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企業決算予想と想定レートから見える企業戦略

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3月期決算企業の2016年度決算と今期業績見通しが発表され、2017年度業績予想の前提として、上場企業では500社近くがドル/円等の「想定為替レート」を併せて発表している。
輸出入企業では各社の想定為替レートと業績予想が密接に関係しており、想定する為替水準は注目の指標だ。
発表企業の想定レートの傾向と、いくつかの実例から「慎重型」「標準型」「積極型」に企業を分類し、その経営姿勢と業績への影響を考えたい。

輸出企業の為替感応度

ドル/円レートがドル安に動けば、大半の輸出企業には為替差益が発生する。
但し、その影響は企業によりまちまちで、最大のトヨタ自動車(7203)は1円の円安で400億円を越える差益が発生する。
自動車メーカーの影響は大きく、日産(7201)ホンダ(7267)も同様な円安の場合100億円を越える差益発生が見込まれる。

www.toyota.co.jp


もっとも、会社全体の利益に対する寄与度は2%程度で他企業に比べ特別に大きいわけではない。だが、企業によっては10%を越える差益(円高の場合は差損)発生が予測される場合もある。

例えば、半導体関連企業の新光電工(6967)は、今期(2018年3月期)に4000億円の最終利益を見込んでいるが、前期は1円の円安で25%の利益プラス寄与が見込みまれており、前期決算の上方修正に関する大きな要因になっていた。
逆に、海外展開の進んでいるソニー(6758)などは、ドル/円の為替変動はほとんど収益に影響しない。(ユーロ相場は影響がある)

このように想定為替レートを発表している企業の為替感応度合いは企業収益を占う重要なファクターであるが、その影響が企業によって異なるため、為替変動がある度に収益予測を影響度合いにより企業ごとに修正する必要がある。
ただ、現段階でも業績見通しで発表している為替予測水準から、企業の経営姿勢を読み取り、中長期の投資戦略の参考にすることは可能だろう。

2017年度の上場企業の想定為替レート

現在判明している上場企業459社のドル/円想定為替レート

以下特に注記のない場合、為替レートはドル/円でのレートで記載
105円/ドル未満の予想 14社
105円 87社
105~110円の範囲内 50社
110円 230社
110~115円の範囲内 43社
115円以上 35社


ほぼ半数の企業が今年度の為替見通しを110円としている。
現在の為替水準にも近い110円を想定している企業は中立的な見解であり、輸出企業で110円以下の想定をする企業は極めて慎重、115円を越える想定の企業はやや強気な業績予測をしていると考えられる。

jp.reuters.com

企業業績と為替レート

105円という極めて慎重な想定をしている大手企業には、トヨタ自動車・ホンダ・NEC(6701)富士通(6702)があり、比較的保守的な業績予測姿勢の「慎重型」と言えるだろう。
これに対し、ファナック(6954)はさらに円高の100円(対ユーロ110円)を業績予測の前提としているが、それでも今期営業益は1.5%増と予想している。

自動車メーカー各社は北米の販売傾向から慎重な業績予想をする企業も多いが、例えば14%の減益予想のホンダは110円の為替レートであれば600億円程度の利益がかさ上げされ、リコール関連で大幅増益となった前年度とほぼ同水準の利益が達成できる見込みだ。
同じ自動車メーカーでも、日産やマツダ(7261)は110円を前提としており、このまま為替変動が通年ベースで落ちつけば、為替レートは業績には影響しないという「標準型」(横並び姿勢ともいえる)の見通しと言えそうだ。

www.nikkei.com


これらの前提としている期間中の為替レートがどのように今後の業績に関連するのかは、企業ごとに為替変動の業績寄与度が少しずつ異なるわけだが、為替感応度に関して注意すべきことがある。
為替の変動は通常複数の通貨間で発生(対ドルレート以外)する。仮にユーロの変動が起こった際、欧州企業同士が競合であった場合に価格競争が発生し、ユーロ建て価格の影響による売り上げの変動と為替寄与度が異なってくる。
この他、為替予約の取り組み内容やドル建て契約、円建て契約など輸出入企業の取引・契約内容によって様々な変化が想定される。

為替レート予測と企業戦略

平均的な110円の水準を予測する企業の業績予測の中でも、例えば住友化学(4005)のように2017年度の想定レートを110円、営業利益1650億円と見込みながら、2018年度計画については前提為替レートを120円で想定し、営業利益2000億円の増益と予想した会社もある。

来期の予測では「積極派」企業と言えそうだ。
為替感応度円安1円で20億円プラス寄与の同社は、今年度決算を平均的な予測で発表し、来期については楽観的な予測を行っているのは、中期経営計画達成に向け、海外展開や電気自動車用品の拡大を進める意図が感じられる。
逆に前掲のファナックは、中国・アジアの収益比率が高く(受注ベースでは米国の約2倍)、ドル/円の為替感応度は自動車関連企業よりはかなり低いので、大幅な円高水準を想定レートに設定できるために、円高予測をしているから「慎重派」とは言い切れない。

ドル/円のレートを115円以上に見込みでいる企業の大半は、エネルギーコストの高い電力会社や120円を想定する日水(1332)カルビー(2229)のような内需系企業だ。
これらの輸入型企業は、円安想定が逆に「慎重派」のカテゴリーになりそうだ。
同じ輸入型企業ニトリHD(9843)は2 月期決算だが、すでに今期の為替予約を103円の円高水準で予約したと公表しており、円高を想定した前向きの経営姿勢と言えるだろう。

一方、オーディオで知名度の高いJVCケンウッド(6632)の2017年度業績見込みの前提為替レートは120円で、米国など海外売上比率は高く「積極派」の決算見込みと言えるのだが、前期の最終赤字を受け、黒字転換を打ち出した様子で苦心のレート設定とも思われる。
一般に、市場は業績見込みの下方修正を嫌い、見込み違いであっても上方修正を歓迎する傾向があるので体力がある企業ほど想定為替には慎重姿勢が強いようだ。

今後の為替動向と投資判断

先日発表された米国の雇用統計では、失業率が16年ぶりの低水準となっている。
長期金利は上昇せず、今後の為替動向は短期的には地政学リスクも含め不透明だが、欧米景気の堅調や金利動向を背景に通年の為替レートを円安に見る意見も多い。


これを裏付けるように米国景気の好調を受けて世界的な株高傾向で、特に米国市場ではIT関連銘柄が顕著な上昇を見せている。
非金融業の時価総額と流動性の高い銘柄で構成される指数では、ここ最近年率で4割を越える上昇を示しており、最高値水準のナスダックを牽引している。

だが、長期間続いている景気拡大と持続的な経済成長への期待は高いのだが、米国景気の牽引役がIT関連の少数企業群に限定されている感もある。
もし米国経済が腰折れした場合には、為替レートの急変(円高)の可能性も否定できない。

想定為替で予想した企業業績は、最終的には通期の為替レート(予約を含む)に左右される。
米国政治を含む地政学リスクが不透明な現在だが、短期的な為替水準の変動だけではなく通期の見込みと将来的な為替変動の行方を探ることも、これからの投資判断には重要だ。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。