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トランプリスクで為替はドル安?ドル高?にわかに高まるアメリカの政治リスク

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出典:bbc.com

突然のFBI長官更迭からトランプ大統領の「ロシアゲート」懸念が高まった、アメリカの政治リスクはヨーロッパ以上という声も出ている。今後のトランプ政権の動向や政権内部の権力争いも絡む大統領や閣僚等の発言は、ドル相場の方向性に大きく関係しそうだ。
こうした情勢に関連した大統領の発言や政権関係者の動静等を振り返り、今後の為替相場を左右するトランプ政権とアメリカの政治リスクの推移を推測してみたい。

トランプリスクの内容

このところひっきりなしに報道が続くトランプ大統領関連のニュースは米国の政権にとって否定的な内容ばかりだ。こうした報道ラッシュが収束しそうな気配は見えず、相場かく乱材料の“トランプリスク”とも呼ばれている。
しかし、ニュースが一時的な株価や為替の逆風にはなるが、最近は全体相場を弱気にさせるほどのインパクトがない場合も出てきた。

トランプリスクに関する最近の主なニュースを時系列に振り返ってみる。
問題の発端は、5月初めに大統領がコミーFBI(米連邦捜査局)長官の更迭人事を行ったことだ。
メディア報道で大統領報道官が「大統領は司法長官らによる長官解任の勧告を受け入れた」と語ったとされたが、のちに大統領自身が「勧告前から解任意向を持っていた」と述べ、政権内部の不統一、トランプとスタッフらとの発言の食い違いも浮き彫りにされた。
これに対し、反トランプ姿勢のメディアや野党民主党は、長官解任はトランプ政権とロシアとの癒着問題に関する捜査妨害だと一斉に反発した。

www.washingtonpost.com


さらに5月15日には大統領が露外相に対し、イスラエルが提供したIS(イスラム国)に対する機密情報を漏らしたとされ、情報提供の事実はトランプ大統領も認めている。
16日には、NYタイムズ電子版に「フリン前補佐官辞任翌日、当時のコミーFBI長官に対しフリン氏への捜査中止を求めた」との報道がされた。(政権は否定)
これら複数の問題発覚を受け、上下両院とFBIの独立した3機関による調査が行われる。
また事実解明のため、独立した強い権限を持つモラー特別検察官が正式に任命された。大統領の言動調査に加え、政権内部の調査にも着手すると報道されている。

www.bbc.com


5月末以降にコミー元長官の議会証言も予定され、これら一連の大統領・政権をめぐる諸問題は、ニクソン大統領時代の「ウゥーターゲート事件」との連想から「ロシアゲート」と呼ばれている。
大統領自身の発言や行動が問題をさらに深刻化しているため、特別検察官の動きによっては、アメリカ政治に甚大な影響を与えかねない問題と思われる。

噂される「大統領弾劾」までのプロセスはニクソン大統領のケースが参考になる。
「ウォーターゲート」事件は1972年(大統領選挙期間中)に不法侵入・盗聴疑惑が出現し、73年には関連閣僚辞任や検察官の解任が行われた。そして、74年になって米議会が弾劾手続きを開始し、議会採決直前の8月にニクソン大統領は辞任した。(実際に弾劾されたアメリカ大統領はこれまでいない)

今回の「ロシアゲート」は2017年5月から始まったのだが、2016年の選挙期間中にロシアの選挙介入が報道され(ロシア・トランプ双方が否定)、2017年2月にロシアとの問題でフリン補佐官が辞任しており、実質的な疑惑の発端はかなり前とも思われる。
議会の弾劾の動きも既に始まっており、弾劾実現の可能性はまだ低いが、全容解明の進行次第ではウォーターゲート事件より決着が早いことも考えられる。

こうしたいわば「アメリカリスク」の発生により、NYダウは一時300ドルを超える大幅な下げになったが、その後は戻り歩調になっている。
また、海外の商品市況や為替相場に大きな波乱はなく、今の所アメリカリスクが世界経済に大きく波及する動きはまだない。これは後述するように、今後の展開は不透明ながらトランプリスクが好調のアメリカ経済を決定的に破たんさせるまでの悪材料ではないという見方の表れかも知れない。

www.nikkei.com

最近のトランプ大統領(米政権)発言と為替市場の反応

次に、トランプ発言と為替相場の反応を振り返ってみたい。
当選以来のトランプ大統領の発言は、予想外のタイミングで出され、為替相場は敏感に反応してきた。

2017年1月16日、メディアに対し「ドルは強すぎる(Our dollar is too strong)」というドル高牽制の発言があった。さらに「ドルが強すぎるため中国と競争することができない。国内企業には死活問題だ」とも述べた。これが、大統領就任以来トランプによる為替市場への最初の言及だった。

ドル円相場は高値圏からの下げ基調にあったが、発言直後に114円台から112円台半ばまで急落した。しかし、翌日には反転し発言前の水準を回復した。
次に2月1日には、医薬品企業との会合で「日本(と中国)の意図的な為替操作により損害を受けてきた」との発言によりドル円は113円台後半から週内に111円台後半まで下落したが、翌週には上昇に転じて114円台に戻っている。
さらに、3月31日(米国時間30日)米政権の「為替操作国を処罰する方策を検討」報道では、円高・ドル安反応は短時間の小幅なもので、以降4月上旬までは値幅の少ないレンジ内の動きだった。

ここまでのトランプ政権のドル高けん制発言は一時的なドル安への動きは見られたが、その変動幅も次第に少なくなり、トランプの「狼少年発言」だとの見方さえ現れた。
ところが、4月13日(米時間12日)トランプは、インタビューで「ドルは強くなりすぎている。これは私が信頼されているからで、私のせいでもあるが結果的には打撃になる」との発言でドルは109円を割り込み、翌週中には108円台半ばに達した。
しかしながら、これは地政学リスクの高まりによる週初からの急激なドル安円高の流れの中であり、発言の直接影響とは言い切れない。

www.j-cast.com


事実、4月後半からは仏大統領選におけるマクロン支持の高まり予想から、逆にドル高の方向に変わっている。
これらを総合的にみて、為替に関する大統領らの発言は、相場に短期的な乱高下が見られたとしても中期的には中立要素という見方も相場関係者にある。

大統領発言により市場に混乱は生じるが、反応期間が限定的ということは「トランプ大統領の発言への信頼」がすでに失われているということなのかも知れない。(ムニューシン財務長官の「長期的にはドルの強い方が良い」発言も関連しているかも知れない)
少なくとも直近のドル安の動きは大統領発言ではなく、高まる「トランプリスク」に対する反応とみてよさそうだ。

為替相場や株式市場にとっては今後、米議会の調査や野党・メディアからの批判が続くことが、経済政策立案や法案成立の遅れや政治的混乱とどう絡むのかが注目される。
なお最近の米国メディアの報道には、メディア固有の政治的姿勢や今後の政治リスクを勘案した党派的な偏りが反映されている場合もあり、必ずしも中立性の高い報道と言えない場合も散見される。
そのため報道内容による今後の投資判断にはより慎重さが求められそうだ。

今後の政治混乱とアメリカリスクによる相場の方向性

トランプリスク・米政治リスクは現在進行中の事案であり、これからも政権内部も含め政権に批判的あるいはマイナス要素の大きいニュースが出てくる可能性もあるので、将来予測は非常に困難な状況だが、市場にとって望ましいのはできる限り速やかな問題収束だろう。
経済の混乱が比較的小さいうちに、収束に向かうか、不透明要素が減少することを市場は期待している。

特別検察官の調査により一連の疑惑が否定された場合には、政策実現期待が再燃し、株高・ドル高が予想される。これは米国にとってのベストシナリオだ。
だが、仮に疑惑の立証や新たな問題等の拡大により、弾劾実現や大統領辞任に至った場合でも一時的な混乱の後に、市場は沈静化するという観測が多い。

米国制度は大統領交代の場合の手順(副大統領→下院議長)が定められており、共和党多数の議会構成も考え合わせると、次期政権で不透明要素が減少するプラス効果の方が、政権交代の混乱によるマイナスを上回るという考えだ。
最悪のパターンは、決定的な悪材料は出ないまま調査が長引き、政権内部からの悪材料流出や不適切なトランプ発言が続き、長期間にわたり問題が継続することだろう。
この場合には、影響による米国景気の悪化と金融政策の混乱も心配される。

トランプリスク後の為替動向

トランプ大統領辞任(または弾劾可決)でトランプリスクは解消するだろう。
だが、ロシア疑惑について調査終了、問題解消(上述のベストシナリオ)の場合には、これまでのトランプ発言を振り返ると「トランプリスク」はゼロにならないかも知れない。

政権誕生後120日経過しても、大統領の準備不足や思い違いに近い発言や閣僚以下の政治スタッフ不備や側近の助言不足等が続いているからだ。
繰り返しになるが、為替に関する発言に限らず大統領発言に対する相場の反応は限定的になりつつある。

4月27日のメディアインタビューで「韓国がサード(高高度迎撃ミサイルシステム:THAAD)費用を支払うことが適切」とトランプは主張したが、5月初めに米韓両国の安全保障関係者により明確に否定されたことは象徴的なことだった。
選挙戦の頃からトランプ発言のブレや矛盾する発言は多かった。
大統領当選後も、為替に関する考え方に自信がない場合に、専門家以外に相談する等の不適切な判断も報道されており、発言の重みは徐々に低下中だった。

jp.reuters.com


このサードに関する発言以降、トランプ発言は一段と重みを失い、発言に対するマーケットの過剰反応はかなり抑制されるようになっているようだ。
トランプ大統領が辞職または失職した場合には、前述したとおり為替市場は大統領選挙結果判明直後と同様に、一時混乱後に沈静化に向かうとみられる。
〔トランプリスクが何らかの形で継続した場合にも、マイナス影響は次第に縮小するという楽観的な見方もある〕

いずれにしても、トランプリスク解消後の中期的な為替相場については、米国内の政治対立緩和が材料となり、市場は好感(株高、ドル高の動き)するだろう。
さらに、新政権誕生の場合はペンス副大統領がトランプ政権の政策を推進してきた立場もあり、基本的な政策に変更がない可能性が高い。
その場合には、現存する不透明要素の払拭となり、大幅ドル高になる可能性さえある。
但し当面のドル円レートに関しては、日米両国の考え方は120円が当面の節目という可能性もあり、一気に極端な円安にはならないかも知れない。
あまりに変数が多く、現在進行中のトランプリスクが今後アメリカリスクとして世界経済にどう影響するかは予断を許さない。これからも関連報道には注目が必要だ。

 

コラム執筆者

f:id:Money_Clip:20170111181053j:plainK. 和気
損害保険会社等で担当者約5年、決済責任者を含め通算10年以上にわたり数百億円に及ぶ単独資金決済運用(最終決定)を担当。現在は非常勤顧問として勤務の傍ら、マーケットや経済情報をタイムリーに取り入れ、株式・為替・債券等にて資産運用を行い、日々実益を出している。