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【非関税障壁と日米通商交渉】農業保護と自由貿易の課題とは

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バター不足やバター値上げが続く乳製品不足。
ジャガイモ不作による、ポテトチップス危機。

一見無関係に見えるこの二つのニュースの共通項は、日本の農業分野における「非関税障壁」なのかも知れない。「バター危機は酪農家への過保護」との声は、ポテトチップス用ジャガイモ不足の一因ともいえる過剰な農業保護にも当てはまりそうなのだ。また、日本の農業産品の輸入制限は様々な形で存続しており、農業輸出の課題を持つ米国にとっても大きな関心事だろう。

日本の農業保護政策と関税制度が米国との農産品自由貿易・通商交渉の行方にどのような影響を及ぼすかも探ってみたい。

日本の農業輸入に関する関税制度

日本の輸出入関税は、1994年のガット(GATT:関税貿易一般協定)ウルグアイラウンドの最終合意から、鉱工業製品に比べるとそれまで聖域に近かった日本の農業輸入制限が対象とされ、原則自由貿易を謳ってきた。だが、日米EC各国の農業輸出入の保護政策は、輸出補助金や数量制限など多くの分野でその後も課題が残っている。

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従来の農産物輸入は、関税対象品目と一定数量以上の輸入禁止という数量制限制度が並立していたが、ウルグアイラウンド以降に数量制限が原則禁止され、代替措置として数量制限対象品目に限り内外価格差(国内価格と国際価格との差)を関税率にすることが認められた。しかし、これによる日本農業への影響は実はあまり大きくなかった。

日本の農産物関税は、関税がゼロ(無関税)の品目も約4分の1あるが、コメの名目関税は200%以上と高い。しかし、コメの生産額は農業生産全体の2割以下にまで低下している。
一方、無関税や関税20%以下の野菜や果物・花等で約5割の生産額を占め、日本農業は高関税に守られているとまでは言えないのが現状だ。

コメや蒟蒻等の一部の関税率は農家保護を目的とし国際価格比較では、関税算出基礎とする内外価格差算定に極めて低価格の品目(低品質のタイ米など)使い、高い関税率を設定した。
標準的な輸入米では関税を加えると、価格ゼロ設定でも国内価格を越える価格となるなど過剰な保護関税が決められている。さらに、この関税は一般的な従価税ではなく、重量単位に一定額を賦課する従量関税で、為替水準に左右されない関税額のため、円高でも輸入品の価格低下がない仕組としており、その結果として現在も米や蒟蒻には異常な高関税が残る結果となっている。(これらの関税は実際の輸入価格とほぼ無関係で、国内産品保護のための絶対的な関税額だ)

乳製品の関税

酪農品の関税には、例えば品不足で話題となった輸入バターで特殊な関税制度がある。
輸入重量600トンまで定率の一次税率(関税35%)だが、これを越えた場合は従量税(関税29.8%+985円/㎏)が賦課される。

一次税率対象品は法定指定乳製品等(バター、脱脂粉乳等)の輸入を一元的に管理する、独法農畜産業振興機構(ALIC)がほぼ独占し、用途制限のない通常の輸入は高税率の従量税となるため、輸入価格の問題点はコメ輸入と同じだ。(100グラムのバターを10円で輸入しても、価格は約100円になるわけだ。)

ALICによる乳製品輸入の既得権の弊害は、バター不足の折に多方面で取り上げられたので詳論は避けたいが、バター等については名目的な自由輸入制度に過ぎず、実際の輸入手続きにはALIC関連の複雑な制限があり、乳製品輸入には事実上の非関税障壁があるとも言えそうだ。

toyokeizai.net


乳製品に限らず日本の農産物には、生産・流通の仕組みについて欧米より規制が多い。酪農製品で言えば、原料生乳は原則として「指定団体」(農協関連の全国10団体)が独占的に集荷・販売する。
生乳流通はこの指定団体により用途別に管理され、優先供給の飲用牛乳向けと加工用(バター・脱脂粉乳等)に配分され、この団体と乳業大手の毎年度の「乳価交渉」で価格も決定される。(バター不足の一因とも言われる)

大口酪農家が多い北海道の関係者などには、この不自由な指定団体制度に不満もあり、飼料価格の円安時の上昇やその他経費増の価格転嫁が事実上不可能なことを特に問題視している。生乳の高い乳脂肪分基準など業界の慣行や硬直した制度に、抜本的見直しを希望する声もある。
我が国の牛乳乳製品の総需要量(食用)は、生乳換算で1220万トン(国産約840万トン、輸入約380万トン)だが、需要の4割を占める飲用は全量が国産生乳で、乳製品は国産と輸入で概ね5割ずつとなっている。(乳製品輸入に関する米国の比率は第4位の8%程度で高くはない)

ちなみに、1991年に牛肉の輸入数量制限が撤廃以来、酪農家は交配方法の改善による肉牛販売や乳牛の生産性向上などで、一般農家の2倍程度の年間所得を得ている。
このような現状があっても、一部酪農家には大規模化などを阻む不自由な現行制度に対する反発とTPPなど将来的な自由化への対応遅れを心配する声がある様だ。

jbpress.ismedia.jp

 

ジャガイモ輸入の問題

ポテトチップスの販売が、最大の生産地北海道の水害によるジャガイモ不作で販売制限されたニュースで、「なぜ輸入でカバーできないのか?」との疑問も多く聞かれた。
実は、輸入余力の大きい米国産ジャガイモについては、同国が過去に病虫害被害発生地となったことから、輸入量の全量検疫が困難だなどの理由で、日本では、原則として米国産を含む病虫害発生地域のジャガイモ輸入が禁止されている。

clip.money-book.jp


ポテトチップス加工用ジャガイモは時期限定で一部輸入しているが、この米国からの加工用ジャガイモ輸入量は国内生産量のごく一部で、国内不作対策にはならない。
〔過度な疫病への警戒が長期に継続していることや、検査方法の改善検討がほとんどないこと自体も、非関税障壁とも言われ。米国の要望もあるため、この点も日米貿易協議の議題となりそうだ。〕

ポテトチップス用ジャガイモ輸入には、現状ではさらに解決困難な理由がもう一つある。
ポテトチップス用ジャガイモは、品質基準が特別高い、高でん粉価の製品である日本が独自開発したトヨシロ種(加工用専用品種)という高品質製品が、製品クオリティ維持のため(という名目で)原料の大半を占めている。

米国でも栽培可能なスノーデン種という品種もあり、そのでん粉価は「トヨシロ」より低いが、長期保存で糖分が増えずフライするときに焦げにくい利点を持つ種類があり、一部国内生産も開始しているが、厳格な輸入制限と一定の品質保持のためという理由から品不足解消の切り札にはなっていない。
スノーデン種の輸入制限は種子法による理由もあるが、輸入制限の課題を解決できない本当の理由はバター等の輸入同様、ジャガイモ輸入に関しても生産農家保護重視(消費者軽視)の実質的な関税障壁ではないかという声も一部であがっている。

農業保護と自由貿易

バター原料輸入や酪農振興制度、飼料輸入制度などに乳製品の価格維持政策は多種・多岐にわたり複雑で、ウルグアイラウンドで基本的に自由化されたと言われる乳製品は、国内酪農家の保護名目で国際的にはかなり高水準となっている。
農産物輸入制限問題を突き詰めると、既存農家の保護が持ち出され、議論が打ち切られることが多い現状は諸外国からは非関税障壁と受け止められている。
コメやジャガイモを含め、米国の農業団体からの輸入拡大への強い要望もあり、今後日米貿易協議の重要な焦点となる可能性がありそうだ。

トランプ政権との通商交渉の行方は、ロシアゲートが最大の争点となっている現在、2つのシナリオが考えられる。
1つは、内政危機打開のため、ターゲットにしやすい日本へ農産物輸入制限の劇的な改善を強硬かつ性急に要求してくるというものだ。2つ目のシナリオは、政権の危機と内紛が拡大し、対外交渉の優先度が低くなり、先送りされる可能性だ。

方向性がはっきりした場合、為替相場や、その他市場への影響も出てくるだろう。

TPPと農業政策

仮定の話になるが、TPP11(イレブン)や米国の再参入により現状の内容通りにTPPが発効しても、農林水産省によればバターや脱脂粉乳が無秩序に輸入されることはなく、乳製品全体の国内需給への影響はない見込と公表している。(国内酪農家に実質的不利益はない)

これは乳製品輸入制限の基本的な枠組みが変わっていないからだ。(但し、チーズの一部では発効後16年目に関税撤廃なので、長期的には国内産の価格低下の可能性はある)
しかし、TPPの交渉内容は関税関係の内容が重点的に報道されているが、基本的な自由貿易の精神に基づいた各国の内政も含む制度や商慣行の統一・合理化と、その実施状況の監視も重要な協定事項である。

こうした問題の解決に時間はかかるが、農産物の輸出入に係る規制や不合理点も、将来的には改善される可能性もあるだろう。
長期的な視点で見れば、この変化は日本の農業にとても良い影響をもたらす可能性が高いと発言している先進的な農家もおり、現状ではTPP実現は非常に難しそうだが、米国の再考と今後の進展に期待したい。

business.nikkeibp.co.jp

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。