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小売業を救うか?売上急伸するドラッグストアの未来

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報道によれば、食料品等の取扱いも始めたことで急速に売り上げが急伸している国内ドラッグストア業界の総売り上げは2016年度に百貨店を越えた。
急成長のドラッグストアは、今後もこれまでのようなスピードで店舗拡大と売り上げを増やし不振の小売業を力強く牽引してゆける業界なのだろうか?
その現状と今後に予想される課題、そして発展性と将来性を予想する。

ついにデパートを抜いたドラッグストア

2016年度のドラッグストア業界全体の売上高は約6兆5千億円(前年度比約6%)、同時期の全国百貨店売上高は6兆円を下回ったため「初めてドラッグストアがデパートを越えた」と話題になった。<日本経済新聞>
新規に拡充が進む調剤事業や薬以外の販売品目増加がインバウンド需要の取り込みにもつながって売り上げが増え、国内小売り勢力図が塗り替わったようだ。

www.nikkei.com


日本チェーンドラッグストア協会の発表によると、調査開始以来16年間連続プラス成長だったドラッグストアは2016年には、2008年以来8年ぶりに5%を越える成長となった。
その主な要因は、調剤を含む医薬品(6.2%増)、化粧品(5.4%増)、日用雑貨(5.2%)だったという。
特に、調剤事業単体は約1割も増加して8000億円近くとなり、調剤医療費全体に占めるドラッグストアのシェアも1割近くになっている。

総額では下降気味のインバウンド需要も、ドラッグストアには依然として追い風だ。
訪日客向けの売れ筋が高額品から化粧品や日用品に移り、構造改革を迫られる百貨店業界とは対照的に、低価格品が豊富なドラッグストアのインバウンド需要は堅調だ。
欧米では薬剤師常駐の調剤及び医薬品販売をする形態が一般的だが、米国では雑貨店や飲食施設(フードコート)併設の形態も珍しくない。
当初日本国内のドラッグストアは医薬品を主体としていたが、現在は医薬品以外も販売する米国型の形態の比重が高い。

business.nikkeibp.co.jp


ドラッグストアの売り上げ規模をさらに比較的規模の大きい上場企業でみると、ここ数年は毎年10%程度の伸び率となって全体の7割を占める。(さらにその8割が上位10社のものだ。)
その売り上げのカテゴリー別売上構成比では、医薬品・化粧品関連(医薬品、健康食品、化粧品等の6項目)が約5割で、一般食品、酒類や日用雑貨、家庭用消耗品も売り上げを伸ばしている。
この多角化傾向は、食品スーパーやコンビニ等の競合業態に比べ、ドラッグストアは客の来店頻度が低い傾向があるため、来店頻度向上策として店舗利便性を高めようと一般に医薬品・化粧品類よりも高い購入頻度である食品・酒類の取扱いを拡大してきたからだ。

ただ、問題もある。
医薬品・化粧品類に比べ食品等の販売は、競合業態が多く粗利益率も低いため、売り上げの伸びに比べると利益の伸びが低い。
この対策として、ドラッグストア業界にはいくつかの戦略がある。
その一つは、価格競争力を上げる(低価格化)ため、店舗面積1千平米超の「メガドラッグストア」を中心戦略とする企業だ。

ゲンキー(2772)コスモス薬品(3349)などがあげられる。
次に、地域医療対応の調剤能力や医療サービスに強みを持つスギHD(7649)や、併設する低価格品専門の自社ディスカウント店との対比で高級感を保つサンドラッグ(9989)などの「付加価値の高い商品への集中」を意識する企業形態がある。
さらに注目したいのは、拡大路線上の品揃えを従来通り維持しながら、収益拡大も意識する「バランス重視」のツルハHD(3391)クリエイトSDHD(3148)や後述するウエルシアHD(3141)等の戦略だ。
対照的なこれら3戦略の企業群に共通するのが、ドラッグストアの「強み」を生かす、調剤薬分野の拡販戦略だ。

ドラッグストアの強み

ドラッグストアは企業による売り上げ規模の差が大きく、結果として収益構造や店舗展開の戦略・方向性も異なっているが、共通する強みが専門性の高さとカウンセリング能力(薬剤・化粧品)だと言われている。
各企業はそれぞれの戦略の中でこの強みを積極的に展開し、販売化粧品のカウンセリングや調剤部門の併設、そして 介護対応等の施策を積極的推進している。
その背景には、2025年問題と言われる高齢者・地域支援に関する国の指針もありそうだ。

ドラッグストアの25年問題

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www.ns-1.biz


厚生労働省は、2025年までに達成すべき、在宅医療、高齢者の健康サポートについての指針を発表し、その中では急性疾患と慢性疾患に関する医療体制の棲み分け(病院、薬局、ドラッグストア)についても触れている。

国の指針は、厚生労働省が発表している「地域包括ケアシステムの実現へ向けて」という政策の中に次のように記載されている。

2025年(平成37年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。

www.mhlw.go.jp


この地域包括ケアシステム構築には、高齢者個々人への支援充実と支援可能な社会基盤整備が提唱され、地域の医療・介護の関係機関の連携により「包括的かつ継続的な在宅医療・介護の提供」が必要とも述べられた。
具体的な施策として、既に国が推進する「かかりつけ薬局・薬剤師」制度がある。複数の病院から処方箋を受けて、薬剤師が健康相談にも応じるかかりつけ薬局は、通常の薬局より多くの報酬が得られる。
この仕組で、従来は疾患や時期によりばらばらだった患者個人の情報一元化により、より有効で無駄のない健康サポートを提供しようというものだ。

www.nicho.co.jp


この他にも地域医療機関や薬局・ドラッグストア等との間で、緊急疾患と慢性疾患の区別により、医療体制の棲み分けを推進する施策や地域健康サポート等への対応には、ドラッグストアは地域ごとに最適の形態をとりうる自身の柔軟な適応力が強みを持つと考えており、積極的に取り組もうとしている。

国の方針に対応するためにもドラッグストア各社が調剤薬局の併設店を増やす一方で、病院の目の前に立地して処方箋を受け付ける「門前薬局」は報酬が引き下げられ、収益力は低下した。
「かかりつけ薬局」に指定された場合、個人から選定された調剤薬局併設の一般薬局より規模の大きいドラッグストアの強みは、急性疾患に対応した調剤需要とその一元化された個人情報に加え、来店者が購入する市販常備薬や健康食品の情報まで集約することが可能であり、相談業務の経験を生かした地域住民へのケアサービスも提供しやすいことだ。
こうした状況を受け、ドラッグストアの売り上げに占める調剤薬の比率はまだ低いが、近年その比率を急速に高めている。

これからのドラッグストア

調剤事業拡大で特に目立つのが、ウエルシアHDの出店戦略だ。
例えば東京都足立区のウエルシア薬局竹ノ塚店では建物内部に独立した調剤薬局があり、道路側からは一見別店舗にも見えるが、調剤希望の来店者は自然に目玉品などが並ぶ売り場を通過する動きとなり、廉価品や目玉商品等への購買意欲が誘発されるレイアウトになっている。
その利便性から、調剤利用後の買い物客と買い物時間中に調剤待ち時間が節約できる客の双方から好評だという。

同社はすでに約3分の2の店舗を調剤併設店としており、今後さらに増やす計画だ。
現時点のウエルシアHDの調剤事業売上高は1000億円だが、将来的にはドラッグストア業界売り上げ1位(約5千億円)のマツモトキヨシHD(3088)を抜いて、全売上高で業界トップをうかがうとうわさされる勢いの源泉の一つが、この調剤事業への積極投資の様だ。

平成28年決算期 売上高ランキング(単位:百万円)
企業
決算期
売上高
当期純利益
対前年比
株式会社マツモトキヨシホールディングス 3月期 536,052 17,853 10.4%
ウエルシアホールディングス株式会社 2月期 528,402 9,527
株式会社ツルハホールディングス 5月期 527,508 19,323 19.8%
株式会社サンドラッグ 3月期 503,773 21,569 13.0%
株式会社コスモス薬品 5月期 447,273 12,435 9.5%

ドラッグストア事業拡大の課題

こうした将来的な展開にはいくつかの課題がある。
最近報じられたコンビニ商品の値下げや大手スーパー等のPBブランドの拡大に見られるように、根強い消費者のデフレマインドはドラッグストアの専門性がコストダウンには逆風にもなる。(大手ドラッグストアにもPB商品はあるが、現状では品揃えや価格の面で大手スーパーが上回っている)

また、調剤薬局増設には薬剤師の確保も難しい問題だ。
国の基準により薬剤師が1日に取り扱う処方箋の枚数は、手厚い相談支援と配剤ミスを防ぐため、40枚が上限と規定されている。
このため店舗への薬局増設だけではなく、既存店にもかかりつけ薬局指定の顧客数増大には薬剤師雇用増が必要となる。

かかりつけ薬局には、患者相談時間対応や予防を含む健康管理・健康相談機能もあり、この規制は厳しくなっても緩和されることは当面ないだろう。
このため、6年間の学業と国家試験合格が必須な薬剤師は不足しがちで、ドラッグストアの規模拡大には障害となる可能性がある。
また、最近増加傾向にある院外処方薬に対応する薬局が多数存在し、薬局での一般薬品販売も可能なため、地域によっては在来薬局との競合・競争も今後国の指針実現の過程で地域との連携・個人のケアという視点から厳しいものになりそうだ。

ドラッグストアのこれから

これまで見てきたように、少子高齢化時代にドラッグストアが今後も事業拡大、収益強化を続けるにはいろいろな課題がある。
これから、どの企業がどんな戦略で事業を進めてゆくのかをしっかり見極め、売り上げ推移だけではなく利益率や地域戦略等の行方等の視点も加えながら注目してゆきたい。

 

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。