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ネスレ、ペプシコの人員削減計画は何を意味するのか?

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引用元:nestle detsky-nabytek.info

最近とあるニュースが気になっている。米国の大手飲料メーカーのペプシコやスイスの国際企業ネスレの人員削減計画の相次ぐ発表だ。
原因は、単なる売れ行き不振による生産の調整ではなく。人材の確保が困難な場所からの生産拠点の移転が理由の様だ。
このニュースの背景にある、欧米の労働力不足の兆しについて考えてみたい。

ネスレが工場を移転するほど、英国は人手不足なのか?

ネスレは約28万人の社員を抱える世界でもトップ30に入る世界最大の巨大な食品・飲料企業で、2000年開始のグローバルビジネスエクセレンス(Global Business Excellence)プログラムとして、世界各地の優良業務プロセスを集め、統一的なデータや経理・人事業務、サプライチェーン管理等の標準化と展開を進めている。

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成長をM&Aに頼って来たネスレは、地域に根差した部門力が強かったが、グローバル一体経営に舵を切って、合理化、資源の集中化途上だ。
ただ、2017年3月に発表されたイギリスでの人員削減は、単純な合理化ではない様だ。
ネスレの2016年売上高は実質ベースで前年比3.2%増と前年を下回る伸び率で、純利益も85億フランと、いずれもアナリスト予想を下回った。

新興市場での成長率は昨年の7.0%から5.3%に鈍化、中国の飲料事業が引き続き伸びず、シュナイダー最高経営責任者(CEO)は、5~6%の売上伸び率目標を2~4%に引き下げ、「現在の環境は不安定で、依然としてデフレ的」として、コスト削減と資産管理を通じて中期目標を達成したいと表明した。

発表された計画では、英国の4工場で300人規模の人員を削減し、一部製造ラインをポーランドに移すとしたが、その理由には英のEU離脱との関係だとは言わず、効率よくかつ競争力を確保するための人員削減だとしている。
英国での人件費は、ユーロ域内諸国と比べても最近のポンド安の影響もあり、決して高い水準ではない。
英国から生産拠点を移す理由として考えられるのは、英国特有の雇用環境だ。

自動車など一般的な英国の製造業では、一つの工場に10か国以上の移民が働いているのは当たり前らしい。
その背景には、工場労働者の求人に英国人の応募は少なく、移民や出稼ぎの外国人労働者に頼らざるを得ない実情がある。(英国人は工場労働を好まない)
逆に、賃金などの雇用条件で東欧出身の移民や出稼ぎ労働者等は、母国の何倍も高い収入を得られるから、各種製造業には移民が多く勤務している。
そのため、英国の製造業では幹部社員を除き、製造現場で働く一般労働者の賃金には上昇圧力が働きにくい。

ここに、ブレクジットでの移民制限問題が影を落とす。
本来は、こうした生産現場での移民労働は英国人の雇用を奪っているわけではなく、むしろ国富を支えているのだが、データの裏付けのない移民排斥キャンペーンによりEU離脱にかじを切ってしまった英国の今後に、グローバル企業が早々に見切りをつけたのではないかという見方が登場している。
英国の労働力全体は十分かも知れないが、工場労働者は足りないという説だ。
労働市場メカニズムは今後、移民・出稼ぎ労働が減少すれば、工場労働者が英国人だけとなり、「需要」と「供給」のリバランスから賃金が上昇する方向に動く。
このことを先読みして、生産拠点の海外移転に踏み切ったのが真相ではないかという観測だ。

ペプシコの人員削減

アメリカの飲料食品大手で、ネスレに次いで世界第二位の食品・飲料企業であるペプシコも同じ英国での人員削減を発表している。
その詳細はまだ不明だが、同社は既に2008年、米国内で3300人6工場の閉鎖を行い、昨年もフィラデルフィアの工場で20%のレイオフ(一時解雇)を行っており、継続的に生産資源の見直しを行っている企業だ。

ペプシコの売上比率は食品約52%、飲料約48%とほぼ半々で、海外売上比率が4割程度とバランスの取れた安定企業だが、ネスレ同様にM&Aでの企業成長を進めており日本のカルビー(2229)とも資本提携している。
特に飲料は、最近の健康飲料志向での変動はあるが、基本的に安定した市場で、逆に急激な売り上げ拡大は見込めない市場でもあるため、コストダウンが経営戦略の主軸となっている。
従来はM&Aを中心に拡大路線にあった海外展開において、人員削減計画が発表された事実から、英国事業においてはネスレ同様の事業背景があるのではないかと想像している。

アメリカに人手不足は起きないのか?

「移民排斥」「工場労働者の雇用を守れ」という言葉から連想されるのが、トランプ政権率いるアメリカだ。
既に英国で始まったのかも知れないグローバル企業等の製造業海外移転が、米国で起きる可能性はないだろうか。
米国の雇用統計発表の度に話題になるのが、その数値から人口変化と経済の先行き読み取れるからだ。移民の国とも言われる米国には、毎月多くの移民が新規に流入し、人口増加となる。

GDPの約7割は個人消費であり、米国の経済の現状維持には、10万人/月の非農業部門雇用者数の増加が、経済成長には20万人/月の増加が必要だと言われている。但し、人口増は毎月発表されないうえに、最近問題となっている不法移民(密入国含む)は計算外だ。
この米国経済の基礎となる人口実態と併せ、非農業部門雇用者数の増加と失業率の指標等の組み合わせが米国経済の先行指数となる。

最近の雇用統計の数値からは、堅調な雇用と失業率の低下傾向が読み取れる。
ところが、こうした数値から当然生まれるはずの賃金の伸びが予想より低いケースが時々見られる。
世界的な人口動向と移民の現状、好景気が続く米国の堅実な雇用環境にも関わらず、なぜ雇用ひっ迫に見合う賃金金上昇につながっていないかという疑問の答えはどこにあるのだろうか。

2016年12月の非農業部門雇用者数は緩やかな増加基調が続き、失業率は4.7%と、自然失業率と考えられる水準近傍で推移しており、労働需給が引き続きタイトな状況にあった、
同時期、民間部門の平均時給は前月比+0.4%の改善と、2009年6月以来の高い伸びを記録し、賃金上昇率が着実に高まっていた。
しかし、2017年1月の雇用統計では賃金上昇は鈍化し、前月比+0.1%と前月から伸び率は落ち込み、前年同月比でも+2.5%と市場予想を下回り、2016年8月以来の低い伸びとなった。
そして、6月に発表された2017年5月の雇用統計は、非農業部門雇用者数変化(NFP)は16.2万人増加、失業率は4.3%(前回4.4%)となったが、平均労働賃金は、前月比0.2%の改善にとどまり、前年同月比は2.5%増と横ばいだった。

toyokeizai.net


景気好調下の失業率低下でも、平均労働賃金が予想外に伸びていない。
イエレン米FRB議長は、米消費者物価指数の伸び悩み状態や労働市場の逼迫が賃金の上昇や物価上昇圧力に結びついていないことの理由に、NAIRU(インフレ非加速的失業率)の低下をあげ、このNAIRUが失業率以上に下落しているため期待インフレ率が上がらないという。
こうした傾向の背景には、世界中がインフレ抑制環境になっていることがあるのかも知れない。ただ、日銀の黒田総裁に加え、米国でもイエレン議長が「インフレ強気論」を打ち出したことに、市場に疑問の声も多い。

移民社会アメリカが向き合うトランプ大統領のこだわり

現実的な雇用の問題として、トランプ大統領の支持母体であるラストベルトの雇用は、実は産業ロボットに奪われているという統計もある様だ。
支持母体である労働者階級に向け、「雇用を守る」というスローガンを中心に据えるトランプ大統領の政治姿勢は今後も変わらないだろうが、前述の通りアメリカ経済を支え、成長に欠かせないという従来の米国の移民政策の変化は米国景気に対する重大な影響を及ぼす可能性がある。

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既に、IT技術者の雇用問題には影響が出ているという声も出てきて、ナスダック市場には漠然とした不安感も感じられる。
最近のIT関連の雇用は順調で、例えば2月のIT職の求人件数は推定107,900人(前月比+16,700人) だったが、トランプ政権の首席戦略官バノン氏の「シリコンバレーの技術企業CEOにアジア系が多すぎる」という以前の発言を危ぶむ企業もあり、シリコンバレーからEUへの雇用シフトが起こり始めたという観測もある様だ。

ここで触れたような英国とブレクジットの問題から生産拠点等の海外移転につながることが明確になるころには(それまでに米国の方向展開がない限り)同様の問題が米国景気の動向に影を落とすのかも知れない。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。