Money Clip

お金に関するニュースをクリップ!

「空売りファンド」の売り推奨銘柄の株価推移

f:id:Money_Clip:20170710171123j:plain

最近の株式市場で、特に新鮮味のない悪材料でも「空売りファンド」と呼ばれる調査会社のレポート発表で急落する銘柄がある。
株価指標が割高の銘柄は、特に悪いニュースに大きく反応し株価が急落するケースがある。
このような場合に保有株や新規投資についてどういうスタンスが考えられるのか、実際の該当銘柄のデータを参照しながら検討してみたい。

売りを推奨する「空売りファンド」とは

巨額の粉飾決算などを取り上げ、米国の巨大エネルギー企業エンロン社の不正追及を行ったのは空売りファンドのレポートで、最終的にエンロン社が破たんしたのはこのファンドの指摘がきっかけとなった。
2015年末に、調査会社ウェル・インベストメンツ・リサーチが、丸紅(8002)の減損損失処理は過少とレポートで指摘してから、複数の海外ファンドが多くの日本企業について「売り推奨レポート」を出している。

ji-sedai.jp

売り推奨銘柄にはどんなものがあったか

2016年12月に、日本電産(6594)SMC(6273)が、米国の調査会社による、売り推奨の株式レポートに取り上げられた。
この時点で、空圧制御機器等のメーカーSMCには「会計処理の疑惑」、日本電産については「株価が企業実態よりも割高」という他会社のレポートもすでに発表されていた。
このレポート発表後、日本電産の株価は一時前日比約6%安まで下げたが、当日中に持ち直し終値は前日比と同等の水準に戻る。

日本電産に関するレポート内容は、同社は売上高と利益の目標が未達で収益性を高く見せるため「非常に強引な会計手法」を採っているとして、目標株価を4764円とした。
〔後述するように、日本電産側は直ちに業績や会計処理は透明性ある開示を行っており、指摘されたレポートは「内容が全く異なっている」と否定〕
このレポートを公表した調査会社マディー・ウォーターズは、標的の企業株を空売り後、問題点指摘のレポート発表による株価が下落時に買い戻し、収益を狙う手法で米国以外にもシンガポールや中国等の企業を標的としている。
同社のレポート発表後に破綻に追い込まれるケースもあったが、逆に最終的に株価が上昇するケースもあった。

www.bloomberg.co.jp


同社以外にも各種ファンドやアナリスト等から、ユーグレナ(2931)サイバーダイン(7779)JIG-SAW(3914)等のベンチャー企業の他に、前述の丸紅や伊藤忠(8001)などが、不正会計や甘い収益予測等を理由にしたレポートで糾弾(※売り推奨)されてきた。
だが日本企業の調査レポートに関しては、これまでの所、米エンロン社の様な企業の根幹にかかわる重要な指摘を受けた企業は少なく、大半が根拠のない疑惑や既知の事実の列挙の様だ。

介護ロボットの研究開発や販売で、マザーズ市場で人気となっていたサイバーダインの株価は、レポート前は売上高規模の100倍以上になっていて純損益も赤字であったため、レポート後の株価は大きく下落した。社員1人当りの時価総額が上場企業で最も高いと言われるサイバーダインは、通常の尺度で時価総額を判定し難いベンチャー企業だ。

通常は企業の純利益に将来的な成長期待で時価総額が決まるのだが、利益と将来期待の乖離が大きいベンチャー企業の適正な株価水準は指標では判別できず、結局市場が決めることになる。(後に業績の裏付けを伴ってさらに上昇するケースも勿論ある)
そのため、こうした企業のリスクを強調し不安を誘発する株価操作は比較的容易な場合が多いが、中長期的な株価押し下げの要因にはなっていないケースも少なくない。

空売り推奨企業の業績と各種指標、株価の推移

少なくとも日本電産の様な例外を除くと、空売りファンドの推奨銘柄は、株価急落後しばらくは大幅な下落幅を埋めきれないケースも多い。
2016年8月に、米国の「シトロン・リサーチ」という空売りファンドが発表した、サイバーダインの売り推奨レポート以降の推移を見てみたい。

f:id:Money_Clip:20170710172506p:plain
出典:bloomberg.com


レポート翌週までの急落で時価総額は約700億円も減少し、11月の最安値では一時1300円を割り込むなど軟調な動きだったが、その後の株価はは落ち着きを取り戻している。
チャートや出来高を見る限り、空売りファンドのレポートは、2016年6月の高値からの下落局面において、タイミングよく下げ基調を加速したが、十か月後の最近までの株価推移を見る限り、売り推奨レポートの影響は、短期的で限定的だったと思われる。

ただ、それまでの株価が指標的にかなり高水準だったこともあり、同社の経産省等からのベンチャー大賞受賞や大学病院での医療機器導入などのニュースにも株価反応が限定的だったのは、こうした推移への警戒感もまだ残っているのかも知れない。
なお、レポートの内容自体は稚拙な内容で、不必要に攻撃的な文章(日本語訳)と既知の事実の列挙だった。また、レポート内の目標株価は直近水準の85%下回る300円でその根拠は薄弱で、株価下落による空売り利益を狙った売り推奨レポートだという観測が多かった。

kabumatome.doorblog.jp


日本電産は、売り推奨の「ハリボテの広報活動によって誇張された」というレポート(目標価格4764円)の反応は限定的で空売りによる利益獲得は失敗したとみられている。
これは、日本電産側が即日「業績及び会計処理についても透明性のある開示をしており、(レポートは)当社の見解とは全く異なる」との反論を発表したことと、市場も同社のビジネスモデルと連続増益等の実績を支持したため、影響は限定的だった様だ。

同じ時期にウェル・インベストメンツのレポートは、空気圧制御システムのSMCを「グローバルな連結監査能力がない小規模な監査法人が見抜けない疑わしい財務諸表」とレポートを発表し、強い売りを推奨した。
株価は公表前日終値の29495円から公表直後に一時26355円まで1割近く下落した。
しかしその後は、レポート内容が「疑いがある」「予想している」等の根拠提示のないあいまいな表現であり、一時的には1月安値で再び26000円近くまで下落する局面はあったが、SMCの業績発表等を受けて、相場全体の動きにあわせておおむね上昇基調を続け、6月には年初来高値を付けている。

現在、一昨年の上場来高値を目指す動きとなっていて、指標的には割高という懸念を打ち消す値動きを示している。
上述の空売りファンド各社は、レポート公表直後の株価下落局面で早々に利益を確定していると思われ、その後の株価推移に追加レポートするようなことはなく、中・長期的な株価水準を注視している様子はないと言われている。SMC同様に不正会計を指摘された、丸紅・伊藤忠の2商社は、前述の指摘を受けた各社以上に株価への売り推奨の影響は少なかった。

空売りファンドの影響力と対象銘柄の株価推移

ここまで見てきたように空売りファンドのターゲットとしてレポートされて、株価に現在も影響が残っているのは、時価総額が高いベンチャー企業が多い。
サイバーダインに続いて、同様なレポートの対象となったバイオベンチャーのユーグレナ(2931)は、藻の一種ミドリムシによる機能性食品・化粧品販売に加えたバイオジェット燃料の研究開発を材料に、利益等の指標に比べ株価がかなり高い水準にあった。
これら2社は、利益や売上に比べると高い株価により、時価総額は1000億円を超えており、一度低下した株価水準は、新たな材料が出ない限り戻りにくい。

toyokeizai.net


空売りファンドの調査レポートは、急落のきっかけとなったとしても、レポートの内容が長期的な株価のトレンドを変えたとまではいいがたい動きだ。
これらの例だけで結論を出すのは難しいが、今までの所、日本における海外空売りファンドのレポートは内容に企業の根幹にかかわる新事実がない場合、株価に対する影響は一時的なものにとどまり中長期の株価形成は、それ以前のトレンドに戻る傾向を示している。
このため、空売りレポートによる株価急落に即応した売り行動等は慎重に行った方が良いのかも知れない。

調査会社によるレポート発表後の株価推移 (単位:円)
社名
レポート公表日
目標株価
前日株価
発表後最安値
下落率(%)
丸紅(8002) 2015年12月18日
390
651.4
432.5
33.6
JIG-SAW(3914) 2016年4月27日
957
18410
5040
72.6
CYBERDYNE(7779) 2016年7月12日
2156
1281
40.6
SMC(6273) 2016年12月13日
4484~15145
29495
26255
11.0
ユーグレナ(2931) 2017年1月19日
500~580
1217
1098
9.8


但し、株価水準が下がったことで逆に安くなった株価の急反発を期待した買い行動も、売り推奨レポートの内容にもよるが、同様に安全な投資行動とは言えないだろう。これまでの空売りファンドが継続的な売りを行っていないから、今後も継続的な空売りはせずに一時的な急落で終わる保証はないからだ。
またこうした銘柄に限らないが、大幅に下がったと言っても急落前の株価水準に戻る保証がないことも、当然だろう。

調査レポートに対する投資姿勢

常識的なことかも知れないが、空売りファンドの売り推奨レポートに限らず、各付け会社や各種調査機関等のレポート・格付け・想定株価等の発表については、複数の情報を相互参照してから総合的に判断した行動をとるのが基本だ。
もちろん大きな衝撃を生む新事実の発表がある場合もあるので、こうした対処が難しいこともある。
値動きの激しい株式・商品や、評価が安定しない成長企業への投資には大きなリスクがあることは踏まえておきたい。

hbol.jp

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。