
この場合、相場変動としてはブレグジット判明時の様な一時的な変動であっても、中長期的に英国への投資心理をさらに低減させることになるだろう。

www.asahi.com

英国の景気後退と日本企業への影響

仮に英国が深刻な景気後退となれば、英国向け輸出の減少にとどまらず、EU全体の景気後退が起こる可能性も大きく、この場合には影響がかなり大きい。
日本から英国への輸出額シェアは2%以下だが、EU全体では1割以上であるからだ。
さらに対ユーロの円高も付随的に起こると見られ、輸出企業の打撃がかなり大きそうだ。
加えてEU諸国からの訪日観光客減少による、好調なインバウンド消費の落ち込み懸念もある。

これらの中でも影響が大きいのは、やはり自動車産業だろう。
2017年前半段階で、英国に対する自動車業界への投資額は、前年比7割減だった2016年の166000万ポンドから、さらに32200万ポンドまで激減したという報道がされている。これは、日本企業だけの数字ではないが、既に自動車産業の英国離れがスタートしているとみてよいだろう。
トヨタ、日産、ホンダ大手三社だけでも、英国の自動車生産は完成車ベースで100万台規模であり、そのうち5割以上をEU諸国に無関税で輸出している。

また、英国に100億円を越える投資で鉄道車両工場を展開したばかりの日立製作所も、欧州ビジネスの拠点化構想が危ぶまれる。
世界の金融機関の中心的存在だったロンドン(シティー)からの海外移転の動きも始まっており、既に複数の企業・機関がフランクフルト(独)への移転を表明している。

金融機関の移転自体の英国への経済的影響は、雇用も含め軽微のようだが、英国が金融の主役から降りるという象徴的な意味合いは、今後の英国経済に心理的な悪影響を与えそうだ。
ブレグジット当初、シティーの一部はもともとEUの金融規制強化を嫌っておりEU離脱は歓迎というのが本音だったとの観測もあったが、最近の中心的金融機関・企業の移転の動きは、保険会社など一部金融機関ではかなり深刻に受け止められている。

www3.nhk.or.jp


前述したように英国の景気減速、経済縮小が英国経済の崩壊にまで至る可能性は少ないと思われるが、今後のEU離脱交渉結果次第では、大きな経済変動のリスクがあることも想定するべきだろう。
日本企業への影響自体は、現在の好調な企業業績を損なうほどではないかも知れないが、EU全体の景気減速、ユーロ安に影響が広がることが、今後一番の懸念材料ではないかと考えている。
ただし、長らく交渉が続いていた日本とEUの経済連携協定(EPA)の大枠合意が漸く実現したことは大きな出来事だ。
日本の対EU貿易は、規模としてはGDPの0.3%程度で、経済への影響は軽微という見方もある。
だが、こうした貿易協定がEUと日本でまとまること自体が自由貿易の進展について、今後大きな心理的インパクトになりそうだ。(EU離脱は英国限定の経済波乱にとどまり、EU全体としては自由貿易が進むかも知れない)
マクロン大統領の当選以来のグローバリズムへの風がまた加わり、自由貿易の先行きに少し明るさが加わったのであれば、世界経済にとってはプラス要素だろう。

www.goodbyebluethursday.com
参考:2016年6月暴落のブレグジット関連の主な銘柄の株価
(金融関連銘柄を除く)

英国のEU離脱に関する国民投票の選挙結果判明後に、日経平均は6.7%急落した。この時期にEU離脱の影響を受けるとして全体を上回る下落となった企業の株価を下記に参考として掲げた。

銘柄
下落率(%)
日本板硝子(5202) 28%
日本キャピタル(8586) 27%
森精機(6141) 24%
マツダ(7261) 23%
NTN(6472) 18%
サンデンHD(6444) 18%
富士通(6702) 17%
日立製作所(6501) 15%
コニカミノルタ(4902) 14%
アシックス(7936) 14%
トヨタ自動車(7003) 13%
ブラザー工業(6448) 13%
日産自動車(7201) 11%
ホンダ(7267) 9%
キャノン(7751) 9%

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。